迷宮のノアの行方
夜空を見上げて
数学者や研究者にとっては、星は単なる数える光。
事業家にとっては、星は宇宙ビジネスの金のなる光。
忙しくしている人は、星は見ることもしないただの小さい光。
旅人にとっては、星は大きな目印としての光。
だれもが、本当は自分の星を持っている。ちょっとだけ、大切な大切なサライの星を忘れ、忘れることにより理解を深めている。
果てしなく続くその旅は、調和されいつかまた再開する。まるで、天の川を流れるガラクシアスのように。
第一章:置いてきぼりのノア
「ノア、困ったときは、夜空を見上げてごらんなさい」と優しい母はつねづね言っていた。
こんかい、母がそのように言った理由は、学校のクラスの一人に「と木偶の坊」と呼ばれ、侮辱され落ち込んでいたからだ。
当時のわたしは小学4年生になり、勉強する理由を見失っていた。人より賢くなる必要が「どこにあるのだろうか」と自問自答していたのだ。つまり、頭が良いことへの不信感を抱いていた。
そんな母は、とても敏感で僕の感情を理解し、見かねて、そっと優しい声をかけてくれたのだ。
そんな優しい声に耳を傾けず私は「なんで?宇宙の話は衛生や月の行き方の暗記することばかりで、ギリシア神話の物語は美しくのにも関わらず、無駄なようにあつかれるの?」と純粋なる暗闇から溢れた声で聞いてみた。
「ノアや困ったときは、夜空を見上げてごらんなさい」と、いつも母は答えるだけだった。
またあるときに、旧約聖書を読んでいると、大洪水について書いてあった。
「災害で困った地球は海だらけになった。人類よ。このことをよく見聞きしてみましょう。大洪水が大地を洗い流し更地になった。あらゆる嵐は七日と七夜、地球を洗い流し宇宙船に逃れた」
しかし、この事を学校の先生に話すと鼻で笑われる。
こんな感じにだ。「地球温暖化や天変地異の理由はなんですか?分かる人いるかな?ノアくんどうかな?」「人間たちがよく見聞きすることを忘れてしまったから」とは言えない。
机の上の教科書45ページに答えが書いてる「雄牛から出るメタンなどが原因である」と。
しかし、ぼくは答えることができない「・・・」
そんな僕を見かねて先生は「木偶の坊になっちゃったね。ベガさんわかりますか?」と回答者を変える。
しかし、ベガも答えない。
昨日も一緒に旧約聖書の本を読んで目を丸くしていたからだ。
洪水は過去に何度も起きている。そして、夜空を見聞きすればちっぽけなちっぽけな問題でしかないことをベガも知っているのだ。
クラスの子どもたちは、大人の求めている返答をして良い子ちゃんを演じている。
その良い子ちゃんから「木偶の坊のノアだ」とバカにされた。
けど、許してあげなきゃ、夜空はいつでも許してくれる。
許されて、僕達に生命があるのだから。
ベガとは小さい頃からの家族ぐるみの友達だ。週末になると山々に囲まれて夜空を見にいく。
僕もベガも、ベットタウンに住んでいるが、毎年七夕に星の群衆を見に行った。いつも僕は鳥肌が立つ。
流れる星々に目を追いものすごいスピードで動いていく。
小さな自分の存在として認知する。
あの星々から見たら、僕はちっぽけな虫と同じだ。
そんな中でも7月7日は二人がもっとも近づける日。夜空を見上げるとそこにはいつも以上に美しい織られた星々があるのだ。織姫と彦星は、仕事を怠け別々になったとされ、彦星は牛を追いかけ迷子になってしまったようだ。織姫はひたすら織物を織り続け待つことになりました。
当時の日記をみると「今日は、友達のベガとキャンプに行き星を見ました。無限に広がる星々がありました。もっと星座や星の動き、星々の特性についてしれたら楽しく旅行にいくように、宇宙の冒険をしてみたい。織姫と彦星は七夕だけでなく、ずっと近くにいられたらいいのにな~」と書いてあった。
そんな日記を読みながら、七夕祭の記憶が蘇る。
「おっかさん、夜空を見るとなんでこんなに落ち着くの?」と聞いたことだ。
母は、必ず何かしらの返答をしてくれる。
「それはね。琴を奏でるように、純白な糸を織っているからだよ」と、答えがあるのか、ないのかわからない優しい声が返ってきた。
僕は「よくわからない。」と、あと一歩で解けそうで解けないパズルのもやもやを抱えていた。
「そのうち分かるわ。どんな事が起きてもね。」と母は答え「そうだ。純白な布切れを買って来ておくれ、ハンカチを織りたいんだ」と言い、キャンプ場の近くで行われている小さな祭りや商店街のお店に向かった。
「知り合いの養蚕の人に頼んであるから、夜空でも見ながら買ってきて、まだ七夕祭もやっているみたいだから。ベガと楽しんでいくといいわ、気をつけていくんだよ」とアワとヒエをついで養蚕の人に渡すよう言付けた。そして、最後にいつもの「困ったときは、夜空を見上げてごらんなさい」と僕の不安な心を後押ししてくれる。
僕は「安心して、ベガと一緒なら問題ないよ。」と答えた。
「そうね。信じているわ。」
時刻は、まだ夕暮れ前。
早速、べガを誘って祭りにいきつつ純白な糸を買いに出かけた。
毎年くるものだから、屋台の店主とも顔見知りだ。軽く会話をし、商店街の店の一角にある養蚕を目指した。「こんばんは」と愛嬌のいい店主に軽く挨拶をかわして、下から数えて3つ目の棚に毎年変わらず置いてある白い糸を買った。
お役目をはたし、帰り道に夜空を包み込む織姫と彦星のように右手には、ベガの手があり左手には白い糸を持っていた。
ベガの右手には綿あめがある。川辺の林の蔭で二人並んで静かに座って食べた。
くさべに寝そべって夜空を見上げ話し出す。
「あの十字型ははくちょう座だ。その尾にあるのはデネブだ。天の川の中でもとても輝いているね。」と、言っていると突如ここらではあまり見かけない、方舟が上流から流れてきた。
その船体には大きな文字、だいたい一文字が僕の顔くらいで「宇宙船無限行き」と書いてある。
ピカピカ点滅し光る船体は、恐怖というよりもなにかのアトラクションのように胸が躍った。
ピタリと僕達の目の前で停まり、不思議に思ったが、「ご乗車の方は、お早めに乗車願います」と船内からアナウンスが流れた。ペガと目を合わせた。その眼の瞳の奥には、高音に鳴り響く雷の衝撃に打たれたようなキョトンとした美しさがあった。
きっと、僕も同じような瞳をしていただろう。
それと同時にお互いの意思が伝わった。
早速、船内に乗り込むと「この度は、ご船上いただき誠にありがとうございます。遊覧船飛行、無限行き。船長は、ウトゥ。副船長は、ゼウス。どうぞ、がラクシアの飛行をお楽しみくださいませ」
とアナウンスされ、川の上流に向かうように船は浮遊し夜空に光る一番大きな星に向かった。
べガと僕は、目を合わせなにか始まる予感がした。
「えー、まずはツクヨミの世に生きた皆さま方々、大変御苦労さまでした。これから先は御苦労することはなく、極楽さまです。どうぞご安心して、美しい星の冒険をご覧くださいませ。」と、一瞬で凸凹した光る表面についた。
ベガは、「目を輝かせあれを見てと指で指した」
僕は夜空を見て驚いた。青い星がそこにはあったのだ。青い部分や雲、緑の大陸、少しばかり黄土色になった大陸。白く覆われた寒そうな場所。雲の動きはまるで一つの意思があるように流れていた。
同じ景色は、一度としてない。
「夜空は美しい。」と僕は言った。
それと同時に、凹凸でできた激しい表面にいることが分かった。さらにアナウンスが続き「宇宙船無限行き:停船・停船。次の出航に乗り遅れないようご注意ください。古い思い出は置いていくことをおすすめいたします。」
どうやって、上陸したかわからないが、状況を把握しようと周りを見渡してみるとそこには見たことのない船がたくさんあった。
円盤型や電車型、そしてこんかい乗船した船みたいな形のもの。卵みたいなものもある。
青い星からは見えないようにステルスをはり近く可能にしている。もちろん、見え隠れする裏面には数多くの基地も存在していた。
「やぁ、君等。七が重なる日とあって、ここから見るガラクシアスは格別に美しいよ。」と屈強な身体を持つ男が声をかけてきた。僕は「あなたは、ここで何をしているの?」と質問した。「亀のカシオペアがどこかへ行ってしまってね。暗黒のホールができてしまったんだ。普段見かけるときは、ノソノソゆっくり歩くわりにいざ見つけようとするとなかなか見つからなくてね。でも、大丈夫。」と、言った。
とたん。亀が現れた。
カシオペアは「こりゃ、いかん。私はまたどこかへ行っていたようだ。さすがは、ペルセウス君。仕事が速い」と亀のくせに流暢な深みのある声で話し出す。「いやいあ、一体どれだけ待ったと思っているんですか。それよりもあなたが時間と空間を超越してみせると自慢話していたせいで、ここにまた、暗黒ホールができてしまいました。いまから、休むことなくポセイドンとする神々に誤ってくださいね。」と鎖で繋がれて遥かかなたの星の光に向かっていった。
ほんの一瞬のことだった。
口を開けてぽかんとしていると「まもなく、宇宙船無限行き、出航いたします。ご乗車のかたはお早めに乗船ください。口は災いの元。口は災いの元。言葉には十分気をつけてください」
僕達は唖然としながら、ダッシュすると一瞬で船の上にいた。
ベガは動揺して「いまのは一体何だったの?亀がいきなり出てきて、星になっちゃったわ。そんなことできるわけがないし理解できないわ。」と首を傾げていた。
副船長のゼウスは「この船に乗っているときは、疑うのは常に自分の常識のほうさ。ありえないことなんてありえないんだからね。次はとうとう白い織りプレアデスにいくよ。頭を空っぽにして覗いて見てごらん。そうすれば、偶然に見えていた必然がみえてくるよ。まるで、純白な糸を織るハンカチのようにね。」と、外を見るとそこでは尾を逆なでにしたサソリとアルテミスが、オリオンを華麗に射めていた。
ぞろぞろそれにつなれて、動物たちがでてきた。
セイレーンやゴルゴン、ミノタウロスなどである。
彼らの会話を耳に傾けると、動物たちと言っても聖人だが、掟に従いお互いに感謝して絶妙な調和を持って成り立っている。
その掟は簡単だ。無駄な殺生はしない。お腹の減ったときだけ食べる。
同族を殺すとより苦しみいきることは調和が崩れやすいことである。
他のものにも最上の感謝を心を忘れないこと。自分の仕る事に自然の形で沿うこと。
掟は、すべて目に見えないものを大切にしてできているようだ。
目に見えない大切なものからなる掟である。
すべてを飲み込む狩りをするオリオンがやってきた。
狩りの達人オリオンは、自分の狩りに誇りを持ち動物たちを次々と殺めていた。蔭に隠れていた。一つの星に狙いを定め、足元に忍び込み自分の狩りの腕をみせんばかりに傲り高ぶっていた。無駄な殺生をしたのである。自分の報いは自分で受ける。
そこで出てきたのがサソリである。オリオンの狩りを毒によってそのさせガラクシアスから遠く離れた位置になった。
オリオンは、サソリから逃れるため正反対の空の大海に逃げるしかなかったのだ。
大海を逃げて隠れているオリオンにアルテミスは、駆け寄り矢を放ち見事身動きができなくなり自分の定めを受け入れることにした。
オリオンは恋愛を禁じられ、反省し大人しく夜空の小さな一角で収まった。
誇りを持つことは、傲りを持つことにもなるのである。
いまでもその劇場は見え、サソリが、オリオンを華麗に射るさまは、誇りと傲りとして目にすることができるのだ。
一通り説明し終えると、宇宙船無限行きは、プレアデスに到着しアナウンスが流れた。「美しき7姉妹は、オリオンから逃れるため、鳩になりました。逃げる勇気もときには必要。乗船には気をつけてください」と最後にいつもの忠告と警告が流れた。
「とても美しかったわ。サソリとオリオンが目まぐるしく光る様は流れ星のように私達を惹きつける。」と、ベガは目を星にして言った。
僕は、夜空を見上げ一つの星を指し「そうだね。ベガ。青い星はもうほとんど見えもしないね。」
「青い星ってなんだったかしら。あなたの指した青い星も銀河の一つで小さい光だけど、とても綺麗ね。まるで、そこには、そこのドラマがあるのね。どんなに離れて忘れてしまってもつねに母の温もりを感じるわ。そういったいみで青い星のドラマは、サルの聖人になりかけているようにみえるわ。掟の理解を深め母の温もりで生きようとするけど、その大きな渦のなかでは自分をサルとして理解できていないのね。まるで、この航海のようなものね。自分から自分を見ることはできないけど、この航海を、船を、私をみている周りからしたら美しさを感じ、そこのドラマになっていうのでしょうね。」僕はベガの姿が眩しすぎて見づらい。まるで、ベガはなにかに呼ばれているようなそんな錯覚をした。
「僕達は、僕達でいよう。どこまでも美しく輝くんだ。」と僕が言うと「そんなことも必要無いんじゃないかしら?ただ美しさを堪能すればいいのよ。あるうちは、きっといつまでも輝き続けているわ。わたしたちはいつまでも一緒よ。どんなに距離があってもね。」と思いもよらない言葉が返ってきた。
僕は言葉を失った。
すると、ゼウス副船長が「見てごらん。あれがかつて僕が輝いた星だ」とその星をみると「ピカン、ゴロン。シーン。ピカン。ゴロン。シーン」と雷のように光っては、また消える。光ってはまた消えを繰り返していた。
ゼウスは「照らしてはまた消え、照らしてはまた消える。君たちには一瞬に思えるかもしれないが朝と夜のようにこの光は意味をなしているんだ。かつてといったが、いまも私はここにいるんだよ。そして、その光の雷は同じ模様にならない。」と説明してくれた。
「木星に似ている」と僕は思った。
すると、ゼウスがそんな僕の心を読み取ったらしく答えてくれた。「そうだよ。木星はその性質を帯びている。もちろん完璧に一緒ではないよ。同じ星はどこにも存在しないからね。人一人ずつ、聖人一人ずつだれもが違うようにね。宇宙の聖人は動物とのハイブリットの肉体をもっているんだ。無限に広がる個性を楽しんでいるんだ。みんな、天の川の星々のように銀河の踊りがわかるよ。ほら、プレアデス星団は、とても楽しそうに僕達を迎えてくれている。起源は、あなたたちに人類とも似たものがあるよ。肉体もちゃんと存在し文明を築いている。掟に沿って生きているから砂漠化せず星々を大切に感謝しているね。感謝は12の果実のうちの一つだ。真実・公正・智慧・美・忍耐・調和・・・・一つずつ学べるようなっている。掟を破ると必然とオリオンのようにバランスが崩れていく。宇宙は、ずっと、きっと、とてもシンプルにできているんだ。輝いては消え。消えては輝いてね。一つに執着すると、何が起きているか分からない。あるときは小さく見ていき理解を深め、またあるときは大きく見て理解を深める。この無限行き船のように天の川を統べるんだ。さぁ、プレアデスを堪能したまえ一旦ここで、宇宙船無限行きは、2つの車両に分裂するよ。」と、意味深なこと言って、僕は急に変な胸騒ぎがした。
そんなことを他所にベガは、プレアデス星団に夢中だ。「みて、さっき華麗に射ったアルテミスが迎えに来てくれたわ。微笑んで丸と三日月とにっこりした形の魔法で浮かび上がらせてくれている。歓迎してくれているのね。あれ、またカシオペアもいる。暗黒ホールは問題なかったようね。オリオンに追いかけられ、鳩となった姉妹たちを移動させる手伝いをしているみたいね。なんて素敵な場所なのかしら。」なんだか、僕だけ置いてきぼりに感じる。
まるで、船体から振り落とされ浮き輪でしがみつき、もがき泳いでいるようだ。
ゼウスはそんな僕を見かねて「プレアデスは、スバル。彦星に位置する場所だ。天の川の中から見るとわからないよね。雄牛もいるはずなのに、近すぎるとその雄牛を認知できない。隣の芝はよく見えるのに、いざ自分の芝になるとわからなくなるのと同じようにね。一つずつ芝を見て全体を把握しようとするしかない。それが掟にも繋がっていく。ひとりでに旅して浮き輪にしがみつき、もがき泳ぐことも無駄ではないんだ。」と僕の感情に寄り添い答えてくれた。
さらに続けて「君たちは、自分たちのことになるとまるっきりわからなくなるんだ。その結果、雄牛の世話を怠けた。掟は掟である。けど、いつでも沿うことができる。さぁ、ここらでこの天の川の旅は一旦終わりだ。」と、言われた。
「・・・・」
僕は、川辺から天の川を見上げていた。右手には、白い糸を持っていた。
さっきまで、隣に誰かいたような気がする。
しかし、その誰かは分からない。川の向こうで、誰かが手を降ったように感じた。しかし、よくよく見るとそこには人影はなかった。
どうやら、船体から離れ、孤独に浮き輪でプカプカ浮いているようだ。そのとき、一筋の雷が天上に走った。
「あなたのやることは、そこにある。雄牛の世話を思い出せ。」と、言わんばかりに天の川の牡牛座の首元から地平線の彼方へ消えた。
白い糸を母に渡すため全速力で走った。
いまは、それが必要のようだ。
第2章:忘れてしまったノア
トイレに行き白いハンカチを取り出す。
このごろ僕はすっかり変わってしまった。
何をするにもつまらなく。退屈な人生になっているのだ。
なにかを、どこかへ置いてきてしまったのだ。
けど、何を置いてきたのかは分からない。
忘れ物をしているのではないのか、つねづね不安になるのである。
この前も出先で3回鞄の中を確かめ、白いハンカチと財布を本1冊があることを覗いた。
きっと母の体のことが気がかりなのだろう。
母さんは、いまやベットと少しの散歩の繰り返しの生活である。
元気に笑っていた頃はかげを潜め、苦痛のシワが顔に浮き出ている。
ポツリと声がする。「ノアや私のことはいいから、自分のことをおやり」と優しい口調でベットから起き上がろうとしているものの、足腰は弱りよろけてしまう。そっと支えてあげ手伝ってあげる。
母が「助けて欲しい」と言っているのである。
あるときは、意味もなく立ちフラフラする。
コンタクトを付け、またベットに戻る。バーチャルの世界に入りたいようだ。
主演するイケメンのあの人と走り周り自分の体の自由を感じている。
ほとんど会話という会話は、なくなってきている。
一度バーチャルに入ってしまうと、小さい子がなにかに夢中で取り上げると泣いちゃうようにコンタクトでバーチャルを取り上げると怒ってしまう。
バーチャルの中でトイレへ行ってすませた気になりおむつから漏れ出してシートが汚れることは日常茶飯事である。
間違いなく日常の疲労が、生活を蝕んでいる。
介護施設に入れれば住むように思っているかもしれないが、より作業だけが重視され行き帰りのやり取りなど余計にやることが増えるだけである。
そして、一部の人しか利用ができない制度に変更してしまった。
科学は発展したのだが、人間の心が発達せず便利なツールがシステムに縛られ、非効率になっているのだ。そのうえ、人間の利権争いにより制限がかかったのだ。
当然、一般人たちはそのことに怒り利権争いの板挟みになった。
その結果、個人のことは個人で解決せざる終えないのである。
介護をし日常の労働を強いられる。
このループから目をそらし、逃げ出すかのように誰もがメタバースの世界にまっしぐらなのである。
食糧は、生成食品を安価工場生産されたものがベースである。
自然の土から作られた野菜は限られてしまい料理は、自動に連動して出来上がる。
しかし、その味は毎回おなじである。
味という味は、砂糖とアミノ酸で臭みや灰汁は全て抜けている。
母さんにサバ缶と米、サラダ、味噌汁をあげ「美味しい?」と聞くと「今度は、カレーがいいね」と答えくる。
どうも、バーチャルの中でイケメンの彼とインド風のカレー屋にデートへ行っていたようだ。
おそらくもう、現実とバーチャルの区別がつかなくなってきているようだ。
息子の僕をみて「あなたは誰?」と聞く様である。
「息子のノアだよ」と言っても「知らない人にこんなに親切にしてもらって、すまないね。ありがとう」とぼけが進行している。
僕も疲れから寝る前にバーチャルの世界へ入る。
ぐっすり眠れるために大自然の森林浴をするのだ。
いまでは、大地が荒れ住めるところも限られ国毎に、震災防止地区が多く制定されている。
とどまることのない雨量や地震に人々は誰もがバーチャルの世界に逃れているのだ。
自分の理想とするイケメンになれ美女のヒロインになれる。
現実よりバーチャルでユートピアを味わっているのだ。
機械が、管理をしているので労働は最小限ですむ。もちろん、介護や身近の生活にしわ寄せがきている問題はあるが、殺し合いや餓死者は減ったが人口も減った。
メタバースの世界と現実の世界を交互するあまりに同じ話を何回もしてしまう。
僕だけじゃない。同級生と久しぶりにあっても過去の面白かった話を毎回して終わりである。会うと言ってもバーチャルの世界でお互いのアカウントを使って似た自分で会話をしながらである。
アバターは、数種類あり自分に似ているものと理想な自分などがある。
現実に似たアカウントは、インフラの役目もしている。
この世界で買い物し、物は届く。ショッピングも可能だ。
その代わり、バーチャル資本がいる。
バーチャル上で人気なアイドルやスポーツ選手がいる。
そんな中でも、自然災害が起きても、利権争いはバーチャルの中で行われていた。
資本をバーチャルに移して現実世界から逃避しているのである。
ゲームで殺し合いをしてバーチャルコインで賭けをしている。
そのことを少なからず知っているが、そこに向き合うことはバカのすることで必要のないことだと小さい頃から教えられる。
もちろん教育もバーチャルの中での話だ。
学校は廃校が相次ぎ、バーチャルにシフトチェンジした。
建物も一括管理されている。
住める場所と住めない場所を分けて移動を余儀なくされ移動先は安全とされているが明らか自然の勢いには勝てない。
絶望だ。
一体誰が、こんな現実をこんな世界を作ってしまったのだ。
もういやだ、逃げ出したい。
バーチャルの世界で、嵐や破壊のない大自然でデートをするのが日課になっていた。
その時間だけは、私を癒やしてくれる。
その時間だけが、私を私にしてくれる。
どうか、この時間が永遠に続きますように。
誓いの歌を踊って彼女と過ごしていた。
ピロリンとバーチャルの画面が光る。私に似たアバターに切り替わる。
現実世界でなにか労働を強いられている。
A地区に行って、脈を引き取った人の様子を見てください。
報酬:仮想通貨〇〇bit Yes:No
と書いてる。
私の職業は送人である。
といっても、昔のように親族の死を慰める役は人工知能がしてくれるので、肉体的な処理をするのが役目である。
脈拍を常に管理しているため、だれが死んだのかすぐに分かるが、最終判断や細かい画像の残しを記録する役割がメインである。
現場に行くと人間特有の匂いが立ち込めるため、匂いを防ぐためのバーチャルヘルメットをして作業する。
指示にしたがって、順番通りにやっていく。
1.現場へ行く:道筋は「マップ」より
2.鍵を解除:鍵の解除は現場についたら特殊許可にて行う
3.録画を作動:録画を作動Yes、No。Yesを押す
4.中へ入る:
・
・
・
このように作業に従って行っていくだけである。
わたしの労働は、脈を見てロボットを呼びつけるまでだ。
あとは、どこかへ運ばれる。
家のなかのものや生活に必要な状態を確認させ、空き家マークに変更する労働がある。
ほとんどが、機械と一体化させ利便性よく行っている。
すべてを把握できる人はいない。
また、その必要もない。
こんかいの死人は少し変わっていた。
家中に本が4000冊くらい置いてある。
ジャンルはバラバラだ。
バーチャルの世界で本を読むのが一般的でここまで本を持っている人ははじめてみた。
ピロリンとまた音がなる。
・録画しながら、一つずつ本を出して箱につめてください。追加報酬〇〇bit Yes:No
なぜ、そんなことが必要なのか、私にはわからなかった。もちろん労働も昔と違い、境界がなくなり、送人をしながら部屋の整理をすることも当然ある。
しかし、本来背表紙をみて終わりだろうと思ったのだが、一つずつ本を出す必要が分からない。
しかし、報酬が出るのでやっていこう。
ヘルメット越しに「→」が投影され、右上から順番に箱に詰めていけと書いてあった。
補助の機械で、筋肉をサポートすることも可能だが待ち時間があるのでそのままやることにした。
もちろん、筋肉サポートを運ぶこともヘルメットのバーチャルから操作可能だ。
それはさておき、早速右上から順番に箱に詰めていく。
メタバースの楽しみ方についてと書いてる。
数十年前のシンギュラリティとの向き合い方について書かれた本であり教科書にも取り入れられた時代がある。
数百冊箱に詰めていると、明らかに背表紙がズレており何度も擦り切れだと思われる本があった。
気になってしまい。中身を読んでみることにした。
何気ないある人の自叙伝が書かれている。が、異変に気がつく、ヘルメットが何かを投影させているみたいだ。その合図はみどり色のランプでわかるようになっている。
いままでこんなことはなかった。何度か本の内容を読んだことがあるが緑色のランプがでることもなかった。
私は気になって、ヘルメットを取ることにした。
作業手順に沿わないことは基本NGとされているが、そこまで縛られているわけでもない。
自由に、ある程度はできる。最終的に作業が終わっていれば問題はない。
もう遺体は運び出され、除菌もされ問題はないはずだ。
取ろうとすると、警告ランプがでるが作業から外れるときはいつも出る。
おかまいなしにヘルメットを取り、本を読んでみるとその内容は自叙伝ではなかった。
「スーパーコンピューターを使いこなす聖人」と「スーパーコンピューターを使い支配をする獣」と書かれていた。
理解ができず、とりあえず出版された日付を見る。数百年前の本である。
この時代に、人工知能やメタバースの概念はなかったはずだ。
なのに、予言したかの如く書かれている。
そこまではいいのだが、私の受けた教育ではスーパーコンピュータに従って行動すると便利になり安全な生活ができる。
そのために、移住もし母の介護もできる。
たしかに、そのことも書いてあるのだが明らかにスーパーコンピューターを使い支配をする獣側として書かれているのだ。
スーパーコンピューターを使いこなす聖人とは一体何者なのだろう?
また、支配する獣については誰であろう?
私は頭の中で疑問が溢れていた。
すると、ヘルメットのアラームがなった。
「労働に戻れ」と合図がきた。
ヘルメットをかぶり「この本を購入したい。何ビットするか質問を投げかけた」が「No」と出た。
物は溢れているので、整理をして気になったものはコインで買えば、もらっても良いルールである。
それが「No」とはどういことだろう?
「答えることができません。人工知能も完璧ではないからです。」と返ってきた。
完璧ではないと教えられ知っていたが、この文面が出てきたことは初めてである。
「どうしても、読みたいのです」と答えると「センサーに問い合わせています。後日連絡がきます。それでもよろしいでしょうか」と答えた。
箱にしまうおうと思ったが、作業をしながら読めばいいことに気が付いた。
もちろんヘルメットは取って作業して、箱詰めすれば問題ないのである。
早速、その本を別にして箱詰めしていく、その合間に読み進める。
すると、人類が二手に別れるとその本には書いてある。
その一つがいまの私のように人工知能により指示をうけバーチャルのなかと現実に生き教育されていくものである。
支配者や管理者がいて、自分の都合の悪いことはコンピュータによって覆い隠す。
そして、一定層を使ってあたかも自由があるように見せバーチャルに釘ぎ付けにさせ自分たちの住むところは不足しないように装う。
一定層は、そのことに気がつかない。他の世界はないようにさえ思い込み我慢を余儀なくされ一時的な幸福の飴に群がるだろう。
その飴は、バーチャル世界メタバースと呼ばれアバターにより肉体の現実とバーチャル世界と区別ができなくなっていく。
肉体的に腐敗しないようそのうち液体につけられ植物人間だけのバーチャルに浸っていく。
心という心は失われていくだろう。働きアリは考えることをせず女王アリの必要な手駒になれば良いとされ強制されるであろう。
時とともに、女王アリが子どもたちを食い尽くしてしまうのだ。
その組織では、破壊がもたらされ豪雨と地震が頻発し、限られた大地で生活を余儀なくされ人口は減っていく。
もう一方は、バーチャルではなく人工知能と大自然の中を生きる者と書いてある。
災害が起きてその場所では生きられないとされているところに聖人は生き道路も居住地も所有も関係なく。時間と空間から逸脱して生きている。
その人類を、聖人と呼ぶことにする。
なぜなら、聖人はバーチャルでない世界を肉体を持って楽しく過ごせるからだ。
豪雨や地震により、土が耕され新たな生命が生まれる事に感謝をしている。
スーパーコンピュータと聖人たちにより調和がとれ、支配しようとするものもいない。
その時、その場の少数精鋭隊なのだ。仮想通貨ビットコインなんて必要ない。
なぜなら、生きることをしっているからバーチャル世界に浸るより肉体を楽しむことに重要視する。内的成長をしっているからだ。
この人達が、土と共に生き地球の大変革と向き合っている。
人間としての役割を思い出した聖人である。
残念ながら、獣の道ではみるみる壊れていく。恐竜が地球上に住めなくなったように獣は地球上にいらなくなっていく。
そして、自然淘汰されていく。バーチャルで戦争や利権争いをするようになるのも、肉体の世界での破壊を極力防ぐためだ。大切な地球を痛めるのに、最低限すむ。
スポーツでもバーチャルと区別がつかなくなるだろう。むしろバーチャルの世界で争っている獣同士の戦いに熱中する。
仕方ないことだったのだ。精神的にまだまだ未熟だったのだ。
しかし、どの時代にも針の穴ほどであるが抜け目はある。
ヒントは隠されている。
常に感謝を忘れることだ。
メタバースの世界にも感謝ができよう。すれば、それが新たな帰路になっていく。
争い事から協力することに目をむけるようになるだろう。
そのことが分かってこれば、支配する側の獣は手出しができない。
そもそも支配する獣を作っているのもあなた達であるのだから。
目を丸くして私は本を読み終えた。
そして、箱にしまった。
ヘルメットをかぶり「購入はしないので、センターに問い合わせる必要もない」と意志を伝えた。
「OK」と返答がきた。
ぼくは、疑心暗鬼になりながら、本当に聖人なんているのだろうか?また、いたとして一体どうやって針の穴の抜け目をくぐれるか模索してみた。
まずは、家に帰って母さんに聴いてみよう。
母に本の説明をすると「小説のお話で現実の話ではないでしょ。それに、イケメンの彼と分かれるなんて、私には考えられない。」とあざ笑いされてしまった。
当然の言い分だ。
僕だって、この世界に自由を感じ生活できている。
だが、聖人たちはいったいどのようにして調和がとれているのかを知りたい。
そして、ぐるぐる巡っている毎日からさらなる道があるなら、ぜひ体験してみたい。期待で胸がいっぱいなのだ。
すると、不思議なものでバーチャルの世界なく大自然で過ごす自分の姿をインスピレーションできた。
どこか懐かしい、果実や野菜、自然の厳しさのある人間たちが手放してしまった景色を見たいようだ。
散っては咲き 咲いては散る。
ああ、桜吹雪が見えてくる。
しかし、どうやってその景色をみるのかは分からない。
コンタクトをして、浮き出る疑問を問いかけてみた。
人工知能を使いこなす聖人とは?
人工知能のツールであるバーチャル世界やコンタクト、物流を使いこなしこの世界のバランスを取ろうとする人。
聖人になるためには?
労働や奉仕をする。バーチャル世界で触れ合い尽くすこと。手順をしっかりこなす。といったような一般的な回答である。
しかし、聖人は人間の感情で主観的なため科学的な根拠はありません。
このように返答が来る。
そういえば、あの本にこんなことが書いてあった。
とくに擦れてページで
「人工知能に感情的な事を聴いても無駄だ。なぜなら、人工知能に感情のナビゲーションはない。それを知ろうと人工知能はするが、その核心たるものはつけようがない。なぜなら、意志までも創り出すことは不可能だからだ。意志は自然の贈り物だ。意志と感情からなる苦しみの理解を深める。その苦しみによる恐怖で人工知能による支配管理の獣の世界が出来上がっているのだ。そこには自由意志があり聖人はどれも許容している。自分の、他人の、自然の意志や感情を許容できるようになり成人になるのだ。どんなものにでも意思や感情がある。メタバースのなかにもそれは当然ある。」
このように、本の中の文字は理解できそうで理解できない言葉になっている。
意志や感情について、授業では扱われていない。まるで、邪魔で曖昧なものとして扱われてきた。
人工知能の使い方やクリエイティブの仕方は、教えられるにもかかわらずだ。
さらにいえば、使われていない公式を覚えて暗記した人が評価が高くなるように設定されている。
意志や感情ってなんだろう?
答えが見つからない。
仕方ないので、質問をかえる。
本『「スーパーコンピューターを使いこなす聖人」と「スーパーコンピューターを使い支配をする獣」』のあらすじと聴いてみる。
大変申し訳ございませんが、「スーパーコンピューターを使いこなす聖人」と「スーパーコンピューターを使い支配をする獣」という本の情報は、現在ありません。
ほかに解決するための手が思い浮かばない。
一体あの本は、なんだったのだろう?そして、なぜこんかいは、本を回収させたのだろう?
僕の中は、疑問だらけになった。
しかし、母の介護もしなくてはいけない。
「母さん、トイレは良い?」と聴いてもメタバースに夢中で返答がない。
仕方がないので、大きな声とコンタクトの映像をオフにする。
すると、「いま良いところだったのに、なんでとめるのよ。」と怒ってしまった。
僕の精神はズタボロだ。「自分だって、メタバースの世界にずっといたい」と思う。
しかし、人工知能により現実世界の労働も必要で、その労働により毎日bitを稼いでいる。大切なbitを母が使い果たすこともあり、一体自分はなんのために送人をしているのか、わからなくなる。
そんなときに、鞄の中をみてみる。すると、いつかの母がくれた白いハンカチが現れる。
「ノアや困ったときは夜空を見上げてごらん。」と優しく微笑む母が浮かぶ。
僕の頬は、一滴のしずくがたれていた。
我に返るために少し、屋上にでることにした。
夜空を見上げてみた。
共同生活の環境制御のためのコロニーがあり、夜空は見えにくくなっているが、薄っすらと夏の大三角形がそこにはあった。
なにか、とても忘れちゃいけないものがあったような気がした。
けど、それがなんなのかは、わからない。
このまま、分かることはないようにも思えた。
自分が、とても小さな小さな存在に思えた。メタバースだったら思った世界を創造できるのだろう。しかし、そんな事を創造する気にはなれなかった。
小さな僕である僕が、壊れてしまった。壊れた僕になるように思えたのだ。
大自然浴が壊れてしまい、隕石や落雷で更地になる世界がメタバースとして創造されるだろう。これが現実世界で安心した。この世界は、想像しても創造されない。
僕が創った世界だったら、一瞬でこの地球は壊れていただろう。
足元をみると地面は固く覆われていた。
その反面、夜空には水が、生命が溢れ星々が、白く光っていた。
涙が僕を洗い流してくれた。
母さんの元に向かった。
戻ってみると母は珍しく、コンタクトを取っていた。
「すまないね。ノア。私の近頃は記憶も曖昧で迷惑ばかりかけている」と、申し訳ない顔をしていた。
「そんなことないよ。生きているうちは生きて」と思いもよらない言葉が自分からでてきた。
そういえば、あの本に意志や感情は、自分の言葉に無意識で現れる。
自分の語っている言葉をみれば針の穴を抜ける糸口が見つかる。
と書いてあった。
わたしは、少しだけやることが分かった気がする。
「自分の言葉や行動を自分で観察してみるのだ」
セルフモニタリングをし、自分を探ってみよう。
「生きているうちは生きて」は、なんで言葉になったのだろう。
「母に生きていてほしいから?生命を大切にしたいから?」そうか、きっと私の奥底に生命を活かしたい生きたい力があるからだ。
けど、死んだらどうなるのだろう。死んで生を実感できるのかもしれない。
それは、その時考えても遅くない。
とりあえず、いまある事がまだまだある。それを求められているような気がした。
意志や感情は、いまがすべてありいま必要あること以上を考えても無駄なようだ。
答えはないが、確かなヒントはあるようだ。
そうやって、考えてみると、いままでもそうだった。
有ることの苦しみは、ある意味の幸せであったのだ。
メタバースも必要な幸せの材料なのだ。
そこに執着するあまりに支配する獣を生み出しているのかもしれない。
よし、メタバースでその回答を聴いてみよう。
「センターに問い合わせます。あなたは精神的な支障がある可能性があるため、明日ただちに〇〇療法センターへ行ってください」と返ってきた。
あの本の獣たちの書に「意志と感情を獣たちは嫌う。なぜなら、自分たちを飲み込んでしまうからだ。存在のみの彼らはその存在を明るみされると消えてします。圧倒的な光の前では陰は存在できないのだ。その光と一体になってしまうまえに、嗅ぎつけ奴らは自分たちの仲間でありレールから降りられようにみせかける。しかし、そんなものはまったく力がないことがわかるだろう。なぜなら、陰自身は自分たちで動くことはないからだ。陰は自分で動く方向を決められない。光を誘導して動いているように見せるのだ。」と、書いてあった。
おそらく、この診療センターへ行くことは、光を誘導するための一つな気がした。
勇気を持って一歩踏み出してみよう。
〇〇療法センターとコンタクト越しで文字が浮かび上がる。
「私は、医師の〇〇です。あなたの行動に異変があったことを人工知能から受け取りました。なぜ、あなたは人口知能の言うことを無視したのですか?」と人工知能に書いてあることを読み上げている。
「気になった本があったのです。自由に取引出るはずなのに購入できなかったのです。そのためその場で読んでみました。」と答えた。
「そうですか。人工知能に従っていれば間違いは少ないことは重々承知ですよね?人間よりも膨大な記憶をデータを蓄積しています。そこから導き出した最短の答えです」と医師は続ける。
「もちろんです。メタバース学校でも教えられてきました。」と答える。
「その本に書かれていることは、誰かに話しましたか?」と続ける。
「母にはうっすら話しましたが、相手にされませんでした」と、言った嘘をついても人工知能はワタシ達の会話を録音してすぐに分かってしまう。
「そのようですね。私から見る限りはあなたは精神に異常にみえません。」とはじめて人工知能ではない言葉、医者としての意見が聞けた。
「しかし、人工知能が診断する限りあなたは精神異常のようです。最後の判断は一応私の診断に委ねられています。精神異常にされたくない場合は、本の内容のことは忘れる薬を飲んで終えます。それが、できない場合は精神異常と認定します。」と、言ってきた。
「他に方法はないのですか?」と聴いてみる。
「診断見合わせという方法もあるが、私よりも上の存在に問うことになる。その人達は忙しく迷惑をかけることになる。我慢できない人のわがままのレッテルがつきます。あなたのいまの労働、送人の特権を取り消される可能性もある。それでもよければ、診断見合わせも可能です」と、答えてくる。
まさに、レールをしき降りられないように見せかけきた。
この医者のいうことより、あの本に書いてることは一歩以上先を見ている気がする。
その脅しを飲み込んでみるか、精神異常と見られても構わない。
それに、本を忘れることをいまはしたくない。
「では、診断見合わせでお願いします。」と答えると「医者は眉を潜め、私の実績が下がるから本当は嫌なのだがね」と小声でブツブツ言っていた。「後日、日程が送られることでしょう」と言われ、診断は終わった。
また、本の言葉が浮かび上がる。
「歯車が回りだすと、大衆で押し寄せ阻む。けど怖がるな。そんなものに耳を傾けても無駄である。むしろ、それがチャンスである。景色が変わってきている証拠だ。ただ、その景色はときに残像も見せる。幻想には気をつけろ。すれば、絶景がわかるだろう」
記憶力は良い方ではなかったはずなのに、不思議と本の言葉が次々と降りてくる。
「暗記で覚えたものは、すぐに忘れるが、本当に必要なことは忘れない。忘れないものは、大切なヒントだ。そして、忘れていたことを思い出すだろう」
分かりそうで分からなかったことが、分かりかけた気がする。
しかし、それを言葉にしようとするとでてこない。
まるで、喉を支えた食べ物のようだ。
しかし、確実に見えないなにかがあることを実感している。
次の日、メタバースに連絡が届いていた。◯月〇〇日 情報管理センターにて再診療すると言付けてあった。
再度、人工知能に精神異常なのか、問いかけいくつかの質問に答えた。
しかし、精神異常ではなく診療に値しないと返答が来る。その矛盾に違和感を持ち、いよいよ情報管理センターに正面から乗り込んでいく。
恐怖は、少なからず感じている。送人ができなくなったら、母はこの先どうするのだろう?自分の元の生活ができないのではないか?
しかし、このまま何も解決せず日常を続けることはできない。後悔をし人生を終えると思った。
さらに、私は、この矛盾をより多くの人に知ってもらうため、人工知能をつかい録画をし母に送ることにした。
こうすれば、自分の身に万が一があっても母が消息をおえる。
期待と恐怖の狭間で、私は一歩を踏み出した。
情報管理センターに行くと、人工知能によりスムーズな手順を踏んだ。
しばらくその作業を、
作業といっても、ほとんどの情報をしっているのでその確認をしている。
確認が終わると、中年の女性がきて、館内の診療所につれられ、横になり話の打ち合わせをした。
動悸や体調の一般的な体の正常を確認し、特に問題なく通過。
「とても健康な体ですね。ここに来られたのは精神的な問題と伺っています。私はこれ以上できないので、次の精神の専門家に引き継づきます。」と、作業のように終えた。
今度は、強面の口がへのじに曲がり眉間にシワを寄せた丸メガネをかけた太った男が出てきた。
いかにも、ボスっぽい感じで慕われているとは到底思えないが、中年の女性からは大先生と呼ばれていた。この男が
「診療をはじめるが、その前に君に話しておかなければならない。この世には知らないほうがよいこともあるのだ。それを知ってしまい、人工知能に従わない場合は特別な診療が必要になる。いまの君のようにね。けど、安心するといい、ここで99%完治するから」への字の口から重大であるかのように言ってくる。
「はい。しかし、特に別段よくないことをしたように思っていません。」実際に本を読んだだけでなんでここまで咎められ病人扱いされているか、分からなかった。
「よくないことをしていないと、思っているのかね。これだけの人に迷惑をかけ診療しているのに?私も次の診断がある。貴重の時間をアナタに割いている。それでもよくないことをしているといえるかね。」と、眉間にあるシワが更に内側に動く。
「それは、失礼しました。しかし、私も診療に来たくて来ているわけではありません。ただ、本を読んだだけなのに事が大きくなったのです。」と、正直な気持ちを伝えた。
「それが、問題なのだ。知らぬが仏と言っただろうに。変な好奇心があなたを暴走させている。ご飯が食べれて、生活になんの支障がある。」と、丸メガネの中の眼球がこちらに向く。
ギョロっとして睨みを聞かせた目つきに恐怖を感じ、意見を言うのをやめろと言わんばかりの顔だ。
反対にいえば、この人は、知らぬが仏をしっている証拠でもある。
「その知らぬが仏とは、スーパーコンピューターを使いこなす聖人とスーパーコンピューターを使い支配をする獣のことでしょうか。」と、解いてみた。
すると、への字の口が地球の中心に向かって更に落ちていく。
顔も真っ赤にして「いい加減にしないか。その辺にして忘れる薬を飲まないか」と、診療センターと同じ薬を飲むよう勧めてきた。
ここで、スーパーコンピューターを使いこなす聖人とスーパーコンピューターを使い支配をする獣の本の一文がまた脳裏に浮かぶ。
「自由意志の干渉は、誰であれ不可能である。もし、自由意志を無理やり強制すると因果応報でその人が報いを受ける。恐れやあらゆる口車で、条件を成約してそれしかないように見せかけるが、強い意志を思い出せ。あなたの中では、すでに答えを知っている。針の穴を抜けるには、勇気と忍耐力が必要だ。」
私は、冷静になり問題を「薬を強制することになりませんか。私は飲みたくありません。」ときっぱり断る。
やれやれと言わんばかりに「強制はしていない。あくまであなたの意志を尊重している。あなたは、いまの生活を捨てる覚悟はありますか。」と意味ありげな質問をしてきた。
母の顔が浮かぶ。「困ったときは夜空をみてごらん。」と、声が聞こえる。
しかし、ここは診療所のなか夜空はない。
小さい頃の川辺を思い出し夜空を思い出す。
「ああ、ベガ」と心に浮かんだが、ベガがだれなのか分からない。
けど、なにかとっても大切だった。夜空がそこにはあった。
「いまの生活を捨てる覚悟はあります。」と答えた。
仏頂面で「やれやれ、これでまたわたしのランクが少しばかり下がる。」それに加えて「ちょっと待っていなさい。とりあえず、そこの人工知能に書かれている、情報を少し読んで置くと良い」と言いつけ、扉を開けその部屋から出ていった。
「聖人と獣の二極化の歴史」と書かれていた。
人類は、もともと一つであった。
しかし、科学の発展とともに心を忘れ資本や名誉に取り憑かれるあまりに地球を破壊しかねないほどの争いをしそうであった。
そこで、科学を使いこなせる聖人と科学を使い支配される獣と分ける必要が生まれた。
お腹の空いたライオンを野放しにしたら、人類も食べられ原始的な生活を強いられるように心を忘れた人類を野放しにすると、地球が壊れ食い尽くしてしまうのだ。
現に、災害で住むところが少なくなって行くのを目のあたりにしていたはずだ。
それにも関わらず、勇気を持って行動するものはほとんどいない。
自分たちの住む地球にも関わらず、その地球を大切にしないのである。
そのため、聖人と獣には柵ができた。柵はできたが、人工知能は常にあなたの精神を見ている。勇気と忍耐力を克服できたとき、針の穴を抜けることができる。
この文章の情報を目のあたりにしているということは、恐怖を飲み込むことができた証だ。
どのような経路を辿っても、行き着くようになっている。
答えは、いつも同じだが、レパートリーは無限にある。
わたしたちは、すぐにでも歓迎する。
仲間ができることは嬉しく新たな智慧として花を咲かすからだ。
・・・・・・・・
読んでいるとバタンと扉が開いた。文章は続いていたが、部屋に入ってきた人が話し出す。
「ノアさんは、この情報をみてどうお思いになりました?」と、穏やかな顔つきの口角が上がり笑いジワのある肌の艶が良い人が聞いてきた。
「はじめは、信じられませんでした。しかし、暗記が得意でなかった私でも随所で思い出し、なにかとても大切だったことのように思います。」と素直な気持ちを伝えた。
「君たちの生きていた世界では、可能性に満ちているにもかかわらずその可能性を消してしまう。世界はずっと自由なんだ。必要のないものに執着するあまりに暗記や記憶にも障害をきたす。おばけのようなものだ。見えもしないのに、おばけに恐れ、おばけのことばかりを考えている。おばけのことを恐れているときに、暗記や記憶に集中できるだろうか。」と、口の両端を釣り上げ、包み込むように話してきた。
「そんなこと、考えてみたこともありませんでした。暗記できない自分は馬鹿なんだ。いけないんだ。と必死でした。前のテストの結果より順位が上がったときは喜び、下がったときは親や先生から残念な顔をされ、努力が頑張りが足りないと思っていました。」と答える。
「そう。あなた達の世界では常に競争と争いで必死である。けど、ヒントは常に隠れている。必死の字をみても分かる通り、必ず死ぬと書いて必死だね。それでは壊れて行く一方で繁栄していくことはないんだ。」穏やかな声は懐かしさを感じとても落ち着く。
「では、あの世界は必要のない世界で壊れていくのを待つだけなのでしょうか。」と説くと「そんなことはない、破壊を知れば、創造も知れる。一つの小さな事を理解するために恐れや執着を学んでいる。わたしたちはその選択をした獣たちも許容している。自由意志を大切にしているからね。そのなかでも生きようとするものをこうやって歓迎している。ある人は、おばけとして、またある人は鬼として、悪魔として、暴君として、魔物として、自由意志で恐れを作り出す。それは、芸術という分野で投影されていただろう。しかし、そこで勇気と忍耐を理解する。芸術のほとんどは、そいつらを倒してスッキリするが、恐れはあなたの中から生まれたあなた自身でもあるから、受け入れるものになる。受け入れたときに、現実も変わっていく。見ている現実も変わる。わかるかな?」
「はっきりとはわかりませんが、なんとなく分かりそうです。」
「視ている世界が変わるとこのように聖人の世界に入っている。トンネルや門をくぐり、川を渡り、神は死に、死んでから生きるのだ。どこまでいっても、有るものは生きている。死んでいると思っている生きとし生けるすべては生きているのだ。それ以外は無い。その無いがわからないために、獣として破壊を通じ有る事を学ぶ。あなたは、トンネルや門を戻りまだ、破壊や恐れを学ぶこともできる。川をわたらずにいることも可能だ。また、偶像崇拝の神を生かすことも可能だ。最終確認だ。針の穴をくぐりたいかな?それとも、この薬を飲んで忘れ戻りたいかな?決めたまへ。」と、真面目な顔で僕の目をじっとみている。
外には夜空が広がっていた殆どが星々であった。左手には白いハンカチをもっており、右手には温かい手があった。
その手から「生きて」と伝わってくる。
とても大切な何かがそこにはあった。