移動した先は
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王が出現させた大規模な魔法陣によって私たちが移動した先は神殿だった。城とは隣接しており、城の崩壊の音がこちらにも響いてきている。
「……この娘は王の器か」
「……はい。既に認めております」
「そうか」
王は誰に言うでもなく問い、大聖女アリアナがそれに答えた。その瞬間、王は私が彼に代わろうとしているのをどう感じるのだろうかと身体が強張るのを感じた。
「……!」
私の不安を感じたのか、セージが私の肩をそっと抱き、安心させるように一回だけ少し力を加えてぎゅっと掴んだ。その様子を無表情に見ていた王が私に問いかける。
「……ネロリの娘よ、名は」
「……カモミール、と言います」
私の名を聞いた王は目を閉じて細く長く息を吐いた。
「ネロリがそう名付けたのか。母親とはどれだけ過ごしたんだ」
(今更聞いてどうするつもりなんだろう、別にお母さんのことを愛していたわけでもないのに)
「答えられないのか、記憶にないのかどちらなんだ」
どう話したら良いか分からず黙っている私に王は更に問いかけるので、私はおずおずと話し始める。
「私の名は……ローズマリー様が、10歳の時に。それまで私に名前は……大した名前なんてありませんでした」
「そうか。それならネロリはお前の事を10年もの間何と呼んでいたのだ?名無しでは困るだろうに」
「おか……母とは会ったことがありません。私を産んですぐに亡くなったと聞いています。そして、隣の家に住んでいたという人に育ててもらっていました」
そしてモリオンさんとミヨシさんにはネロリのお嬢ちゃん、と呼ばれていた。それもつい先程思い出したばかりで。
私の言葉を聞くと王は納得したような表情を浮かべて頷きながら呟くように言った。
「……もしや何らかの力で解除されたのかと思っていたが、やはり呪いは確実に効いていたようだな……。俺から逃げたりしなければ、今も娘の側にいられたというのに」
「いい加減にしろ!」
王の言葉を聞いた瞬間、ローズマリー様が吐き捨てるように言って王を睨む。
「お前のせいで……っ、これ以上無駄話をするな!今すぐ王を退くと宣言しろ。そのあとでゆっくり殺してやる」
「まあ、そう焦るな」
苛立つローズマリー様の様子にも動じることなく王はゆっくりとした動作でなだめるようにローズマリー様の方に手のひらを向けると私の方を再度向いて口を開いたが、言葉を発することはなかった。
「……っ」
ローズマリー様の硬化させた土の斬撃が王の肩を貫通し、王の肩から口から大量の血が流れ落ちる。
「陛下!」
大聖女アリアナが駆け付けて王の肩を押さえ回復魔法を詠唱する。すると出血が止まったようで大きく肩で息をしていた王の苦しそうな表情が少し和らいだものに変化した。
「ローズマリー!これ以上はやめて……っ」
大聖女アリアナの言葉にローズマリー様は苦しそうな表情で唇を噛みしめる。王への攻撃を続けたいのに、アリアナには逆らえない様子でもどかしそうだった。
「アリアナ……」
王が苦しそうにしながら言葉を紡ぐ。
「まさかお前が止めるとは思わなかったぞ。俺を葬りたいと……お前はそう思っているのではないか」
大聖女アリアナは目の縁を赤くしながら何も答えない。
「お前たちに言われなくとも、王位はそこの娘に、そうか、俺は娘がいるのか……」
そこまで言うと王の口から再度血が流れるのが見え、アリアナが訝しそうにそれを拭って再度回復魔法を唱える。
「……これは先程の攻撃とは関係ない。そんなもの効かんよ」
少しの沈黙の後、王は小さな声で言った。
「……アリアナ……すまなかった」
「陛下……」
「あれほど手に入れたかったお前を裏切り、直接ではないとはいえネロリを殺めた。俺はもう王の資格などとうに失っている」
わかってるじゃねえか、というローズマリー様の呟きが聞こえるが大聖女アリアナは涙を浮かべて王の手を握り絞り出すように伝えた。
「私の方こそ大聖女失格でございます。あなたを導くことを諦め、その傍を離れることを選びました。淫魔との契約で私以外の人に王の気持ちが行くのを見ていることが辛くて、その役目を果たすことが出来ませんでした」
「……すまなかった」
アリアナの言葉に少し驚いたような表情を浮かべた王は目を伏せると謝罪する。
「……っ」
「アリアナよ、聖剣をここへ」
「……はい」
「ジオレオーネ・バッカスはこれより王位をカモミール・バッカスに継承させることを宣言する」
「!!」
厳かに剣を王の肩に掲げていた大聖女アリアナ以外、全員がその言葉に息を吞む気配を感じた。この王がすんなりと王位を譲り渡さず神殿も崩れるような事態になるのではないかと思っていた私は驚いて言葉を失いその流れをただ見守ることしかできない。
聖剣が私の肩に掲げられると、精霊と契約した時のように身体の内部に熱を感じ、自身の魔力が何かはっきりとした根源を感じるような気配を感じた。その様子を見ていた王は地に片膝をついて更に何かを詠唱し始める。と、そこには魔法陣が浮かび上がった。
「陛下!何を!」
アリアナが焦った様子でそれを制するが王は今度ははっきりとわかる言葉で詠唱を始めた。
「ジオレオーネ・バッカスの命と引き換えに、エリオット、……エリオットの姓は何と言うのだ」
「!」
王はローズマリー様に向き合って問いかけるがローズマリー様は驚きのあまり言葉を発せずにいる。
「何を驚いている。王族は一世一代、己の命と引き換えにたった一人を蘇らせる禁忌の術が使えるのは知っているだろう。お前の恋人を生き返らせてやる、早く姓を教えろ。アリアナでもいい」
「いいえ……言えません」
アリアナは涙を零しながら首を振った。その様子から、どんな経緯があってどれだけの年月離れていたとしてもその心が今も変わらず王にあるということが感じられた。
「俺はどのみち長くはもたん。命を削りすぎた。今更惜しいとも思わない」
「……っ」
「俺の最後の頼みを聞いてくれないかアリアナ」
「……っ、私の口からは言えません」
涙を流す大聖女アリアナの様子を見て彼女から教えてもらうことは叶わないと知った王はローズマリー様を見据える。
「お前なら言えるだろう。今も変わらず想っている男の名を」
「……エリオット、……コンセ」
「わかった。ジオレオーネ・バッカスの命と引き換えに、エリオット・コンセの魂を蘇ら……」
「待て!蘇らせるのはネロリ・マイオールだ」
「ローズマリー……」
声にならない声で大聖女アリアナが言葉を漏らし、ローズマリー様はアリアナを見やって言った。
「あたしは……エリオットのいない世界にはもう慣れたよ。そして、この子には母親が必要だ」
「ローズマリー様……」
ローズマリー様の悲しい笑顔を見て私の目が熱くなり、何も言うことが出来ないまま唇を噛んで下を向いた。
慣れたなんて嘘だ。今でも変わらず想っている恋人と、不当に奪われた妹の命。どちらかを選ばなくてはならないなんて酷すぎる選択に違いなかった。
「それで良いな。ジオレオーネ・バッカスの命と引き換えに、ネロリ・マイオールの魂を蘇らせろ」
「!」
魔法陣が光り、徐々にそこに人の姿が浮かび上がる。
「ネロリ……」
「……お姉ちゃん?どうして……私……?」
「ネロリ!」
ローズマリー様が現れた女性を力任せに抱きしめ、その人はわけがわからないといった表情でローズマリー様を抱きしめ返す。
「ここ、どこ……?呪い……私、あれ……赤ちゃんは?」
「呪いは解けたんだ、もう大丈夫……っ、あたしなんかのために、ごめん、ネロリ……」
お久しぶりでございます汗
完結までもう少しです!
次回は来週の予定です。
必ず投稿します。遅くなり申し訳ありませんでした!




