死神と終焉の舞踏
少女は、死の世界に立っていた。
扉を開けた瞬間、目の前に広がったのは——
終わりの地。
そこには 何もなかった。
空は暗く、太陽は沈み、風は吹かない。
大地はひび割れ、黒い灰が舞う。
この世界には、命が存在しない。
「……ここは?」
少女は息をのんだ。
何かが、おかしい。
そして——
カツン……カツン……
遠くから、乾いた足音が響いた。
少女は、ゆっくりと振り返る。
そこに 骸骨 が立っていた。
黒いマントをまとい、冷たく光る白い骨。
その手には、大きな鎌。
頭蓋骨の奥には、感情のない虚無の闇が広がっていた。
少女は、動けなかった。
これは、"死" そのものだ。
骸骨は静かに鎌を掲げる。
「私は『死神』。」
「お前の旅は、ここで終わる。」
その瞬間、少女の足元から 黒い霧 が巻き上がった。
「……え?」
何かが、引きずり込もうとしている。
彼女の体が、灰とともに消えていく——
「ま、待って!」
少女は必死に抵抗しようとする。
だが、抗えない。
指先が崩れる。
腕が薄れていく。
まるで 自分という存在が、この世界から消えていくように。
「私は……まだ……!」
少女は叫ぶ。
「まだ、消えたくない……!!!」
その瞬間——
死神は、少女の目を見た。
感情のない空虚な眼窩。
だが、そこに映るのは——
「お前は、何を捨てる?」
低く響く声。
少女は息をのんだ。
目の前で、自分の手が透き通っていく。
「……何を、捨てる?」
「そうだ。」
死神は鎌を下ろす。
「"死" は、終わりではない。
何かが消えなければ、新しいものは生まれない。」
少女は、自分の胸に手を当てる。
——私は何を恐れている?
恐れているのは、「失うこと」。
けれど、それと同じくらい 「新しくなること」 も怖かった。
「……私が、捨てるもの。」
少女は、ゆっくりと目を閉じる。
「私は、"過去の自分" を捨てる。」
その瞬間——
黒い霧が弾けた。
少女の周囲が、白い光に包まれる。
大地が崩れ、新たな地が生まれる。
灰の中から、草木が芽吹く。
沈んでいた太陽が昇り、風が吹き始める。
少女はゆっくりと目を開いた。
目の前の死神は、もう骸骨ではなかった。
彼は、静かに佇み、微笑んでいた。
「よくやった。」
少女の胸には、"新しい鼓動" があった。
「お前は、もう"昨日のお前"ではない。」
その言葉とともに——
新たな扉が、目の前に現れた。
少女は、深く息を吸い込む。
「ありがとう。」
そして、扉へと向かう。
——死は終わりではない。
終わることで、新しい何かが生まれるのだ。