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7話 愛莉の家で.....

 ーピピピ

 ーピピッピピピ

 ーピピピ

 休日の起床時間には早い6時、スマホにセットしたアラームが遠くで鳴っている。

 そろそろ起きないとな....。

 俺はゆっくりと目を開けた。



 真っ白の壁に淡い明かりの常夜灯。

 カーテンの隙間から射し込む朝日は春休みが始まった頃とは違い随分明るくなっていた。

 見て分かるようにここは伊世早《俺の》の屋敷《家》ではない。

 9畳くらいある井勢谷家の客室。

 その客室の簡易ベッドに俺は寝ていた。





 玄関のすぐ隣にあるこの部屋の本棚は、いつの間にか俺好みの本ばかりが並んでいた。

 この部屋で寝る事にも随分慣れてしまった。

 良いのか悪いのか.....。



 俺はベッドから起き上がり布団を整えると、家から持ってきたエナメルバッグの中から今日着る服を取り出す。

 まぁ、私服をそこまで持ってないからいつもの黒ジーンズに淡い白色のカラーシャツだけどな。

 この格好なら外出るときマウンテンパーカ羽織れば楽だから。

 寝間着として着ていたスウェットを脱ぐ。





 着替え終わるとそっと扉を開けた。

 冬間ほどではないがまだ朝は冷え込んでいる。

 俺が一番起きだったようで冷たい廊下はまだ、薄暗かった。

 洗面所で顔を洗うため彼女の部屋に前を静かに通る。





 ここは井勢谷家。

 しかし、彼女の両親は今、住んでない。

 彼女の両親は海外で仕事をする事が多いからだ。

 そのため、仕事先のヨーロッパに家を借りそこを本拠地としているらしい。

 年に1、2回、ここに帰ってくるぐらい。

 俺はまだ会った事は無い。


 つまり、ここまでグダグダ話して何が言いたいのか...。

 それは....。

 実質彼女は独り暮らしをしているのである。と言う事。

 そして、今、俺はそんな彼女と2人っきりで寝食を共にしていると言う。



 よし。やるか。

 昨日は、偶々彼女のほうが帰りが早かったが、この家に俺がお邪魔する時は大抵、いつもの合鍵で入り勝手に台所を使い、飯を作る。

 料理当番とでも言うのだろうか?




 仕事帰りの彼女に喜んで欲しい、そう思って料理を作るのが楽しい。勿論、2人で台所に立つのはもっと味わい深いけどな。





 俺は独り暮らしにしては大きすぎる家庭要冷蔵庫の中身をチェックする。


 ウインナー、ハム、納豆、水、水菜、大根、白菜、ベーコン、油あげ、鶏むね肉、人参、豆腐、卵、味噌。




 ふむ。








 そーいやぁ、昨日の味噌汁残ってたから温め直さなくちゃな。





 ■■■■■

 言ったと思うけど、俺の父は5代目伊世早組のかしら、伊世早厳正。

 家は純和風の馬鹿でかい屋敷。

 日本文化を大切にする家柄に生まれたせいか、日本人としての性なのか、俺は和食が好きだ。

 そりゃぁ、偶に食べるパスタとか中華は美味いけどなんか堅苦しくて素っ気ない味が拭えない。

 かと言って、アメリカンなジャンク・フードも美味しけど毎日は無理だ。偶に食べるから美味しい、彼らはそんな位置づけの食べ物だ。

 和食は食べていたらホッとする。

 肩の荷が下りる柔らかい優しい味がする。


 和食がユネスコの世界無形文化遺産に登録されたんだろ?

 和食は体にも良いし。

 すげぇじゃん?



 ちなみに、俺の好物は鯖や鰯とかの煮付け。

 魚の煮付けしか勝たねぇ。

 魚独特の青臭い臭いが嫌いだって言う人もいるけど、まぁ、一回騙されたと思って食ってみ?

 俺からのアドバイスはそれだけ。



 愛莉あいつはご飯よりも甘いものが好きなようだがご飯はいっぱい食べなきゃな。

 俺はチラリと時計を見る。

 時刻は7時半。

 休日と平日、そこまで睡眠時間が変わったりする事はあまりない。

 だけど、今日の彼女はなかなか起きてこなかった。

 やはり、春休みのスケジュールがハードだったせいで随分疲れが溜まっているのだろう。

 寝かせてあげよう。

 起きてくるまで待つ事にした。






■■■■■


 今日は2人ともoff。休み。

 1日だらだらと過ごす予定。

 だから、彼女がいつ起きてきても良いように温めやすい料理にしよう。




 俺は彼女の事を考えながら洗った白米を入れた土鍋をコンロにかけた。

 魚を焼く。

 今日は鮭の塩焼き。

 皮を下にしてフライパンに並べる。



 そして、昨日、彼女が作りすぎて残ってしまった『えのきとひじきの味噌汁』を温める。

 これで3つあるコンロ全てが埋まってしまった。




 温め終わった味噌汁を保温鍋に入れておく。


 新しい雪平鍋に水で戻した干し大根を入れ、中火にかける。

 細く刻んだ人参も一緒に煮詰め箸休めの『切り干し大根』を作る。

 ピーピー

 10分にセットしたタイマーが鳴り、お米を炊いている土鍋の火を切る。

 飯は後、蒸らすだけ。




 ■■■■■

 バタン。

 パタパタ。

 切り干し大根に味が染み込んできた頃、扉を開け閉めし、水回りを行き来する音が聞こえてきた。

 どうやらこの家の主が目を覚まされたようだ。




「ごめん!!!おはようございます!!」

「おはよう」

 俺は、寝坊しちゃったよぉ〜と慌てている彼女に挨拶をする。



 細くてさらさらしたミディアムヘア、肩ギリギリの高さでふわふわなびいている彼女の髪型が俺は好きだ。

 しかし、今日は.............。

「ねぐせ.............」

 俺は人差し指で彼女の前髪に触れた。



 少しハネている髪の束。

 ふさっと触る。

 手を離すとぴょんと髪が踊った。

「え?どこ?」


 彼女はアタアタして前髪を探る。

 ふさっ。

「ここ」

 ぴょん。

 ふさっ。

 ぴょん。

「うわぁ。ほんとだ!直してくる」

 俺は窓を使って彼女の姿を写して見せると慌てて洗面台の方へ戻っていった。




 ふっ。

 あのまま寝癖言わなかったら良かった。

 可愛かったし。



 少し後悔しないでもない。

 それでも俺は朝からほっこりするにやけが止まらなかった。





 ■■■■■

 また2人で手を合わせる。



「「いただきます」」





 俺は少しの間彼女を観察することにした。

 ご飯、味噌汁、大皿にはレタスの上に焼き鮭とだし巻き卵、小鉢には切り干し大根。

 さあ、どれから食べる?




 味噌汁からだった。

 丁寧にお汁茶碗を口元へ運ぶ。

 熱いのかそろりとお碗を傾けた。


『あちっ』

 ふぅー、ふぅー。


 そう小さく眉を寄せながらこわごわ一口すすると一気に彼女の纏う雰囲気がぽわぽわとなった。

「はぁ~。やっぱり、こーくんが作る朝ご飯、すっごくおいしいです」

 体に染みわたるよぉ。

 ぬへ〜と椅子の背もたれに寄りかかった。




 その様子があまりにも仕事帰りにビールを一気飲みした中年男性に見えて思わず、

「おっさんかよ」

 と突っ込んでしまった。



「いいのです。いいのです。今はカメラ回ってないし、こーくんしか私の事みてないもん」

 ここは井勢谷愛莉の秘密基地です。

 こーくんと2人きりの特別な空間です。

 だから何してもおっけーなのです!



 えへへへへ。

 普段、自分の素顔を隠しがちな彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめた。



「ふっ。そうだな。ここには俺たちしかいない」


 今日は普段頑張っている、いや、頑張りすぎている彼女を思う存分甘やかそうと思った。



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