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第17話  子爵令嬢は即答する

「さて、結局ノーマンは、王子殿下の居場所も安否も分からなかったと。どうしましょうか、国王陛下」


無表情なルイス先生が、可哀そうなくらい怯えている国王陛下に、追い打ちをかけていく。

ノーマンや近衛騎士達が、国王陛下を守る体勢になる。


「だから、今のノーマンでは、私には勝てませんよ。どうします?おとなしく首を差し出しますか?」

「ま、待て!まだ、エドワードも調べに行っているし、元々ツィラードに忍ばせている影もいる。今しばらく待ってくれ」

「エドワードでは、ツィラードまで直接転移はできないでしょうに。行くだけで魔力を使い切っているでしょうね、ノーマン」

「……確かに」


エドワード様も転移できるようになったんだと、現実逃避をしていると、ルイス先生の矛先が私に向いた。


「ところで、そこのお嬢様はいつまで起きているんですか?」

「え?私?」


意味の分からない指摘にきょとんとすると、ルイス先生がとても冷たい視線で私を見ていた。

「何のために連れてきたと思っているのですか?何でも良いので、王子殿下の今の様子を見る努力をしなさい」

「それは、そうですが」


雲の上の方々がいる国王執務室の中、隣に王妃陛下が座っている状況で、居眠りのできる人間がいるだろうか。いや、いない。

恐らくあと3日は徹夜できるくらい、頭は覚醒している。


「では、手伝って差し上げますので、王子殿下の意識に繋がるように頑張りなさい」

と言ったが早いか、ルイス先生の指から勢いよく光の矢が飛び出してきた。

(え、嘘!)


避けることもできず、私の額に直撃する。衝撃と共に、意識が遠ざかっていった。



◆◆◆◆◆◆



気づくと、殺風景な白い壁が広がっていた。

王宮でもない、子爵家でもない。

薄暗く、ジメジメとした空間だ。見える範囲には特に物もない。


見覚えのない部屋に、直ぐにピンと来た。


(もしかして、アイク様の視界……?)


恐らく床に座り、壁にもたれている様子だ。

視野は斜め上を見たまま、固定されている。

全く微動だにしない様子に、不安が募る。


部屋の外から人の声、足音が聞こえる。

ノックもなく、2人の男がズカズカと入ってきた。

ゆっくりと、目線がその男達の方に向く。

脂ぎった中年男と、厳つい顔をした若い男だ。


「王子殿下、考えていただけましたかな?私どもも、王子殿下に手荒な真似はしたくないのですよ」

中年男が猫なで声で話しかけてくる。


「……嫌だね。クーデターを起こしたんなら、最後まで自分の力でやれ」


間違いなくアイク様の声だ。キッパリ言い切っているが、明らかに声に力がない。


「そのようなことをおっしゃられますと、私どもも困りますなあ。私どもの中にも、魔法使いである王子殿下を(しい)そうとする者や、王子殿下をアルガトルに売り渡そうなどと言う者もおりまして、困っておりましての。王子殿下が協力してくだされば、ご無事にレイファにお返しできるんですがねえ」


この男、自分達の反乱に、アイク様を使おうとしている。

中年男の舐めるような口調に、今まで感じたことのない怒りが込み上げてくる。

殴りに行きたいが、ただ見ていることしかできない自分が歯がゆい。


「……断る」

アイク様がそう言った瞬間、脚に激痛が走った。

「!っつ!!」


痛みに耐えるように、アイク様が身体を折り曲げる。

視線の先にあるアイク様の右足を、もう1人の若い男が思い切り踏んでいた。

「おっと、王子殿下、私の部下が申し訳ありません。右足折れていらっしゃいましたね」


白々しく笑う中年男に、殺意が沸いた。

私が感じたのは一瞬だったが、気を失いそうな痛みだった。

手当てもされず、この痛みを感じ続けるアイク様の苦しみはいかばかりか。


「では誠に不本意ですが、王子殿下には強制的にご協力いただきます。魔法使いは喉から手が出るほどほしかったのでね。我らが政権を取った後も、最期まで利用させていただきますのでご安心を」

「所詮レイファはアルカドルがある限り、こちらに攻めてくることはできん。断交となっても痛くもかゆくもないわ」


大笑いしながら部屋を出ていく2人の男。

身体を丸め、荒い呼吸を続けるアイク様の手には、不思議な模様が彫り込まれた手枷が填められ、ちらりと見えた胸元に、私のペンダントが光るのが見えた。



◆◆◆◆◆◆


「……サ、メリッサ!」


目を開けると、心配そうな王妃陛下の顔が目の前にあった。

「大丈夫!?酷くうなされていたのよ」


いつのまにか顔は涙でビシャビシャになっていた。

夢、いや、アイク様の所で感じた怒り、痛み、哀しみは確かに私の心の中で、激しく渦巻いている。


「アイク様が、反乱軍に捕まり、協力するよう脅されています。……ぼ、暴力も受けておられ、あのままでは……」


きちんと伝えないとと思っているのに、嗚咽が込み上げてきて、言葉が上手く出てこない。

真っ青な顔の王妃陛下に背中を擦っていただき、見たこと、聞いたことを必死に話す。


「本当に人が良い。ツィラードなど、どうでもよいのだから、適当に協力して帰ってくれば良いものを……」

ルイス先生が深い溜め息をつき、眉間を揉んでいる。


「いや、レイファの王族としてはそういうことは……すみません!」

ルイス先生に睨まれた国王陛下が飛び上がる。


「しかし、メリッサ嬢の話を聞く限り、時間は少ない。身代金を要求してくる位ならまだ良いが、アルガトルなんぞに引き渡されたら、取り返しがつかない」

「アイクはどうなるのですか!?」

王太子殿下の言葉に、王妃陛下の悲鳴のような声が上がる。


「アイザック王子殿下は、アルガトルでは天敵扱いされています。身柄を引き渡されたら、まずお命はないでしょう」


国軍将軍の言葉に、王妃陛下がふらつく。

私も心臓が抉られたような思いがする。涙が止まらず、呼吸が苦しい。


「しかし、アイザック殿下が自力で脱出するのは難しいかと。足を骨折されているようですし、恐らく魔法も封じられています」

ノーマンの言葉に、珍しくルイス先生が同意した。


「魔力を封じられたのは間違いないでしょう。王子殿下の魔力が普通ならば、先程の私の失神魔法は、お嬢様に当たることはないですから」

ルイス先生の言葉に、慌てて腕輪を見る。

そうだ、致死魔法からも守ってくれた程の腕輪なのに、もはや防御の力が発揮されていない。

心なしか、魔法石の藍色も、少し暗くなった気がする。


「もはや悠長なことは言ってられない。外交ルート、軍事圧力、全てを使ってアイクの救出を最優先にする!」

国王陛下の言葉に、慌ただしく動く重臣たち。


「軍は既に出陣可能です」「ツィラードに留まっている外交官に、反乱軍指導者との交渉ルートを探らせます」「王宮魔法使いや影による救出作戦も……」


流れる涙もそのままに、呆然と動きを見つめる私に、ルイス先生はそっと呟いた。


「……間に合いませんね」

「え……」


残酷な言葉に、ルイス先生の顔を見たまま凍りつく。


「ツィラードは遠すぎます。軍を出しても、陸路で1ヶ月。しかし、国境を接していない以上、友好国を経由しなくてはなりませんが、いくら友好国でも、直ぐに他国軍を入国させてはくれませんので、実際はもっとかかります。

王宮魔法使いにしても、転移を使えるのはノーマンとエドワードだけ。これでどこにいるか分からない王子殿下の救出は、困難です」


ルイス先生が淡々と告げる現実が、鋭く私を突き刺していく。

「なにか……、なにか手は無いのですか!?アイク様をこのまま見殺しにするんですか!?」

「私がそんなこと、する筈がないでしょう」


ルイス先生の怒りを押し殺した声が、地を這うように伝わってくる。


「何があっても助けますよ。ただ、王子殿下の魔力を辿れない以上、私1人で見つけ出すことは難しいです。お嬢様の協力が必要です」

「……私が?」


私に何が出来るのだろう?

魔法もなく、特別な知識もなく、武術やスパイ技術があるわけでもない、ただの小娘。

右往左往するしか出来ないのに。


「貴女にしか出来ない方法が、1つあります。ただ、私もその方法に確信はありませんし、貴女の命を大いに危険に晒します。それでも……」

「やります」


即答した。

何をするのかさっぱり分からないが、命懸けでアイク様を救えるのならば、安いものだ。

あの方は、私の唯一なのだから。

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