運命を紡ぐ少女
すべては空白から始まった。
どこまでも広がる真っ白な空間。それは、何もない世界だった。少女の目の前には無限の空間が広がり、どこを見ても、何も、ただ静寂と虚無が広がっているだけだった。音も、匂いも、感覚すらも感じることはなく、空間の中に存在するのはただ彼女自身の意識だけだった。
彼女は目を開けた。しかし、目の前に広がるものはただの白だった。空間としか言いようのない、言葉を持たぬ世界。自分が立っているのか、浮かんでいるのか、体さえも感じることができない。呼吸をしている感覚も、心臓が鼓動を打っている音も、彼女にとっては遠い存在だった。
「私は……誰?」
その言葉は、空間に響くことなく、ただ彼女の中に浮かんだ。問いかけのように自分に投げかけた言葉が、答えを待たずに消えていった。記憶はない。過去も、未来も、何も分からない。自分がどこから来たのか、どこへ行くのか、何のために存在しているのか、すべてが謎だった。
彼女はただ、目の前の空間を見つめ続けた。そして、しばらくの間、何もすることができずにいた。無力感が彼女を包み込み、何もする意味がないように思えた。しかし、そうした沈黙の中でも、何かが少しずつ変わり始めていた。
静かな空間に、ひときわ強い思いが浮かび上がった。それは、かすかな意識の灯火だった。少女は、何もない空間の中で、自分が存在していることを感じ始めていた。それはまるで、自分の存在がこの空白の世界に初めて意味を持つ瞬間のように思えた。
そして、少女は気づいた。
「私は……存在している」
それは、恐ろしいほどに小さな確信だった。しかし、その確信が少女の中に芽生えた瞬間、空間はわずかに変化を始めた。白かった空間に微かなひびが入り、ほんの少しの色が滲み出したような気がした。
その変化に驚き、少女は一歩踏み出した。
足元に感じる地面の感覚はない。しかし、彼女は確かに前へ進んでいた。その一歩が、彼女の中で何かを始めた。歩くという動作が、彼女にとって新しい意味を持ち、進むべき方向が少しずつ見えてきたのだ。彼女は何も知らない。それでも、前に進むことで、少しずつ自分の存在に対する理解が深まるのを感じた。
しばらく歩き続けたとき、少女の目の前に、突如として一筋の光が差し込んだ。それは、何もない空間における唯一の変化だった。その光は、まるで星のように輝き、少女の心に何かを灯すような力強さを持っていた。
その光は次第に広がり、少女を包み込んだ。だが、その光は物理的なものではなかった。光は少女の胸の奥、彼女の心の中に何かを呼び覚ますように広がり、少女はその力に引き寄せられるように歩みを進めた。
そして、次の瞬間。彼女は見知らぬ場所に立っていた。
星々が空に瞬き、遠くの山々が静かに佇む美しい夜空の下。少女は目を見開き、周囲を見渡した。そこは、かつて彼女が知っていた世界とはまったく異なる、未知の世界だった。
「ここは……どこ?」
その問いは、空気を震わせることなく、ただ彼女の中に静かに浮かんだ。今、この場所にいる自分がどこから来たのか、どこへ向かうのか、全く分からない。しかし、確かに彼女はここに立っている。そして、目の前には新たな世界が広がっている。
その時、彼女の前に一つの扉が現れた。それは無機質で、どこか異様な雰囲気を持っていた。扉には文字が刻まれていたが、それは彼女が理解できるものではなかった。しかし、扉の前に立った時、少女はなぜかその扉を開けなければならないと強く感じた。
扉の向こうには何があるのか。それは分からない。しかし、少女はその先に進むべきだと感じた。迷いながらも、彼女は手を伸ばし、扉を押し開けた。
扉を越えた先に待っていたのは、再び真っ白な空間ではなく、広大な荒野だった。風が吹き荒れ、荒れた土地が広がる中、少女は一歩を踏み出した。その一歩が、次の物語を作り出すための第一歩だった。
その瞬間、少女の心の中で確かな力が湧き上がった。自分が今、何かをしなければならない理由があることに気づいた。
「私は……何をしなければならないのか?」
答えはすぐには見つからなかった。しかし、この新しい世界には、彼女を待つ試練があることを感じ取っていた。そして、彼女はその試練を乗り越えるために、この世界を歩み続ける決意を固めた。
運命は、少女に課題を与える。どんな試練が待っているのか、その答えを知る日は来るだろう。しかし、彼女が知っていたのは、ここから先の道が、彼女を成長させるものであるということだけだった。