ブチ切れたネレス
少し衣服が乱れたネレスを見て、キチクは少しにやりと笑っていた。心の中で、かつらを付けず、もう少しまともな服を身に付ければ可愛く見えたのにと思っていた。だが、逆にネレスは誰でもいいからぶっ飛ばしたいという気持ちで一杯だった。
「そらよ!」
キチクはネレスに向かって剣を振り下ろした。その一撃をネレスはバリアで防御したが、防御されるであろうと考えていたキチクは剣が弾かれたと共に、右足を後ろに引いてそれを軸にして踏ん張り、強く蹴って飛び上がった。
「最初に言っておくぜ、魔力を使えるのはお前だけじゃないってな!」
キチクは魔力を剣に込め、ネレスに斬りかかった。ネレスは左手に火の魔力を発し、地面に叩きつけた。何をするつもりだと思いながらキチクは様子を見ていたが、突如腹部に強く殴られたような衝撃と熱湯を浴びたような熱さを感じた。
「グアアアアアア!」
上空へ吹き飛ばされる中、キチクは察した。ネレスが火の魔力を叩きつけたのは、地面に入れるため。そして、地面から火で作った巨大な拳で攻撃するためだったのだ。
「やるじゃねーか」
空中で態勢を整え、キチクは床に着地した。しかし、先ほどの一発はキチクに大きなダメージを与えていた。火の熱さで服は燃え、焦げてしまった。さらに殴られた衝撃で腹に近い骨が数本折れてしまったのだ。
「あれで動けるんだね」
「文句あるか? こう見えても鍛えてるんだぜ俺」
キチクは呼吸をしながらこう言った。痛みをごまかすために深呼吸をしているが、それでもまだ自分が動けることに驚いていた。
「痛そうだけど、容赦しないから」
ネレスはそう言って、ブリッツスパーダを構えてキチクに向かって走って行った。このまま走って来るのかと思ったキチクだったが、ネレスは突如ジグザグに走り出した。その動きを見て、惑わすつもりだとキチクは察した。
「仕方ねー。これだけはやりたくないんだが……」
キチクは再び剣に魔力を込め、そのまま地面に強く突き刺した。突き刺さった刃から、床に割れ目が走った。ネレスは嫌な予感がし、後ろに飛んだ。
「喰らえ……俺の必殺剣技、スラッシュウェーブ!」
割れた床から勢いよく魔力の刃が噴き出した。その刃はかわしたと思ったネレスの足元からも飛び出し、ネレスを吹き飛ばした。
「ガハッ!」
天井に激突したネレスはそのまま天井にめり込み、しばらくして床に落下した。それから痛みのせいでしばらく動けなかったが、痛みが和らいだ後、ネレスはすぐに立ち上がった。攻撃されるかと思ったが、キチクは剣を杖代わりにして荒く呼吸をしていた。
「おいおい……これでも本気でやったんだけどな……」
「少し痛かったけど、すぐに治ったわ」
片膝をついているキチクに近付きながらネレスはこう言った。右手に持つブリッツスパーダを振り上げ、刃に魔力を込め始めた。
「チッ、まだそんな魔力があるのか……」
「女だからって甘く見ないで。それと、女装したミツルギに騙されるなんて、あんたら女を何だと思ってるのよ!」
ネレスは叫びと共に剣を床に突き刺した。その動きを見たキチクは、嫌な予感がした。
「まさか……俺と同じ技を……」
「結構簡単な技ね。あっという間に覚えることができたわ」
「嘘だろ……」
「それと、一つ言っておくわ」
ネレスは床に割れ目が走ったことを確認して、キチクの方を見てこう言った。
「あなたの場合、衝撃波に多くの割れ目が入ったから、その分余計に魔力を使ったのよ。私の場合はそんなことをしないわ」
「何だと?」
反論しようとしたキチクだったが、ネレスが作り出した割れ目が綺麗に一本だけだということを知り、冷や汗をかいた。
「そんな、俺の場合は無数に割れ目が発生するのに」
「剣の腕も魔力の腕も、ど素人だったというわけね。弱い奴としか戦ってないから、そうなるのよ」
ネレスはそう言うと、割れ目から魔力で作った刃の衝撃波を放った。自分の技よりも強いということを感じ、無念を覚えながらキチクはネレスの技を喰らった。
「クソ……俺の技を真似され、それで倒されるとは……屈辱」
宙に舞いながら、キチクはそう呟いて倒れた。気を失ったキチクを見て、ネレスは冷ややかな目でこう言った。
「女装したミツルギに魅力で負けたのよ。こっちが屈辱よ。バーカ」
そう言った後、ミツルギの援護へ向かった。
ミツルギは闇を発しながらヒドウと戦っていた。ドレスを破り、スカートを短くしたおかげでいつものように動けるミツルギに対し、ヒドウは闇の魔力に対して恐れながら戦っていた。
「おらよ!」
ミツルギは手に闇を放ち、それを爪のように変形させてヒドウに振り下ろした。ヒドウは剣を盾にして防御したが、闇の爪はヒドウの剣を木端微塵に壊してしまった。
「グッ、やはり闇が相手では戦えないか」
「降参することをお勧めするぜ」
「女装するような奴の言うことを聞くと思うか?」
「好きであんな格好したんじゃねーよ!」
ミツルギはドロップキックを放ち、ヒドウを蹴り飛ばそうとした。だが、替えの剣を装備したヒドウは飛んで来るミツルギに対し、素早く剣を振るった。
「グハッ!」
「隙ありだな」
攻撃を喰らったミツルギは地面に倒れたが、すぐに起き上がった。体中に切り傷ができたことを確認し、ヒドウの剣の腕がそれなりにあることを確認した。




