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トーマ!  作者: 木本一成
2/2

遭遇

そしてここは本当にどこだ?

いつもなら、ふと意識を中心に戻すと知ってはいるが通ったことのないだけの小径を歩いていたり、普段と違う方向から喫茶店の看板を見ていたり、あまりにぼんやり歩いているためか猫に睨まれたりするくらいなので

数秒思考を巡らせると言うほどでもない程度に、頭を使えば残念ながら分かってしまうのだが今日だけはまるで検討がつかない。


都会的ではない湿っぽく農作物がよく育ちそうな栄養価の高そうな土の匂いがする。


ここはどこだ。

漠然とした不安と期待が僕の周りをふんわり包む。


「トーマ」


そう聞こえたような聞こえてない様な空気の流れのような「音」がした。

その音に近いもののする方に顔を向けた。



母がいた。



正確にいうと母であろう女がうすぼんやりとした消えかかったホログラムの様にそこに立っていた。


母の顔はほとんど覚えていない。

あまりはっきりしない数枚の写真の中の母の姿形と表情を重ね、いつも僕の頭の中に具現化していた。

その具現化とも妄想とも言える母の姿を僕は今この目で捉えている。

1秒にも満たない次の瞬間、「母」は消え、空き地の立て札とコンクリートの壁のみが見えた。




ベッドの上で悶々とあの出来事についての記憶の一片一片を手繰り寄せる。

「母」が見えていた時間は1秒にも満たない時間だった様に思う。しかしあの瞬間の時間の流れの感覚は定かではない。、

1秒にも満たないかもしれないし1分近くあったかもしれない。

僕はうまくその時の時間の密度を把握することができなかった。

あまりに幻想的であり非物理的な出来事だったからだ。


僕は頭が狂ってしまったのか。世俗的な世間の道理にあった17歳が17歳然としてするべきであろう行動をあまりにとってないからその皺寄せがきていたのか。見えない聞こえない触れない「母」への幼きころからの渇望が大きくなりすぎそれが臨界点をすぎ、僕が僕にある種の防御策として昨日の出来事を起こさせたのか。


しかし僕には自信があった。確固たる自信があった。あれは僕の妄想でもなければ、狂った頭の隙間から漏れ出てしまったバグでもない。

実際に母がいたのだ。


見えたのだ、聞こえたのだ。しっかりと五感で感じたのだ。

あの時母は僕の方を向き「トーマ」と一言だけ言った。

次の瞬間にはもう消えてしまったが、消えかかる前の刹那の瞬間に何か

言いかけたようにも見えた。僕はその言いかけたであろう「何か」がとても気になった。いや気になりすぎた。


僕の悩みはあの不可解な出来事はなんだったのかということではなく、あの母が言いかけた一言は何だったのかということにシフトしていた。

自分でも不思議なくらい不思議とあの不思議すぎる出来事をすっぽりと受け入れられている自分がいた。


二ヶ月間毎日連続で「あの場所に」行っては見たが母は現れなかった。

あの出来事が起こった12時56分に合わせて何度行ってもだめだった。

時間を変えてみても、ほぼ1日中そこに佇んでいても何も起こらなかった。

しかしあの出来事が実際に起こったことであるということには微塵も疑わなかった。そして今後も起こり続けることになるであろうという確信がなぜかあった。


母の墓に行ってみた。数年ぶりだった。母の墓はあまり好きではない。

墓に行き母の墓石を見ると「母は死んだ」というリアルな実感が強くなってしまうからだ。母はもう死んでいるのだし、そんな事実はとっくに受け入れている。


もう子供の頃のように、僕のママは遠くに行ってしまった、遠くの国に遊びにいったなどのファンタジー思考はまるでないがそれでもやはり「死んだ」という事実にわざわざこちらから歩みよっていくような行動はとりたくはないのだ。墓石の冷たさと均等な長方形が何故か僕に母の死ということへの距離感を縮めてくるように感じていた。



やはり何も起きなかった。


期待はあまりしていなかったしどちらかというと何も起こらないで欲しかった。何故だか分からないがこの場所では母を見たくはなかった。




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