力と獅子の魂
扉を開けた瞬間、少女は光の中に飲み込まれた。
目の前が歪む。世界が反転する。
上下も左右もなくなり、空も大地も見えなくなる。
——ここは、どこ?
次に気づいたとき、彼女は柔らかな草の上に立っていた。
まるで絵画のような世界。
空は深い青に染まり、まばゆい金色の雲が流れていく。
風が吹くたびに、宙を舞う花びらが輝くように光る。
けれど、この美しい世界の中で——
一頭の獅子が、少女をじっと見つめていた。
大きな体。
黄金色のたてがみ。
鋭い瞳には、理性も本能も宿っている。
少女は本能的に身をこわばらせた。
「……あなたは?」
「私は、お前の力の象徴。」
低く響く声。
それは、まるでこの世界そのものが語りかけているかのようだった。
「お前は、この力を制御できるのか?」
少女は驚いた。
「私の力……?」
「そう。お前の内にある、力。」
獅子が一歩、少女に近づいた。
その瞳には、力強い炎が宿っている。
まるで試すように、彼女の目を見つめる。
少女の心がざわめいた。
この獅子は、まるで自分の中の衝動や感情のようだった。
恐れ、不安、怒り、焦り——
それらすべてを抱えながら、どう向き合えばいいのか?
「力とは、ねじ伏せるものではない。」
獅子の声が響く。
「だが、力を恐れるな。
お前の中には、強さがある。
それをどう使うかは、お前次第だ。」
少女はゆっくりと息を吸い込んだ。
目の前の獅子を、ただ見つめる。
「……私は、この力とどう向き合えばいいの?」
獅子は微かに目を細めた。
「恐れずに、受け入れろ。
お前は、力の主なのだから。」
少女は、そっと手を伸ばした。
獅子は牙をむかない。
少女がそっとそのたてがみに触れると、驚くほど温かく、柔らかな毛並みが指先に伝わった。
獅子は一瞬だけ目を細め、喉の奥で低くゴロリと鳴らした。
まるで、その手を受け入れるように。
そして次の瞬間、獅子の体は金色の光に包まれた。
その光は、少女の体をも包み込む。
まるで、獅子と一体化するように——
彼女の中で、何かが目覚める。
——私の中には、強さがある。
——でも、それを暴力に変えるのか、優しさに変えるのかは、私が決める。
少女が深く息を吐くと、光が収束し、獅子の姿がゆっくりと消えていった。
だが、その存在は、彼女の心の奥に確かに残っていた。
ふと、目の前に新たな扉が現れる。
少女は、自分の手のひらを見つめた。
そこには、ほんの少しの光が揺れていた。
「私は、私の力を知った。」
扉に手をかける。
次なる世界へ。
——自分の力を受け入れた少女は、さらなる深遠へと進む。