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9話 俺の彼女は可愛すぎる

 リビングには誰も居なかった。

 どうやらまだ支度中ならしい。



 ぼすんっ。

 と、ソファーに座りスマホをいじりながら彼女を待つ。

 散歩って...どこ行きたいんだろ...。



「お待たせしました」

 ボブショートのような女子では短めな、男子では長めの髪に黒の帽子。

 黒のシルエットパンツにグレーのパーカー、その裾から少しはみ出した白Tシャツ。全体を黒とグレーで統一させた格好いいメンズライクコーデ。

 男性を連想させるようなメンズライク系のファッションは、いつものゆるふわで可愛い愛莉を連想させるものはほとんど取っ払われている。







 ......。

 やはり、何度見てもあんなに可愛い女子を男に変装させるのは勿体無いな...。

 どこからどう見ても美男子にしか見えない。





「?」

 行こ?

 本人はそれほど男装する事に抵抗が無いらしく、さっさと散歩に行こうと催促される。

「はいはい」

 俺も気にしない......、気にならない...... 。

 生足が見えなくたって彼女は彼女。

 これは俺の宿命なんだ。





 ■■■■■

「んー。気持ちいいですね」

 突然、散歩をしようと言い出した彼女。

 ただ、特に行きたい所も無かったらしく、ただぶらぶら出来たら良いと言う。




 で、結局、近所の森林公園が選択された。

 昔、小さな自然の山を一つ刈り上げ、遊歩道を整備したウォーキングコース。

 最近、隣町に大きなハイキングコースが出来てからは人の往来が少なくなったが、どちらかと言うと、今のほうが静かで、空気が良く、趣を感じられる。

 まさに、廃れ山の穴場みたいなところ。

 人が少ないからこそ、安心してリラックスできると言うものだ。

 俺もたまに、一人で考えたい事があるときとか、気分を一掃したいときなんかによく来ている。


 愛莉も似たような感じだ。

 お互い、小さな山の小さな森林公園の数少ない常連と言うわけだ。




「こーくん!」

 深めに黒の帽子を被った愛莉は俺の名前を呼び、森の空気を胸いっぱいに吸い込んで見せた。




 今は4月9日。

 入学式を近日に控えた平地では、桜が満開の準備をしていたが、山地はそんな気遣いなくマイペースを貫くのか、山桜の蕾はまだ閉じたままだ。

 この感じだと、山が桃色に色づくのは1週間くらい先だな。




 遊歩道と言っても人が歩ける道があるというだけで、コンクリートで均したりと整地されている訳ではない。

 水分を含んだ土が運動靴に少しまとわりつく。

 汚れるから嫌だと言ってしまえばそれでお終いだが、毎回俺はそうは思わない。

 てか、思えない。

 山から下界を見下ろす景色が最高だからだ。



 あれだけ大きな俺の屋敷でも、一駅挟んだこの山から見下ろせば、あんなに小さく見える。

 なんか世の中、ちっぽけだなって....そう思わせてくれる。

 俺の精神安定剤の一つでもある。





「みてください!こーくん!!」

 まぁ、一番の俺の精神安定剤は愛莉こいつだけどな。




 俺は男装のせいで揺れることを忘れてしまったミルク髪の愛莉へとゆっくりと近寄ったのだった。



「みてください!こーくん!!」

 まぁ、一番の俺の精神安定剤は愛莉こいつだけどな。




 俺は男装のせいで揺れることを忘れてしまったミルク髪の愛莉へとゆっくりと近寄ったのだった。




 ■■■■■

「見てください。ほら」

 そう呼ぶ声に引かれ振り返ると、愛莉さんは遊歩道の脇に生えている草を指し示していた。



 彼女の指の先にある植物。

 ギリシャ神話の月の女神、アルテミスが名付けた植物であるArtemisia princeps Pampaniniであった。古代より婦人科薬として使用されてきた。傷に揉んで張り付ければ良いって年配の人は言う万能草。草丈60~120 cmで根茎が横走し、茎は地表面で分かれ縮毛がある。葉は互生で、6~12 cmほど。

 日本では多くの人はよもぎと呼んでいる。

 よもぎと言えば、俺は草団子が一番に脳裏を過ぎる。


 が、彼女はそうではないようだ。

よもぎだな」

 5月ぐらいが成長のピークなのに結構いっぱい生えているな。

 最近暖かかったから?


 俺がそう返事をすると、彼女は少し気取って言った。



よもぎの花言葉って知ってますか?」

「花言葉?」

 その単語に俺はピンとこなかった。

 人間が声帯を震わせ会話をするように、花、植物にもそんな機能があるのだろうか?

 初耳だ。



「ぶぶー。こーくん、知らないんですね。愛莉は知っています。だから、特別に教えてあげます!」



 そう言って、ふんふんと意気揚々に花言葉についての講義が始まった。



 ■■■■■

「なるほどな。要は色々な花に、その特質などによって象徴的な意味を持たせたものってことか」

 理解した。




「それでね、よもぎの花言葉は幸福 、平和、 平穏、 静穏、 夫婦愛、 決して離れないなんですよ?」

 幸福、夫婦愛、決して離れない....か....。


「いい言葉だと思いませんか?」



 ああ。そうだな。


「私たちもよもぎみたいになりたいですね」

 ふふふと照れたように笑っていた。



「ひゃ!」

 愛莉が素頓狂な声をあげた。



 な?!

 え?

 は?




 俺自身が一番驚いた。

 誰かに憑依されたのかレベル。

 愛莉の可愛い顔に酔わされたのか、何故か体が勝手に動いた。

 気づけば、彼女のびっくりした顔の上に手を置き、ぽんぽんと赤子をあやすように頭を撫でていた。



「び、びっくりしました」

「す、すまん」

 俺はまだ感触の残っている手を慌ててどかすと彼女に背を向け、必死で羞恥と戦った。



 ど、どうしちまったんだ!俺!!

 いままで、彼女に言われたらするくらいのスキンシップを自分からしてしまうなんて.....。

 くぉっ。




 でも、風呂上がりじゃない彼女の髪は、こんな感じなんだな。


 すっげ。

 めちゃくちゃふさふさ。




 やべぇ。

 マジ、、語彙力皆無。




 俺は隠しきれない高揚感を全身に感じていた。






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