どんな手段を使ってでも
※残酷な描写があります。かなりきつい描写なので苦手な方はブラウザバックを推奨します。
リヴォフ公爵城のとある一室にて。
「ねえお父様、もうアリサを死んだことにしましょうよ。いまだに見つかっていないのですし」
アリサの従妹ウリヤーナはニヤリと嫌な笑みを浮かべている。
「閣下、ウーリャの言う通りです。アリサさえいなければウーリャと俺は問題なく結婚出来ます」
一応アリサの婚約者であるデミードも、ウリヤーナと同じように嫌な笑みである。アリサのことを心配する素振りもない。
「そうだな。全く、アリサが突然消えてから面倒ごとが一気に押し寄せて来た。奴は疫病神か」
アリサの叔父ヴラスは忌々しげに呟く。
ヴラスはアリサに領地経営などの仕事を押し付けていた。しかしアリサがニコライに誘拐されリヴォフ公爵城から姿を消したことで、今までアリサ押し付けていた仕事が全てヴラスに押し寄せて来たのだ。
「とにかく、アリサを死んだことにするのならあの子に似た死体を用意しましょう」
ヴラスの妻でウリヤーナの母プリヘーリヤがそう提案する。
「ああ。とりあえず、リヴォフ公爵領内で最近死んだ若い女の死体を漁り出すよう使用人に命じておこう。本物のアリサが現れたとしても、殺せばいい」
ヴラスがフッと笑う。
すると、バンッと勢いよく部屋の扉が開く。
「死ぬことになるのはお前達だ!」
低く絶対零度よりも冷たい声が響き渡る。
「な、何者だ!?」
ヴラスはギョッとした表情である。
「待って、このお方は……!」
プリヘーリヤはまるで信じられないものを見るかのような表情だ。
月の光に染まったようなプラチナブロンドの髪に、ラピスラズリのような青い目。彫刻のような美しい顔立ち。
先程の声の主はニコライである。彼は騎士団など大勢の部下を引き連れていた。
「あの、どうして第二皇子のニコライ・ゴルジェーヴィチ殿下がここに……?」
「どのようなご用で……?」
ウリヤーナとデミードも困惑していた。
「お前達を国家反逆の罪で全員逮捕する。捕えろ」
ニコライはそう宣言し、騎士団の者達にそう命じた。
「国家反逆!? 我々はそのようなことしておりません!」
「何かの間違いですわ!」
捕えられ、手足を強く縛られるヴラスとプリヘーリヤは必死に抵抗している。
「私は何も知りません!」
「俺は関係ない!」
同じように手足を強く縛られるウリヤーナとデミードも抵抗している。
全員立っていることを許さず、床に転がされている状況だ。
「証拠なら揃っている。お前達は処刑確定だ。楽に死ねる断頭台での斬首刑など生ぬるい。全員火炙りだ」
冷たく言い放つニコライ。
「火炙り!? そんな……んぐっ!」
抵抗して何か言おうとしたヴラスをニコライは押さえ付ける。そして、無理やり何かを飲ませた。
「ぐっ……がっ……!」
ヴラスは縛られた手で喉を押さえようとして悶絶している。
「ああ、ヴラス様! ヴラス様に一体何を飲ませたのです!?」
ウリヤーナは呼吸を浅くして驚愕している。
「飲んだら喉が焼けて二度と声が出なくなる薬だ。弁明などは聞く価値がないからな。文句があるならお前達全員に飲ませるが」
ニコライのラピスラズリの目は冷たくヴラス達を睨んでいる。まるでゴミを見るかのような視線だ。
すると、全員恐ろしさの余り黙り込んだ。
「まあ、お前達がこんな愚かなことをしてくれたお陰で、僕はアリサ嬢と結ばれることが出来た。その点だけは感謝してやっても良い」
ニコライは冷たく不敵に笑う。
「どうして、殿下とアリサが……!?」
恐ろしさで震えているが、必死に声を絞り出すウリヤーナ。
「僕がリヴォフ公爵家を国家反逆の疑いで調べ始めた時、アリサ嬢がお前達から虐げられているのを知ってすぐに保護したんだ。お前達を処刑し、アリサ嬢をリヴォフ公爵家に戻す。そして僕はアリサ嬢と結婚してリヴォフ公爵家当主となってアリサ嬢と永遠に幸せに暮らす。これでリヴォフ公爵家もアシルス帝国も安泰だ。完璧だろう。僕達の幸せの為にはお前達に死んでもらわないと。と言うか、アリサ嬢を虐げる奴に生きる権利などない」
クククッと愉快に笑うニコライ。
ウリヤーナは目の前にいるニコライが人ならざるものにしか見えなくなっていた。
「……殿下とは言えど……どうかしている」
震えながら声を絞り出すデミード。
するとニコライはギロリとラピスラズリの目をデミードに向ける。捕えられているデミードの元にゆっくりと向かうニコライ。
「お前はアリサの婚約者らしいな。婚約者でありながらアリサを守らず虐げるとは、同じ男として恥ずかしい」
ニコライは持っていた短剣を引き抜き、何とデミードの男の象徴たる部分に突き刺した。
「ぐあああああっ!?」
デミードの断末魔が響く。
「お前を同じ男として認めない。そうだ、他の宗教圏の国には宦官という男性機能を失った男がいるらしい。お前も宦官になったと思えば良い」
ニコライは悪魔のような笑みだった。
他の三人はニコライの所業に恐怖を通り越して、ただ呆然とすることしか出来なかった。
「こいつらに尊厳など必要ない。服を全て脱がせて処刑準備が済むまでの間地下牢に放り込め。逃す以外のことならこいつらに何をしても構わない」
ニコライは平然とそう言い放つのであった。
ラピスラズリの目からは光が消えていた。
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数日後。
アリサは監禁されている広く豪華な部屋のカウチに座り、ゆっくりと本を読んでいた。
「アリサ嬢」
そこへ、ニコライが戻ってきた。
「まあ、ニコライ殿下。お帰りなさいませ」
「ただいま。アリサ嬢、さっき君の叔父一家達の処刑が執行された」
「まあ……!」
アリサはアメジストの目を大きく見開いた。そしてその表情は、どことなく嬉しそうだった。しかしアリサはすぐに表情を暗くして自己嫌悪に陥る。
「アリサ嬢?」
「ニコライ殿下……私は、醜いです。叔父一家や婚約者が処刑されたと聞いて……嬉しいと思ってしまいましたわ」
アメジストの目からは涙が零れる。
「アリサ嬢、君は醜くなんかないさ」
ニコライはそっとハンカチでアリサの涙を拭う。
「アリサ嬢はあの叔父一家から虐げられてきたんだ。奴らが死んで喜んでも醜いだなんて僕は思わない。むしろ、アリサ嬢を醜いだなんて言う奴がいるのなら、僕が粛清する」
ニコライのラピスラズリの目はどこまでも真っ直ぐで虚ろだった。
(それは……ニコライ殿下ならやりかねないわね)
アリサは内心苦笑する。
「ニコライ殿下、ありがとうございます」
アリサは泣き止み、柔らかな笑みをニコライに向けた。
するとニコライはラピスラズリの目を嬉しそうに輝かせてアリサを抱きしめる。
「アリサ嬢、これでようやく僕達の婚約を正式に発表出来る。皇帝陛下も僕達がなるべく早く結婚出来るように手配してくれているんだ」
「まあ……!」
アリサは表情を綻ばせた。
「アリサ嬢、いや、アリサ。僕は君を愛している。絶対に逃しはしないよ」
ニコライはアリサを抱きしめる力を強めた。ラピスラズリの目は甘く仄暗く、真っ直ぐである。
「ええ。私はニコライ殿下のお側にずっとおりますわ」
アリサは覚悟を決めて、目を閉じ微笑むのであった。
読んでくださりありがとうございます!
これで完結です。
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