終わった恋と麦わら帽子の少女
毎年夏になると、家族みんなで父方のおじいちゃん家に10日程泊まりに行く。そこで麦わら帽子の少女と初めて出会ったのは、僕が7歳の頃だった。
おじいちゃんの家は田舎で。家の周りは畑と森しかなくて。子供の頃僕はおじいちゃんの家に来ると、すぐ虫取網と虫籠を持って森に駆けていった。
僕が虫取網で蝉を取ろうとして逃がした時だった。
「逃げられてんじゃん。へたくそ~」
後ろから声がして。振り向くとそこには、麦わら帽子を被り白いワンピースを着た、小学6年生くらいの少女がいた。綺麗な人、だった。
「私が蝉取り教えてあげるよ。君の虫取網貸して」
その少女は僕の虫取網を借りると、すぐに蝉を取ってみせた。
「すごーい!」
「ね!うまいでしょ?」
蝉を手に持ち、満面に微笑む少女。その笑顔を見た瞬間、ドキンと僕の胸が鳴った。
僕はきっとその時から、その少女に恋したのだろう。
*
毎年おじいちゃんの家に行く度、その麦わら帽子の少女と遊んだ。蝉やカブトムシを取ったり、田んぼの傍で大きな蛙を捕まえたり。少女はクラスの女子とは違い、怖がることなく虫も蛙も捕まえてみせた。捕まえる度、にいっと満面に微笑む少女が可愛くて。僕はその笑顔を見る度ドキドキしていた。
*
中学3年の夏。おじいちゃんの家に行くと、僕はやはりすぐに少女のいる森の方に行く。虫取網も虫籠はもう持たない。虫取は小学6年生の時にやめた。
「やあ、そろそろ来る頃だと思ってたよ。なんか、去年よりすごく大きくなったね。カッコいい!」
「そうかな?ありがとう。それにしても……君はほんと、昔から変わらないよね」
少女と出会いあれから7年くらい経つが、少女は小学6年生くらいの姿から、まったく成長していない。
「ふふっ、気づいたら君も14かぁ。私の生前の歳もあっという間に越したし、君はこれからもっともっと大人になっていくんだろうなぁ」
ワンピースのスカートをヒラリとさせながら、少女は微笑んだ。あまり見たことのない、切なげな微笑みだ。
「あのっ!僕、もうずっと前から君のことが──」
僕はその少女に「好き」と告白しようとした、その時だった。ぎゅっと、少女は僕に抱きついた。
体温は、ない。
「……私、そろそろ天国に行かないといけないみたいなんだ。だから……サヨナラ──」
そう言って少女は、僕の前から消えた。
その後も僕はおじいちゃんの家に行く度、少女を探した。けど、もう二度とその少女と出会うことはなかった──