「在りし日の記憶」 その3
「ユイ〜帰ろ〜」
普段はハルカが起こされる側なのに私は頭痛と吐き気に格闘している、今起きたら真っ先に吐くとしってまだ寝たいと駄々を捏ねる、みっともないけど身体が言うことを聞かない。揺らさないで………吐いちゃう。
「ハルカ……ごめん……あんまり揺らさないで気持ち悪いの」
唯一見せる弱みに分かってくれたのか起こすのを止めてくれた、ホッと胸を撫で下ろしたその時、それが最後だった。
「なら吐いて治そう!とりゃあ!」
無防備の私の腹を普通にやったら骨が折れるレベルの一撃チョップを食らい栓をしていた瓶が破裂するように私は外に猛スピードで出ていき大量に嘔吐する羽目になった、絶対許さない。
☆★☆★
「いた、ごめんて〜つねんないでよ〜」
帰り道、私は怒りを抑えきれずハルカの腕をつねったり腹をツンツンと陰湿に突く、嫌と言ってもやり続けた深い恨みは私の閻魔帳にも書いておいた。
「酷い、ハルカがそんな人だと思わなかった」
そして涙を溜めると予想通りにハルカは深々と謝った、突発的な行動が多いハルカにはいい薬だろう。
私は痛む頭痛を堪えながら宿屋に戻ろうとすると頬にまた唇を押し当てられた。
「ちょ!?」
一気に襲い掛かる頭痛と幸福感が混じって気持ち悪い、しかも周りには人が居るのに!!
「ごめんねユイ、許して♪」
皆がキスしたのを目の当たりにして私はより一層恥ずかしくなった、女同士で何やってるのよ。
「ふん」
足で蹴るようにするとハルカは今度は抱き着き頭を撫でてくれた、もう恥ずかしくて死にそうだが体調はちょっとマシになった。
「これでも駄目?」
するの今度は私の胸を触ろうとして来たのでチョップして逆に私がいつも触られてるから反撃した、初めて女の胸を触った感想は柔らかかった。
「えへへ、くすぐったいよ♪」
ハルカも照れながらも可愛いし続きは部屋でやろうっと、私はちょっとだけ許して宿屋を借りて部屋に移動する。
通りすがりの奴は私の揺れまくる胸を凝視したから私は殺意を持って睨みつける、大抵の奴はこれで止まる。
「はぁ〜この胸切り落とそうかな?」
部屋に入ると第一声がそれだった、重いし肩が痛むし揺れるから走ると痛いし本当邪魔、こんな乳房無くてもきっと楽に生きていけるよ。
私は胸を切り落とそうと考えたがハルカは全力でそれを阻止された。
「駄目!」
ハルカは私の事を大事にしてくれるのかはたまた身体が好みなのか切り落とさせてくれない。それどころか私の胸を擁護し切り落とさない程まで捲し立てられる程私は反論する余地が無かった。
「ユイのおっぱいは立派なんだから産まれる赤ちゃんに飲ませてあげないと!」
「私が孕めるかどうか分からないのに?」
ハルカは知らないだろうけど私の体内はもつぐちゃぐちゃだ。腕と首筋の脈には大量に投薬された痕に脳みそを改善、腹を何度も裂かれて臓器を無理矢理取り換えられたりして恐らく生殖機能は停止しているだろう、子を持つなんざそんな希望なんかとうに捨てている。だから私は奴等を潰し私と同じ目にさせてやるんだ。
私は何も知らないハルカに苛立つがハルカは真剣に私の手を握り言葉を告げた。
「大丈夫、“ユイ”には作れるよ♪」
その温もりは私を飲み込み優しさの奔流に流される、この子の絶対的な光には敵わないな。
「ふん、その前にアンタの妹を救わないとね」
私はサラッと告げるとハルカは暗い表情を浮かべながらも頷いた。ハルカも大切な妹を守る為に四苦八苦しているというのに私は・・・・
「えへへ、ありがとうユイ」
言葉に迷う私にハルカは笑った、無理しても笑う彼女の姿勢は嫌いじゃない、だが我慢は良くない、今の私だったらもっと気に掛けた言葉を見つけることが出来る、だがこの時の私は臆病で外部からの苦痛を遠ざけて逃げた。
「ふん、なら少し休もうか」
私は結局出逢ってから一度も“励ます”をしたことがない、だから夢の中でずっと私は彷徨っているのだろうか・・・・
「私が付いてるから大丈夫、ハルカは私が守る」
こんなカッコいいこと言えたらどんなに幸せのことか・・・そして私かどんなに強い人間だったろうか。夢はまだ終わらないんだ。私の戒めの悪夢はこの先何度もリピートされ再生される、いつか私が断ち切れると信じて。




