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幼馴染が引きこもり美少女なので、放課後は彼女の部屋で過ごしている(が、恋人ではない!)  作者: 永菜葉一
3章「伝説と告白と修学旅行」

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第75話 ウチの幼馴染はダンベル持てない……こともない


唯花(ゆいか)! もういい、もう十分だ! お前は十分頑張った……っ」

「まだよ、こんなところで諦めていられない! あたしはまだやれる……!」


 現在、唯花は俺の借りてきたダンベルでトレーニング中。

 赤ジャージにポニーテールのハチマキ姿でダンベルを持ち、えいやっえいやっと両手を上げ下げしている。


 だがすでに顔色は青白く、呼吸も荒い。

 目に見えて限界だった。それでも唯花はやめようとしない。

 俺は涙を堪えるように自分の顔を覆う。


「お前はっ、お前はどうしてここまで自分を追い込むんだ……っ」

「決まってるでしょ? カワイイ伊織のためだよ。お姉ちゃん、頑張るって決めたんだから!」

「でもこれ以上はお前の腕が……!」

「大切な弟のためなら……腕なんてなんぼのもんじゃーい!」

「唯花っ、君ってやつはーっ!」


 異様なテンションのなか、唯花はついに目標の回数をやりきった。

 ダンベルを床に置き、疲れ切った顔でそれでも優雅にポニーテールをふわっとかき上げる。


奏太(そうた)、見ていてくれた? このあたしの生き様を」

「ああ、見ていたよ。お前こそ、この部屋史上最強のマッスルクイーンだ……っ」

「ふっ、最強か。到達してしまえば、なんとも虚しい称号……よ……ね……」


 遠い目で雰囲気たっぷりにつぶやいた途端、ふらっとよろめいた。

 

「ゆ、唯花ーっ!」


 俺はとっさに手を伸ばし、倒れゆくジャージの体を抱き留めた。

 ちゃんと支えるために膝立ちの姿勢になり、愕然とした……っぽい顔をする。


「なんて軽い……っ。お前はこんな体で過酷なトレーニングを続けてたのか……っ」

「……嘆かないで、奏太。マッスルクイーンの称号は限界の一つや二つ越えなければ手に入らなかったの。あたしは……この結末に満足してる」


 細い腕が力なく掲げられ、俺はその手を握り締めた。

 

「クイーン、一つだけ教えてくれ」

「なんなりと申すがよい……」


 一応、真面目な顔だけはキープし、俺は尋ねる。


「まさか……1セットこなす度、この茶番やんなきゃならんのか?」


 途端、唯花はむーっとむくれた。


「茶番とか言わないでっ。辛いトレーニングを続けるにはこういう演劇性が必要なのっ」

「そりゃ分からんでもないけれども……」


 俺は肩を落としてげんなりする。

 唯花がダンベルを上げ始めてすぐのことだ。やたら芝居掛かった感じで腕を上げ下げするので、とりあえず調子を合わせてみることにした。


 その結果が今の謎の茶番である。まあ、やりたいなら付き合うが、毎回毎回これだとなかなか面倒くさいぞ?


 あとお前の今のトレーニング、一般的にはそんなに辛くないはずだからな?

 ダンベルは1キロだし、回数は両手合わせて20回だし。たぶん中学生女子でも『ちょっと手がダルいかも』ぐらいの負荷だと思うぞ。


 ……と、ツッコみたいのは山々だが、とりあえず黙っておく。

 実際、唯花は筋金入りの引きこもりなので、本当に体力がない。

 今もまだ息は整ってないし、しんどいのは間違いなさそうだった。

 

 ちなみに、しなだれた髪が汗ばんだ肌にくっついていて、ちょっと色っぽい……のだが、言ったらマッスルクイーンのご機嫌を損ないそうなのでこれも黙っておく。


「じゃあ、奏太。もうちょっと休憩したら2セット目ね」

「んん? またやるのか? 明日とかじゃなくて?」

「決まってるじゃない。20回程度じゃ鍛えたことにならないでしょ?」


「マジかよ、唯花がまともなこと言ってる……」

「奏太はマッスルクイーンをなんだと思ってるのかな?」

「マッスルクイーンは謎の存在としか思ってないが、唯花については自堕落お姫様だと確信していたぞ」


「その確信、今日で砕け散ると知るがよい」

「今日は槍でも降るのだろうか。やれ恐ろしいことじゃわい……」


 どうやらまだまだトレーニングするらしい。だったら面倒なんて言わずにこっちも付き合おう。


 正直なところ、三日坊主どころか1セット坊主辺りで終わるだろうと思っていた。しかしどうやら今回の唯花は本気らしい。成長したなぁ……と思わずほろりときそうになる。


 まあ、このままお姫様だっこ状態で休憩するらしいので、甘えん坊なのは相変わらずなのだが。

 で、そのお姫様は先ほどから何やら俺の胸板を凝視している。


「むー……」

「どうした? 難しい顔して」

「や、今まで意識してなかったけど、奏太ってやっぱり筋肉あるんだなと思って」


 そう言って、ぺたぺたと胸に触れてくる。


 ぺたぺた、ぺたぺた、ぺたぺた、ぺたぺた。


 いや、うん、なんだ……くすぐったいんだが。

 ちなみに俺は学校の制服姿。ブレザーは壁付きの俺用ハンガーに掛けてあって、上はワイシャツ、下はズボン。


 唯花はワイシャツの上から俺の体をぺたぺた触り、たまに胸ポケットに手を入れたり、ボタンを指でいじったりして遊んでいる。


「……いや何がしたいんだ、お前は」

「んー、筋肉のイメージトレーニング的な?」

「イメージトレーニングに胸ポケットとかボタンは関係ないだろ」

「それはついで。奏太触ってたらなんか楽しくなってきたから」

「まあ、いいけれども……」


 会話している間もぺたぺたは続いており、だんだん手が下の方へやってくる。

 そして「およ?」と唯花は声を上げた。

 

「奏太さんや」

「なんぞや?」

「ひょっとして……腹筋割れてる?」

「あー……」


 返答に困って言葉を濁す。バイト先の店長と違って、俺は鍛えてますアピールが得意じゃない。どうにも気恥ずかしくなってしまうのだ。


 が、興味津々な幼馴染は逃がしてくれない。

 ずいっと顔を寄せてきて、目を見ながら腹筋をさすってくる。


「ねえねえ、割れてる? この触り心地、ぜったい割れてるよね? ねえねえねえっ?」

「やめろやめろっ。ねえねえ言いながら、さすさすするな! こそばゆいっての!」

「正直に言えば楽になるぞよ? むしろ言わないと、さすさすし続けるよっ。ほーら、さすさすさすさすっ!」


「変態か!? だーっ、もうやめろって! 摩擦熱で燃え上がるわ! ……多少だよ、多少。割れてるって言っても、よく見たらなんとなく割れてるかな程度だ」

「わー、本当に割れてるんだ」


 何やら感心したような声を上げる。

 そして唯花はやおら俺の腕から離脱した。


 目の前に立ち、さらに興味津々な目で腹筋辺りを覗き込んでくる。

 で、とんでもないことを言い始めた。


「見たい!」

「はあ!?」

「奏太の腹筋見たい! 見せて! というわけで脱げーっ!」

「ちょ!? ば、待っ……きゃー!?」


 男子がスカートめくりをするように、唯花は俺のワイシャツを一息でズボンから引っ張り出した。

 俺は思わず女子のような悲鳴を上げてしまう。


 いや何してんの、この子!? マジで何してんの、この子!? 


 傍若無人なクイーンの振る舞いに、小市民な俺はただただ動揺するしかなかった。

                                      

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