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5話 お家でイチャイチャ

 ■■■■■

 今日も昼過ぎまで仕事だったはずなのに....。

 旬の野菜を組み合わせた手料理が並んでいた。

 随分と前から仕込みを頑張っていたのだろうか。

 料理は俺がするから休んどけば良いものを.....。


「なんか手伝うものあるか?」

 キッチンを覗くと押し戻された。

「大丈夫。もう出来てるから。こーくんは先に座っててください」

 どうやら彼女の言う通りらしい。

 キッチンまわり、大理石の天板や流しは綺麗に片付いている。リビングに行くともう既にテーブルの上には食器が並べられていた。



 忙しいのに、ありがとな。



 いいの。私がしたかっただけだから。


 俺は彼女に敬意をはらいながらいつもの席へ座る。

 4人がけの四角いダイニングテーブルの左側。

 後には街全体を見下ろせるぐらいの高層マンションならではのデカい窓。

 ここが俺の基本席。





 俺は椅子に座り、後ろ髪をゆさゆささせながらキッチンに立っている彼女の後ろ姿をこれでもかというほど堪能させてもらった。






「お待たせしました」


 そう言って先に席に着いていた俺の向かいに少々遅れて彼女が腰をおろした。









 ■■■■■





「「いただきます」」

 自然と声が揃った。

 俺は彼女の作った料理たちに丁寧に手を合わせた。



「ん~~」

 お茶碗を持ち一口ご飯を頬張った彼女が肩の力を脱力させると同時にリラックスしきったハミングのような噛み締めるような声を出した。


「たけのこご飯美味しいです〜」

 食べたかったんだ。

 春が旬だからね。


 口の中をもきゅもきゅさせ、旬の食材を幸せそうに味わっている。




 俺もたけのこご飯食べよ。

 俺は同じものを口にしようとお椀に手をかけた。



 じーー。

 ん?


 向かい席からいつも以上に視線を感じる。

“どう?美味しいですか?”

“口に合いますか?”

 そう訴えている目だ。

 箸を止めて俺の動作を見届けようと瞳をパシパシと瞬かせている。



 彼女自身忙しい身。

 毎日包丁を握れる訳ではないため、少し料理の腕前に不安があるのか、へたっと眉を伏せ恐る恐る伺ってくる。



 そんな心配は無用だ。

 ご飯を口に中に放り込む。

 たけのこ、人参、ぜんまいわらび、油揚げ。

 口の中に春が広がる。


 もう一口追加。

 ご飯の中央に添えてある山椒の葉と一緒に食べると、また違った大人な感じにご飯を絶妙に引き締める。


「ん。美味い」

 3口目を放り込んだ後、俺は噛み締めるように呟いた。

 息を止めていたのか一気に吐き出す音がした。

「良かったです。たけのこ料理初めてだったし、うまく出来てるか心配だったから」

 こーくんに美味しいって言ってもらえて良かったです。

 彼女は、朗らかな笑みを浮かべて味噌汁を一口啜った。

「確かに、たけのこのアク抜き難しいって言うな。でも、全然渋くない。むしろちょっと甘い。おいしい」

 俺はすぐにもう一口、口に運ぶ。

「へへ。嬉しい。このたけのこ、マネージャーさんの実家のなんです。アク抜きのやり方も教えてくれて.....」

 こーくんに喜んで欲しくて頑張ったのです!

 彼女は敬礼するように、ビシッと背筋を伸ばして笑った。



 ......。

 コホン。

 これどうすれば良い?

 とにかく可愛い。

 可愛すぎる。

 久し振りだからか、俺、感情の抑え方が分からない。

 今日は彼女の仕草に翻弄される。


 エプロン姿なのに、ただ飯食ってるだけなのに、結った髪が揺れただけなのに、彼女と目が合うだけなのに、俺は幸せに溺れ死ぬかと思った。


 彼女との全ての行動、空間が愛おしい。





 このままじゃ駄目だ。


 慌てて小鉢を手に取り、口の中に放り込んだ。



 ん。

「この菜花の和物もかつお節が効いてて美味い」


 そう言うと、今度は自信有り気なドヤ顔をしてきた。



「この菜花の和物あえものもかつお節が効いてて美味い」


 そう言うと、今度は自信有り気なドヤ顔をしてきた。

「それは、この前の料理番組で教えてもらったものですね」

 だから味は保証出来る。

 美味しいはずです。

 自信があるのか胸を張って、にきゃっと笑った。


 今日も彼女は色々な表情で俺を魅せる。



 ■■■■■







 一旦イチャつくのを止めて黙々とご飯を平らげていた。

「あ、ほっぺにご飯粒付いてる」

 突然、彼女は、そんな事を教えてくれた。

「あ?」

 昔、結構しつけられて、食べ方は綺麗な方だと思っていたが.....。

 今日は美味しくて一心不乱で食べてたから行儀良く出来ていたかは気にして無かった。

 俺は彼女の言うご飯粒を左手で擦るように探した。





「私が取ってあげる」

 彼女の言うご飯粒が見つからないまま顎らへんをスリスリしていたら、彼女がテーブルから身を乗り出し俺の首筋に手を入れてきた。

 皮膚から感じる彼女の手はスベスベしていて何の抵抗も感じない。

 温かい、それだけ。


「つっ.....」

 不意打ちすぎて変な声が漏れる。

 この状況、どうしたらいい?(本日2回目)


 分からず固まっていると、

「......なーんて」

 ご飯粒、どこにも付いてないよ。

 そう言ってぱっと手を離した。

「嘘かよ」

 俺は凝り固まった体を脱力させる。

「ちょっとは、どきってしましたか?」

 なんかこんなのしてみたくなったんだ。

 テレビとか漫画でよくあるでしょ?



 ご飯粒取ってあげるよっていうシチュエーション。

 彼女は必死に説明をしている。




 どうやらそれをやりたくなったらしい。




 いきなり不思議ちゃんになった愛莉さんは、自分で意味不明な唐突行動をしたくせに頬を赤らめていた。

「やる側が顔を真っ赤にしてどうするんだよ」

 俺より照れている彼女に突っ込む。

「実際やってみたら、思ったより恥ずかしかったのぉ」


 こーくんの顔が近いんだもん。

 えへへ。

 顔の熱を冷まそうと両手でぱたぱたと扇いでいた。







 はぁ。

 可愛すぎでしょ。

 俺はニヤける顔を彼女に見つからないように顔を背けながら心の中で大きな溜息をついていた。






 ■■■■■

 俺の知る彼女は天然だ。

 テレビとかでは、美しい容姿に演技力を兼ね備えた逸材だと騒がれたりしているが、そんな演技派女優の片鱗はどこからも感じ取れない。

 むしろ、ぽわぽわした掴み所の無い空気をまとっている不思議系だ。


 これで本当にドラマの収録現場できびきび動いているのかと疑いたくなる。







 ふと気が付けば、愛莉は箸を止めこちらを見ていた。

 ふっと目が合う。



 ......。

 へらっ。

「こーくん可愛い」

 じっと見つめてくるから何かと思えば、そんな事を言われた。





 はぁ。

 そんな君が一番可愛いんだけどな。




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