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アップルさんとの出会い

気が付いたらブックマークがついておりました。

本当にありがとうございます!更新の励みになります。

嬉しい……

「王となる覚悟はあるか」


 ローズマリー様の言葉にセージが慌てている。


「お、王っ!?カモミールが?」

「そうだ。お前にはその権利がある。充分にな」


 私は答えられず、ただ俯く。この五年の旅で少しずつわかってきたこと。帝都に行って唯一会えた魔女から聞いたこと。それを思い出していた。



「あなた、とても大変な魂を持っているのね。自分で知っているの?あら……瞳の色、変えてるのね」


 何個かの町や村を巡ったあと帝都にたどり着き、そこで精霊に詳しそうな人や古い歴史、私のおかしな体質について知っていそうな人を探してまわっていた。そしてあるご老人からこの帝都の町に唯一いる魔女の家がどのあたりかを聞いて周辺までやっと来たときのことだった。それはこの旅の開始から四年が経過していた。

 ある家の庭先にある薬草を摘んでいる女性が私を見ると驚いて話しかけてきたのだ。


「あなたがこの町の魔女ですか?」

「そうよ。あなたはどこから来たの?」

「……国外れの森、ローズマリー様のところから」

「ローズマリーの?まさか娘さんなの?」

「いいえまさか。私、自分について何も知らなくて。帝都に行って世の中を、そして自分の魂の種類をしっかりと理解してくるように言われました」

「そう……立ち話じゃなんだから、入って」


 そう言われて彼女の家にしばらくお世話になることになった。


 帝都の魔女はアップルと名乗り、ローズマリー様の同期だと教えてくれた。赤毛でそばかすのある色白の肌、愛嬌があって可愛らしい姿の人だ。


「同期……?」


 魔法学校でもあるのだろうか。ローズマリー様がそんなところ出身だったとは初めて聞いたと思っていると、やれやれとため息をつく声が聞こえ、アップルさんが教えてくれた。


「あの子ったら何も教えてないのね。魔法使いは精霊と契約を交わしたら王に謁見するの。一年から数年に一回あるわ。そこで国の魔法使いとして正式に登録をすることになっているのよ。勿論、登録をしない人もいるけれどね」


 国家公務員みたいなものなのだろうか。


「もう大分前だけどね。その年は魔法使いが三人もいたのよ。そんな年はなかったと聞いているわ。数年で一人しかいないときもあるのに、珍しいことだって」

「そうだったんですか」

「その謁見のときにね。色々あったのよ。あの子のことだから、それも言ってないのでしょうね」

「ええ。何も。国王に謁見するシステムだってことも知りませんでした。精霊と契約できたらそれだけだと」

「そう。勿論、謁見して登録をしなくても魔法使いとしてやっていけるから、しない人もいるわね。でもローズマリーはちゃあんと、国から認められた魔女よ」


 それは初耳だった。はやり、国から認められるとお金がいいのだろうか。あのローズマリー様のことだから、それしか考えられない。しかし、そんなシステムがあることも、謁見で色々あったというのも全く聞いたことがなかった。


「何が、あったんですか?」

「……それはあの子が自分から話していないのなら、私は何も言えないわ。さすがに悪いもの」

「今まで教えてもらってないのなら、聞いても教えてくれるとは思えないですね」

「そんなことないわよ。どういういきさつでローズマリーのところにいたのかは知らないけれど、あなたには聞く権利があるはずよ」

「そうでしょうか」


 どこかのらりくらりとして、すぐ世の中金だとか言うあのお師匠様が私やセージに言っていないことはきっとたくさんあるのだろう。よく考えたらあの人自身がどういう育ち方をしたのかは、貧しかったこと以外は何も知らなかった。家族構成も、親しい友人や恋人がいたという話も聞かせてくれたことはない。いつもどこか壁をつくっていて、本心は誰にも言わない人に思えた。


「ところで、話は戻るけど。あなたは自身のその魂、どこまで理解しているのかしら?」


 アップルさんはそう言うと私の表情を窺った。それはうっかり私の知らない情報を漏らしてしまうことを恐れているかのように見えた。


「理解と言うか、漠然とです。私の目は元々紫でした」

「……でしょうね」

「ローズマリー様が、旅立つ前にこの色に変えたんです。初めは、ただ珍しくて目立つからだと思ってました。でも、この帝都に入って、精霊や魔女……あなたの居場所を探そうと情報収集をしているうちに……」


一瞬躊躇うが、アップルさんに目で促され続ける。


「王族の……王の子供の目は紫であると聞きました」

「ああ、それもあの子は伝えてなかったのね。それもこっちに来て知ったと」

「はい」

「相当嫌ってたものね。言えなかったのかしら」

「……?」

「こっちのこと。これ以上は怒られてしまうわ」

「今の王は堕ちてしまっていますよね。既に王の器ではないと」

「そうね。みんなが、代替わりを望んでいるわ。でも、堕ちる前に王妃だった大聖女は子を成すことができなかった。そのあと他の聖女や魔女にも手を出そうとしていたけど、みんな逃げ出していた。だから、あなたがいることに驚いたわ。しかも、あなたまだ若いわよね。そんな最近に、手を出された子がいたなんて」

「……」


 それもそうだ。まだ私は十六だ。堕ちてから数百年は堕落した生活をしていた王が、ほんの十六、七年前に誰かと子供を作っていたなんてなかなか想像しにくい。


「あ、もしかして、王はローズマリー様にも手を出そうとしてましたか?」


 あれだけの美女だ。女好きであれば間違いなく欲しがりそうな。だから嫌っていたという先程の話にも合点がいく。


「そうね。かなり、しつこくされていたわ。私はあの子と違って美人ではないから助かっちゃった。これでも悩んだこともあったけど、あの時だけは美人じゃないことを感謝したわ」


 やや自虐的に笑うアップルさんだったが、急に真面目な顔に戻って話を続ける。


「だから、あなたを育てていたこと、事情を言わずに自身で見て気付くようにしたことから考えると、あなたに次代の王になってもらいたいと思っているはずよ」

「私が、次の王に……」

「そう。あなたはみんなの希望よ」

「私が……」


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