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ネロリの話 PART2

お久しぶりです。


(……身体が火照る。熱でもあるのかな?まさか王が新たな呪いを?)


呪いによって王から離れることが出来なくなって城暮らしをはじめてからひと月経つ前のことだった。

私は自身の身体の異変に気付くようになる。

王の呪いから身体が回復してからさほど経過していなかったのもありはじめはまだ体調が戻らないせいだと思っていたが、体温が上昇していることとそれまで美味しく感じていた城での食事が急に苦痛になった時、私は最悪の可能性が現実になったことを察知する。


(まさか)


王は跡継ぎが欲しいというようなことをと言っていた気がする。夜を共にしたのは一度だけだったからそんなことも忘れていたが、確かに王は跡継ぎを欲しがっていた。避妊はしていないだろう。

さあっと顔から血の気が失せる。

それは何とかして呪いを解除するかかいくぐる術を見つけてお姉ちゃんの元に帰る計画をたてようと思っていた私を打ちのめすには十分な事実だった。


大聖女アリアナとの間には授からなかった、という言い方をするぐらいだから大聖女とはある程度夫婦生活を送っていただろうに、何故彼女には授からずたった一度関係しただけの私が授かったのか。


(信じらんない!)


体調が優れないこともあり、私は与えられた部屋のベッドからしばらく動くことが出来ず自身の運命をただ呪っていた。


「お食事の用意が出来ました」

「今行きます……」


呼びに来た神官になんとかして返事をして部屋を出る。気付かれてはいけない。変わらない生活を送らねばならない。

老いた王と向き合い吐き気を堪えながら食事をするのはなかなか辛かった。


それから私はどうにかして王から逃れる術を考えた。幸い悪阻はそこまで酷くなく、食事以外の時間は動き回っても辛くはない。

あの王はどういうつもりでいるのだろう。私を城に留めておくということは妃にして子供を産ませることを考えているはずなのに、時間があるとはいえ食事を共にする以外に深く接触しようとしない王の様子に疑問を感じる。


(そんなことより)


まずはどうやってこの妊娠を隠し通すか、そして産むかだ。お姉ちゃんのように土属性であれば容姿をいじることは可能だったろうに、水属性ではそれができない。今までそれを不自由だと思ったことがないが今回ばかりは不自由だなと思う。

前回逃げ出した時に身体に限界が来たのは六日だった。四日目で鼻血が出るようになり、五日で吐血、六日目に命の危険を感じて城に戻った。恐らく七日目に死ぬのではないか。ということは、六日間は王から離れて動くことが出来る。


(それなら出産だけでもお城の外で……どこかに赤ちゃんのお世話が出来る人を確保しておいて、それから身体の限界が来たらお城に戻って回復次第また通っていけば、……出来る?ううん、やるしかない)


それから私は王や神官たちの目を盗んで城の外に出掛けるようになった。食事を共にしている以上時間内に出掛けられる範囲は限られる。何とかして王の目をくらませられる場所を探そうとしたがとても無理だった。


「……このところ毎日外出しているな」

「……!」


やはり王は気づいていた。咎められ、軟禁状態が厳しくなったら……思わず身を固くしたが、王が続けた言葉は意外なものだった。


「城暮らしは好ましくないか」

「え……?と。まあ、そうですね」

「解呪のために聖女や魔女を頼って出掛けているのかと思ったが、そうではないようだな」

「そ、そんなことしてません」

「わかってる。魔力とは繊細なものだ。他の魔力持ちと接触したらお前の魔力に微細な変化を感じるものだからな」

「……!」


知らなかった。誰もそんなことを教えてくれなかったし、私も感じたことなんて一度もなかった。まさか王の特殊能力なのだろうか。

そして同時に私は冷や汗をかくのを感じた。聖女や魔女に頼る。それは私も一番初めに考えたことだった。王が持っている呪いがどこかの悪魔のものだったとして、もし闇落ちした聖女や魔法使いがいてその解呪方法の手がかりを掴むことができたら、と考えていたのだ。

けれども私がこうして外出していることも王に気づかれていたら。協力者を探そうとしていることがわかると私への拘束を厳しくされる危険があると思い、まずは自分一人で身を隠して落ち着ける場所を、と判断したことがこうして身を救っていたのだと知り、私は安堵して話を合わせる。


「田舎の育ちなので私はそういう場所が恋しくなりますね」

「生憎だがこの呪いはどちらかが死ぬまで解呪できなくてな」

「……っ」


(なにそれ最悪)


「俺が一緒なら、田舎に滞在させてやれないこともない」

「えっ!?」


王の意外な提案にびっくりするが、私はこの王の目を欺いて出産するための場所を探しているだけであって、決して田舎にいたいからではない。そもそもこんな(じじい)と二人で田舎にいたって癒されるわけ……

そう思ったが私は王に提案した。


「なら、お城から離れた場所に家が欲しいです」


私が王に家を希望したのはオルトナという町だった。帝都から最も離れた貧しい田舎町である私の故郷、リオドの隣町である。

そしてオルトナで私は王にある頼みごとをした。


「この町は帝都から遠いですよね。私に、転移魔法を教えてもらえませんか?」


こんな好機、逃すことはできない。王とともにこのオルトナに滞在しておとなしく過ごし油断させる。その上で自分一人の時間もどうしても欲しいとごねたのだ。王は私の願いを聞き入れ先に城に帰り数日一人で滞在することができるようになるが、当然王と離れると命を失う呪いが発動する。

王は帝都から離れたオルトナから戻る移動時間が勿体ないだろうと、この家と城を繋ぐ転移魔法の魔法陣を用意してくれた。つまり私は最大限の時間を与えられたことになる。

そして私は頼み込んだ。自分も魔女の端くれで転移魔法を使いたいと思っていたから教えて欲しい、と。転移魔法は高度で、力の強い聖女と一部の魔法使いしか使えないと聞いている。確か、神殿仕えの者で見込みがないと教えてもらえないのだと、お姉ちゃんから聞いたことがあった。

そして王は平凡な人物だと聞いていたが精霊を通して使う魔法はさすが王族だけあって精密で強力なものが多かった。ほんの数年、数十年、見よう見まねで使っていた私とは比べ物にならない。


「お姉ちゃんは属性も違いましたし、優れた魔法使いも身近にいなくて学ぶ機会がなかったので、教えていただけたらなって……」

「……」

「王の使う魔法はどれも精度が高くて強力な魔力が込められているって私でもわかります。私にこんな師匠がいたらなあ」


私の使う魔法は雑なもので、リオドの治水工事も初めは川の流れを穏やかにするはずが激流にしてしまい危うく死人を出しそうになったこともある。特に水の精霊は比較的気まぐれな者が多くて扱うのが難しく、魔力にむらができやすかった。


「……なら、教えよう」


王は長くても自分と離れていられる期間が数日だということがわかっているからか、私に転移魔法を教えてくれた。それだけでなく、他の魔法も精度を上げるにはどうしたらいいかなど丁寧に説明してくれたのだった。


「精霊の声によく耳を傾けるんだ。集中して、精神を精霊に共鳴させるイメージだ。扱いにくいと言われているがこれは水の揺らぎと同じだ。慣れれば扱いやすくなる」


(淫魔のせいで魂も見た目も汚いけど、この人は王族の教育を受けても身につかなかったダメ人間じゃなくて、元はちゃんとした人だったのかな)


最低な奴だとわかっていたが、淫魔の影響のない部分では優れた人物だったのかもしれないと感じた私は困惑するようになる。

慣れてくると王と二人で家で過ごすのも、穏やかな時間だと感じるようになっていた。それは夫婦というより親子、いや、おじいちゃんと孫のような関係が近かったけれど。


王が私を一人にしてくれる間、私は覚えたての転移魔法でオルトナからも帝都からも離れた場所に隠れ家を探すようになった。あまりに貧しい村だと目立つ。ちょうどいいのが、メルトだった。

もし王に探された場合に目立たないように、村でも若者が多く住んでいそうな場所は避けて古そうな家を探した。


「こんにちは」

「あらあ、こんにちは。こんなとこにあんたみたいな若いお嬢さんが越してくるなんてね」

「これから、よろしくお願いします」


住むことにした家の隣には人の良さそうな初老の夫婦が住んでいたので少しずつ仲良くなっていった。

もしもの時は、子供を任せられるかもしれない……そんな考えも、心の奥底にはあった。


「お腹に赤ちゃんがいるのに、旦那に逃げられたのかい」

「そうなんです……両親も死んでしまっているので、頼れる人がいなくて」

「まあ……それは大変だね。困ったらいつでもうちに来るといいよ」


両親が死んでいるのは嘘ではないし、頼れる人がいないのも事実だ。私は自分が魔女だということは伏せて真実を混ぜた都合のいい話をして同情してもらった。


そして、その日が来た。

今回も読んで下さりありがとうございました。

水と風の精霊は比較的気まぐれなイメージです。


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