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ローズマリーの話



「お前の生まれについて、わかったのか?」


 はじめ、セージがそう言ったのかと思った。

でも目の前のセージからじゃなく玄関から同じ声がして、見るとそこには小柄な人物が……


「師匠……?」

「……ローズマリー様!?」

「大きくなったな、カモミール」


 そう言うとその人は深くかぶっていたフードを脱いだ。現れたのは目の前にいるセージと同じ顔のそれは美しい女性。ローズマリー様本人である。マロンクリームのような光沢のある綺麗な髪、お人形のように均整の取れたスタイル。本物を見るとやはり中身がセージのものより各段と神々しい。


「ローズマリー様!どちらに行かれてたんですか!」


 駆け寄って思わず抱きつく。自分が大きくなったせいで昔のような感触ではないけれど、安心する体温。


「お前もすっかり年頃の娘さんだな。いつ戻ったんだ?」


 そう言いながら私の目に手をかざし、あるべき姿へ、と呟くと魔法解除の感触がする。恐らく瞳の色を戻してくれたのだろう。次いでセージの方に向き合い同じように解除の詠唱をする。


「セージよ。あるべき姿へ立ち戻れ」


 そう言うと現れたのは記憶の姿よりもはるかに大きく、大人へと成長したセージの姿。顔もすっかり大人びて可愛らしかった顔がすっかり男性のものとなっている。


「おお、この一年でまた少し成長したか?」

「……かも、しれませんね」

「……」


 美しい二人の姿に思わず見とれてしまって言葉が出ずにいると、ローズマリー様が再び私に向かって問いかける。


「お前の両親が誰か分かったか?」

「……父の見当はつきました。この紫の目を、ローズマリー様が隠した理由も」


 田舎の町にいた頃、この森にいた頃にはわからなかったこと。帝都で暮らしていると少しずつわかるようになった。紫の目も、善きもの悪しきもの全ての精霊を引きつける魂であることも、理由があることが。


「そうか。お前の見当は恐らく正しい。……母親についてはわかったか?」

「いいえ。それは、なにも。魔女か、聖女であったことくらいしか」


 帝都では当然母の情報などあるはずもなかった。メルトの町で聞けば出産前の母に会ったことがある人がいて、もっと詳しくわかったのかもしれないのに。そもそも、モリオンさん、ミヨシさんに会って詳しく聞いていれば。いい思い出すら嫌な思い出に上書きされた辛さから、足を踏み入れることを避けていたその町にも、これからちゃんと向き合わないといけないと感じた。


「そうか……」


 どこか含みのある言い方のローズマリー様。この人は最初から全て知っていたのかもしれない。


「知ってたんですか?」

「……大体な。その瞳を見たら、知っているものにはわかる」

「だから、初めて会った時に悲劇だなって言ったんですね」

「……そうだ」


 ふい、と目を逸らされながら肯定される。確かにローズマリー様は「これは珍しい魂だね。悲劇だな。これまできっと大変だっただろう」とはっきり言っていた。私の魂がどういう構成であるかも、わかっていた。


「どうして教えてくれなかったんですか」

「先に言ってしまうより、お前自身で世界を見て、その魂の成り立ちと、自身がどうあるべきかを考えられるようになって欲しかった」

「旅をしている間に堕ちてしまうことは心配されませんでした?」


 セージから加護を受けているから攻撃こそされないが甘い囁きは常について回っていた。私がそれに負けるとは思わなかった?


「共に暮らした二年で、そうならないように人として大切なことを教えたつもりだ。堕ちたらそれまでだ。しかし、お前の根本はしっかりしている。修道院で辛い目にあっていたようだが、小さい頃はしっかり愛情を貰っていたんだろう。その時代のことが礎となっている。いい人に育ててもらったな」

「……っ」


 お礼を言う前に亡くなってしまったミヨシさんを思うと涙が込み上げてくる。おばあちゃん。ごめんなさい。かけてもらった愛情を返さなくて、本当にごめんなさい。


「?」

「師匠、ちょっとその話は今置いといてもらっていいですか?あまりにタイミングが……」


 涙と鼻水を同時に出して仁王立ちする私を見てぎょっとしたセージが慌てて間に入ってくれる。


「セージ。お前もだ。お前が聖女であることを幼いうちに言わなかったのは同じ理由からだ」

「金のためじゃなかったんすか」

「……まあ、お前たちがワシの管理下でその力を発揮してくれれば必ずや利益になるとは思った」

「最低だ……」

「しかしセージよ。聖女は帝都の神殿の管理だ。お前を幼いうちからそこに入れていたらどうなっていたと思う。自由もなく飼い殺され、その思考すら奴らに支配され帝国の人形となっていただろうよ」

「それは、そうですね」

「今のあの王の元には聖女は残っていない。本来神官ではなく大聖女が次世代の聖女の育成、新たな聖女との契約を交わすんだ。あの王が自ら堕ちてからは神殿にいた聖女は全てあいつの元を去っている。残って形だけの儀式をしてるのは何の力も持たないただの神官だ」

「そうだったんですか?」

「そうだ。知らぬものも多いから、今も聖女の能力があるものが神殿を訪れては落胆しているだろう」

「そんな……」


 それなら、セージは今から神殿に行っても聖女となる契約はできないのだろうか?すると、その考えを読み取ったのかのようにローズマリー様が説明をする。


「契約だけならできる。儀式として神殿にある聖剣と、契約を交わす文言を王が言えば」

「それだとどこかマズイんですか?」

「本来は契約の前に一定期間大聖女が聖女としての能力の使い方をしっかりと教育する。本能で使っていた力も、理屈を知ることで大きな力と変えることができるようになるらしい。だから、その手順をすっとばすと大した聖女にはならない」

「俺、使い道のない存在なんじゃねえか……」

「まあそう言うな。世の中には知っていて神殿に行かずに民間でその力を使うのみの聖女や魔女も少なからずいるからな」

「そうなんですか!?」

「ああ。ただ、魔法使いは違うが聖女は契約はしないから魂は人間のままだ。寿命も」


 稀有な能力を持っていたとしても人として生きていった聖女もいるのだろうか。でも、もしかしたらいるのかもしれない。例えば共に生きたいと願った人がただの人だった場合。愛する人と同じ時を重ねることが出来ない魂を持っていると、いつまでも老いない自分と老いていくその人との差は広がるばかりで時の流れが無情に感じるだろう。そして、愛する人を見送り自分はその何倍もの時を生きて行かねばならない。

 そんなことはよくあったのだろうか。ローズマリー様も、自分の両親や家族を見送った過去があったはずであることを思ったが今は聞けるはずもなくただ黙って聞いていた。


「この五年、ワシは王の元を去った聖女たち、特に大聖女を探していた」

「え、それじゃあ」

「そうだ。ちゃんと見つけた。お前が望むなら、聖女として生きていくことができる」

「!でも、王が認めないとなれないんじゃ」


 そう言って首を傾げたセージをちらと見ながらローズマリー様は私に向き合った。


「カモミール。お前はどうだ」

「私……?」

「王となる覚悟はあるか」


 ローズマリーはカモミールに対しての一人称は「あたし」でありたいと思っていますが、基本は「ワシ」と言ってしまいます。美女なのに涙

 また、セージは顔と体格だけローズマリー、首から下はセージの身体でした。カモミールも再会当初「豊満だったお師匠様のおっぱいが平らになったように思ったけど、言ったら怒られると思って言えなかった」と言っていました。ローズマリーも年頃の男の子に女性の身体をつけるのは躊躇われたようですね。

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