決意
昨日は投稿できませんでした。
年度末はあれこれありますよね……(言い訳)
毎日投稿できるように頑張ります。どうぞよろしくお願いいたします!
俯いていた顔をあげて、ローズマリー様の目をしっかりと見る。
「私が王になっても構いませんか?」
「構わんさ。そうなって欲しいと思っていた」
「……っ」
優しい瞳が微笑むのを見ると、私はこらえきれなくなってローズマリー様に抱きついて泣いた。
ごめんなさい。憎い男の娘でごめんなさい。あなたの大切な人を戻すこともできなくて、ごめんなさい。
「わかりました。大聖女が見つかっているのなら、その方に認めてもらい契約を交わし、今の王に退いてもらいます」
「よし。よく言った」
少しだけ私の方が大きくなっているが、昔のように抱きしめて後頭部を撫でてもらった。肩越しに涙で滲んだ目でセージを見ると、驚きは隠せないものの私の決断が正しいというように力強く頷き、拳を私の方へ向けて「がんばれ」とメッセージを送ってくれた。
「セージ」
「は、はいっ」
「お前は聖女、のちのち大聖女となる覚悟はあるか」
「俺が……?」
「カモミールが王となったらお前を聖女と認めることができる。大聖女にもお前の教育を頼んである。教育を受けたあとそのまま神殿に留まりカモミールを助け、大聖女を継げ。大聖女もお前を教育するためだけに一時的に神殿に行くが、もう引退したいそうだ」
「……わかりました」
「よし」
私を抱きしめたままローズマリー様が話してセージの意思を確認した。セージも一緒に来てくれるのなら、王位を継いだあとも近くにいてくれるのなら、なんて心強いのだろう。セージの決断が私の心をほっと温かくするのを感じたのだった。
☆
その日の夜、落ち着かず部屋から出て一階に下りる。何か飲もう、とお湯を沸かしているとセージも下りてきた。
「あ、ごめん。うるさかった?」
「いや。眠れなくて寝転がってただけだから」
「そっか」
そう言って水を増やす。
「セージも飲む?」
「おお。もらうわ」
再びやかんを火にかけると、セージが話を切りだしてきた。
「お前、王の子供だったんだな」
「うん。しょうもない、最低な男の子供だった」
「前に姫でもないからドレスなんか一生着ないって言ったけど、姫だったんだな」
「そんないいもんじゃないよ。どうせ私のことだって知らないだろうし、望まれて生まれてきたとは思えない」
「そんな風に言うなよ。お前がいるからこの世界に希望が持てるんだから」
王は、父は……私がいることを知っているのだろうか。母は、望んで私を産んだのだろうか。産んですぐ死んだのにはわけがあったのではないか。特に聖女であったとしたら、出産中に問題があっても自分で治癒できるはずだ。なにかよっぽどの事情があったのではないだろうか。そう思って不安な気持ちが増してくる。
「……できるかな、私」
「王を倒すこと?」
「ううん。王になったあと、王であること」
「できる。お前は今の王とは違う。貧しさに喘いでる人々の苦しみを知っている。悪魔につけ入られた親子を助ける心を持っている。大丈夫だ」
「大丈夫かな」
「俺も助けるから。聖女として、大聖女としてお前を補佐する」
「ずっと、そばにいてね?」
言ったあと、近くにいていつも助けていて欲しいという意味で口から出た言葉がどこか違う意味合いのようになってしまったと思い、あ……と言葉が漏れる。急に恥ずかしくなり下を向くとふわ、と抱きしめられる感触がした。
「そばにいる」
頭上から、抱きしめられた身体から直接伝わってきた言葉。それは助けるという意味なの?それとも……?
聞く勇気もなく、抱きしめられるまま大きなセージの胸に身体を預けていた。温かくて、頼りがいがあるセージの身体は五年前とは全然違うもので私の胸はきゅうっと締め付けられた。
「あっ!お湯」
お湯が噴きこぼれる音がして慌てて離れて火を消す。
「カモミールティーでいい?」
「……ああ」
何故か怒ったように言うセージを不思議に思いながらカモミールティーを淹れて渡した。そのままキッチンに立って一緒にお茶を飲む。ほっと落ち着く味だ。自分の名がつくハーブのお茶が、精神を落ち着かせ寝る前に最適なのは誇らしい気がした。
「お前っぽいハーブティーだよな」
「え?」
「落ち着ける作用、甘い香り。なんか、お前っぽい」
「そうかな。ふふ」
ちょうど考えていたことを、自分っぽいと言われて悪い気はしなかった。
「セージも、セージっぽいよね。浄化作用があって、抗菌もできて。聖属性っぽいでしょ」
「……なんかあんま嬉しくねえな」
「なんでー」
そうじゃなくて、と呟いているセージがおかしくて、私はクスクスと笑い続けた。
「明日、またハイスル行かね?」
「え?」
「王のところへはもう少し準備してからって言ってたし、昨日午前中だけだったからもう少し息抜きしたらどうかと思って」
「いいね。またあのお店じっくり見たいと思ってたから嬉しい」
「別の服か、帽子か靴でも買ってやるよ」
「そんな。悪いよ。でも私、まだ仕事してないしな……」
「気にすんな。金ならある。師匠のせいで金貯める癖ついちまってたし」
「お金貯まるしいい癖なんじゃない?」
そう言って笑うとセージが私の頭をくしゃっと撫でて言った。
「やっと昔のお前みたいに笑った。帰って来てから、どこかお前緊張した顔してたから。いつもそうやって笑ってろよ。……まあ、今は難しいかもしんねーけど、王の事とか、全部終わったら、毎日遊ぶぞ!」
「……昔みたいに?」
「そうだ」
「この小屋じゃなくて、お城抜け出すの?」
「おお、今度こそ夜遊びしてみようぜ」
五年前の子供時代、ローズマリー様には夜は絶対に小屋から出て行くなとよく言われた。それは結界があるからということは聞いていたが、その目的の深刻さがわかっていなかった子供時代の私たちはよく小屋をこっそり抜け出した。
夜は特に結界が強く張られていてどう頑張ってもハイスルの町に出ることは出来ず、かといって今度は小屋に帰ることもできずセージは焦り、私はギャン泣きしてローズマリー様にこってり絞られたことがあったのだった。
そのときのことを言っているのだろう。懐かしくて愛おしい記憶にまた私の胸は温かくなった。
セージと話すと楽しくて、いつも退屈しなかった。今はそれに加えて、心が温かくなる。
ここまでお読みくださりありがとうございました!




