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ワガママ王女と冷静魔法使い(前)

この度『王子と女官〜』が一迅社アイリスNEOより書籍化致しました!(4/4発売。詳細は活動報告をご覧ください)

感謝の気持ちを込めて番外編を更新いたします。


本編開始のかなり前、アイクの両親・フィリア王女と王宮魔法使いブルーノ(ルイス先生)の出会い話です。

「頼む!無理なことを言っているとは分かっているが、そこをなんとか!」

「王太子殿下、頭を下げられても困るのですが」


 レイファ王国王太子執務室。高級なソファに浅く腰掛け、深々と頭を下げているのはこの国次期国王、王太子ラファエルである。

 本来、上には国王しかいない立場の彼が必死にすがり付く相手は王太子付き王宮魔法使い、ブルーノ・ベネット。王太子の部下であり年齢も下のはずなのに、どことなく態度の大きいこの王宮魔法使いは深い溜息をついた。


「これで何人目ですか、王女殿下付きの王宮魔法使いの異動は?」

「……五人目だ」

「我が国の魔法使いの数は限られておりますが、ご存じですか?」

「む、無論だ!だからこそ、そなたに頼んでいるのだ。頼む、フィリア付きになってくれ!」


 王太子の妹、フィリア王女は御年十六歳。絹のような白銀の髪、透き通るような白い肌と水色の瞳。色素の薄く儚げな美貌は『神の創り上げた芸術品』と評されているが、その王女には王宮内だけで秘されている欠点があった。


「大変ご無礼ながら、どこまで王女殿下のワガママを許されるので」

「……仕方ないのだ。フィリアにはディアーヌとの間を取り持ってもらった。それに色々と脅さ……知られてしまっている」


 穏やかで人は良いが、為政者になるにはやや優しすぎる王太子は焦ったように目を動かしている。

 実の兄妹なのになぜこれ程性格が違うのか、逆の方が良かったのでは、などと噂されている気の毒な王太子を見ながら、ブルーノは諦めたように頷いた。


「ご命令とあれば私に異存はございません。王女付き魔法使いと交代致します」

「本当か!?ありがたい!」


 そもそも部下の配属のことなのだから一言命令すれば済む話を、わざわざ頭まで下げるこの馬鹿正直な王太子のことは、ブルーノも嫌いではない。

 こうして半強制的に王宮魔法使いブルーノは、『レイファの宝玉』と『王宮の暴れ馬』という両極端な異名を持つ王女、フィリア付きに配置転換となった。



 ◇◇◇



「本日より王女殿下付きとなりました、ブルーノ・ベネットと……」

「ふーん、今回はベネット家の次男坊か。王宮魔法使いもだいぶ枯渇してきたわね」

「……おかげさまで」


(口を開かなければ)非の打ち所がない美貌の王女は、窓際のカウチに深々ともたれたまま、視線だけをチラッと向けた。


「あら、見た目は良いじゃない」

「恐れ入ります」

「どうせみんな口うるさいんだから、せめて顔ぐらい良いほうがマシよね。前任なんて何も言う事聞いてくれない上に辛気臭すぎて嫌になったわ。えっと、ほら何て名前だったかしら、アリア?」

「ノーマン様です」


 フィリアは言いたいことを言ったあげく、隣に控える女官にいきなり話を振る。アリアと呼ばれた女官は動揺する様子もなく、自由すぎる主人の会話に付いていく。


(……これは確かにノーマンには荷が重いですね)


 魔法の能力は間違いないが、対人能力には大いに問題のある同期の仏頂面を頭に浮かべているブルーノに、フィリアは再び話を戻した。


「さてブルーノ・ベネット。わたくしは行きたいところがあるの。極秘で街に下りるから護衛なさい」

「……はい?」

「否と言うなら貴方もクビ。わたくしの望みに応えられない者なんていらないわ」


 本当に黙っていれば繊細な美女なのに、なぜこれほど横暴なのか。傲慢なところのある国王に似ているといえば似ているが、深窓の姫君がこれで良いのか。

 聞きしに勝るワガママ振りに、ブルーノは早くも頭が痛くなってきた。


「王女殿下、申し訳ございませんが私の役目は貴女様の御身を守ることです。危険に晒すようなことは致しかねます」

「今までの五人もそれと一言一句同じことを言っていたわね」

「でしたら……」

「それがおかしいの。貴方の役目はわたくしの身を守ることで、わたくしの行動を制限することではないはずです。お父様やお兄様からわたくしを王宮に閉じ込めておくよう命令があったのかしら?」

「……いえ」


 確かに国王からそこまでは言われていないが、常識で考えればわかる話。

 しかし、そんなことはこのワガママ王女には通用しない。


「でしたら、わたくしが王宮にいようが街にいようが、黙って守りなさい。それが貴方たちの仕事。さ、支度するわよアリア」

「かしこまりました」


 そう言いながら女官は様子を窺うようにブルーノを見る。

(本当に良いのですか?)と問いかけるような視線を感じながら、ブルーノは静かに考える。


 前任者と同様、却下し止めることは容易い。どんなじゃじゃ馬王女であっても、王宮魔法使いの目を掻い潜り王宮を出ることなど不可能だ。近衛騎士ではなく魔法使いが付けられているのは、その為でもある。

 しかしブルーノの頭の片隅に、一見無茶苦茶な王女の主張がなぜか引っかかる。


(王女の言うこともあながち間違っていない気がする)


 ブルーノに課せられた任務は「フィリア王女を守ること」それ以上でもそれ以下でもない。

 確かに「どこで守るか」は指示されていない。

 名門侯爵家に生まれながら今ひとつ忠誠心が育たなかったブルーノは、真面目そうな外見と裏腹に少々ひねくれた男である。

 何よりこの奔放な王女の生態に、不思議と興味が湧いていた。


「……かしこまりました。お供致します」

「えっ!良いの!?」

「よろしいのですか!?」


 フィリアと女官の声が被る。自分から言い出したくせに、フィリアは信じられないというように目を丸くする。


「王女殿下のおっしゃることも一理あります。いずれにせよ私はお守りするだけですので」

「ありがとう!王宮魔法使いってどいつもこいつも頭でっかちで融通利かない連中ばっかりだと思っていたけれど、話の分かるのもいるのね!」

「フィリア様、どこでそんな言葉を覚えてこられたのですか」


 女官に窘められながらも満面の笑みを浮かべ飛び回るフィリアは、宝玉でも暴れ馬でもない、年相応の無邪気な少女に見えた。


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