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「さーて、皆様!いよいよ、街に待った本予選です・・・・・・」


正面中央の巨大モニターに、マイクを持ったお兄さんの顔が映る。


「応募総数、全68チームの中から、厳しい予選を勝ち上がったのは16チーム!その中で、最終予選に行けるのはたったの2チームです!ここからはトーナメント方式で、2チームごとに対戦形式でタイムを競っていただきます!」


つまり、3勝したら本戦、全国大会である最終予選に上がれるということだ。いや、それ高校生とかで行けるのか。

もし大阪で決勝、とかだったら、二人で旅行に・・・・・・ぐふっ、考えただけで鼻血が出そうだ。ていうか絶対無理だろそれ。


「なお、最終予選はここ、東京ビッグサイトで行われます!みなさーん、最終予選もぜひ、見に来て下さいねー!」


・・・・・・なんだ、ここか。

ちょっとがっかりしちまった。


「さて・・・・・・本予選第1戦目、お題を発表します・・・・・・1戦目の敵モンスターは・・・・・・」


観衆がシーン、と静まり返る。


「1戦目の敵モンスターは・・・・・・リールホーン!」


モニターに、緑色をした鳥型モンスターがデカデカと映し出される。キャキャキャー、というこのモンスター特有の声。

なんだよリールかよー、楽勝だな、とか言う声がちらほら。


いやしかし、これは・・・・・・


「そう、歴戦のバスターの皆様にはもうお馴染み、というか楽勝とも言えるモンスターでしょう!だがしかし!だからこそ、タイムの圧縮は厳しいはず!いかに早く倒せるか、息のあった素晴らしいプレイの数々を期待しております!」


そう、大して強くないモンスターだからこそ、一つのミスが取り返しがつかない時間の無駄に繋がってしまう。

いつの間にか険しい顔つきになっていたのか、女神は僕の腕を両腕でぎゅっと抱きしめた。


「大丈夫だよ、教官。絶対勝てる。私たちなら」

「うん、もちろん」

「さあ、前へ行こう。J&Cは、第3戦目なんかで終わりじゃないはずだから」


モニターに映し出された、開発者による模範プレイを見ながら、観客をかき分けて前に進んで行く。



「では、第3戦です!出場するのはopinionsチーム、社会人チームのようです。対するはJ&Cチーム、こちらはなんと、女性バスターを含む、高校生カップルチームです!」


なんとなくブーイングみたいなのが聴こえる気がする。

ちらりと隣のブースを見る。相手もこちらをちらちらと眺めていた。黒縁の眼鏡をかけた、細い顔。歳20半ばくらいだろうか。


「教官・・・・・・ここからは、一発勝負ですね」


そう、本予選は全て一発勝負、二度目はない。


「JJはハンマー、Canonは双剣で行く。外に出たらすぐに爆弾を渡すから。JJは強走飲んだらダッシュ、大タルGを仕掛けて爆破。あとはひたすら溜めスタンプ。こっちは麻痺属性だから、手数で勝負する。落とし穴はいつでも仕掛けられるよう、準備しておけ」

「はい!教官!」


そこだけ大きな、女神の声。社会人が訝しそうにこちらを見る気配がする。気にしない気にしない。


「麻痺したらひたすら殴りに切り替えろ。Canonに当てないように、ギリギリで弱い頭を狙え。絶体に被弾はゼロ、これは最低条件だ」

「了解!」

「では、行くぞ!」

「よろしくお願いします!」



開始して早々に強走薬を飲むJJ。Canonが蹴りを入れ、わずかな時間のロスもキャンセルする。

二人で闘技場の入り口へ猛ダッシュ、すぐに爆弾をJJに差し出す。間髪入れずにキャッチするJJ。


「おおっと、これは素晴らしい!まさに息のあったプレイです、J&Cチーム!」


本予選は実況入りだ。

鳥型モンスターへダッシュしていくJJ。鳥は咆哮態勢に入るが、すぐにCannonの投げた小爆弾が起爆し、リールホーンは一旦動きが止まる。


ザクザクと斬り始めるCanon。数回斬り終え、コロリと回避。

そこにJJのハンマーが振り下ろされる。


「素晴らしい連繫プレイです!お見事、J&Cチーム!いやしかし、opinionsチームも負けてはいない!二人でハンマー作戦!これはどういう結果を生むのか!」


あっちは二人ともハンマーか。確かに攻撃力はある。だが。


「おおっと、ここで早くもJ&Cチームがホーンを麻痺!待っていたかのように、強烈なハンマーが振り下ろされます!いやしかし、opinionチームも罠にホーンをうまく落とす!ハンマーの二重攻撃、これは痛そうだ!」

「JJ!罠設置準備!」

「了解!」

「続いて縦3!そして大回転!」

「オッケー!」


ようやく麻痺状態から解放されるリールホーン。直後、落とし穴が口を開け、その身体を落とす。

再び頭に振り下ろされるハンマー。

カチャカチャとアイテムを入れ替える。


「J&Cチームも負けじと落とし穴に!ハンマー、がっつりと打ち下ろされています!そして脱出・・・・・・ここで閃光玉!再び落ちるリールホーン!もがいています!おっと、そして早くも二度目の麻痺!ここでクチバシの部位破壊にも成功!素晴らしい、本当に素晴らしいですJ&Cチーム!」


鳥は再びビリビリと電撃に打ちのめされながら、ザクザクと剣で斬られ続ける。頭には、執拗にハンマー。

もう少し、もう少しで終わる。このまま行けば、十分に勝てる。


まずい!

そう思った時には既に、リールホーンの火炎攻撃が正面で頭を殴っていたJJを吹き飛ばしていた。炎に巻かれ、転げるJJ。

こいつ特有の、火打ち石による不意打ちだ。今のは仕方がない。


「消火の必要なし!攻撃パターン継続!」

「はい、教官!」

「おっと、ここでJ&Cチームが初の被弾!さすがはリールホーン、トリックスターの本領発揮というところでしょうか。opinionsチームは、二つ目の罠に落とし込む!再びうち下ろされる、ハンマーの嵐!すごい、すごい攻撃です!」


タイムロスは大きくないはず。だが、一瞬の焦りが生まれる。


「っ!」


隣の席から押し殺した声。JJはくちばしの攻撃を受け、再び地面に這いつくばる。体力も半分ほどに低下した。


「教官!」

「大丈夫、まだやれる!残りのHPは少ないはず、俺がヘイトを稼ぐ。このまま押せ!」

「はい!」

「J&Cチーム、二度目の被弾です!これは痛いか?・・・・・・おおっと、ここでopinionsチームに痛恨のミス!」


観客がどよめく声が聞こえる。


「スタンプが重なったか、お互いを吹っ飛ばしてしまった!これは痛い!さあ、挽回できるか?」


アイテムは使い果たした、あとは攻撃あるのみ。自分のモニターに集中する。

大丈夫、まだこっちの方が勝っているはず。回復さえされなければ・・・・・・


瞬間、ホーンがくちばしを大きく空に掲げた。

・・・・・・回復のモーション!これはまずい!HPを回復されたら・・・・・・

もう爆弾も閃光弾も使い切った。あとは。


次の瞬間、JJの溜めスタンプが振り下ろされ、画面が切り替わった。討伐完了、の画面とファンファーレ。


「やった!やりましたJ&Cチーム!素晴らしい連繫プレーの数々でした!お見事、まさにお見事!J&Cチーム、ベスト8進出です!」


会場に響く歓声、そしてMCの声。


「やった!教官!やった!」


女神も、椅子から立ち上がってバンザイ、のポーズだ。


(やった・・・・・・)


なんとなく声に出しそびれて、女神とハイタッチを交わす。

どっと汗が吹き出して来た感触がして、いかに自分が緊張していたかを今更に知った。ある意味、剣道の試合よりも緊張していたかもしれない。


「教官!やっぱり教官はすごいです!やりました!」

「JJ、よくやったよ。お見事」

「はい、お疲れ様でした!」

『これはちょっと、勝利者インタビューですよ。・・・・・・おめでとうございます、J&Cチームさん』


MCのお兄さんが近づいてきた。


「はい、ありがとうございます!」

『女性のバスターは本予選、JJさんが唯一ですよ。いやいや、素晴らしい。女性にもプレイしていただけて、しかもこんな素晴らしいタイム。開発者一同、御礼を申しあげたいくらいです』

「えへ、ありがとうございます!」

『お二人はカップルでの出場ですが、バスター仲間でもあるんですか?』

「ええっと・・・・・・」

「いえ、私の教官なんです。モンバスの中で知りあって、それで出場したんです」


いや、それちょっと誤解を招くような。


『なんと、モンバスで生まれたカップルということですか!素晴らしい!なんということだ!これは開発者チーフがもう、本社で感激のあまり泣きますよ!』

「いや、実は同じ学校の・・・・・・」

『キャノンさん、素晴らしい片手剣使いの技でしたね!やっぱり普段から、お二人でプレイしているんですか?』

「ええ、まあ・・・・・・」

「あのさ」


お兄さんは僕の顔をじっと見つめると、マイクを外して小声で言った。


「キャノンでいいのかな?」

「かのんで結構です」

「本当は?」

「かんのん」

「やっぱカメラ、好き?」

「わりと」


マイクに戻るお兄さん。


『それであの、見事な連繫プレーが見られたわけですね!いやあ、見事でしたよね、開発のナカガワさん!』


遠くの方にいる、スタッフの人がうなずく。


「全くもって、息のあったプレーでした」

『会場の皆さんも、このどよめきです!』


うぉー!、という声が、観客から響く。

・・・・・・半分以上は、女性バスターさんの可愛さに向けられたものだろうな。


『さて、最後に一つ。・・・・・・Canonさん、あなたにとって、彼女はどういった存在ですか?』


どういった、存在。

女神の瞳を見つめる。


彼女は自分にとって、何だろう。

答えは、最初から決まっている。


「・・・・・・彼女は僕の、勝利の女神です」





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