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第7話  女官は打ち明ける

翌日、王太子殿下やエドガー補佐官は視察から戻られた。


「メリッサ嬢、少しは慣れましたか?」


エドガー様が麗しい微笑みで尋ねてくる。

普通の女性陣であれば、キャーキャー興奮するところだろうが、私の中では、すっかり信用できないイケメンにランクインしている。


「はい。ご迷惑をお掛けしておりますが、ソフィア様はじめ、皆様に丁寧にご指導いただいております」

「それは良かった」と言うエドガー様の笑みはやっぱり胡散臭い。


数日ぶりに拝見する王太子殿下は、相変わらず整っておられるが、どこか暗く、疲れている気がする。

特にお声を掛けられることなく、そのまま、前日と同様、ソフィア様のマンツーマン指導が始まる。


が、何だか、しょっちゅう王太子殿下に見つめられていた気がする。

視線を感じて顔を上げると、王太子殿下と目が合いそうになることが何度か。

恐らく自意識過剰ではない気がする。


落ち着かないまま、本日の業務も終了が近づいた時だった。

「メリッサ嬢、少し残っていただけますか?」


エドガー様からいきなり呼び出しを受けた。一応疑問形だが、間違いなく強制の空気が漂っている。

私が返事をする前に、ソフィア様が慌てたように口を挟んだ。

「仕事のことでしたら、わたくしが承りますが」

「いえ、メリッサ嬢の個人的なことですので。ソフィア嬢は退勤していただいて結構です」


エドガー様にきっぱり断られ、ソフィア様がこちらを睨むように見ているのが分かる。

(なに、この空気……)

怖くてソフィア様の方を向けないまま、「はい」と、私史上稀にみる小さい声で返答することとなった。


◆◆◆◆◆◆


「メリッサ嬢、残っていただいて済まない」

「とんでもないことでございます」


既に日も落ちた王太子執務室には、王太子殿下、エドガー様、リオ様と私が残っている。

偉い人に囲まれ、王太子殿下に直々声を掛けられ、流石の私も声が上ずってしまった。

第二王子殿下には馴れ馴れしく話せるのに、やっぱり王太子殿下のオーラは違うな、とアイク様に大概失礼なことを思い浮かべる。


「単刀直入に聞きたい。先日の東の宮での事件の際、メリッサ嬢もその場にいた訳だが、あれから何か変わったことは無いか?」


(来たー!!)と心の中で叫んだ。

変わったことありまくりですけど、どう話したものか…と悩むが、取り敢えずありのままをお伝えすることにした。


「あの、あれ以来、アイ…第二王子殿下が私の夢にいらっしゃるんです……」

「……は?」


ですよね!!

王太子殿下もエドガー様も、ポカンとした顔で私を見ている。

イケメン2人のポカン顔はなかなかレアだ。


「ただの夢ではなくてですね、第二王子殿下と会話ができて、記憶も繋がっておりまして、夢ではないと申しますか…」


お話しする際のイメージトレーニングはしてきたはずなのに、いざ、王太子殿下を前にすると、全然言葉が出てこない。しどろもどろで、我ながら完全に頭のイカれた女にしか見えない。

黙ってしまった2人に代わり、リオ様が口を開いた。


「一昨日も昨日も、メリッサさんから水の魔力が感じられたんですが、メリッサさんは魔法が使えるんですか?」

「いえ、私は使えません!恐らく、第二王子殿下だと思います」


これまでの夢でのこと――火傷を治してくれたこと、水の魔法を使われ、部屋中水浸しにされたことまで――全てお話しした。


相変わらず難しい顔をしたエドガー様は、リオ様に問いかけた。

「……俄かに信じがたいのだが、そのようなことがあり得るのか?」

抜魂術(ばっこんじゅつ)という、人の魂を抜く魔術は聞いたことがあります。ただ、あくまで暗殺に使われるもので、その魂が他人に宿るということは、僕は聞いたことがありません……」

「メリッサ嬢にアイザック王子殿下の魂が入っているということか…?」


半信半疑、というよりどちらかというと『疑』のほうが大きい空気を、エドガー様から感じる。

このままでは信じてもらえない、と感じた私は、黙りこくったままの王太子殿下に、不敬かとは思いつつも話しかけることにした。


「お、畏れながら、王太子殿下に申し上げたいことがございます」

「ん?なんだ?」


王太子殿下は特に気にされた様子も無く、先を促してくれた。


「第二王子殿下から、王太子殿下にお伝えするよう言伝がございまして…」


王太子殿下が驚いたように目を開く。

「アイクが?申せ」


…さて、これを言ったらどう転ぶのか。アイク様のあくどすぎる笑みが頭をよぎり、非常に不安になるが、信じてもらうにはこれしかない。

意を決して、私はその言葉を口にした。


「レイファ歴125年10月、スカイヴィラの湖、と」


ガタン、と大きな音がした。

王太子殿下が机を蹴り倒しそうな勢いで立ち上がっている。

顔色は青くなった後、今度はどんどん赤くなっており、口はパクパクして言葉が出てこないご様子だった。

あまりの動揺っぷりに、私はとんでもないことを口にしたのだと悟り、焦る。


エドガー様とリオ様には意味が分からないらしく、王太子殿下の顔を唖然として見つめている。


「メリッサ嬢、そ、それは、意味を知っているのか?」

いつも穏やかな王太子殿下が、声を荒らげているのが、本当に怖い。

「い、いえ、意味は存じ上げません!第二王子殿下はこれだけお伝えすれば良いと!!」


今にも死罪を言い出しそうな王太子殿下の雰囲気に、泣きそうになる。

あの魔王、一体何を私に言わせたんだ!


頭を掻き毟りながら右往左往する王太子殿下に、誰も何の言葉もかけられない。

しばらくしてうめき声を上げたあと、ようやく王太子殿下の奇行は止んだ。


「……メリッサ嬢。どうやら貴女がアイクと疎通ができるのは本当らしい」


(信じてもらえた!)

だが、無表情で目が据わった王太子殿下の姿に、喜びは全く湧いてこない。


「とにかく、何よりもまず、アイクの意識を戻さなければならない。父上に話し、早急に筆頭王宮魔法使いを召喚する。エドガー、段取りを頼む」

「かしこまりました」

「それからリオ、本当にアイクの魂が宿っているとすれば、メリッサ嬢の身も守る必要がある。しばらく護衛を用意しろ」

「了解です」


王太子殿下が次々と指示を出しているのを、私は黙って見ていることしかできない。

ただ、話を聞く限り、どうやらアイク様は生きているようだ。


(アイク様が言っていた、魂だけが抜けている状態、ということかしら…?なんで私に?近くにいたから?)


色々と考えながら神妙に座っていると、私にも話が飛んできた。


「メリッサ嬢」

「!はい!!」

「アイクに、『起きたら覚えていろ』と伝えておいてくれ。それから、エドガーもリオも、今ここで聞いたことは、絶対に、誰にも、他言無用だ」


普段穏やかな人ほど怒らせると怖い、というのは本当だなと、改めて感じることとなった。

無表情なのに、筆舌に尽くしがたいほどの恐怖を与える王太子殿下の顔に、私たちは黙って何度も頷くことしかできなかった。

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