五年ぶりの帰宅
どうぞよろしくお願いいたします!
「こんばんはー!」
薄暗い森の小さな小屋のドアをノックして私は大きな声で呼びかけた。
「ローズマリーさまー!セージー!いませんかー??」
薄明かりが漏れているので不在ではないはずだ。
五年前と変わらずにここに小屋があるから、引っ越しはしていないはず。
急な雨に濡れたため、一刻も早く中に入れてもらいたい。
「こーんばーんはーっ!」
さらに声を張り上げたところで、やっとドアが開いた。
中から怪訝そうな顔をのぞかせたのは魔女のローズマリー様だった。私はやっと会えた喜びで前のめりになって挨拶する。
「あ、あの、お久しぶりです!」
「だ、誰?」
完璧不審者を見る目。自分ではわからないが、五年も経つと見た目がかなり変わってしまっているのだろうか。確かに背はかなり伸びたかもしれない。
「あ、おわかりになりませんか?カモミールです。帰ってきました!」
「カモミール?……あの、チビの?」
「え、ひどいです!ローズマリーさまぁ。確かにチビでしたけどぉ、私、大きくなったでしょう?」
「ほんとにカモミール?」
「ほんとですってば」
ローズマリー様はかなり疑わしい様子で私をまじまじと見る。大らかでそんなことを気にする方ではなかった気がするが、私の変貌がそれほどすごいということなのだろう。確かにここを出たのは十二歳だったのだから無理はない。
「あの、すみません。またここに住んでもいいでしょうか?まだ、私の部屋あります?もし……お弟子さんが増えてて無理なら、今晩だけでも。雨に濡れちゃって……あの、部屋の隅でもいいので」
ローズマリー様が固まって動かないので言葉を選びながらこのとおりなんです、とびしょびしょになったローブの裾を掴んでポーズをとって見せた。それでも彼女は固まったまま微動だにしない。
「……ローズマリー様?」
「俺はローズマリー師匠じゃない」
「え?どっからどう見てもお師匠様じゃないですか。その声も顔も間違えませんよ。もう!久しぶりに会ったのに他人のフリですか?寂しいです!」
実年齢はかなりいっているらしいが二十歳そこそこにしか見えない美しい姿は相変わらずだ。それで違うと言われても信じられるわけがない。
「だから、俺はセ……」
「ゔぇっくしょん!!あー寒っ!!」
濡れた身体が寒くて大きなクシャミが出る。さらに続けざまにぶし!ぶし!と出たので思わず身震いすると
「あ……えっと、とりあえず入って暖まって。拭くもの、持ってくるから」
そう言ったローズマリー様が奥に向かっていったので、遠慮なく入らせてもらった。ドアを閉め、懐かしい室内をきょろきょろ見まわしたが一階にはローズマリー様以外人の気配はない。二階では誰かが寝ているのかもしれない。兄弟子だったセージは今もいるのだろうか。
あれこれ考えを巡らせながらまずは部屋を水浸しにしないために濡れて重たくなったローブを玄関先で脱ぎ捨てた。下着も濡れている。上はとっぱらって、身体を拭かせてもらうかお風呂に行かせてもらおう。そう思って裸同然で奥の部屋に行くと、ぎゃっという声がしてまたローズマリー様が固まっていた。
その手には乾いた柔らかそうなタオルがあったので手を伸ばすと押し付けるように渡され、そのままくるりと後ろを向いてしまわれた。何も見てない、何も見てない、という呟き声が聞こえるのでおかしくなった私はこう言った。
「子供じゃない裸は見慣れませんか?女同士なんだしいいじゃないですか」
「何も見てないっ!」
「そうですか……?私は平気ですけど。子供のころからお風呂に入れてもらってましたし。ま、セージならぶっ殺しますけど」
「ほら……っ!いや、お…私はなにも見てない。見てないぞ!」
「お師匠様、この五年で何かあったんですか?……とりあえず、お風呂お借りしますね」
「……着替えはそこに用意してあるから」
「はあい」
振り返らずに答えたローズマリー様に構わず浴室に入り、身体を流したあと機嫌よく熱い湯に浸かる。ここに住んだのは二年だったが、懐かしい我が家だ。とても安心した気持ちになり疲れが癒えていく。
ローズマリー様は何も言わなかったから、今日はここで寝泊まりしてもいいのだろうか。もしかしたら部屋もまだ残してもらっているのかもしれない。上がったら聞いてみよう。セージのことも。