1話 俺には隠し事がある
久し振りになろうで投稿していこうと思います。よろしくお願いします!
高2になる前の春休み。
バドミントン部の練習終わり、友達とコンビニで食い物を買って公園のベンチで暇を潰していた。
突然....。
「康介〜。
高校生になったら皆、かっぷるっていうの作らなきゃいけねぇのか?」
同じバドミントン部であり、幼稚園からの腐れ縁である新城虎雅が、飲み終わったりんごジュースのパックを潰しながら聞いてきた。
「いきなりなんだよ。誰に言われたんだ?」
虎雅は馬鹿正直でよく人の話に流されるから......。
今回はいったい何を吹き込まれたんだよ。
俺は薄っすら目で虎雅を見返す。
「別に....。
誰にも何も言われてねぇけど...。
これみよがしにカップルが教室とか屋上で抱きしめ合ったり、弁当一緒に食ってたりするだろ?」
こうやってあ~んとかしてさ。と、虎雅は潰したパックをスプーンに見立ててジェスチャーで器用に教えてくれた。
どうやら、校内で見かける所謂バカップルと言う人種の事を言っているようだ。
彼らは、触れ合うという事で直接愛を感じ合う事しか知らない。
階段の踊り場で所謂、壁ドンをし男が彼女を隠すように口元へ甘い唇を近付けている。
頭隠して尻隠さず......、違う意味で言い得て妙だ。
他人に愛情表現を見せつける事で自分達が熱愛している優越感を感じ関係を確かめ合う。
別に一緒に居られなくても愛を感じる事がある事を彼らは知らない。
俺の、俺達のリア充爆発出来ない日陰の男の嫉妬かもしれないから、聴き流してくれて構わないけれど、俺は思う。
彼らは、ある意味損をしていると.....。
「まぁ、確かに。
よくあんな恥ずかしい事人前で出来るなって思う事はある」
ぼんやりと思う。
と俺は同意を求めるような阿呆面をこちらに向けている虎雅に伝えた。
「だろ?
別にイチャつくなとか言いたい訳じゃないけど、2人っきりの時に、誰も見てない場所でコソコソしてくれって」
虎雅は、見てるこっちが恥ずかしくて目のやり場に困る.....と頭を抱えていた。
ただ、俺と虎雅の考えは少し違う気がする。
別に彼らは好きで公の場でいちゃついてる訳じゃない。
お互い愛し合いすぎて我慢できず、見境がなくなっているだけだ。
おそらく、ふと我に返った時、自分達の行動に恥ずかしさを抱いているだろう。
「でも、ま、虎雅も彼女出来たら、少しは彼らの気持ちが分かったりするんじゃないのか?」
好きな奴とは四六時中一緒にいたいし、ずっと眺めていても飽きないものだぞ。
俺は、虎雅に助言する。
ただ、どうやら言葉の言い回しが虎雅に引っかかったらしい。
「《《俺も》》!ってなんだよ!お前だって彼女いないだろ!は!!まさか!俺の知らないうちに康介、彼女出来たとか!?」
康介も、かっぷるになったのか?
はっ!!
だから今日、康介コンビニでアップルパイと
りんごジュース奢ってくれたとか....?
食したパックと俺を交互に見て挙動不審にする。
虎雅は俺の言葉を深く考え過ぎたらしい。
口が滑った。
勘違い、誤解を解く事にする。
「なわけ。俺もいねぇよ。深読みするな。昨日給料日。そのお金をお前に使っただけだ」
別に嘘は言ってない。
あるバイトの給料日だったのは本当だ。
俺がそう肯定すると、虎雅は父さんを持ち出してきた。
「組長の息子がバイトとか..。厳正さんに言えばたんまりお金くれそうなのに」
伊世早組って日本を代表する裏社会のボスじゃん?
幹部、それも頭ってそれなりに金持ってんだろ?
「裏社会のボスとか人聞きの悪い事言うなし。伊世早は健全な社会秩序を守るために裏でしか生きれない人々を更生する機関だ。マフィアとか暴走族、暴力団とかの荒っぽい族と一緒にするな」
「へいへい。伊世早は社会の裏と表を取持つ仲介社」
虎雅は聞き飽きたと言うように手を振った。
別に、言わせた訳じゃないから。
伊世早が慈善活動してるのは本当だし。
つーか。
「別に金儲けじゃなくても、バイトは社会経験積めるだろ?」
親父に金をせがんで『何に使う?』と毎回とやかく言われるのは面倒だ。
自分で自由に使えるお金は持っていたほうが何かと便利だ。
スマホを見れば、デジタル時計が19:45になっていた。
そろそろ帰ろう。
「それより、もうすぐ20時だ。帰るぞ」
俺は虎雅に帰宅を促し、目と鼻に先にあるお互いの家へ帰るべく重い腰を上げたのだった。
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公園前の坂を少し登った場所、この街を一望出来る丘の上。
そこに俺の家はある。
大正時代からの趣のあるデカい屋敷は、《《The日本》》と言う風体の白壁黒瓦。
裏口として使われる薬医門。
門柱の後ろに控柱が2本設けられた門を自分で開けた。
「若、お帰りなさいませ」
人目につかないよう、わざわざ帰宅時間を遅くしギリギリまで粘って裏門を開けたのに数人の黒ずくめの男たちが俺を見つけ頭を下げてくる。
「お帰りなさいませ」
頬に傷、グラサンそれはもう色々な人がいる。
悪い奴らではないがガラが悪いのは認める。
あれだけ俺に気を遣うなと言っておいたのに義理堅い奴らが多い。
仕方ない。
別に無視して素通りし、後々関係をこじらせるほどでもない。
ここは大人の対応。
「ただいま」
俺は彼らに一言告げると庭を突っ切って本家の屋敷へ向かう。
玄関を開けると今から外出する人と鉢合わせした。
「おう。今日も遅かったのう。部活忙しいんじゃのぅ」
の着物に羽織姿の伊世早組5代目頭主は俺の背中にかけたバドミントンラケットが入ったバッグを見て唸っていた。
今日は体育館使えない日でロードワークだけだった。
だから随分早く終わっていた.............。
と言うことは口にせず父親に尋ねる。
「親父はこれから遊びに行くのか?」
「なに。ちょいとな」
紬と呼ばれる『織り』の着物の袖をピシッと引っ張って見せると付き人を2人ほど引き連れ出掛けていった。
親父.............。
70歳の良い年した大人のウィンクは思うとこあるぞ.............。
そう突っ込みたかったが止めておいた。
きっと夜勤で朝まで働く母親に自作の夜食弁当を届けに行くのだろう。
父と母の歳のさが30もあるのにも関わらず、まだピチピチ青春、ホヤホヤ新婚のような気分、オーラを纏った両親。
実の親ながら脱帽である。
父は5代目、伊世早組現頭主、伊世早厳正。
母は一般人。
都内の大学病院で内科医をやっている。
専門は血液内科らしい。
そんな大分珍しい家系に産まれてしまったのが俺、伊世早康介。
組長の息子だと言うと大抵は寄り付かない。
それでも俺は今を幸せに生きている方だと思う。
俺は、夕飯は?と尋ねてきたお手伝いさんに「食べてきたからいらない」と伝え自室へ戻った。
元々畳だった和室を無理やりフローリングにした8畳ほどの部屋。
ベッドと机、テレビにクローゼット。
必要最低限の家具だけを揃えたシンプルベースの普通の男部屋。
変わっているとこと言えば部屋の壁半分を覆い囲っている本棚に詰まった大量の本ぐらいだ。
スクール鞄を定位置におろし、部屋着に着替えながら制服のポケットからスマホを取り出し開いた。
夜用のリラックスビューの淡い灯りを放つスマホの画面が写る。
-19時57分。通知1件。
-マリさんがスタンプを送信しました。
俺は迷わずタップした。
セミロングヘアの女の子のミニゆるキャラスタンプが『頑張ってくる!』と拳を斜め上に突き上げてぴょんと跳んでいた。
ふっ。
スタンプが送り主のイメージと同じ雰囲気すぎて気付けば口元が緩んでいた。
20時になるし、もう既読は付かないな.............。
そう知りながらも、『がんば』と返事を返した。
20時。
部屋にある19インチの小型液晶テレビの電源を入れた。
勉強用の丸机とベッドの間に座り、ベッドに背を預けテレビの真正面を陣取る。
CM数本我慢すると、やっと番組が始まった。
『さぁ!!今月もやって来ました!歌で人を笑顔にする歌コン!!!本日も数多くのアーティストさんと盛り上がってまいります!本日は東都総合アリーナの大ホールから生放送でお届け致しまーーす!!』
私、総合司会を務めます。
テレビアナウンサーの松本和彦です。よろしくお願いします。
スーツ姿に似合わないハイテンションなオープニングから番組が始まった。
オープニング曲が終わり、司会者へアングルが切り替わると、先ほどのアナウンサーの横に2人の男女が現れた。
『今日、司会を担当します。男子アイドルグループ『ほわいと♡』のリーダー、高島大和です』
よろしくお願いします。
髪の毛をワンポイント葡萄色に染めた青年が慣れた仕草でお辞儀をすると、会場に来ている観客がわっと騒めいた。
黄色い声が耳を劈く。
この反応だけでも彼の人気度は説明するまでもないだろう。
『同じく、司会を務めます。女優の井勢谷愛莉です。よろしくお願いします』
ピンクの大人っぽいフレアスカートに黒のレーストップス。
ドレッシーな服装が彼女のセミロングヘアをより一層際立てている。
井勢谷愛莉は両手でマイクを大切そうに握りしめ、カメラの前に現れた。
『井勢谷さんは歌コンの司会、今回が初めてということで緊張されていますか?』
アナウンサーの松本さんがセミロングヘアの彼女に尋ねる。
『そうですね。楽屋でも緊張していたんですけど、今はもっと、すっごく緊張してマイクを持つ手がガチガチです。でも、皆さんに元気をお届け出来るよう頑張っていこうと思います‼』
不覚にも、その瞳はカメラの真正面を捉えていて、画面越しに観ている俺はまるで彼女と目が合ったのではと少しドキッとしてしまった。
がんば。
『それでは、本日最初に歌ってくれるのはこのグループ!超人気、二人組男性アイドル『Cerry`s』です!』
俺は遠すぎて傍で背中を支えてやれない彼女の姿をテレビの電波に乗せ心の中で応援する。
別にこれ、イタイ人じゃないからな。
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