月と揺れる影
扉を開いた瞬間——
寒気が走った。
夜空には 大きな満月。
だが、その光はぼんやりとしていて、はっきりした道を示さない。
どこからともなく、水の音が響く。
足元を見下ろすと、そこには 黒く揺れる水面。
まるで 鏡のように世界を映しながらも、その奥は底知れぬ深さを感じさせた。
——ここは、一体……?
少女は足を一歩踏み出そうとした。
だが、体が動かない。
怖い。
胸の奥がざわめき、心臓の鼓動が速くなる。
——進んでいいの?
——この先に何があるの?
暗くて、何も見えない。
そして、ふと気づく。
水面に映る自分の姿が、微かに揺れている。
「……?」
少女は、息をのんだ。
——もうひとりの私?
そこには、もうひとりの少女がいた。
影のように揺らめき、じっとこちらを見つめている。
「……怖いでしょう?」
その声は、少女自身の心の奥底から響いたように感じた。
「だって、先が見えないんだもの。」
「どこに行けばいいのかわからないのに、進むの?」
「間違えたらどうするの?」
「怖いなら、ここにいればいい。」
影の少女は 手を差し出した。
「ここにとどまれば、傷つくこともない。」
「何も考えず、ただ待っていればいいのよ。」
少女の足が、ずるりと引きずられそうになる。
——そうかもしれない。
——ここにいれば、何も変わらない。
——でも、それなら……。
「……私は……」
少女は 震える足で、一歩を踏み出した。
怖くても、進まなきゃ。
前へ。
暗闇の中を。
水面が ざわり と揺れる。
その瞬間——
月の光が、一瞬だけ強くなった。
そして、霧が晴れた先に——
門があった。
「……!」
それは、二本の塔に挟まれた、古く美しい門。
少女は、それを見上げる。
——この先には、何があるの?
門の向こうは、深い影に包まれている。
何が待っているのかはわからない。
だが、少女の中に、微かな確信が生まれていた。
影の少女が、そっと囁く。
「行ってしまうの?」
少女は、自分の胸に手を当てた。
怖い。
でも、ここにとどまっていても、何も変わらない。
「……私は、進む。」
少女は、震える手で門に触れた。
そして——門を押し開いた。
光が、わずかに差し込んだ。
それが何を意味するのかは、まだわからない。
少女は 一歩、門の向こうへ踏み出した。
——その先へ。




