表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

3.騒動の結末

ツェルス侯爵家に与えられた控室では侯爵が鬼の形相で待っていた、しかしそれ以上に怖かったのは夫人である。

「リア、説明を」

使用人によって控室の扉が閉められると同時、侯爵夫人が口火を切った。こういうときは余計な情報共有は挟まず、淡々と事実を述べるに限る、とエアリアは心得ていた。

「クリストファー王太子殿下から、今夜がデビュタントである従妹のエスコートをしたい、と言われました」

馬鹿馬鹿しい、と夫人は吐き捨てるように言う。

「側近は止めなかったの?」

「彼らは賛成の様子で、わたくしに拒否権はありませんでした」

「それならば婚約者であるリアが止めるべきでした」

「もちろんです。ですがお母様、殿下とお会いしたのは今夜が2回目です。2回しかお会いしていない高位の方に意見を申し上げることは、さすがに(はばか)られました」

「え?」

エアリアの予想通り、夫人は言葉を失い、代わりに侯爵が問う。

「殿下と顔合わせしたのは3か月以上も前のことだ。その間、一度もお会いしていないのか?」

「お手紙もございませんでしたので、業務がお忙しいのだと」

クリストファーが朝、晩の2時間、一日4時間という短くない時間を使って、毎日剣の鍛錬をしている事実をエアリアは掴んでいた。

エアリアがそれを知ったとき、いつまで騎士気分でいるんだと怒鳴ってやりたい気持ちになった。それだけの時間が捻出できるのに迷惑をかけた婚約者のご機嫌伺いは一切しないとは、クリストファーはツェルス侯爵家を下に見ているとしか思えない。

両親には手紙すらなかったことをアピールしつつ、多忙を心配する素振りをみせておく。彼らが沈黙したところで扉がノックされ、それは国王陛下の訪問を伝える先触れだった。

「リアはこのまま帰りなさい、結果は必ず伝える」

侯爵が判断し、夫人もうなずく。

「わかりました」

エアリアは両親に挨拶をして、侯爵家へと帰宅した。


翌朝、侯爵夫妻はそろって帰宅した、話し合いは夜を徹して行われたのだ。

「殿下とリアの交流会は週に1度、2時間ほど設ける。殿下の側近は入れ替え、マリアンヌ嬢はルマタイ学院で寄宿舎暮らしをすることになった」

出迎えた娘に侯爵は手短にそれだけを言い、詳細は夕食で、と先に寝室に向かった夫人を追った。エアリアも自室に戻り、侯爵の言葉を精査した。


マリアンヌの寄宿舎行きはエアリアの予想通りだった、近隣諸国にも名をとどろかせているほど厳しいルマタイ学院はさすがに想像していなかったが。

婚約者からエスコートを奪い、ひとりで入場させることが如何に非常識なことなのか、マリアンヌが知らないというなら学ぶべきである。それに同意したクリストファーも非常識だ、3か月も婚約者をほったらかしにし、挙句エスコートをしないなどなかなかにいい度胸をしている。

それでなくてもエアリアたちは注目されている、アルバートのやらかしの結果を、半分は真面目に、半分は噂話のネタとして、貴族たちは注視しているのだ。

剣一筋だったクリストファーに女性への気遣いが難しいというのならそれを側近や侍女が補うべきだが、彼らは揃いもそろってそのあたりの常識に欠けていた。

彼らを推薦したのはいったい誰なのか、エアリアは気になって少し調べてみることにした。


収穫祭が終わった翌週、早速エアリアとクリストファーの交流の場が設けられた。

「お招きいただきましてありがとうございます」

エアリアの淑女の礼にクリストファーも礼儀正しく応対した。

「ようこそお越しくださいました、ツェルス侯爵令嬢」

それからクリストファーはエアリアに、申し訳ありませんでした、と謝罪した。

「わたしの立場では謝罪してはならないとわかっています、それでも詫びたいと陛下に申し出をし、許可をいただきました」

いつかの顔合わせのときとは違い、物腰柔らかくなったクリストファーに、エアリアは内心で驚いていた。あの日の横柄な彼と目の前の彼、どちらが本当の姿なのか、エアリアにはまだ判断がつかなかった。

「わたくしこそ、本来ならばお諫めしなければならなかったのに、申し訳なく思います」

「エスコートのことだけを謝罪しているのではありません、今まで何の連絡もせず、申し訳ありませんでした」

エアリアの形ばかりのそれとは違う真摯な謝罪に、彼女の溜飲は少し下がった。

「失礼ですが、側近はなにもおっしゃらなかったのですか?」

エアリアが気になっていたことを聞いてみると、クリストファーは困った顔を見せ、

「あいつは幼馴染で、わたしと同じく剣ばかり振っていた男ですから」

女性に対して気が利く人物ではなかった、とクリストファーは言葉を続けた。

「新たな側近には彼がなってくれました」

そう言って彼は端に立っていた男性を招き寄せた。

「お久しぶりです、ツェルス侯爵令嬢。今後はわたしが殿下をお支えすることになりました」

挨拶をした男性はポートル侯爵家のエドワード・ポートル。エアリアと同じ侯爵家ということもあり、二人は幼いころからの顔なじみだ。

「エドワード様でしたら心強いわ、どうぞよろしくお願いします」

それからあとは、クリストファーとエアリアは和やかに会話をして、一度目の交流はつつがなく終わった。

お読みいただきありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ