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トーマ!  作者: 木本一成
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死んだ母との二人三脚

母が死んだ。

とは言っても僕が5歳の頃の時だ。

死を理解し、悲しいという感情を持つにはまだ心が育っておらず、「ママ」という存在がどこか遠くに行ってしまったとのだと距離感が遠くなったと感じただけだった。

時が経つにつれ失ったものへの悲しみに追いかけられ「母」への渇望が高まっていった。

その渇望が形を変え、僕を良くない行動へと走らせることとなっていった。

しかし今ははっきりと分かる。

「母は生きているのだ」

肉体はとっくに活動を停止し、焼かれ骨になり触れることはできないが、

母は生きている。

そこに場所はない。場所という概念の外であり。三次元的な枠組みではない。

だが母は存在している。

そう確信した瞬間に渇望は消え、僕の人生は電車の車線の切り替えが行なわれたように変わっていった。

あの車線が切り替わった瞬間の音を僕は忘れない。



「それがさー!私がサーティワンに並んでる時ね、、、ほら私サーティワン大好きじゃん!

小学校3年生の時にかおりのお母さんにデパートに連れて行ってもらった時に初めて食べてさぁ31あれは衝撃だったね、私の人生は31以前31以後に分けられるってあの時思ったね、本当に1ヶ月間で31の味を全部たべたもの、、、

あ、それでね〜並んでる時にハゲた小太りのおじさんがいてね、本当にきれーいにつるっつるなの、それこそ31のアイスのフォルムのまんまだったわ、だから好きなのかな〜

そのおじさんがね、、、、」


メイの相変わらずな爆発的お喋りは続く

食卓では食器のカチャカチャした音とメイの話し声以外の音はない。かれこれもう10年はそんな感じだ。

しかし不思議と煩わしさを感じたことはない。むしろ感謝しかない。

この話し声がなく僕と「彼」だけの空間だと思うとゾッとする。


「ねぇお兄ちゃんきいてるの?」

「うん、聞いてる、というか耳に入ってくる。他に音がないから」

「きゃー、相変わらず無愛想ね、ま聞いてるんならいっか、パパは私のどこが好き?!」

急なメイのとんでもない質問に僕もたじろぐ


「、、、、元気なとこ」


「それだけ〜!まいいわ!それでそのおじさんがね〜、、」


なぜ今その質問を挟んだのかはわからないが、それがメイでありメイである所以なのだ。

「彼」が恥ずかしそうにしていたのは僕がいたからなのは他ならない。

もしかした、二人でいる時は近しいやりとりなんかをよくやっているのだろうか、まぁなんだっていい。「彼」との心のつながりはほとんどない

事務的で最低限のコミュ二ケーションだけで十分だ。



僕は何も言わずに席を立ちリビングを後にする。

もちろん「お兄ちゃんどこ行くの」的な言葉は聞こえてきている。

階段を登り自室に戻りベッドに倒れ込む。


その瞬間に昨日の出来事を思いだし、現実に引き戻され発狂しそうになる。

「なんてことをしてしまったんだ、、、」



高校を中退してからというもの、特にすることはなかったので毎日をぶらぶら過ごした。目的もなく散歩し、いつも家から二駅離れた橋の上から

新幹線や電車が自分の真下を通り過ぎていくのを長々見ていた。

いつもこの場所に行き着きいつもこの光景を見ていた。

そこに幸福感や充実感を感じていたわけではないが、不思議と心が落ち着いた。


いっそのこと飛び込もうかとも1週間のうち2度ほど思っていた。

「死のうと思えば死ねる」

もしかするとこの思いがお守りのように感じられ、独特な安堵感を産み出していたのかもしれない。


今日も、朝とも昼とも言えない時間に起き、

冷蔵庫に入ってある、栄養価のかけらもないであろう腹に溜まり甘みだけがとりえのお菓子のような塊を食べ(おそらくメイのものだろう)

誰もいない家を後にした。


どこに行くのか、何をするのかといった目的はもちろんない。次の一歩が右なのか左なのかすら僕にはわからない。

このいつもの散歩を日課にしている理由は、

「僕にはわからない」

という僕が僕として思い、僕が僕として行動しているにも関わらず、

自分の意識をまるで通さずに全てがなされているよう思える瞑想的とも離別的ともとれる、あやつり人形のように何かに動かされているような状態が好きであり今の自分には必要に感じるからだ。


とぼとぼと歩いていると平面的で顔が潰れたようにも見える、似合わない赤いリボンをつけた小型犬が僕に擦り寄ってきた。

昔からやけに動物には好かれた。どんな格好でどんな心情であっても犬や猫には体を寄せ付けられる。僕は動物全般が好きでも嫌いでもない。犬や猫はどちらかと言えば嫌いだ。

強いていいうならクリオネが少し好きなくらいだ。その犬を蹴飛ばそうかとも思ったが、犬を連れた赤いベレー帽を被りオリーブグリーンのカーディガンを羽織った立体的で鼻のとがりが印象的な顔の老婦人が、犬が僕に擦り寄ってくるやいなや、あんなものに近寄ってはいけませんと、言わんばかりにリールを引っ張り進行方向を正した。

そのことについて僕はなんとも思わなかったが、近世ヨーロッパだったらどうにも言い逃れ出来ずに魔女狩りに遭ってしまうだろうと思える程の典型的な魔女顔だった。おそらく1000人中996人くらいが思い浮かべる魔女の顔と言ってもいいと思った。

あそこまでの魔女顔ならばそれはもう魔女ではないか。などと思いを巡らしていると、知らない場所に行き着いていた。これがあるからこの「あやつられ散歩」は止められない。この「ここはどこだ」とふと気づく瞬間が僕はたまらなく好きであり。このためにやっているのでもあり、エクスタシーすらも感じるのだ。

これには先ほどの魔女に感謝するしかない。もしかしたら何か魔法を使い、僕の思考を誘いここに連れて来てくれたのかもしれない。






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