異世界転移
輝くステージ、揺れる観衆――6人の美少女の一糸乱れぬ動きの一つ一つが会場のボルテージを一段、また一段と上げていく。
少女たちは芸術家のように個性的でありながらも軍隊のように統率がとれていた。
一人ひとりが違った色を放ちながらも、それらが一つの絵として調和していたのだ。
彼女たちが歌う曲は、踊るダンスは、決して難解なものではなかった。
寧ろ誰もが歌える、みんなで踊れる――――そういった親しみやすさを狙ったものだったかもしれない。
しかし、シンプルであるが故に、誰にでもわかる形で彼女たちの特殊性が示されていた。
甘酸っぱくも少し背伸びをした歌詞は耳から指先まで染み渡り、間奏のストリングスは胸から足先まで流れ込む。
照明の光は目を焼くほどに強く、会場に渦巻く熱狂に額を伝う汗さえも蒸発しそうだった。
日本一のアイドルグループ「Citrus」
11月3日、全国ツアー最終日の東京スタジアム。
アイドル、鈴木小羽は間違いなくその中心にいた。
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「「「うおおおおおおおおおおおお!!!」」」
歓声が私を呼んでいる。
輝くステージ、揺れる観衆――まさにそうとしか言いようがない景色が私を包んでいた。
多くの男女が私を取り囲み、熱狂の声をあげている。
その中心には大きなヒゲをたくわえたおじいちゃんと眼鏡のお姉さん。
「どうじゃマーレ?」
おじいちゃんの方が尋ねると眼鏡のお姉さんは私をジッと見つめてくる。
……。
…………。
………………。
「ち、違います…。」
「「「?????????」」」
お姉さんが絞り出すように告げると観衆がざわつき出した。
「え?なになになに????」
私は尋ねるも誰からも答えはなく、ただ何だか良くない空気だってことだけは察せられた。
「ムゥ……!よもやこのような……」
大きなヒゲのおじいちゃんもがっくりと項垂れてしまった。
「過去にも例はあると聞きますが……」
お姉さんも眼鏡をはずし額に手をやっている。
よくマネージャーさんがこういうポーズしてるなあ、なんて呑気に考えていたら足元から違和感が這い寄ってきた。
「あれ?私、裸足……ってかこの服!?」
自分の体を見回してみるとボロ切れみたいな服を一枚纏っているだけだった。そして、床には何だか変な模様がたくさん書かれていた。
「えっ、その、、これ……あ!!もしかして~、ドッキリですかぁ~?」
右の頬がヒクヒクと音を立てている。今の私はたぶん、絶対、アイドルらしく笑えていない。
「ドッ、キリ……?」
お姉さんのまるで外国の言葉でも聞いたかのような反応に私は首を傾げながら、
「えっ、と。マレー、さん?これって番組とかの」
「マーレです」
食い気味に訂正してきたマーレさんは眼鏡をかけ直すと私に向かってこう言ったのだ
「勇者召喚に失敗しました」