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誘拐? 保護?

(あら……? (わたくし)、眠ってしまっていたのね……)

 アリサはゆっくりとアメジストの目を開いた。

 しかし、飛び込んできたのはいつもの倉庫の風景ではなく、全く見慣れない豪華絢爛な天井。

 おまけにふかふかのベッドに寝かせられていた。

「え……!?」

 アリサは体を起こそうとすると、何者かからそれを止められる。

「君は過労で倒れていたんだ。いきなり起き上がるのは良くないよ」

 優しく柔らかで紳士的な声である。

 アリサの目の前にいたのは、月の光に染まったようなプラチナブロンドの髪にラピスラズリのような青い目。彫刻のような美しい顔立ちの青年だ。

(このお方はまさか……!?)

 アリサは目の前の青年の見覚えがあった。

 ベッドから起き上がりカーテシーで例を()ろうとするアリサだが、それすらも青年に止められる。

「そこまで畏まらなくても構わないよ」

「ですが、貴方様はこのアシルス帝国の第二皇子、ニコライ・ゴルジェーヴィチ・ロマノフ殿下でございます。きちんとご挨拶をしないと不敬では……?」

「僕の名前、覚えていてくれたんだね。嬉しいよ、アリサ・ラヴロヴナ嬢」

 青年――ニコライは嬉しそうにラピスラズリの目を輝かせる。


 アシルス帝国第二皇子ニコライ・ゴルジェーヴィチ・ロマノフ。年はアリサより二歳年上の十八歳。その目と髪の色は、ロマノフ家の特徴そのものである。

 アリサは昨年成人(デビュタント)の儀でニコライに挨拶をしていた。


「……どうして(わたくし)の名前を?」

「君のことは当然覚えているさ」

 ニコライはフッと得意げに口角を上げた。

 ラピスラズリの目は真っ直ぐだがどこか虚ろでアリサは少しゾクリとした。

 それと同時に、自身が置かれた状況が異常であることに気付く。


 何とアリサは両手首と両足首に枷が装着され、鎖で繋がれていた。その枷は手足の負担にならないよう、肌に触れる部分は柔らかい絹のような素材が使われている。そして鎖はアリサが今いる部屋を自由に動き回れるくらいの長さだ。


「あの、殿下、一体これはどういうことでしょう? そもそも、ここはどこなのです?」

 アリサのアメジストの目は不安に染まる。

「帝都の宮殿の、限られた人間しか入れない離れさ。安心して、アリサ・ラヴロヴナ嬢。君を保護させてもらったんだ」

 ニコライはそう優しく微笑む。

「保護……。目覚めたら見知らぬ場所で、鎖に繋がれている状況……誘拐では?」

「いや、保護だよ。君を悪辣な奴らから守る為だ。簡単に奴らに君を取り戻されたらたまったものじゃない」

 はっきり言い切ったニコライに対して、アリサは黙り込んでしまう。

(奴ら……叔父一家のことよね。……確かに領地経営や諸々の仕事を押し付けられていたから、(わたくし)がいないと不都合になることはあるけれど……ここまでする必要はあるのかしら?)

 アリサは自身に装着された鎖に目を向けた。

「それに、リヴォフ公爵家は国家反逆の疑いがあったからね」

「国家反逆……!? だから(わたくし)に鎖を……!?」

 アリサはアメジストの目を大きく見開いた。それは初めて聞く情報だった。

「安心して、アリサ・ラヴロヴナ嬢。君には何の罪もない。色々と説明する必要があるけれど……」


 そこへ、扉がノックされる音がした。


「アリサ・ラヴロヴナ嬢、君は昨日から何も食べていないだろう。朝食を用意したんだ。まずは食事を優先にしよう」

 ニコライは使用人らしき人物から食事を受け取る。

 使用人と思われる人物はアリサにどことなく同情したような目を向けていた。

 ニコライは食事を持ってアリサの側に腰掛ける。

「さあ、少し遅めの朝食だ。アリサ・ラヴロヴナ嬢、口を開けて」

「……自分で食べられます」

 温かいスープをスプーンですくい、ふうっと火傷しないよう適度な温度に冷ましてアリサの口元に持って行くニコライ。アリサは困惑している。

「はい、アリサ・ラヴロヴナ嬢」

 しかし、ニコライは優しく紳士的な笑みのまま一歩も引く様子はない。

 アリサは諦めてニコライにされるがままとなった。

(何なのかしらこれは……? もしかして、叔父一家とデミード様が死ねば良かったと言ったことへの罰かしら……?)

 アリサはニコライの手から恐る恐るスープを飲む。

「あ……」

 口の中に、温かで懐かしい味が広がった。

 それは両親が亡くなる前、朝食の時によく出されていたスープと同じ味である。


『アリサ』

(わたくし)達の可愛い娘』


 亡き両親に愛された、優しく穏やかな時間を思い出すアリサ。

 父ラーヴルと母ローザリヤの愛おしげな声と笑顔が脳裏に浮かぶ。


「お父様……お母様……」

 アリサのアメジストの目からはポロポロと水晶のように透明な涙が零れる。

「アリサ・ラヴロヴナ嬢」

 ニコライはそっと優しくアリサの涙を拭う。

「ご両親が亡くなってから、今までよく耐えたね。もう何も我慢しなくて良いよ」

 これでもかという程に優しい声のニコライ。

 アリサの涙は止まらず、嗚咽を漏らすだけである。

(……今は誘拐だろうが、保護だろうが何でも良いわ)

 アリサは一先ずニコライに全てを委ねるのであった。

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