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第6話  女官は噂の真実を知る

「いいか、このことは絶対にそこら辺で喋るなよ。バレたら口封じされてもおかしくないからな」


アイク様は最後まで念押しをしてきた。

一体、この日付と場所に何の意味があるのか。

そこまで恐ろしい情報、聞きたくなかったと、心から後悔した。


◆◆◆◆◆◆


ベッドの上で微睡みながら、寝返りをうつ。

べチャっと、冷たく濡れた感触がし、一気に覚醒する。

(えっ、何!?)


焦って飛び起きると、ベッドのうえは水浸し。床にも水たまりがあり、天井まで水しぶきが飛んでいる。

(最近は雨もないし、2階だから浸水という訳でもないし、何で!?)

パニックになりながら、とにかくタオルで手当たり次第部屋中を拭く。


拭いてみると、どうやらただの水のようだった。

部屋中を拭き終わり、シーツを干すと、どっと疲れて椅子にもたれ込む。


ふと、昨日の夢を思い出した。アイク様は何かやっていなかったか?


(水の生成魔法……)


失敗したと言っていた。まさか、と思うが、他に思い当たる節も無い。

私の火傷を治してくれた時も、夢ではなく、現実世界の私の手に影響が出てていた。


(ということは、失敗したと思っていた魔法も、現実世界では発現している、ということ?)


血の気が引く。これは相当不味いのではないか?

もし、アイク様が夢の中で使った魔法が、現実となるのなら。

(やばい。炎とか爆発とか、とんでもない魔法を試されたら、大変なことになる!)


本人を止めたいが、伝える術がない。

今すぐに寝ようにも、起きたばかりで眠れる気がしないし、何より仕事が迫っている。

既に水の片づけのせいで、遅刻寸前だ。


アイク様がおとなしくしていてくれるよう、心から祈りつつ、王太子執務室へ全力疾走した。


◆◆◆◆◆◆


「普通、早めに来るものだと思うけど?時間に間に合えば良いと思っていて?仕事をなんだと思っているのかしら」


遅刻はしなかったが、時間ギリギリになってしまった。

早速ソフィア様からお小言を頂戴する。

これについては私もおっしゃる通りだと思うので、ひたすら平身低頭、謝罪した。


さて、いよいよ王太子執務室での勤務だ。

(他の人にバレずに、王太子殿下か、エドガー様にお話できるチャンスがあるか…)

ドキドキしながら入室するが……中には王太子殿下もエドガー様もいなかった。


「本日、王太子殿下は妃殿下と視察に出られてますので、貴女は本日中にやることを覚えなさい」


(なんてこった……)


色々覚悟を決めてきたのに、どうやら空回りに終わったらしい。


その日は、書類整理や執務室の掃除、お茶の入れ方まで、ソフィア様からそれはそれは厳しく教えていただいた。


「その彫刻はデリケートなのですから、拭き布を使い分けなさい」「茶葉に合わせたお湯の温度くらい、常識でしょう」「この程度のこともできないなんて、あなた、それでも王宮女官なのかしら?」


私の一挙手一投足、全てに駄目出しが飛んでくる勢いだった。

今日は「はい!」「申し訳ございません!」の二言しか発していない気がする。

留守番の王太子補佐官や、リオ様の生温かい視線が痛かった。


◆◆◆◆◆◆


「でも、確かにソフィア様は凄いですね。女官長並みに手際がよくて、知識も豊富な方です。王太子殿下が傍に置いておられる理由が分かりました。性格はちょっとアレですけど」


最近、眠りに落ちるなり、1日の出来事を話すことが日課になっている気がする。


まあ、アイク様は生返事がたまに返ってくるくらいで、ほとんど聞いてないだろうけど、「うるさい」とも言われないので、勝手に喋り倒している。

そのアイク様は、地面に難しい文字を書いては、首をかしげ、何かを考えている様子だった。


「ちょっと、さっきも言いましたよね。変な魔法を使うのは止めて下さいよ。大変なのは私なんですから!」

「変な魔法ってなんだ?」


アイク様は私の抗議など気にした様子も無く、地面から目を逸らさずに聞いてきた。


「周りを爆発させるとか、燃やし尽くすとか、そういう危ない魔法ですよ」

「それなら大丈夫だろ。俺はそっちの才能は無い」

「え、そうなんですか??」


驚いて思わず聞き返すと、アイク様は怪訝な顔でこちらを向いた。


「俺は水と氷の属性持ちだからな。攻撃力の高い、風とか炎の魔法は使えない。……なんでそんなに驚いてるんだ?」


さすがに失礼だと思い、口を噤むが、問い詰めようとするアイク様の圧に勝てず、そっと話してしまった。


「……噂で、アイク様が戦場で敵を焼き払ったと、聞いたことがあったものですから……」

「あ?なんだそりゃ?」

「そうですよね。申し訳ございません!」


不快にさせてしまったことが申し訳なく、頭を下げる。

しばらく無言だったアイク様は、「ああ」と思い出したように話し出した。


「それは多分リオだ」

「リオ様?」


予想外の名前に驚く。あの純情そうな少年がそんな恐ろしい真似を??


「去年のシリル国境戦の時だ。向こうの数が多すぎて面倒だったから、俺が全部凍らせて、戦闘不能にして圧勝した」

「それは凄いですね」


なんだか得意気なアイク様。規模が大きすぎて想像がつかず、ありきたりな褒め言葉になってしまったが、ご機嫌になったので、良しとする。


「それを、終戦後にリオが溶かそうとしたが、火力を間違えたらしく、大惨事になった」

「……それは凄いですね」


リオ様、可愛い顔してとんでもないな。

明日からあまり近寄りたくない。


「結局、俺が消火してやったのに、なんで俺のせいになってるんだか」


アイク様は特に気にした様子もないが、無実の罪で魔王扱いは気の毒だ。


「では貴族や令嬢に魔法をかけたとかも、嘘なんでしょうね……」

「ああ。うるさいカエル顔の爺を氷漬けにしたり、付きまとってきた女をリベア川まで流したりしたことは何回かある」


(あるんかい!)


どうやらレイファの魔王の噂は、ややズレがあるものの、あながち無実という訳でもないようだ。



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