落ちた先で
魔の穴の下。そこは魔界となっており、知能を持ったゴブリンなどのモンスターが暮らしていた。
「今日も平和だといいんだがなー」
「ああ、本当にその通りだ」
川の近くで畑を耕している二匹のゴブリンが、話をしながら作業をしていた。すると、魔力を探知した二匹は滝の方へ向かった。
「また誰か落ちたのか?」
「それよりも、スポンジシャボンを出すんだ!」
「あいよ!」
ゴブリンはホイッスルのようなものを取り出し、魔力を発して強く吹いた。ホイッスルの先から紫色の大きなシャボン玉が作り出され、上へ登って行った。スポンジシャボンは滝から落下した人を助けるために魔界の住人が作ったアイテムである。落ちた人はシャボンの中に入れられ、そこからゆっくりと下に落ちて行く。シャボンはかなり頑丈で、中に人が入ったとしても破られることはないのだ。
「そろそろ降りてくるだろう」
「だな」
二匹が上を見上げていると、大きなスポンジシャボンが下に落ちてきた。中に入っていたのは、気を失っているミツルギとネレスだった。
「おい、子供じゃねーか! しかも酷い傷を……」
「誰がこんなことを……それより早くマトマさんを呼んで来い!」
「ああ分かった!」
その後、ゴブリンの一匹は慌てて走って去って行った。
ミツルギは気が付くと、そこには草原が広がっていた。ミツルギは周囲を見回したが、草以外何もなかった。
「何だここ、ネレス? ネレース!」
大声でネレスの名を叫んだが、返事はなかった。ミツルギは走り回ってネレスを探していると、二つの人影を見つけた。
「すみません、俺と同い年位の女の子を見かけませんでしたか!」
ミツルギは大声でこう聞いたが、二つの人影は何も答えなかった。だが、人影は振り返ってミツルギの方を見た。そこにいたのは、ミツルギに少し似ている女性と、黒色の長髪の男性だった。二人の顔を見たミツルギの中に、安らぎに似た感情が生まれた。
「何だこの安心感……あなたたちは一体?」
「帰ってきたんだな、我が子よ」
「我が子?」
ミツルギがこう言った直後、意識は飛んだ。
「おっ、やっと目を覚ましたか」
ミツルギが耳にしたのは別の男性の声だった。辺りを見回すと、白衣を着たゴブリンがミツルギを見ていた。
「ゴ……ゴブリン!」
「ちょっと待ってくれ。私は悪いゴブリンじゃない。こう見えて医者なんだ」
白衣のゴブリンは笑ってこう言った後、ミツルギに近付いた。
「私は医者のマトマ。一週間前、傷だらけの君たちを見つけ、治療してたんだよ」
「君たち……ネレスは? 俺の他に女の子がいただろ!」
「大丈夫、彼女は先に目が覚めてるよ」
「無事なんだ……よかった……」
マトマの話を聞いたミツルギは、安堵の息を吐いてベッドの上で横になった。その後、ネレスが扉を開けて部屋に入って来た。
「ミツルギ! 目が覚めたのね」
「ああ。今さっきな」
ネレスを見て、ミツルギはよかったと呟いた。マトマは二人を呼んだ後、咳ばらいをして話をした。
「君たちは何であそこから飛び降りたんだ?」
「あそこ?」
「分からないのかい?」
「はい。俺たち、ビガシャープ家のバーラードと戦ってやられて、そこから記憶がないんです」
「ビガシャープ家だと……」
話を聞いて、大体の事情を察知したマトマは難しい顔をした。
「上の世界では、まだ奴らが支配しているのか……」
「奴ら? 上の世界?」
「すみませんマトマさん。ミツルギは異世界から来てこの世界のことをまだ完全に把握してないのです」
ネレスの言葉を聞き、マトマはそうかと返事をした後、ミツルギの方を見た。
「ここは魔界だ。君たちは上の世界で魔の穴と呼ばれるところからここへ落された。恐らく、バーラードはここへ落せば二度と這い上がらないと考えたんだろう」
「這い上がれない? 俺たちはもう奴らと戦えないのか!」
ミツルギの言葉を聞いた後、マトマは落ち着けと言ってミツルギを冷静にさせた。
「這い上がれないというのは間違いだ。実は上へ登る方法はいくつかある。どれも簡単な方法だが……」
「簡単だけど……何か問題でも?」
「魔王城に行かなければならないんだ」
「魔王?」
魔王という単語を聞き、ミツルギは茫然とした。ネレスは目を開けて呆然とするミツルギに近付き、話をした。
「昔、魔界を支配した人がいるらしいの。だけど、立派な人だったから皆は魔王って親しみを込めて呼んでたって」
「いい魔王か。へー、そんな奴もいたんだなー」
「過去の話です。魔王様はもうこの世にはいないのです」
マトマの話を聞き、ミツルギはまずい話になったと思い、無理矢理話題を変えようとした。
「そうだ、魔王城に行くにはどうしたらいいんだ? ドレアンさんとカリューさんが奴らに捕まったかもしれないんだ。早く助けないと」
「魔王城はここから近い城になります。ただ、入るには許可が必要です」
「許可ですか……無理矢理入ろうとしても難しいですね」
「魔王城を守るモンスターたちは皆強いですから」
話を聞いた直後、ミツルギは苦しそうな声を上げた。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと頭痛が……」
ミツルギは頭を押さえ、その場で少し横になった。頭痛は少し楽になったが、それでも痛みは残っていた。




