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告白

 追い出されるように一緒に出てきたもののなんだか気まずくて会話ができず、無言でハイスルに向かう。


(しかもまんざらでもないって、どういうこと?)


 「そういう関係」に見えた、しかもまんざらでもない様子に見えた、更にそのことを特に否定はしなかった。加えて、安心して添い遂げろ、という言葉も否定しなかった。

 そういうちょっとした事実が一つでなく何個かあるということが私の胸を甘くきゅうっと締め付けた。

 それに「そばにいる」という言葉。昨夜抱きしめられた温かい胸。どんな意味があったのか、兄弟弟子以上の感情があるのか気になって仕方ない。


 今着ているのは、昔は恋人や夫婦が贈り合ったとされるアメジストセージの花と茎染めの揃いの服。もしかしたら今から出かける先で恋人と間違われるかもしれない。ローズマリー様に指摘されても脱がずにそのまま着てきていることも私の頬を熱くさせた。もっとも、脱ぐいとまなど与えられず追い出されたのもあるが。


 そんなことを考え様子を窺うように見上げるとセージと目が合う。するとさっきの気まずさは一体どこへやら、というように機嫌よくどうした?と言われてしまい釈然としない思いを抱きながらなんでもない。と答えた。


(もう!なによ。余裕ぶって)


 意識しているのは私だけなのだろうか?ローズマリー様の前では私と同じように素っ頓狂な声を出していたくせに。そう思うと自分だけいつまでも意識しているのは負けたような気がして少し悔しい。

 五年前はローズマリー様を取り合う最大のライバルで(そう、私が一方的に思っていただけだが)、普段チビだチビだと馬鹿にされていて喧嘩していても、二人でこっそり夜中に出かけようとしたりローズマリー様のお酒を飲んでみたり、なんだかんだいって一番距離が近い友人、頼れる兄弟子という存在だった。


 今はどうだろう?すっかり大きくなって大人の姿になっているセージ。旅の間一人だけ出会えた聖女の人と同じ銀髪の髪。この世界には多いブルーの瞳。一緒に暮らしている頃は気付いていなかった、各パーツが絶妙なバランスに配置され綺麗に整った顔。世間でたくさんの人を見て帰って来てわかった。ローズマリー様は勿論だが、セージもかなりの美丈夫であること。


 悩んでいる間に一昨日ワンピースとローブを買ったお店に到着する。少し気恥ずかしいが、とても気に入ったお店だったのでもっと商品を見てみたいという気持ちが勝って弾んだ気持ちでお店に入った。


「いらっしゃい……あらお姉さん、この前の」

「はい。また来ちゃいました」 

(お金稼いでないのに……)

「そのワンピース、着てきてくれたんだね。よく似合ってるよ!」


 笑顔で褒めてくれるおばさんにこちらも思わず満面の笑みを返す。


「ありがとうございます!とっても気に入りました!」

「そっちは……、プレゼントされた果報者だね。背が高いから少し短いかもしれないけど、まあ許容範囲かな」


 おばさんはセージのローブの裾を少しひっぱりながら、まあ、こんなもんだねと呟く。


「二人とも、よく似合ってるよ」

「ありがとうございます!あの、今日も見ていっていいですか?一昨日、全部見れてなかったんで」

「ああ、ゆっくり見ていきなさい」

「……っス」


 店内には草木染めの服や小物以外にドライフラワーやリースなどの飾りがあった。


「こういうの、ドアの前につけてみたいんだよね~」

「へえ。可愛らしいな。やってみたら?」

「家のドア?部屋かな?」

「じゃあ部屋?いや、家か?どっちでもいいな」


 他愛もない話をするのも楽しい。しかしもうすぐ王のもとに行くというのに、部屋や家のドアにつけても、見て楽しむ時間などないかもしれない。そう思うと急に欲しいという気持ちがしぼんでしまった。


「やっぱり、今日はいいや……」

「いいのか?小物でも、別の服でも帽子でも何でも買ってやるよ」

「ん。今はそういう気分じゃないというか」

「……そっか。ならまた、今度、来ようぜ」


 今度、を強調する。きっと私があれこれ考えていることを汲み取ってくれたのだと思う。そういうところも、セージといると居心地がいいと思う要因の一つだと思う。


「すみません。また今度来ますね」

「あら、そうかい」


 おばさんが微笑んで見送ってくれる。


「この前お嬢さんは照れてちゃんと教えてくれなかったけど……あんたたち、そんなにいい感じなのに付き合ってないのかい?」

「ええーと……」


 セージの顔が見れない。


「まだ……恋人ではありませんけど、これからも傍にいたいと思っている大切な存在です」

「えっ」

「そうなのかい!」


 セージの言葉におばさんが口に手をあてて感嘆の声をあげたあと、背中をバンバン叩いて出口まで見送ってくれた。


「お兄さん、それならちゃんと捕まえてないと。女は言葉が欲しい生き物だからね!しっかりやるんだよ!」

「わかりました」

「あの、ありがとうございました!また来ますね!」


 何にありがとうなのだろうと思いながら頭を下げて手を振りながら店を後にした。歩き出すがセージの言葉が頭の中をリピートして離れない。これからも傍にいたい大切な存在。「まだ」恋人ではないならこれから恋人になることをセージは期待してくれているということなのだろうか。


「なあカモミー……」

「セージっ!!」


 セージが私に向き合って何かを言いかけた瞬間、セージに誰かが抱きついてきた。


「セージ!一年ぶりじゃない!いつ会いに来てくれるか私待ってたのに!」

「え?お前……大きくなったな」

「大人っぽくなったでしょ♡」


 そう言って微笑む女の子はとても愛らしい表情でセージの腕に絡みついた。すらっとした手足に出るところがばっちり出ている抜群のスタイルがよくわかる服を着ていて、私は身体のラインが出ない服を着ているため急に自分が野暮ったく感じてしまった。気に入って、とても気に入って買って着ているセージとお揃いの服なのにそんな風に思ってしまう自分が堪らなく醜く思えて私はぎゅっと長めの袖を掴んで握って俯いた。


「ねえ。いつ私と付き合ってくれるの?」

「はあ?付き合うわけないだろ」

「だって、セージに似合うくらいの女になったら付き合ってくれるって言ったじゃない」

「ばっ!本気にしてんじゃねーよ!大きくなったら考えてやるって言っただけだろ」

「私大きくなったよ!」

「まだガキだろがよ!」

「そんなことないもん!」


 そう言って口を尖らせる女の子は全然子供には見えなかった。大きくなったら考えるとセージが言っていたことがただショックで私はその場を去りたい気持ちでいっぱいだった。すると女の子がこちらに気付いてじっと見てきて言った。


「あれ、その人まさか彼女なの?」


 まさかって?彼女だったら何か不都合が?釣り合ってないと?すっかり卑屈な考えが止まらない。


「おまっほんとに……」


 今聞くなよ、と呟く声が聞こえるがもう私の心はキャパオーバーとなっていた。


「いいえ、彼女じゃないので!お構いなく!」


 そう言って二人に背を向けてセージが止めるのも構わず歩き出す。あれ?もしかして、カモミール?という言葉が聞こえるが振り返る余裕なんてなかった。

 どうして余裕がないか?そんなのわかってる。これは嫉妬だ。

 七年前に出会ってから二年。ずっと近くにいたセージは私にとってかけがえのない存在で。それは家族としてなのかと思っていたが、再会して大人びた姿を見て胸に沸き上がった思い。温かくて、でもドキドキするようなこの思いは。


 きっとそれは、恋、だ。


 ため息をついて立ち止まった瞬間、セージに肩をつかまれる。息が切れているので走ってきたのだろう。セージは私に向き合おうとしてくれている。それでもモヤモヤした気持ちは簡単には消えない。


「勝手に置いていくなよ」

「……お邪魔かと思って」

「何の邪魔だよ?」

「セージの、……恋?」


 我ながら嫉妬にまみれた可愛くない言葉だと思う。わかっているが、身体のラインがよくわかる服でセージの腕に絡みついたあの女の子の姿が頭に浮かんで私の胸をざわつかせた。


「お前なあ。俺があいつとどうかなると思うか?十四だぞ?子供だろうが」

「じゅうよん……」

「ハチミツ屋のミイナだよ。覚えてるだろ?」

「ミイナ?」


 ミイナはローズマリー様の住む森の一部に養蜂場を持つハチミツ屋の子だ。五年前はチビだった私より更にチビだった。鶏ガラのように痩せた女の子だったけど……


「五年、経ってるんだよ。チビだったお前がそんなになってんだから、ミイナも成長するだろ。っても、この一年ですげえ大きくなってたけど」


 それは、そうかもしれない。九歳だったらほんの小さな子だけど、十四だったらあんなもんなのかもしれない。それでも、セージに釣り合うためにかなり頑張ったんじゃないかと思えるけれども。


「……すげえ大きくなったって、絶対ミイナをいやらしい目で見てる」

「見てねえよ!」

「腕組まれてなんか嬉しそうだった!」

「それはお前の勘違いだ。俺はお前の成長した姿の方がよっぽどっ……」


 そこまで言って赤面して言いよどむセージに私まで顔が赤くなってしまう。よみがえる、すっぽんぽん事件だ。


「そうじゃなくて!あーもう!さっきの店で俺が言ったこと聞いてなかったのか?これからも傍にいたいと思ってるって」

「聞いた……」


 それは王と聖女逆転バージョンとしての、便宜上のパートナーという意味とも思える。そう考えた私の耳に、信じがたい言葉が飛び込んできた。


「俺はっ!七年前お前と初めて会った時からお前が好きだ!」

「え?」

「好きだ!」

「そこじゃなくて、七年前?」

「んだよ!そこ聞くのかよ。そうだよ、お前が悪魔に纏わりつかれて俺が追い払った時からだ。普通だったら追い払って終わりだよ。なんでわざわざ連れて帰ったと思ってんだよ」

「私がおかしな魂してるから?」

「それは心配だったけど、他のやつだったら放っといた。でもそうしなかった。お前が……可愛かったから。一目惚れだったんだよ!」

「うそぉ」

「嘘じゃねえって」


 チビだチビだと馬鹿にされてきた。とても一目惚れした相手にする態度じゃない。

 信じがたいという思いが顔に出ていたようで、真剣な顔をしたセージに両肩をつかまれて言われた。


「俺が大聖女になろうと思えたのも、これからもお前の傍にいるためだ。もしお前が魔法使いになれなかったら、俺も聖女にならないつもりだった」


 聖女になると人間よりもはるかに永い時を生きていける。それを放棄してまで?


「そんなことまでして……」

「俺はお前に寄ってくる悪いものを退治さえできたらそれでいいと思ってた。そんで、時々必要な人の治癒でもして生きていけたら」

「……っ」

「でも、お互い長い寿命を貰える予定だろ?先が長いから、ゆっくりやろうと思ってたのに寄ってたかって急かしやがって」


 ゆっくりって、どのくらいゆっくりやるつもりだったんだろうとちらっと思ってしまったが、セージが私をずっと好きだったという事実は胸を熱くさせた。そしてセージを見上げてずっと見つめているのが急に恥ずかしくなって下を向いて呟く。


「よかった……」

「ん?」

「私、さっきすごく嫉妬した」

「ミイナか?」

「うん。それにこの五年の間に好きな子とか出来てたら嫌だなって、思ってた」

「それって俺は片想いじゃないってこと?」

「うん」

「……っ」


 一瞬で私はセージの腕の中に包まれる。昨夜抱きしめられた時とは全然違う、強い抱擁。


「セ……くるし……っ」

「ごめん!」


 ぱっと離れるセージ。そして続く、甘い言葉。


「カモミール。お前のことずっと好きだった。だからすげえ嬉しい」


 その照れたような、でも獲物を捕らえたかのような初めて見る「男」の顔に私の胸はパンク寸前となった。


やっとここまで漕ぎつけました!

ここまで読んでくださり本当にありがとうございます!

ブックマークもとても嬉しいです。頑張ります。

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