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これから進む道

大変お待たせしました。

「わあ……すごい」


ローズマリー様とシオンという魔法使いの人が魔法で組み立てていく新しいお城は以前の近づきがたい雰囲気から一転してとても綺麗で新しく、シンプルな設計をしていた。


「あんな古臭い形はやめて、もっと実用的な形にしてやろう」

「……」

「その色はやめろよ、これからこの城の主になるのはあの子なんだ、もっとかわいらしい色にしろ」

「……」


シオンさんは無言でローズマリー様を見やると灰褐色だったレンガをあっという間に白亜色の明るいものに変化させた。


「私も土属性の魔法が使えるようになりたいな」

「あら、それなら新たに契約すればいいじゃない、王の器なら契約し放題なんだから」


お母さんがにっこり笑って私に言ってくれる。


「でも、ここまでの精度にするにはかなりの修業が必要ね」

「やっぱりそうなんだ」


先ほど私が炎を消すために使った初めての水魔法も、ただバケツの水をぶっかけたような粗末なものだった。一度やってみてわかったが、あれこれ修業しないと高度なものは使えないらしい。


「お姉ちゃんも、あのシオンさん?も、とっても精度が高くてよく洗練された魔力で建築しているわね。ただの魔法使いでは作れないものよ。きっと素敵なお城になると思うわ」

「ローズマリー様ってすごい魔法使いだったんだ」

「帝国魔女だからな、神殿で多少学んだし、熟練の魔女からも教えてもらった」


話が聞こえたのか、ローズマリー様が答える。


「本体はこんなもんで、庭もあった方がいいだろう?何の花にする?それにそのあたりに噴水とか作るか?ネロリ、やってくれるか」

「はあい」

「では俺が水路を」


お母さんが立ち上がり、何かブツブツ言うと遠くのほうで水柱があがった。


「あちらに地下水があります。あそこから水を引くようにするので、道を作ってもらえますか?」

「わかった」


シオンさんが地面を変化させ、綺麗な水路を作る。すると、そこに透き通った水が通り、あっという間に目の前に噴水があがった。


「やっぱり土台がいいと綺麗!ありがとうございます」

「いや……」


お母さんが可愛らしく微笑んでお礼を言うと、シオンさんは気まずそうに目を逸らせた。


「なんだその反応は。同じ姉妹でも扱いが全然違うじゃないか」

「当たり前だ。お前のような野蛮な女とは全然違う、普通の女性だろう」

「へぇ」


花畑を完成させたローズマリー様がシオンさんに絡む。


「てっきりネロリがタイプなんだと思ったが、違うのか?」

「し、失礼なことを言うな、この方は新王の母君なんだぞ!」

「あたしは伯母だけど?王の親族だぞ?」

「そ、そうか私、国王のお母さんなのね。国母ってやつなんだわ」


ニヤニヤするローズマリー様、赤面するシオンさん、目を輝かせるお母さん。


「私、お母さんなのよね。今のカモミールも可愛いけど、でも、赤ちゃんのカモミールももっと見たかった!ああ~残念!おっぱいあげたかったぁ~」

「おっ……!」


動揺するシオンさんを尻目にローズマリー様が言った。


「時間はまだまだあるんだ、お前は誰かと恋をして結婚してもいいんだから」

「えっ国母が再婚するなんて許されるのかな?あれ?そもそも私、結婚すらしてなかった!」

「あはは」


お母さんの天然な様子に私は耐えきれず爆笑してしまう。


「誰にも文句言わせないから。お母さんには、幸せになって欲しいな」

「カモミール!いい子ねえ」


ほぼ同じ身長のお母さんに抱きしめられ、頭をナデナデされる。不思議な感じだけれど、血の繋がりを感じて私はその温もりを心地よく感じていた。



夜になり、新しくなったお城の中にみんなが入る。お城仕えだったシオンさんのお陰で必要な部分は以前と同じ仕様にしてくれたらしく、王のもとに留まっていた数少ない側近たちの控室も再現されていた。


「部屋は多くあるし、今後もここで新王の補佐として残る者は気に入った場所に自分の部屋を決めたらいい」


シオンさんとローズマリー様がてきぱきと指示していく中、大聖女アリアナがその場に姿を現した。今までここにはいなかったので、きっと神殿に残っていたのだろう。


「アリアナ」

「全部やってくれたのね。新しいお城、住みやすそうね」

「アリアナも好きな部屋で過ごすといい」

「私はいいわ。神殿に戻るから」


大聖女アリアナが微笑むと、ローズマリー様が遠慮がちに口を開いた。


「……王は、神殿か?」

「ええ」


きっと亡骸は妻の手によって綺麗にされ、安置されているのだろう。


「それで……慣例だと帝国魔女、聖女たちの立会いのもと火葬になるんだけど……」

「した方がいいだろうな。籠っている奴らにも、王が変わったことを知らせないといけないし」

「……ありがとう」

「そこまで鬼じゃない」


ローズマリー様が少しだけ微笑み、目を逸らせた。


「帝国魔女と聖女の資料はあるから、知らせを送っておくか」


シオンさんがそう言って別の魔法使いを呼んだ。風の魔法を使うらしいその人が資料に手をかざすと一瞬文字が光り、周囲に離散した。


「ここに書いてある住所通りの場所に住んでいたら、知らせが届くはずです」

「ありがとう、助かるわ」



「はああ……今日は一日、長かった!」


セージとハイスルに出て、帰ったらローズマリー様がいなくて、大聖女アリアナとお城に行って、父である王と初めて会って……

気が付いたら王位を継承していて、精霊とも契約して。父は死に母は生き返り、怒涛のような一日だった。

セージはこの怒涛のような一日をどう思っただろう。状況が状況だけに、ほとんどセージと言葉を交わすことなく一日が終わっていってしまった。


(セージの部屋はここだったかな……)


今夜の寝場所となる部屋は私はお母さんの希望で同室になっていて、セージは特に同性の知り合いもいないため個室をもらっていた。

今後このお城に住むにあたっての部屋は明日以降決めていくだろう。

そう考えると、自分がここに住み続けるということが本当のことだというのが重くのしかかってくるようだ。


(あの、ローズマリー様の家にはもう帰れないのかな)


森のはずれのあの隠れ家。望めば訪問することは叶うかもしれない。けれども、あの場所はもう私の家ではない。


「はぁああ……」

「カモミール?」


セージの部屋のドアの前で盛大にため息をついたところで、後ろからセージに声をかけられる。セージは外出中だったようだ。


「どうした?眠れないか?」

「当たり前じゃない……こんな状況ですぐ寝れたらどういう神経してるのかと思うよ」

「まあ、そうだな」


ふ、と少しだけ笑みを漏らしたセージの顔を見て安心とか焦燥とかいろんな感情が押し寄せて心臓が締め付けられる。


「どっか、場所変えるか。さっきいい場所見つけたんだ」


セージが連れて来てくれたのは上階の見晴らしのいいベランダ。こんな場所まで建築されていたなんて、ローズマリー様もシオンという人も本当に凄い。


「……そういえば、あのお店でリースとか買わなくて良かったね。あの家に飾っても、もう帰れないんだから」


あれこれ不安がたくさんあって言いたいこともたくさんあるはずなのに、口から出たのはここに来る直前に二人で出掛けたハイスルでの町歩きのことだった。


「……買えばいいだろ」

「え?だって……」

「ここの、お前の部屋に飾れば?気に入ったもんは好きに飾ったらいいだろ。ここの主はお前なんだから」

「そっか……」

「そうだよ」


セージの言葉で心がふっと軽くなる。


「落ち着いたらあの店行こうぜ!あの店じゃなくても王都の中でもああいうの売ってそうだけど」

「でも、あのお店がいいな」

「そう言うと思った」

「それにメルトにも行きたいな。モリオンさんにも会いに行かなきゃ」

「……だな。俺も行くよ、足、治療してあげた方が良さそうだし」


モリオンさんにはメルトからのお客さんに言付けてポーションを渡してもらっているが、足が悪いなら根本を治療しないと痛みは繰り返すと、セージは言っていた。


「……明日からどうしよって思ってたけど、セージと話したら大丈夫かなって思えてきた」

「何とかなるって。頼れる大人も多いし、頼れるものは頼っていこうぜ。最初から完璧な奴なんていないんだしさ」

「うん。ありがと」


そう言った私を微笑んで見たセージはじゃあ、そろそろ戻るか。と言ってベランダから室内に入ろうとしたので私は後に続こうとした。


「ん?」

「……あ。」


振り返るセージ。自分の手元を見ると無意識にセージの手を引いて引き留めていて、それに気づいた私は慌てて離した。


「そんな事されたら帰り難いな」

「ごめ……っ、そういうつもりじゃなくて!」


自分の無意識が怖い。そう反省していたら急にセージに抱きしめられ圧迫感と温もりを感じて混乱する。


「そういうつもりじゃないのはちょっと寂しい、かも」

「え?えっ!?ご、」

「謝るなよ」


つい謝ろうとした私の言葉はセージに遮られる。抱きしめる腕の力がほんの少しだけ強くなり、私は自分の思いを彼に伝えた。


「ごめんは違うね。ありがとう、だね」

「ん」

「今までありがとう、と、これからも、よろしくね。……ずっと」

「おお。任せとけ」」


ずっと、だよ。私はセージの胸の匂いをすうっと吸い込むとそう心の中で呟いたのだった。


これにて完結です。

ここまでお読みくださりありがとうございました!


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