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ドゥームズデイクロックス  作者: tatsukichi_ohta
5/24

05:贈り物選び(前編)

 翡翠庭園(ひすいていえん)を去って数日、旅程の四分の一を過ぎたある朝。


 一行は大河に面した商業の街、カナートに到着した。

 生活圏の内と外をぐるりと隔てる巨大な石の壁を(くぐ)り抜け、街に入ったパースリーは、兼ねてより疑問に思っていたことを尋ねた。

「ねぇ、牡丹。壁って、なんのためにあるのかな?」

 サルティナ国内にある街の九割九分が、同じような壁を有している。書物を読む限りこれは、世界中に広がる基準的な様式であるらしい。


「自然界と人類界を隔てるためのもの。堅固な防護機能。そんなの、見れば分かるだろう?」

 牡丹の答えは何の面白みも無い。そのような記述は、何度だって目にしてきた。

「獣の侵入を防ぐにしては大き過ぎるし、人が増えれば、壁の外にも生活圏が広がっていく。その度に拡張しては、効率が悪いと思うんだけど……」

「有用だから、自律機械は壁を作ろうとする。ドニだって幾つもの建設を注進してきただろうし、僕だって幾つかの作業に従事してきた」


 実際、機械が弾き出した答えだから、正しいのだろうと思う。でも、完全には納得出来ない。

「俺も、壁は大事だと思うけどな」セージが会話に割り込んだ。「安心出来るよ。脅威を遠ざけるという意味でも、帰属意識や公共心が高まるという意味でも」

 牡丹の意見よりかは腑に落ちる。為政者(いせいしゃ)に都合のよい捉え方であるが、集団への好影響は確かにありそうだ。


「君は束縛されていた側だから、少々、壁というものに懐疑的なのかもね」

 牡丹が言う。

「まあ、確かにね」パースリーは小さく頷き、後ろを向いた。「タイムはどう思う?」

「え……?」一拍の空白を経て、タイムの眉尻が下がる。「ごめん。聞いてなくて……」


 庭園からここに至るまで、弟は思索に(ふけ)りがちだった。自律機械と少女のもの悲しい結末が、弟の心を捉えて放さないようだ。

 誤った選択をしてはいない。それは、幾夜に渡る語り合いの中で、固く共有した認識である。しかし、無垢なる願いを踏みにじってしまった後ろめたさは、それが公共の利益に沿う行為だと言い聞かせたところで、癒えるものではなかった。

 パースリーはタイムの情け深さが好きだ。反面、これ程までに深く悩み、未だ立ち直ることが出来ないでいる弟に、もどかしさを感じてもいた。


 消沈するタイムをよそに、セージは、いやに血色の良い声で述べる。

「やはり、カナートには活気があるな。国主の膝元だって、こんな賑やかじゃないのに」

「あの街は気取り過ぎなのよ。活気とは、人々の自由闊達(じゆうかったつ)な振る舞いが生み出すものだわ」

 黒鶴(くろづる)が答えると、セージは今一度辺りを見回し、その後でタイムを一瞥してから、微笑(ほほえ)んだ。

「成程な。俺はこっちの方が好きだよ。いつ見ても良い」

 ――贅沢なことだ。

 パースリーは彼を羨む。屋敷に繋がれていた自分らとは違い、セージは、活気を比べられるだけの豊かな見識を有している。実に(ねた)ましい。


 気を取り直して、大通りの様子を観察した。

 視界には、赤土で出来た単純な四角形の家々が並ぶ。それらは、それらだけでは、国主の居城や、成人の儀を執り行った祭祀殿(さいしでん)と比べるのもおこがましい平凡さである。しかしながらセージと同じく、カナートの景観にこそ魅力を感じてしまうのは、そこいらできらきらと個性が輝いているからだ。この街の住人は、自由闊達を視覚化することに心血を注いでいる。


 軒先に垂れた、青色、白色、橙色。主人の好みを主張する多様な柄向きのタペストリー。赤い壁を飾る緑の葉は、(しゅ)ごとの形を思い思いに伸ばす。敷地を(また)げば、木々も色とりどりの花実(はなみ)をつける。漂う香りすらも庭によって違う。個々の営みをそこここに感じる。

 これは(まさ)に、俗世と交わることでしか味わえない芸術の一面であり、パースリーは、観賞する機会を与えてくれた牡丹たちに心の中で感謝を表した。


 一行は、行き交う大勢の人々を避けつつ市場通りを横切り、宿を目指す。

 道中、喧騒を飛び越えて響く溌溂(はつらつ)とした売り文句に、パースリーの耳は惹き付けられた。

「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! この指輪、銀彫刻は国主に認められた職人が施す一級の出来栄え! どうですかこの翡翠。巨大な原石の、最も良い部分だけを切り出した逸品です! こんな大きな石が、削ぎ落したらこれっぽっち。たったこれっぽっちなんですよ!」

 俗極まる名文だ。もう少しだけ聞きたくなり、一人、立ち止まる。

「その身に着ければ、あなたの魅力は果てなく拡がり、あの人に贈れば、感激されること請け合い。有るのはこれっきり。この機会を逃しては――」


「パースリー。何か、気になる店でもあったのかい?」

 興味深げに、牡丹が問うた。

「ううん、なんでもない」

 現実に引き戻されたパースリーは、素気(そっけ)なく答えて、(あけ)の背中を追った。


 明くる朝、古びた宿の一室。パースリーは、狙い通り早朝に目を覚ました。

 素早く部屋を見渡せば、トルソーは身を透かして隠れ、牡丹は床に横たわっている。

 どちらも、眠っているわけがない。それを知るからパースリーは、声を掛けられる前に二人へ背を向け、急いで部屋を出た。

 目指すは、男二人と黒鶴が眠る隣部屋。古木板(ふるきいた)が敷かれた廊下をそっと歩き、扉の前に立つ。


 その後は一歩も動かず、不審に思った牡丹が黒鶴へ連絡していると信じて、ひたすらに待った。果たして推量は的中し、扉が開く。

「一体、どうしたというの?」

 現れた黒鶴は、困惑した表情で問い質した。

「黒鶴、お願い。牡丹には内緒にして」

 早口で囁くと、彼女の表情は一転、にんまりと笑う。


「今、牡丹との交信を切ったわ。隠し事なんて、いけない子ね」

「ありがとう」

「それで?」

「お願いがあるの。黒鶴と牡丹、後はセージにもお世話になってるから、その、感謝の贈り物をしたくて。タイムも今、辛そうだから……少しでも元気になってほしくて……」


 尚意地の悪い顔をして、彼女は言う。

「成程。お金をせびりに来たのね?」

 パースリーは大声出したい気持ちをぐっと抑えて、弁明した。

「違うわ。いえ、違わなくて、それもそうなんだけど……。贈り物なんて選んだことないから、手伝ってほしいの。それから、ついででいいから、テネブラエへ案内してほしいなって……」


 テネブラエとは、カナートが直轄する機械遺跡。前史時代(ぜんしじだい)に作られた巨大な居住施設だったが、()()()()の折に墳墓(ふんぼ)へと変じてしまったらしい。奈落へ続く鋼の螺旋階段(らせんかいだん)。壁面に浮かぶ光のステンドグラス。それらが描き込まれた絵葉書も、お気に入りの一枚だった。

 パースリーは誠心誠意一礼し、黒鶴を見つめる。対して彼女は、

「……物好きね。私、こんな美的感覚なのよ?」

 ひらひらと自嘲的に黒袖を揺らし、揶揄(からか)うように言った。

「綺麗よ? 黒鶴は」

「もう、馬鹿ね」


 カナートの朝は、逃げ出したあの屋敷よりもずっと寒い。

 思わず身が震える程の冷気。暖色の街並みは目に見えて温かそうだから、却って肌寒さを意識してしまい、それが辛い。

「ここは大河に面して湿潤(しつじゅん)だから。殊更(ことさら)冷えるでしょう?」

「ええ。黒鶴は寒くないの?」

「機械の体は温度を感知するけれど、辛さまでは感じないの。だから問題ないわ」


「へえ、そうなんだ。便利でいいね」

「人間のように熱い寒いで一喜一憂出来なくて、物足りなくもあるのよ。鈍感を便利と思っては駄目。繊細(せんさい)な感覚を大切になさい」

 お喋りしながら大通りを歩き、市場入口のアーチを目にしたパースリーは、その寂寞(せきばく)とした風景を眺めて溜息を()いた。口から漏れたぼやけ雲が、風に揉まれて消えていく。

「早過ぎたみたい」

「活気づいていく市場を眺めるのも一興だわ。何か食べながら、時間を潰しましょう?」

 黒鶴はそう返して、レモン色の可愛(かわい)らしい雨避けを張った露店へ(おもむ)き、跳ねて丸机の上に座る。彼女に続き、パースリーが隣の椅子に腰掛けると、間もなく店主がやって来て、自律機械相手を意識したのだろう堅苦しい挨拶を述べた。


 彼の目には、強い好奇心が宿っている。パースリーは、あれこれ質問されるかと思い身構えた。だが、店主には接客に従事する者の誇りがあったのか、二、三やり取りをしただけで(いさぎよ)く調理場へ戻っていく。それからさして待たせずに、料理が運ばれてきた。

 (とり)の香辛料焼きを挟んだ白パンサンド。(かぐわ)しく、香りを嗅ぐだけで体が火照(ほて)る。一噛みしたなら、まずはパンの優しい甘みが、次いで香辛料の清々しい辛味と苦味が舌に広がり、最後に肉汁(にくじゅう)の深い旨味が幸せをもたらす。塩気も絶妙。程よく炒められたアスパラのシャキシャキとした食感が楽しい。


美味(おい)しい!」 

 自然と(ほころ)んだ顔をそのまま黒鶴へ向けて、パースリーは語りかけた。

「それに、ここはとても、配慮が行き届いたお店ね」

 黒鶴は、(こしら)えるのに相当の手間を掛けたと思われる一品(ひとしな)――彼女の掌にぴったりと合った小さなパンサンドを両手に持ち、胸の前まで持ち上げて、眉を(ひそ)める。

「頼んでないのに、心付けのつもりかしらね。旅先でしっかりと宣伝しなくては」


「もう。捻くれてるね、黒鶴も。それはきっと、純粋な善意から来るものよ」

 パースリーが大仰(おおぎょう)に意見してみせると、黒鶴はもの()げな顔で応える。

「そうだろうと、理解はしているわ。でもね、自律機械にとっては、目的が先、行動が後、この形が一番しっくりくるから、仕方ないのよ」

 自律機械の目的。それは、子供たち三人が抱く今一番の関心事だった。パースリーは、何となしに聞き出す機会に恵まれた幸運を喜びつつ、尋ねる。


「なら黒鶴は、目的の無い善行をどういうふうに見ているの?」

 真剣な顔を作ると、彼女の表情もまた、それに相応(ふさわ)しく変わった。

「人間が見せる、人間特有の、人間らしさ、かしらね……」

 パースリーは畳みかける。

「黒鶴が私たちを助けてくれるのも、何か、目的があってのこと?」


 黒鶴は目を逸らして市場のどこかを眺め、鈴鳴りのもの淋しい声で答えた。

「無ければいいと、ずっとずっと思っているわ。でも……残念ながら、有るのよね」

「ねえ、それって――」

 のめり込むパースリーの眼前で、白く細長い人差し指が、黒鶴自身の唇に立てられる。

「知りたがるのは良いこと。でも、知るだけではいけないわ。あなた自身が考えなくては。相手を揺さぶり、言葉の綻びも感情の機微も何もかもを捉えて、組み立てて、想像するの」


 語る黒鶴の声には刺々しさこそ無いものの、そこはかとなく圧力を感じた。

「与えられた知識だけで満足しては、危うい。沢山時間を掛け、幾重にも思考を折り重ねてようやく、あなたは確かなあなたになれる。色々なことに挑戦し、様々な考えを知り、肯定も否定も吸収して自らの均整を保ちながら、淡くムラを作る。そんな癖をつけなさいな」

 けむに巻かれた、とは思わなかった。パースリーは、母さながらに未来を気遣ってくれる黒鶴が、より(いと)おしくなる。

 愛おしくなって、それすらも彼女らの術中なのではないか、と勘繰(かんぐ)った。子供たちに水を与えることさえも、目的を果たすための手段だとしたら、彼女らは訪れた未来で何を収穫するつもりなのだろうか。

 

 取り敢えず、考えても分からない疑問は脇に退()けて、黒鶴へ問う。

「私、あなたたちのことをもっともっと理解したい。だから、これからも沢山、質問していいよね? 答えたくないことは……いつか、答えたいと思わせるから」

「ええ、勿論(もちろん)よ。沢山質問して、沢山思い悩んで頂戴。そしていつか、私たちの本質に迫る日が来ることを、期待しているわ」


 黒鶴は、そら恐ろしくなるほどに整った笑みを見せてから、パンサンドを一口(かじ)った。

 瞬間、黒鶴の頑なな頬が緩む。

「あら本当。美味しいわね、これ」

「でしょう?」


 たった今仄見(ほのみ)えた人間らしく温かな笑顔に()てられて、パースリーは早くも本質の一つを――彼女が心身共に自律機械であることを忘れそうになった。

 二つの対極的な笑み――整然と弛緩。黒鶴姉妹の精神は、人間のそれよりも複雑怪奇なのではないか、と思わせる。現状分かるのは、自律機械の行動原理は人間よりもしっかりとしていて目的意識が高く、黒鶴は、人の曖昧さに若干憧れていそうだということ。

 改めて、彼女らの在り方に強い興味が湧く。


 その後は長い間、黒鶴と二人、レモンヨーグルトミルクの爽やかな甘味に(とろ)けつつ、たわいもない談笑を続けた。たまに黒鶴目当ての客に話をせがまれたり、逆にお勧めの店を聞き出したり、そうしているうちに、街はどんどん色づいていく。

 市場通りの店はほぼ開き、人々の往来も随分と増えた。響き合う多様な音に、パースリーの心は浮足立つ。それを見透かしたかのように、黒鶴が言った。

「そろそろ、目的を果たしに行きましょうか」

「頼りにしているわ、黒鶴」


 市場の中心へ繰り出した二人は、まず装飾品店を求めて歩く。贈るなら旅のお守りが良いだろうと、互いの意見が合致したからだ。

 気掛かりだった翡翠の指輪、目に付いた瑪瑙(めのう)のブローチに、紅玉(こうぎょく)のブレスレット。手に取ったアクセサリーはどれも、贈られて嬉しいものに違いない。パースリーにはそう思えた。

「ねぇ、黒鶴。どれを誰に贈ればいいかな?」

「ちょっと待って。この店だけで決める必要もないでしょう?」

 意見が折り合わず、結局は自分のために小さなカメオだけを買い、店を後にする。


 次は書店へ。タイムは本が好きだったが、屋敷を出てからというもの全く読めていない。セージとの関係は小説にまつわる嘘から始まった。だから、間違いない品選びが出来ると思ったのだ。黒鶴は懐疑的な反応を示したが。

 入店して早々に、パースリーは一冊を手に取り、まじまじと眺めてみた。本を手にすると心が昂る。早く開きたくてうずうずする。

「やっぱり本がいいわ。セージの好きな本ってどういうの? 戦記もの? 恋愛もの?」

「戦記だけれど……少し考えてみなさい。本は、旅人には向かない贈り物よ。紙は雨風に弱いし、微光の下で読書したなら目に悪い。別のものにしましょうよ、ね?」

 再考を奨められた結果、紙と墨を補充するに留めて、店を後にした。


「次は黒鶴が決めてよ」

「そうねえ……。雑貨店とか。スプーンや、カップなどはどうかしら?」

 生活雑貨は妙案だと思った。旅の中、幾度となく贈り物を手にすることになるだろう。その度に小さな感動を覚えてくれたなら。想像するだけで頬が緩む。

 露店に並べられた幾つもの雑貨を指差しながら、黒鶴に助言を求めた。

「どれにしよう。スプーン? フォーク? あ、タイムには櫛を贈ろうかな……?」


 しかし、彼女は冷めた表情で、

「うん、駄目ね。実物を目にして考えを改めたわ」

 無体(むたい)な言葉を口にする。

「これでは素朴すぎる。巣立って最初の贈り物なのだから、何かもっと、特別なものが良い」

 うんざりしたパースリーは、替えの松脂(まつやに)と、いつものより高級な香油を買って店を後にした。


 それからも数軒訪ねたが、黒鶴は一度たりとも首を縦に振らない。大通りの終端まで達したその時、パースリーは急に虚しくなり、一人ふらふらと道端へ寄って、公共の長椅子へ腰を落とす。そして、不思議そうな顔して近寄ってくる黒鶴に一言抗議した。

「お願いした分際で申し訳ないけどね。文句ばっかりじゃ何も決まらないわ」

「文句ばかり言ってるつもりは無いの。もっと良い選択が出来るはずなのに、そうしないから」

 朝は空だった手提(てさ)(ぶくろ)。持ち上げればずしりと重く、パースリーの心をもやもやさせる。


「私、そんなに見る目無いかな……?」

「目というか」黒鶴の、墨色をした目が僅かに光った。「心ここに在らず、といった感じ」

「え?」

「失礼を承知で訊くわね。あなたの主目的は、私にテネブラエを案内させることだった。けれど、それだけでは受諾されるか心配だったから、贈り物選びを副目的に据えた。違うかしら?」


「そんなわけ」言いかけて、パースリーは言葉を飲み込む。「――違うって思いたいんだけど、そう言われると自信無いかも。でもね、贈り物をしたいのは確かな気持ちだから」

 この身勝手を叱られるかと冷や冷やしたが、黒鶴は、朝食の時よりも更に(ゆる)んだ顔を見せ、

「良かった。当たった……!」

 嬉々としてそう呟く。


「ねえ、パースリー。さっき話したこと、覚えてる? 沢山時間を掛け――」

 パースリーは復唱する。

「沢山時間を掛け、幾重にも思考を折り重ねてようやく、あなたは確かなあなたになれる」

 すると黒鶴はゆっくり頷き、話を続けた。

「あれはね、多くに通じることなの。考える程に判断力が増し、視野も広がり、想いも乗る。贈り物選びだってそうよ。重要なのは、考えに考え抜いて、絶対の自信を得ること。セージに微妙な顔をされた時、落ち込んでしまうのではなく、()(ぱた)いてやれるくらいの自信をね」


 正論であった。パースリーは自分が恥ずかしくなる。

「黒鶴の言う通りね。ごめんなさい、もう少し付き合ってくれる?」

「謝ることではないわ。それに、私も悪いのよ。千年も生きているのだから、鼻先にぶら下がった人参を先に食べさせてあげるくらいの気遣いは、出来て然るべきだった」


「馬扱いは、さすがに酷いと思わない?」

 訴えたが、黒鶴は満面に笑みを張り付けたまま、一言も返さない。じっと見つめる小さな瞳の、奈落のような奥行きに吸い込まれてしまいそうで、落ち着かなくなる。

「ヒヒィン……」

 冗談にもならない冗談を聞いて、黒鶴が笑声を漏らした。

「ふふ、可愛いわ、パースリー」

「……馬鹿」


 黒鶴に着いて住宅街を北へ向かう。テネブラエへと向かうために。

「黒鶴は、どういうものが良い贈り物だと思う?」

 パースリーは問う。せめて到着までは、贈り物について考えていたかった。

「機械の私には難しい質問だわ。一般論を述べさせてもらえば、一つに、気持ちがこもっていること。一つに、あなたらしさが見えること。そんなとこかしらね……」

「私らしさ、か……」


 黒鶴の回答は、ある意味残酷に聞こえるものだった。早くに両親を亡くし、長く屋敷に幽閉されて生きてきた自分に、果たして、らしさ、などというものが備わっているのだろうか。

「有るのかな、私に?」

「そう難しく考えなくても。自分らしさとは、経験に基づいて自然と形作られるもの。あなたが何を貰って、どのように嬉しかったのか。口にしてみては如何(いかが)?」

 思い出すまでもなく心に浮かぶ、沢山の風景画――形見の絵葉書。そのうちの一枚が、物心ついてから初めて貰った贈り物だった。


「じゃあ、絵葉書について。父さんは、国主として各地を訪問しては、その街(ゆかり)の景色を封じた絵葉書を買ってきてくれたの。夕食時、家族みんなで絵を眺めながら、旅話を聞くのが好きだった……」

「……そうなのね。もしかして、テネブラエに行きたがったのも?」

「うん。カナートに滞在するなら、絶対に寄らなくちゃって」

「成程。でも、それなら何故、タイムを誘わなかったの?」

 澄んだ刃の如き問いかけに、パースリーの心はたじろぐ。昨日、贈り物をしようと考えついてから、寝るまでの間に、あまり思い出したくない葛藤があった。


「誘わなければ、断られないから」

「分からないわ。もう少し噛み砕いて、教えてくれないかしら?」

「……知るだけではいけないわ。あなた自身が考えなくては――」

 狡い答えだと、パースリーは自覚はしている。けれども、丹田で(うごめ)くこの煤けた感情は怪物であるから、解き放ちたくなかった。取って代わられるのが、怖い。


「それもそうね」

 察したのか、察していないのか分からないが、黒鶴は踏み込んでこなかった。

「絵葉書の他には、有るかしら?」

 声が少し、冷ややかな音色(おんしょく)に変わった気がする。


「……有るよ」パースリーはそう言って、結わいた髪の片方を示す。「この髪飾りも、私の大切な貰い物。これはね、昔、屋敷に行商が訪れた時、母さんに買ってもらったの。五つの大海を越えた舶来品で、太陽の国、というところの伝承にあやかって作られたものらしいわ」

「続けて頂戴」

「遥か昔の話。あるお姫様が国民の窮状を(うれ)いて、虎百合(とらゆり)の花へ溜息を吐いた。すると、花は幻のように崩れ、やがて人々に救済がもたらされたそうよ。辛い時にこの髪飾りを砕けば、望む未来が訪れる。そういうものなんだって」


「行商の売り文句?」

「そう。語り口が軽妙で、きっとそれが面白くて、髪飾りが宝物のように見えた。母さんは行商の言い値で買い取って、その場で髪を結わいてくれたの……。とても、嬉しくて――」

 久方ぶりの感傷に浸る時間を、黒鶴はきちんと用意してくれた。

 市街地を抜けて辿り着いたのは、芝生の上に年嵩(としかさ)菩提樹(ぼだいじゅ)が立ち並ぶ自然公園。人通りも少なく、閑静な石造りの道を大方歩き終えるまで、彼女は無言を貫いた。


 やがて、パースリーの心を占める母の残影が薄れ、美しい景観に目が行くようになり、哀も楽に変わった頃。黒鶴は、白髪(はくはつ)をおもむろに揺らして振り返り、きっぱりとこう述べた。

「私には見えたわよ。あなたの、あなたらしさが」

「本当に?」

 こくりと頷き、墨色の瞳を自信ありげに煌めかせて、彼女は語り出す。

「あなたは物品だけでなく、その背景となる話、或は疑似体験に感動する性質(たち)なのよ。きっとそれは、あなたの持つ豊かな好奇心に由来する傾向ね。であれば、あなたらしい贈り物とは、逸品と逸話、二つが合わさったものなのだと思う」


「逸品と、逸話……」

 パースリーは面白く感じた。会って間もない黒鶴の、かつ人間でない彼女の回答は、驚く程素直に自分の中へと染み入って、広がって、馴染んでしまった。

「すごい。もう、そうとしか考えられなくなっちゃった」

「お気に召したようで何より。それなら折角だし、諸々(もろもろ)を修正しましょうか」

「どういう意味?」

「そのうち分かるわ」


 公園を抜けると、菩提樹のヴェールで覆われていた遠景が(あら)わになり、赤土で作られた太い円柱が目に留まった。

「あれが、テネブラエ外郭よ。外郭と言っても、(ほとん)ど城のようなものだけれど」

 それは晴天の下で威厳を放つ。取り澄ました空色と、燃え上がる煉瓦色(れんがいろ)の対比が美しい。

 壁面の孔雀彫刻が、強烈な太陽光を受けて色濃い陰影を映し出している。明瞭な輪郭を得た亜平面世界の鳥たちは、今にも飛び立とうとする意思の存在を錯覚させた。

 自然と人為とが互いを讃え合う壮麗な光景に、パースリーは息を呑む。


「テネブラエとはね、闇、暗黒を意味する太古の言葉なのよ」

「そうだったんだ。太陽みたいな建物なのにね」

 更に歩く。テネブラエ外郭と、その周囲に広がる芝の中庭は、連なる槍のような鉄柵によって護られていた。出入口となる門には、重要史跡の警護としては心許(こころもと)ない人数の守兵が立つ。

 黒鶴が兵の元へ赴き、(うやうや)しく責任者への取次を願うと、一人が仏頂面のまま頷き、外郭と一体化した詰所の中へ消えていく。それを眺める黒鶴の白んだ頬に、どうしてか朱が差した。


 少しばかり待たされた後、守兵に代わって現れたのは、濃い褐色の肌に真白(ましろ)の髭をたっぷり蓄えた壮年の男性。隙なく短槍を持ち、堂々と歩いてきた。

 彼は興味深げに黒鶴を見下ろしてから、頬を弛ませ、慇懃無礼(いんぎんぶれい)に頭を下げる。

「ようこそ、テネブラエへ。(うるわ)しいお嬢様方」

 表面上は優しげだが、瞳の中には強い警戒の色が潜んでいる。パースリーにはそう思えた。

「許可証をご提示いただけますかな? 面倒でしょうが、規則ですので。二人分です」


 許可証。テネブラエへの案内を二つ返事で承諾したのだから、持っているはずだと思い、黒鶴を見やる。しかし、彼女はいつになく挑発的な笑みを浮かべて、かぶりを振った。

「悪いわね。許可証なんて持っていないわ。取って来るつもりも無いの」

 男は(うと)ましげに鼻を鳴らす。そして目尻を弛ませ、年の割に整った歯を剝き出しにした。

 (あざけ)(わら)いである。気分は良くないが、黒鶴に非があるのだから、甘んじて受ける他ない。パースリーには、彼女がこうも反抗的に振る舞う理由が全く分からなかった。だから焦った。


 心懸(こころが)かりをよそに、彼女は告げる。

「それにね、必要な許可証は二枚でなくて、三枚なのよ――」

 粘つく尻声が消えるより早く、男が目を見開き、素早く槍を構えた。

 空気が張り詰め、即座に弾け、男が繰り出した流麗な刺突が黒鶴へ迫る。彼女は余裕の顔を浮かべながら、豪快に穂先を蹴り飛ばし、攻撃を弾く。

 パースリーの背後には、トルソーが現れていた。当然、異形の出現に血相を変えた兵たちが、足音鳴らして三人の元へ集まってくる。


「自律機械を叩きなさい!」

 白髭の男は号令しつつ、黒鶴へ向かって槍を薙いだ。黒鶴は袖振り優雅に跳ねて(かわ)し、更に続く突きも難無く回避する。

 トルソーがずいと前に出た。パースリーは意を汲んで、その背中に隠れる。

 無機の身体に迫る、幾本もの穂先。その殆どを硬質の表皮で弾いてみせた彼女は、兵が持つ槍の一本を強引に奪い取り、自分の得物として扱う。


 あの黒鶴が、一人の男に掛かりきりになっていた。トルソーは技巧的な槍術を披露して兵を圧倒し始めたものの、狼との戦いで見せた超人的な制圧力は発揮出来ていない。二人共、兵を昏睡させようとしないのだ。だから、戦いの終わりが見えない。

 それなのに、彫刻(まみ)れの円塔から沢山の増援がやって来る。

 ――そうよ。私が二人を止めなくちゃ。

 パースリーは混乱から醒めた。元はと言えば黒鶴が悪いのだから、友として諫めなければならないと思い至った。決心し、

()めて、黒――」

 と声を上げたその瞬間、

(たわむ)れはそこまでです! 黒鶴!」

 自分の声ではない、耳を押さえたくなるような大声が辺りに響き、パースリーの制止もろとも喧騒を掻き消した。黒鶴はすぐに手を止める。


「アニクも、槍を引きなさい」

 呼びかけに応じて、男も迷わず矛を収めた。

 一拍の静寂を経て、茶化すように、黒鶴が尋ねる。

「音量上げ過ぎよ、アニク。どうせ聞いてない振りでもして、酷く叱られたのでしょう?」

 すると、アニクと呼ばれた男は、闘いなど初めから無かった、という体で明るく笑んだ。

「ハ、ハ! その通り! 主人の短気にはほとほと困り果てているのです。偏屈にもね」


 パースリーは突如充満した和気に戸惑う。兵らもそのようだった。何も分からないから、何も言えない。そうして仕方なく黙っていると、黒鶴が振り返って、愉しげに目元を歪める。

 彼女は今一度アニクへ向き直り、彼を褒め出した。

「美しく老いたわね、アニク。前よりも腕を上げたのではないかしら?」

「黒鶴様は……そうですね、少々丸くなられましたかな?」

「どうしてそう思ったの?」


 意外そうな顔をする黒鶴へ、アニクは嫌味な口ぶりで答えた。

「叩きのめされませんでしたからね。(わたくし)は今でも夢に見ますよ。あの痛ましい調練の日々を」

「今日はその必要がなかったから。皆、良く動けているわ。判断にもそつがない。でも、まあ、もう少し苛烈な方が私好みね」

「……ありがとうございます」


 黒鶴は満足げな表情でアニクを――正確には、アニクの腰に装着された小型の機械を見つめ、高らかに述べた。

「久しいわね、アグリッパ。部下に恵まれているようで何よりだわ。今日は、あなたに借りを返させてあげようと思って、ここに来たの」

「ようやくですか」独特の、平べったく抑揚の少ない声。戦いを止めてくれた何者かは、アグリッパという名前らしい。「全く、長く待たされたものです。どうぞ、お入りください」


 それを受け、衛兵の一人に随伴するよう言いつけたアニクは、

「アニク、あなたがお連れしなさい。短気で偏屈で困った私は、直接小言を言わなければ気が済みませんからね」

 上司に強迫されて心底嫌そうな顔を見せ、自らの指示を撤回した。

 部下たちが彼を眺め、揃って白い歯を覗かせるものだから、パースリーもつられてしまう。

 可笑(おか)しみに溢れたやり取りの中に、アグリッパが持つ人徳の一端を垣間見た気がして、面会がとても楽しみになった。


 円塔から突き出た巨大なアーチを潜り、透かし模様が入った紫檀(したん)の扉を開く。

 内部は厳粛な闇と、無数の石碑に満たされた大空洞。几帳面(きちょうめん)に、等間隔に並べられた篝火(かがりび)が、石塔に刻まれた古き名――()()()()により近隣一帯で(うしな)われた人々の霊魂を慰め続けている。

 厳密には、テネブラエと呼ばれる区域はこの先にあり、自分らは未だエントランスにすら立てていないらしい。テネブラエ外郭とは、地下遺跡を覆い隠すようにして建築された円塔のみを指す。テネブラエの保全と一部の行政事務を担う施設なのだと、黒鶴が説明してくれた。


 四人、連なる篝火の小路に沿って歩く。

 しばらくして、石畳(いしだたみ)は金属質な床板に、光源も炎ではなく(いかづち)を用いた照明に変わった。それは均一に、(あまね)く闇を払う白色光(はくしょくこう)。球ランプのそれとよく似ている。

「今一度歓迎しましょう」先頭を歩くアニクが速度を緩め、右腕を伸ばして前方を示す。「ようこそお嬢様方。カナートが誇る史跡、機械墳墓(きかいふんぼ)テネブラエへ」


 老いた掌の向こうに、憧れの光景が広がっていた。崖の如き大奈落。鋼で出来た螺旋階段を飾る光の手摺(てす)り。そして、輝く壁画。幾度となく絵葉書で見たはずが、実際に訪れてみると予備知識など吹き飛んでしまい、まるで知らない景色を眺めているような高揚感に襲われる。

「何て、綺麗……」

 壁画はステンドグラスに似ているが、色はモノクロームに統一されている。パースリーは昔、絵葉書に封じられた壁画を見て、白や灰色などの硝子(がらす)()め込んで作ったのだろうと勝手に解釈した。しかし本当は、ステンドグラスを構成する各断片に、それぞれ違う明るさの光を割り振ることで色の濃淡に見せかけるという、一段手の込んだ手法を用いていたのだ。


「手摺りに体重を預け過ぎないように。落ちたらひとたまりもありませんよ」

 アニクの忠告を胸に、鑑賞しながらも注意深く、穴底へ伸びる階段を降りていく。

 壁画の中心を飾る女性は、(まばゆ)く煌めく衣を纏い、来訪者に気品ある笑みを向ける。彼女の周りを彩る花々は、あるものは目一杯に輝き、あるものは物静かに光り、まるで一輪一輪人格が宿るよう。それだけでなく、壁画は流動までするのだ。屋内は無風なのに、風が吹いたかのように光が揺らぐ。存在しない太陽が、存在しない雲に隠れて影を落とす。


 顔料では表現し切れない、前史時代の技術を用いているからこその美観だ。パースリーは思う。こんな芸術が荘厳な円塔の下に存在しているのだから、なんと贅沢な史跡だろうか、と。

 階段を降り切った先に、幾つもの扉が見えた。

 その中の一つ、最も質素な黒鉄(くろがね)の扉を指差し、アニクが言う。

「あすこが主人の部屋です」


「先に叱られて来なさい。私はここで、テネブラエの解説でもしているから」

 黒鶴が冷たく返すと、彼の表情はみるみるうちに翳っていった。

 パースリーは幼少の頃を想う。舌は己が首を刎ね得ると、両親から耳にたこが出来るくらいに聞かされた。今のアニクが正しくそう。彼は絵画に描かれた死刑囚のように、深く肩を落としてとぼとぼと歩き、部屋の中へ消えていく。


 黒鶴は宣言通りに、解説を始めた。

「昔、アグリッパと呼ばれて気取った男が名も無きこの地へ定住し、浮ついたままテネブラエと呼び続けた。呆れたことに、そんな浅はかな呼称が定着して、今も口にされ続いているの」

 ここを訪れてからというもの、黒鶴の行動は軽薄で、言動も無邪気な棘を感じさせる。何故かと考えたパースリーは、彼女こそが浮ついているのではないか、と推量した。

 自身にそういった記憶は無いが、友人と会う際には、身も心も(おど)ると聞く。


「アグリッパさんは、黒鶴の友達なの?」

「友達? まあ、そう言えなくもないかしら」

 淡白に答えて、彼女は話を再開した。

「この場所に死ではなく、闇という単語を宛がったのは、ここが昔、闇市として機能していたからよ。当時のカナートはここより東、そう、大河にべったりとくっ付いていた。今もそこには旧市街があって、漁師たちが寄って暮らしているわ。鯉の煮込みが美味しくてね――」


 パースリーはうんうんと頷きながら、ほろほろ解れる魚肉の食感を思い浮かべる。

「昔のテネブラエも翡翠庭園と同じく、封印処理の後に放置されていたの。街の中心からやや遠く、人もまばらで、しかも墓参(ぼさん)を装って立ち寄れるこの地域は、暗がりを求める腹黒商人たちにとって絶好の集合場所だった。思惑は様々。徴税から逃れるため、禁制品取引のため、盗品を換金するため。――アグリッパもね、ある闇商人の従者だったのよ」


「え、アグリッパさんって悪い人なの?」

 パースリーは驚く。黒鶴は目を細め、肩を震わせた。

「ええ。小悪党を主人に持つアグリッパは、言わば小小悪党(ここあくとう)。でも、それも昔の話。今はもう、別人と言って差し支えないわ」

 ――黒鶴の話は、何かが引っかかる。

 違和感の正体を自問したパースリーは、話を思い返し、考えて、一つの想像に辿り着いた。

「もしかして、アグリッパさんも黒鶴と同じで、自律機械?」


「正解よ。自律機械は大概大きな変化をしない。もし、機械が別人のように変わるなら、それは主人を失ったか、気が遠くなる程の長い年月を経たか、或は――」

 そこで、言葉が途切れる。

 黒鶴は視線を外し、自らを(さげす)むように笑んでから、(まぶた)を閉じた。

 凛として長い睫毛(まつげ)が、病的なまでの白肌へ墨を引く。何かを思い悩んでいる、と目に見えて分かるのに、あまりに美しくて声を掛け(がた)い。


「――致命的な、誤りを起こした時ね」

 (うい)を含んだ声。パースリーは尋ねた。

「自律機械も、反省するの?」

「当然。機械だって過ちを犯すし、直すべきと分かれば、何とかして直そうとするものよ」

「そっか。人間と同じだね。私、機械は間違えないものだって、どこかで思ってた」

「それは、前提知――」


 時同じくして、扉が開く音。パースリーは咄嗟(とっさ)にそちらを向いた。

「お待たせ致しました」中からアニクが現れ、一礼する。「どうぞ、中へお進みください」

 再び黒鶴を見やると、彼女の表情は普段通りの涼しげなものに戻っていた。

「お疲れ様、アニク。帰りは同行不要よ。詰所に戻ってゆっくり休みなさい」

 今生の別れですかね。やつれたアニクは一言そう述べて、敬礼し、静かに去っていく。

「さあ、入りましょう、パースリー」

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