第3話 まだなにも知らない
前回までのあらすじ。
俺は異世界に来た。
「えーと、来たはいいんだが、どう生活するんだ?俺は金とかもってないし」
「それに関しては、宿を借りておいたので、しばらくはそこで。ただいつまでもそのままではお金が足りませんから、そのうちギルドに登録してモンスター狩りでもしましょう。えっと、とりあえず宿まで案内します。詳しい話はそこで」
「わかった」
エイムズに連れられて、街中を進む。
やっぱりエルフもいるし、エイムズみたいにケモミミのヤツもいる。
いやあ、来たなぁ。異世界。
来ちゃったよ。今更ながらテンションが上がってきた。
しかも俺が考えた世界だし、見てみたいものもたくさんある。
しばらく歩くと、宿についた。
豪華でもなくボロくもない普通の、悪く言えば面白みのない宿だった。
それでも日本じゃこんな宿は見かけないし、ワクワクした。
俺たちの部屋は2階の角部屋。
部屋の中には簡素な木の丸テーブルと椅子が二つ、あとベッドなどがあった。
ギイギイ鳴る椅子に二人で腰掛けると、エイムズが話を始めた。
「さて、では今後のことを話します。まず、ご存知かもしれませんが、ここはウォーターメロンソーダ王国の水上都市シャンパン。陸上都市カラメルと並ぶ、王国二大首都の一つです。そして今は、魔法暦108年の8月31日」
「うん」
魔法暦108年といえば、俺の小説が完結した時点での年が106年だから、その2年後ということになる。
「それで本題ですが……まず、ここウォーターメロンソーダ王国はまだ魔王軍の侵攻を受けていません。しかし、それも時間の問題でしょう。魔王城は天空にあって、そこに行くには地上での魔王軍侵攻を指揮している四天王を倒さなくてはなりません。そして、って、うわあああああ!」
話の途中でいきなりエイムズが悲鳴をあげ、驚いたように横を見た。
どうした?頭がおかしくなったのか?
不審に思って見ていると、俺の目の前に突然女の子が現れた!
「うおおおっと!」
なにもない空間からいきなり現れた⁉︎
いきなり敵襲か?
「敵襲ぅぅぅぅぅ!敵襲ぅぅぅぅぅ!」」
「お、落ち着いてくださいユウ!その子は私の友人です!というか、叫んでも意味ありませんよ!」
「そ、そうか……」
いきなり現れたその少女は、茶髪のショートヘアーで、エイムズと同じ魔術学院の制服を着ていた。
そして、
「えっと、こんにちは。ミシューです。エイムズがお世話になってます」
ミシューは、なんというか、平らな話し方だった。棒読みというか。
「よ、よろしく。あと、見た感じ俺と年齢近そうだし敬語じゃなくていいぞ。言い忘れてたけど、エイムズも」
「わかった、そうさせてもらうね」
「私は元からこの喋り方なんでいいです」
「それで、さっきのはどういうことなんだ?あのいきなり出てきたやつ」
「ああ、あれですか。あれはミシューの得意な認識阻害系魔法でしょう。まあ、私は慣れてますが。初めて見たら驚くでしょうね」
いやいや、さっきお前めちゃくちゃビビってただろ。
「あ、ねぇユウ君だっけ?ちょっと」
今度はミシューが話しかけてきた。
「どうした?」
俺が応じるとミシューは顔をこちらに近づけ、小さい声で言った。
「あの子、倫理観おかしいから気をつけたほうがいいよ」
「え、そうなの?」
いきなりだな。
確かに初めて会った時も他人のアイスを勝手に食ってた気が……。
言い終わるとミシューは俺から顔を離してエイムズの方を向き、
「まあ、とにかくエイムズ。学院の先生が呼んでるよ」
どうやら魔術学院からの呼び出しらしい。
「そんなわけなのでユウ、私ちょっと学院行きますんで。あ、せっかくなんで一緒に来てくださいよ。学院の門はすごい立派なんですよ」
「へえ。じゃあそうさせてもらうわ」
「エイムズ、ユウ、私は帰るね」
「わかった」
そうしてミシューと別れ、宿から学院へと向かった。
学院に着いた後は、教員室的なところへ入った。
「こんにちは、ミシューに呼ばれてきたエイムズです」
「おお、きたか。ん?その横の方は?」
「鈴木ユウといって、私の知り合いです」
「よ、よろしくお願いします、鈴木です」
「お、おお、よろしく」
まず、俺はここでツッコミたい。「門までじゃないんかーい!」と。
そんな俺の考えもつゆしらず。エイムズたちは話を進める。
「それで、エイムズ君。なんで君を読んだかというとね……単刀直入に言おう。どうして君の教科書はいつも血塗れなんだ?」
えぇ……。教科書血塗れって、流石にそれは
「牛の血ですね。よく殺ってるんで」
え、えぇ……?
「よ、よくやってるというのは、どういうことかな、エイムズ君」
「いやだから、殺してるんです。屠殺するのが好きでして。趣味ですね」
お、おお、倫理観!倫理観はどこ?ここ?
うっわ、マジかこいつ、こっっわ!
ちなみに後で聞いたことだが、エイムズは学院の主席らしい。
残念な感じの天才である。