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男とラジオ

作者: ゆうきノ助

「ふう、ただいま」

誰もいない部屋に向かって言い、嘆息する。

ごくごく普通の会社員の俺は、今日も仕事終わりに寄ったコンビニで適当に食べ物と酒を買い、のんびりしようとしていたところだったのだが…。


「………ーーーー!ーー……………!!」

「はあ、またか」

リビングのテーブルに無造作に置かれたラジオからノイズが発せられている。

数日前からだ。

前触れもなく、ラジオから勝手にノイズが出る。

電源のスイッチをいじっていれば音は勝手に止まるから、初めは気にしなかった。

が、ラジオが独りでに鳴るようになってからもう数日。

流石に、無視をし続ける訳にもいかなくなってきた。

「うーん、やっぱり中古のラジオなんて買うもんじゃなかったか」


そもそも、このラジオと最初に出会ったのは、たまたま寄ったリサイクルショップでのことだ。

普段はそんな場所に行ったりなどしないのだが、あの日はどういう訳か寄ってみようという気分になった。

店に入り、置いてあるものをそれとなく眺めてみる。

一昔前のゲーム機や古くなった家具など、まあ妥当だろうという商品が並べられていた。

その中にふと、俺の目を引くものを見つけた。

例の、あのラジオだ。

別にラジオが好きだとか、そういう訳ではない。

でも何故か、あのラジオを一目見ただけで"欲しい"と思ってしまったのだ。

しかも、値札を見て気づいた。

周りに置いてある別のラジオと比べて、このラジオだけ明らかに値段が安かったのである。

(これは買うしかない)

そう思った俺はラジオを早速レジへ持っていった。

ついでに、レジの店員にこのラジオの事を聞いてみた。

店員は、とある空き物件にあったものをそのまま商品として売ったものだと教えてくれた。

そういえば、ラジオを持って立ち去ろうとすると、店員が何か言いたげな様子でこっちを見ているのに気づいたのだが、あれは結局何だったのだろう。

…まあいい。

そんな事よりも今はこのラジオをどうするか考えなくては。

とりあえずいつものように電源ボタンをいじる。

ノイズはすぐ止まった。

「そもそも、どうして独りでに音が出るんだろうか」

………。

段々考えるのが面倒になってきた。

独りでにノイズが出るのは確かに怖いし不気味だが、俺に被害がある訳でもない。

万一、何か良くないことが起こったとしても、すぐに捨てるなりして処分すれば大丈夫だろう。

一人で勝手に満足した俺は、食べ物と酒を手に持ち、晩酌の準備を始めた。


次の日、また仕事終わりに寄ったコンビニで食べ物と酒を買って帰ってきた。

玄関の扉を開け、短い廊下を進み、リビングに入る。

そして買ってきたものをテーブルにぶちまける。

今日はラジオは鳴ってないな。

そう思った時、異変に気づいた。

テーブルに無造作に置かれていたはずのあのラジオが、ない。

きれいさっぱり、消えて無くなっている。

確かにこのテーブルに置かれていたはずなのに、変だな。

おかしいと思いつつも、無視しようとした矢先にそれは聞こえた。

「ーーー!ーー!」

あの、ラジオのノイズが聞こえる。

音の聞こえ方からしてここではないどこかで鳴っている。

わずかに震える足で短い廊下に出て、音の出どころを探す。

どうやら、ノイズは俺の寝室から聞こえているらしかった。

寝室のドアに耳を近づけるとノイズがよりはっきりと聞こえた。

そもそも、なぜドアで閉め切られている部屋の中にあるラジオの音がこんなにはっきりと聞こえるんだ?

初夏なのにも関わらず俺の背筋にゾクッと冷たいものが走る。

ただただ気味が悪かった。

「だ、大丈夫、大丈夫。なんかの勘違いだ。そうだ、昨日、酔っ払いながらラジオを俺の寝室に持っていったんだったな。なに忘れてんだよ、はは…」

だが、今日仕事に行く直前、テーブルにラジオが置いてあるのを間違いなく見ている。

気休めにしかならなかった。

「ーー!ーーー!」

音はなおも聞こえ続けている。

こうなったら、決死の覚悟で寝室に乗り込むしかない。

だが丸腰で乗り込むのはあまりに無謀と考えた俺は、無いよりかはマシだろうと台所から包丁を持ってきた。

意味があるかは分からないが、単純に泥棒が入っていただけという可能性も、まだ捨てきれなかった。

「…行くか」

包丁を構えながら、寝室のドアノブに手をかける。

覚悟を決め、寝室のドアを開け放った。

………。

「…なに?」

ドアの中を見た俺はしばし唖然とした。

寝室には、誰もいなかった。

俺のベッドには、例のあのラジオが、そして、ラジオのノイズは─ぱったりと止まっていた。



家に帰るのが、怖い。

ここ数日でくっきりと恐怖心を植え付けられてしまった。

あのラジオが気になって気になって今日は仕事も手に付かなかった。

あのラジオをこのまま持ち続けていたら更に良くないことが起こりそうな気がする。

やはり、あのラジオは処分するしかないのか…?

そう考えざるを得なかった。


だが、それからラジオは一切ノイズを発しなくなった。

今までが嘘みたいに。

そんな状態が何日も続き、いつしか俺に植え付けられた恐怖心も少しずつ消えていってしまった。

そんなある日の昼下がり、休日ということで俺は久しぶりにのんびりとしていた。

ふと、例のラジオが目に入った。

普段なら放置しているところだが、思い立ってラジオを付けてみた。

ちゃんと使うのは久しぶりだな。

そう思いながら適当に周波数を合わせる。

間もなくラジオから音楽が聞こえてきた。

よしよしと思ったその時、異変が起こった。


音楽に少しずつノイズが混じり始めたのだ。

綺麗な音楽がじわじわと雑音に変わっていく。

「ちぇ、やっぱり故障してんのかなあこれ」

落胆しつつ電源のスイッチをひねる。

ここであることに気づいた。

「………………ス………テ」

ラジオから微かに何かが聞こえる。

「………ケテ……タス…ケ………」

人の声、人の声が聞こえる。

気づけばさっきまで流れていた音楽は聞こえなくなり、代わりにノイズと謎の声が延々と耳に響いていた。

「お、おい、どうなってる?」

必死に電源を落とそうとするも、上手くいかない。

「…タスケテタスケテタスケテ」

声はもうはっきりと耳に届いていた。

「なんなんだよ、くそっ!!」

俺は発狂した。

「タスケテ…タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ!!!!」



あの後、俺はラジオを処分した。

気がつくとラジオの目の前で倒れ込んでいた。

どうやらあのまま気を失っていたらしい。

ラジオからは声はおろか、ノイズすらも発せられていなかった。

目覚めたあと、すぐにラジオをゴミ袋に入れておき、翌日の早朝にゴミに出した。

もう、大丈夫だ。

「これで良かったんだ」

業者がラジオが入った袋をゴミ収集車に放り込むのを家の窓から眺めながらそう思った。

あのラジオについてはもうこれ以上、何も詮索しなかった。

する気力もなかった。

それよりも、これで終わった、解放されたという気持ちの方が強かった。

ようやく、平穏が訪れたのだ。

そう思っていた。


うちの郵便受けにあのラジオが放り込まれているのを見るまでは。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ラジオのタスケテはどこからのメッセージだったんでしょう? [一言] 捨てても戻ってくるラジオ、怖すぎです(><)
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