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王太子殿下は奮闘する④

本当に謀反を起こそうとしている者が、馬鹿正直に事前申告するわけがない。

なにより、私はお人好しと呼ばれようとも、アイクを疑ったことは微塵もない。


「つまり、シュルナの計画に乗って、わざと謀反を起こさせるということか?」

「いえ、実際に事を起こしては影響が大きすぎます。計画通りに進んでいると油断させた上で、寸前で葬ります。戦場であれば、多少のゴタゴタは誤魔化せるでしょう」


淡々と言うアイクは、僅か13歳の少年とは思えない。

政治に一切関与せず、母上が溺愛して育ててきたはずの弟が、いつの間に策略を考えるようになっていたのか。


「……駄目だ。そこまでお前が危ない橋を渡る必要はない」

「では、シュルナをいつまでも野放しに?」


ぐっと言葉につまる。限りなく怪しくとも、確たる動きがない限り、シュルナを罰することは出来ない。

強権的にそのようなことをすれば、シュルナの取り巻きは黙っていないだろうし、臣下は王家を信用しなくなる。

そして、シュルナは今まで尻尾を出していない。


「正直に言うが、お前とシュルナは、既に疑われている。今シュルナと共に軍を動かせば、誤解を招くかもしれない」


下手をすれば、アイクも謀反に加担していると思われる。だが、私よりアイクの方がよっぽど覚悟が出来ていた。


「わかっています。このために、これまであの狐のくだらない話に付き合ってきたんで。これ以上、あいつの面倒ごとに巻き込まれるのは御免です」


アイクの一切譲る気のない強い視線が、懇願するような必死な色になった。


「俺は、兄上を脅かす者を全て排除したいのです。お願いします」


それでも決断できない私は、「父上に相談する」と言うことが精一杯だった。



◆◆◆◆◆◆



「第二王子アイザックよ、余の名代として必ずやアルガトルを退け、レイファの武威を見せよ」

「かしこまりました」


アイクは国王直々の任命により、シリル国境戦へ出立した。

王族が直々に戦場に立つことは、レイファの歴史を遡れば、珍しいことではないが、比較的平和だった近年は無かった。


民の間では、先頭に立って国を守る強い意志を示した王家に対する人気が、随分と高まっている。

前線で踏ん張るシリルの兵や民、寄せ集められた軍にも、王子が救援に来るという情報は伝わり、士気が上がっているという。


盛り上がる外部に対し、王宮内では大変な修羅場となっていた。

今回の派遣に関する、裏の目的は、決して漏らす訳にはいかない。

シュルナに勘づかれれば、国内は乱れ、アイクの命は危うくなる。

知っているのは、(ちち)王太子(わたし)、そして各組織のトップである、宰相、大将、筆頭王宮魔法使いの5人のみだ。


そのため、アイクが戦場に出ると聞いた母は、怒り狂った。

父に詰め寄り、泣いたが、いつも母の尻に敷かれている父でも、決して譲らなかった。


今、アイクを見送る母は、毅然とした王妃そのものだが、この完璧な王妃が、つい先程まで国王に手当たり次第物を投げつけていたとは、誰も思わないだろう。


(早く無事に帰ってこい)


あまり信心深くない私だったが、珍しく神に祈る。

そして、すぐさま執務室に戻り、旅支度を整えた。

一刻も早くアイクが戻れるよう、私が出来る手は、全て打たねばならない。



◆◆◆◆◆◆



「タチアナ王妃には既に手紙を出しております。あの姉が、他人の意見をどれ程聞くかはわかりませんが、私ができる限りの手は尽くしますので」

「ありがとうございます」


2週間後、王太子である私が、極秘裏に訪れたのは、スイフレイン公国だ。

スイフレインはアルカドルとレイファという大国に挟まれた、小さな国だが、どちらの王家とも縁続きとなり、巷で「八方美人外交」と呼ばれる手法で、中立国として存在している稀有な国だ。


今私が向き合っているのは、現在の国主である大公の妹婿で、あのタチアナ王妃の弟、ゲラルド殿だ。


タチアナ王妃は、王位継承争いを防ぐため、自分の兄弟姉妹を根こそぎ排除している。

ただし、ゲラルド殿だけは可愛がっていたようで、スイフレイン公国に追い出し、命を奪うことはしなかった。

彼女にしては、かなりの温情を見せた唯一の相手だ。


スイフレイン公国にしても、中立国として存在感を出すために、和睦の仲介者となることは願ってもないチャンスだろう。

同席している大公も、相当張り切っている様子が見えた。


「しかし、パトリック殿下、弟君の活躍は我が国にまで届いておりますぞ。あのアルガトル軍相手に連戦連勝とか。末恐ろしい王子殿下ですな」

「そのような。少々誇張されすぎですよ」


謙遜してみたが、誇張ではない。

士気を上げるための、名目上の指揮官として派遣したはずのアイクは、国王や私からの命令を無視して、前線に立ってしまっている。


シリルに到着するなり、小隊を率いて、孤立していた砦を奪還したのを皮切りに、アルガトルの魔法部隊の魔法使いとも渡り合い、信じがたいほどの戦果を挙げている。


「あいつの力なら当然だろう。過保護にしないといけないような王子様じゃない」と、アイクの師匠たるアルフレッドは気にもしていないが、私達家族は毎日冷や冷やしている。


ちなみに、アイクの出陣後、母は父や私と、一言も口を利こうとしない。早くこの戦を終わらせなければ、家庭崩壊は免れない。


「しかし、アルガトル王としては、奇襲である程度レイファ領を奪い、有利な条件で休戦協定を結ぶつもりだったようだったが、弟君の活躍のおかげで、目論見が外れ、随分焦っているようだ。タチアナ王妃が事態の収拾に出てくるのも時間の問題だ。アルガトル王はプライドだけの男だが、タチアナ王妃相手ならば、現実的な落としどころを見つけられるだろう」

「大公閣下のご尽力に感謝します」


やっと終戦の糸口は見えてきた。

あとは、国内問題だけだ。


アルガトルとの戦が終わり、シュルナが動きを見せた瞬間に、ジェイス・ベネットが片を付ける。

それで、アイクは解放される。そう思っていたのだが、情けない私は、アイクの心の闇に、全く気付いていなかった。


そのことに最初に気付いたのは、アイクの師匠。そして、次に気付いたのは、王宮魔法使いでアイクの兄弟子、エドワード・ベネットだった。


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