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第12話  女官は家族関係に口を出す

(私、今何を口走っているの!?)


ネガティブモードのアイク様を何とか励まそうとして、必要としている存在がいるんだということを伝えようとしていたのに、これ、告白みたいになってない!?

顔に熱が集まっていくのを感じる。意識すればするほど、どんどん真っ赤になっていってしまう。


反応が怖くて、顔を逸らしたまま、横目でこっそりアイク様の様子を窺う。

最初は私の勢いに呆然としていたアイク様だが、だんだん顔が赤らんでいき、耳まで真っ赤になった。

思わぬピュアな反応に、私の動揺がますます酷くなる。


(ええええ、やめて~!!)


あんた、夜会とかで貴族令嬢に(たか)られてる王子でしょうが!

聞き流すか、まだ鼻で笑ってくれたほうが良かった気がする。


「とと、とにかく、まず戻ってからゆっくり考えましょう!!私の中にいる状態で、死ぬとかそういう物騒なことは考えないでください!!」


気まずすぎる空気に、現実世界の私が早く意識を取り戻すことを、心から願った。


◆◆◆◆◆◆


バチッと目を開けると、どこかで見た天井だった。

(またこのパターン……)


あの王太子殿下の暗殺未遂事件の後に、私が運び込まれていた部屋だ。またも女性騎士に見つめられている。

女性騎士をつけてくれているのは、曲がりなりにも未婚の貴族令嬢に対する配慮だろう。


「メリッサさん、大丈夫ですか?」


リオ様もいたらしい。

私が意識を失っていたのは、1時間もなかったようだ。

1時間前には、命の危険にさらされていた私だが、衝撃的な話を聞きすぎたせいで、遥か昔のことのような気がする。


「全然大丈夫です」と言い切って、ベッドから起き上がる。

今、私がすべきことは、メソメソすることでも、グダグダと思い悩むことでもない。


「リオ様!」

「な、なんでしょうか!?」


勢いよくリオ様を呼ぶと、リオ様は怯んだ。嫌な予感がしたのか、数歩後ずさるが、遠慮する気はない。


以前、東の国の賓客の接遇にあたったとき、「見ざる、言わざる、聞かざる」という言葉を、教えていただいたことがある。

初めて知ったときは、王宮で働く者として、とても大切な三原則だとしみじみ感じたものだったが、もうかなぐり捨てようと決めた。

私は、アイク様のために動く。


「王太子殿下とお話をさせていただきたいの。アイク様がお悩みになっていることがあると、お伝えしていただけませんか?」


◆◆◆◆◆◆


私の迫力に圧されたのか、リオ様は速やかに王太子殿下に伝えて下さったようだ。

数時間後には、面会可能との返答があり、王宮内の一室に呼び出された。

分単位でスケジュールが組まれている王太子殿下なのに、その日にお会いできるとは驚異的だ。


呼び出された王宮内の部屋に、リオ様に連れられて向かう。私は知らなかったが、その部屋は密談に使われる部屋で、人の出入りが見えないように設計されているそうだ。

王太子殿下も、何か察するものがあったのかもしれない。


室内で待っていると、エドガー様を引き連れた王太子殿下が現れた。

ここ最近、王太子殿下は本当に疲れきった顔をしている。


「メリッサ嬢、体調は大丈夫か? 上層部(こちら)で意思統一ができていなかったために、メリッサ嬢を大変危険な目に遭わせた」

「王太子殿下にお気遣い頂きまして、まことに申し訳ございません。全く問題ございません」


もうちょっと筆頭魔法使いとやらの手綱を取っておいてくれよ、と思わないでもないが、王太子殿下を責めるなんてできるはずもない。丁寧に礼をとる。


「アイクのことで話があると聞いたが……」


早々に本題に入りたそうだった王太子殿下だが、私は少し躊躇った。

エドガー様、リオ様だけでなく、王太子殿下の護衛騎士も扉に控えている。どこまでの人が知らされているか分からないことを、ここで話して良いものか……。


目が泳いでいる私を見て、察しの良い我らが王太子殿下は、エドガー様らを見て言い放った。

「全員、部屋の外で待機していろ」

「え、いや、そのような訳にはいきません!護衛もつけずに女官と2人になるなど、危険です」


王太子殿下、しかも最近命を狙われたばかりの方だ。至極最もなことなので、失礼だとは思わなかった。


「私の命令だ」


王太子殿下がキッパリというと、エドガー様は明らかに不服そうな顔をしていたが、王太子殿下に折れる気がないことを見てとったか、

「……リオに守護の結界だけは張らせますよ」

と言い、渋々護衛騎士、そして魔法をかけ終わったリオ様を連れて部屋を出ていった。


「さて、メリッサ嬢、アイクにいったい何があったのか?」


ソファの向かいに座った王太子殿下は、真っすぐにこちらを見ている。

若くとも海千山千の貴族や諸国とやり合っている方だ。今回は、回りくどい言い方や、オブラートに包んだ言い方は止めて、そのまま伝えようと決めていた。


「単刀直入に申し上げます。アイク様は元の身体に戻られるつもりがありません」


恐らく、王太子殿下には想像も付かなかったらしく、唖然としている。


「そんな馬鹿な。なぜだ!?」

「……アイク様は御生まれのことで以前から悩んでいたようです。そして、今回の事件についても責任を感じておられます」

「出生のことを、アイクが、そなたに言ったのか!?」

「申し訳ございません」


(そりゃ聞いちゃヤバいよな……今度こそ口封じされるかも。でも言いたいことは言っとかないと)


「アイク様はこのままでは御命を粗末にされてしまいます。お救い出来るのはご家族だけです」


王家の内情に踏み込むなんて、身の程知らずも甚だしいとは重々承知している。

ただ、ほとんど庶民のような子爵家で生まれ育った身としては、貴族の方々は、家族に対しても自分の感情に蓋をしすぎる気がしていた。王宮女官になってから、婚約者同士でも、夫婦でも、親子でも、言葉が足りないためにすれ違って、修羅場になっている場面を幾度となく見てきた。

出しゃばり過ぎだとは思うが、アイク様の闇を救うことは、ご家族である王家の方々しかできない。


「どうかアイク様が戻られた時、今一度きちんとお話し頂けないでしょうか?」


首が飛ぶ覚悟で、深々と頭を下げる。

王太子殿下からは、暫し何の返答も無かった。

息をするのも躊躇われるほどの、重い沈黙がどれだけ続いただろうか、王太子殿下の静かな声が聞こえた。


「アイクに私達の気持ちが伝わっていなかったことは、よく分かった。父上と母上にも、話をせねばなるまい。……あいつに、言いたいことが山のようにあるから、とっとと戻ってこいと伝えておいてくれ」


王太子殿下はそれだけ言うと、ご自分から去っていった。扉の外でエドガー様や護衛の方の慌てた声が聞こえる。

(伝わった…のかな?)

リオ様が心配そうに部屋に入ってくるが、私はどっと疲れて、しばらくその場から動けなかった。


そのまま私は、元の部屋に戻され、女性騎士とリオ様の護衛もしくは監視の中、ぼんやりと窓の外を見ていた。

(アイク様が望むことではないかもしれないけど……私にできることはこれくらいしかない)


後は国王陛下と王妃陛下次第だが、臣下としての印象では、お二方とも慈悲深くお優しい君主だ。どうやら想像以上に複雑な家庭だったけど、国王一家の家族仲の良さは有名だったし、アイク様を助けてくださると良いけど…などとモヤモヤ考えていた時だった。


ドアをノックする音が聞こえた。女性騎士が対応してくれる。

「いかがしましたか?」

顔をのぞかせたのは、見覚えのない女官だった。

「我が主が、こちらにいるメリッサ・グレイ嬢にお会いしたいと申しております」


どなたですか?というまもなく、ドアを開けて入ってきたのは眩い美女。

「急で申し訳ない」


豪華なドレスに身を包んだ彼女を知らぬ者など、この国にはいない。

「王妃陛下…!!」


堂々と入室してきた、この国最高位の女性に、私たちは慌てて叩頭した。


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