王との対面 sideローズマリー
今回は王の元に攫われていたローズマリーの視点です。
カモミールたちが来る前にどんなやり取りが行われたのでしょうか。
「久しいな。四百年ぶりか」
「……まだ生まれてない」
「そうか。まあ、あれだ。お前がまだ魔女になりたてだった頃以来だな」
「……372年だ」
「ほう。よく覚えているな。そのうちもっと年を重ねると、細かいことはどうでも良くなってくるぞ」
「お前だけだろ」
舌打ちしながら呟く。
カモミールたちが帰宅したと思って玄関に向かおうとしたあたしはすぐに結界が破られていることに気が付いた。
結界を破ってまであたしに用があるのはあいつしかいない。何かあればすぐに頼るように、と言われていたアリアナの所へ飛ぼうと魔法陣の詠唱を始めた瞬間、あたしは神官たちに身体の自由を奪われて口も塞がれた。
「……!」
「すまないな。これが俺の仕事なんだ」
神官を従えて無表情に言うその男は、大昔にあの王に謁見した時にいたアップルではない、もう一人の魔法使いシオンだった。
(お前……!王の犬になっていたのか!)
そう思う間もなく、シオンは転移魔法の魔法陣を出現させる。あたしは少しだけ自由が利く左の指先で壁にメッセージを残そうと試みた。それが完成したかどうか、という所で周囲の景色が消え、忌々しいあの場所へと到着した。
「さあ。お前にはたっぷり時間をやっただろう。俺ではなくあの人間を選んだことを後悔したか?いらぬ別れを経験して絶望を味わったか?」
「後悔なんかするわけがないだろう!このクソ野郎が!」
「相変わらず口が悪いな。そうか。それならば俺はあの人間と添い遂げる時間に加えて、そいつと過ごした時間以上の時も与えたことになるな。もう忘れただろう?そろそろいい頃だと思うが」
「……ふざけるな!あたしは……、あたしは……っ!エリオットを忘れた日なんかない!一日たりとも、想わなかった日はなかった!」
あたしは激昂して王に言いながら思い出した。カモミールに言った自分の言葉を。
「過ぎてしまえば、あっという間さ。寂しさにもそのうち慣れる」
寂しさには慣れたが、愛しさも逢いたいと思う切なさも273年経った今も消えることはない。それどころかこいつの顔を見ると運命の行き先がエリオットと永遠に違えられたあの日の記憶が鮮明に蘇り、血液が逆流しそうなほどの怒りを感じる。
「そうか……?まだ時間が必要か?そうしている間に寿命が人間より各段に長いお前であっても老いていくだろう。せっかくの容貌が衰える前に俺の物になってもらいたいのだが」
「ふざけるな」
魔女や聖女、そして王は寿命が1600~1800年くらいと言われている。人間の1/20くらいの遅さで老いていく計算だ。その容姿は百年で五歳ほど変化する、というイメージが正しいだろう。あたしは十六で魔女になり、やはり320を超えるくらいまでは容姿が全く変わらなかった。
今のあたしは19、20くらいの娘の姿であろう。魔女や聖女によっては土の魔法で容姿を固定するものはいるが、あたしはそのつもりはない。
そうは言ってもあたしは自分の容姿に興味はないが、この王にくれてやるつもりもない。
「そういうお前は今1200歳くらいじゃなかったのか。随分老けこんでるな」
法則にあてはめたら、王は60代くらいの初老の男に見えるはずだが、その姿はまるで80代の老人にしか見えなかった。
「……ろくでもない、魂を削る契約でもしたのか」
王はそれには答えなかった。
「……お前が望むなら魔法で見た目を若い頃に戻してやってもいいぞ」
「図星か。……そもそも女を口説くならその見た目をどうにかしろ、ま、お前は若くなっても大したことないと思うが」
言った瞬間、王の表情が変わり怒りが露わになる。
「……っ!お前は俺の神経を逆撫でするのが趣味なのか。俺がお前には優しくしてやると思ったら大間違いだぞ!死なない程度に傷つけることだって出来る」
「やってみろ」
あたしは以前したのと同じように周囲を破壊する魔法の詠唱を始めようとする。が、王は不敵な笑みを浮かべて言った。
「前はお前に城を半壊にされたからな。対策をしていないと思うのか?何のためにシオンを従えたと思っている」
「……!」
シオンはあたしと同じ、土属性だった。同じ属性であれば同時に同等の魔法を発動させれば相殺することがある程度可能なはずだ。けれどもこの王がそんなことまでして、次代の大聖女を潰してまで、こんな大したことのない一人の魔女を手に入れたがっているのがただ滑稽でくだらないことに思えた。
「……今更この身体なんてどうでもいい。操を立てる相手もとっくに世を去っている。でも、お前だけは許さない」
「なら、お前に許されなくても俺はお前を手に入れる」
「アリアナの気持ちを考えたことはあるのか」
気色悪い笑顔を浮かべていた王の顔がぴくりと動いて真顔に戻り、視線を逸らすと言った。
「……あいつはもう出て行った」
「他の男から奪ってまで手に入れたかった女じゃないのか」
「うるさい!」
王は立ち上がると周囲に炎を出現させた。流石王だけあってその威力は凄い。この王は炎と水、そして風の精霊と契約しているはずだった。
王は自身のコンプレックスを突かれると激昂する。
アリアナから王との関係性は聞いていた。
当時王太子だったこの男が、普段神殿に籠っていて滅多に現れない大聖女を自身の王の契約の際に初めて目の当たりにして惚れ、妃に迎えたのは有名な話である。
その際に大聖女と恋仲であった大魔法使いである男と別れさせて自分のものにしたという話も。
王は容姿も能力もごく普通、悪く言えば凡庸な男であった。ただ、だからこそ努力を怠らず国民の心に寄り添えるという面は昔は確かにあったらしい。大聖女も毎日自分の元に通い続け妃になってくれと乞うその姿に絆されたのだと言っていた。
王の器として認められるだけのものは確かにあったのだが、大聖女が美しく、その相手であった魔法使いも非常に恵まれた見た目と能力を持っていたことがその王の心を卑屈にした。
土の属性であったその魔法使いは城だけでなく神殿や帝国内の随所にある重要な建築物を作っていた。
恋敵の作った神殿で祈りを捧げる大聖女。そして恋敵の作った城で暮らす自分。惨めでたまらなかった。
やがて心が負の方向に向かった時、本来精霊だけでなく悪しき魂も引き寄せる体質が悪い方向に作用した。悪魔の囁きに負け、魂を堕としてしまったのだと。
その契約した悪魔が淫魔だったため、王は恋焦がれた大聖女以外の女を口説くようになり、あたしがその目に留まった……
王の今の年老いた姿は悪魔との何らかの契約によるものだろう。それは恐らく……
「ローズマリー!」
「師匠!」
「ローズマリー様!」
アリアナとカモミール、そしてセージが現れた。カモミールはあっという間に炎を消す。そうか。お前は水の精を選んだのだな。そう思って笑みが浮かんだ。
ここまでお読みくださりありがとうございました!
ブックマークが増えてて嬉しいです。
応援ありがとうございます!
次回はいよいよカモミールたちが加わり、王と話すことになります。
是非また読みに来てくださいね^^




