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立ち塞がる暗闇

 どれだけの数を破壊してきたのかなんて、初めから気にしていなかった。


 エクスピアにとって重要なのはメルマキナを倒した数ではなく、なにを守り抜いたのか、ということだ。何百、何千の数を倒したところで、守りぬけなかったのならばそれは敗北だ。


 自分に向かってくる光線の進行を風の盾で捻じ曲げることで、自身の力を温存しながら戦うことができた。


 犬型、山羊型は完成体であるが、他に現れた新種の個体たちは身体の構造がまだ甘かった。強度がなく、自分の放った攻撃でも崩壊していく。しかしそんな玩具同然のメルマキナでも数がいれば、大きな爆発を生み出す。ほとんどの個体がエクスピア駆け寄り、その途中で攻撃を放ち爆発していく。下手な攻撃よりも厄介だった。爆風とその熱のせいで、状況把握が難しくなるからだ。


 自分よりも劣る存在だからといって、油断はできなかった。


 また数体のメルマキナが自爆した。


 熱を逃すために、風を作ろうとした。


 しかし一瞬だが、大きな熱量を感じた。


 それと懐かしい風だ。


 エクスピアは瞬時に熱を逃すための風ではなく、自分の身体を爆風から退くための風を作り出して、距離を開けた。


 そして、熱量と風の正体を見た。


 爆風から伸びた手。


 人間の手を模している。


「これを避けるとは、まだまだ現役ってか?」


「……テンエブラ」


 爆風の中から現れたのは、かつての仲間だった。あのころとなに一つ変わらない濁り切った瞳と狂気じみた笑みを浮かべている。


 シモンがここにいなくてよかったと安堵するのと同時に、テンエブラをこれ以上シモンたちの住むコロニーに近づかせてはならないと決心する。


 テンエブラは、自分とは違う。そのことをよく知っている。


 彼は『生まれたまま』だ。


「あぁあぁ、オレのオモチャをこんなにしやがって、なんの恨みがあんだ」


「なにしに来た」


「なにしに来た、って言ったか、今。マジか、マジで言ってんのか」テンエブラは砂を擦り合わせるような笑い声を上げ、やがてエクスピアにその紫の瞳を向けた。「決まってんだろ。オレたちが生み出されたのは、人間を殺すためだ。人間を殺す以外になにがある」


「どうして今なんだ。今までどこでなにをしていた」


「あぁ? それがよ『ドゥクス』が面白いことを考えてやがるから、その成果と引き換えに協力してやったら、あいつ、オレの『核』を抜きやがったらしいんだわ。それで今までおねんねしていたってわけ。でもまあ、こうして戻っているわけだ、あいつもオレが戻るきっかけを残してくれたみたいだな。ぎゃはは、次会ったらぶち殺す」


「面白いことってのは、そこらのセルウィの製作か」


「賢いじゃねえか。より効率のいい人間の滅ぼし方ってのを考えていたらしい」


「くだらないことを考える」


「そうだな。裏切り者のお前からすれば、そうなんだろうな」テンエブラが近くにいたメルマキナを掴み上げると、それはたちまち白い粉になって消えた。


「能力が変わっているだと」エクスピアは驚いた。記憶にあるテンエブラの力とは違う。彼の力には対象を白い粉に変えるようなものではなかった。


「変わっちゃいねえよ。オレはお前とは違う」


 テンエブラとその周りにいたセルウィたちが接近してくる。この近辺にいるセルウィの残りは二百程度だった。まずはそれらから排除すべきだと判断する。


 右腕を前に突きだし、いくつかの竜巻を発生させた。力を温存しておきたかったが、テンエブラが参戦している以上、力を抜くことはできない。


 セルウィが竜巻に呑まれる中、テンエブラは一歩も引かない


「相変わらずやることが派手だなあ、おい!」


 彼の右手が竜巻に触れた瞬間、一瞬だけ停止し、そして白い粉となって崩れ去った。まるで竜巻がオブジェになったかのように、簡単に崩れた。


 エクスピアは目の前の光景に驚愕したが、すぐに受け入れた。原理はわからないが、テンエブラの手に触れるとオブジェに変化させられ、そのまま崩壊し白い粉になる。それが紛れもない事実だ。今はそう思い込むしかない。


 かつてのテンエブラの能力は『分離』だった。触れた対象と別のなにかを分離させることができる。たとえば人間の腕に触れた場合、同体と腕を分離させることができるし、あるいは人間と近くにあるなにかとの距離を分離することができた。しかし今のように、相手の姿形そのものを変化させることはできなかったはずだ。


 接近戦は禁物だが、しかし近接戦闘でなければテンエブラに対抗することができないのも事実だ。強力な竜巻を発生させても触れられるだけで無力化する。触れた瞬間に効果が適用されるため、傷をつけることもできない。


 テンエブラが近づいてくるのなら、その隙をつくまでだった。


 相手の踏みこみを見極める。


 一気に近づくことはまずできないと考え、次の踏みこみを待った。


 しかし、テンエブラは地面に足をつけない。


「分離か」


「正解だ、裏切り者ぉ!」


 地面と彼自身を分離させ、その勢いをも計算して低空移動をしていた。記憶にある情報を頼っている、その裏をかかれたのだ。記憶では、両手での能力行使しか知らない。


 それでも回避することができないわけではなかった。直線的に運動しているものを回避することなど容易いことだ。


 左に避けようと、足に力を入れた。


 身体は動かない。


 逆に力が抜けていくようだった。


(――こんなときに)


「ぎゃはは」テンエブラが笑う。「人間を守るとか抜かしてっから、そんな身体になんだよ! 大人しく消えちまいな!」


 テンエブラの手がすぐそこまで来ていた。


 触れられた瞬間に、存在は消える。


(まだだ)


 まだ終わるわけにはいかない。


 そう思った直後には、行動に出ていた。


 顔を隠すように右腕を挙げ、


 左手で風を起こした。


 相手に向かってではない。


 地面に向かってだ。


 砂が巻き上がり、目くらましとなる。


「ちょこざい真似を」テンエブラの声。


 この目くらましは回避のためじゃない。


 一歩を踏み出すためのものだ。


 都合よく相手が向かってきた好機を逃すわけにはいかない。


 鋭利な風を左手に纏い、振るった。


 舞っていた砂が払われる。


 そこにテンエブラがいた。


 だが、距離があった。


 回避したのだ。


 あるいは思惑に気付いた。


「危ない危ない」テンエブラの手にはエクスピアの右腕があった。「まさか自分の腕を斬ってくるとは思わなかった。触れた、とオレに思わせた隙を突きたかったんだろうな。オレが腕を掴むのと、お前が腕を切り離すのはほとんど同時――そうじゃなきゃ、早過ぎればオレに気付かれるだろうし、遅ければ本体ごとパァだ」


 テンエブラの言うとおりだったが、もう一つの作戦がエクスピアにはあった。それは相手との距離を仕切り直すこと。右腕一本の代償は大きいが、それでも必要経費だった。そうしければ、すでに消滅していた。


「それによぉ、お前、もう時間がねえな? さっさと竜巻を使わねえから何事かと思ったが、もうボディの方がイカレちまっているようだ。それに『核』の方も終わりがきてんな。どこで削ってきた。まさか人間たちのために、削ってきたんじゃないだろうな?」


「だったらどうした」


「バカだっつってんだ。オレたちは人間を殺すために存在してんだ。お前がしていることは、オレたち自身の存在を否定してるってんだ。オレたちは人間を殺すことでようやく、世界に認めてもらえる存在だろうが」


「そんなんだからメルマキナと呼ばれるんだ」


「ああ?」


「自分で考えもせず、与えられた使命だけで動いている奴は愚かだ。よくそんなんで存在がどうとか言えるな」


 思考能力を与えられ、個々の性格、心を持っているというのに、ただ人間を駆逐するという使命だけで動くのは、死んでいるも同然だ。


 だから愚かだと、人形だと言われる。


 人間というのは実に的確に名付けをする。メルマキナ。それほど自分たちに合っている呼称はないだろう、とエクスピアは感じていた。


「じゃあ、お前はなんのために生きてんだ」


「人間を守るためだ」


「人間を殺してきた奴の言葉じゃねえな」テンエブラは笑う。「なんのために守るってんだ」


「それが俺にできる唯一のことだからだ」


「それで、人間に許してももらおうってか? ほんっとに笑えんな、お前。そんなん無理に決まってんだろ。オレたちがなにをしてきたのかなんて、どんなゴミでも知ってんぞ」


「お前はどうなんだ。なんのために人間を殺す」


「言っただろ、それがオレの存在理由だ」


「それは、お前自身が考えて出した答なのか?」


「うっせえんだよ! オレを懐柔させようってんなら諦めな。オレは人間を殺すことをやめない。それしかねえんだ!」


「わかった――それなら、ここで散れ」


 エクスピアは初めてかつての同胞を破壊する決意をした。

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