表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドゥームズデイクロックス  作者: tatsukichi_ohta
23/24

23:あなたにはならないから

 タイムはちらちら輝く藍色の光を追って傾斜する林を駆け上がり、近くの茂みに身を潜めた。


 爛爛(らんらん)から貰った(いかづち)の槍を手に、姉と共の戦を想う。それぞれが直面する苦難を案じ、けれど悲観するでもなく、二人の背中を追う意気に変えた。

 白布に吊るされた左腕で胸を叩き、穂先で枝葉を掻き分けて、飛び出す。


「なんだお前!」

 カランを取り巻く七人の男。うち一人が放った無意味な問いへ、カランが応えた。

「あれがタイムだ。生け捕りにしろ。多少傷つけても構わん」

 男たちが迫り来る。タイムは、嗤いながら(ぬる)く振るわれた小刀を柄で弾き、返す刃で敵を突いた。先端に仕込まれた雷釘(らいてい)が、容易(たやす)く大男を昏倒せしめる。


 次なる敵の斬撃は速かった。タイムが反応出来ないほどに。非力は暴力に敗れるのが世の理。しかしタイムの(そば)には、弱さを補ってくれる心強い仲間がいる。

 機械の使い魔――不可視のラビットにより刃を弾かれ、一時(いっとき)呆けた小男を、タイムは迷いなく突き崩した。

 背後から金音。タイムの身は強張る。

「ひっ!」

 死角から襲われる、恐怖のほどを知った。もう一体のラビットが庇ってくれなければ、何も分からず敗けていたのだ。旅を続けたいなら、こういう未熟も早くに克服せねばならない。


 また一人倒すと、

「足止めに専念しろ!」

 数的優位を失いつつあるカランは、部下を盾にして逃げ出そうとした。

 出来る限り自力で戦いたいと、タイムは思っていた。それが、儚く散った霊魂への手向(たむ)け、未来の自分へ向けた(はなむけ)だと考えてもいた。しかし現実は非情、かつ自身は矮小(わいしょう)なうえ、時間は乱暴に状況を掻き乱す。過去と未来に拘泥して現在(いま)を誤っては、皆に顔向けできない。


「ラビット!」

 悔やみつつも、大声で頼んだ。声に合わせて姿を見せた二匹のラビットは、立ち塞がる男二人へ珠の身体をぶつけ、(しび)れさせる。

「カランを!」

 先行を促すと、二匹は素早く飛び去った。そうして生まれた隙に乗じて、タイムも残る男たちを仕留め、カランの後を追う。


 ラビットがカランの行く先を遮った。彼は振り向き、鋭い(まなこ)でタイムを見つめる。

「もう、終わりです」タイムは堂々と告げた。「僕があなたを、法庁まで連れていきます」

「私を? 一体、何の罪で?」

「パースリーとセージの監視を命じたまま、帰ってこない部下がいましたね? 彼の身柄を預かっています。人々から奪った金品を三つの拠点に分けて保管していること。その全てに、ラジーヴという男による子細な指示が届いていることを、聞き出しました」


 カランは、馬鹿を眺めるように目を細めて、小さく笑った。

 タイムはラビットたちの目を覗く。計四つの半透明結晶体が、藍色の喜ばしい点滅を返した。

「言っておきますが、スバースの加護はもう受けられません。僕の自慢の姉さんと、頼れる親友が彼から悪霊を(はら)いました。あなたはスバースの証言によって、彼と共に裁かれます」

 カランの顔から、血の気が引いていく。

「果たして、スバースすらも認めるあなたの罪を、シング法庁、そして住民はどのように考えるでしょうか。僕は、真実に即した罰があなたたちへ下ることを、願っています」


 タイムは、かねてからずっと聞きたいと思っていた質問を、今、この場で投げかける。

「あなたは、(うしな)われてゆく命をどのように眺めていたんですか? どうして、多くの無念へ知らぬ振りが出来るんですか?」

 カランは言った。

「知らぬ振り? いや、知らんよ」

 その一笑が、タイムの心と体を芯から凍らす。歯を食いしばり、槍をきつく握って自身を痛めつけ、それでも消えないやるせなさを体から追い出したくて、

「僕は、あなたにはならないから!」

 ()えて、彼の胸を突く。


 ――あなたには、学ぶべきところなんて何一つ無い。

 そんなこと、思いたくも宣言したくもなかった。けれども、してしまった。

 白光と雷鳴。タイムは、前のめりに倒れるカランを胸で支え、そっと腐葉土の上に寝かす。

 その後、彼をラビットに見守らせ、独り丘陵の淵へ(おもむ)いた。


 カランが座っていただろう椅子から物見筒を取り、覗き込んで平野を眺める。セージたちの戦いも既に終結しており、こちらへ歩いてくる三人の姿が見えた。

 爛爛が指先を向ける。セージが顔を上げ、腕に抱かれた黒鶴(くろづる)と共に笑む。

 皆が手を振ってくれた。望む結末が訪れたのに、全てを達成したのに、悲しみが勝り、得られた喜びは僅か。タイムは苦々しい感傷を味わいながらも笑み、大きく手を振り返した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ