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幼馴染が引きこもり美少女なので、放課後は彼女の部屋で過ごしている(が、恋人ではない!)  作者: 永菜葉一
3章「伝説と告白と修学旅行」

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第69話 幼馴染たちの告白大戦争 奏太side2


 さて、今さら言うまでもないことだと思うが、ウチの幼馴染は大変突拍子もない。

 ワケの分からないことをさも当たり前のような顔で突然言い出す。


 今もそうだ。

 壁の向こうでは伊織(いおり)の卒業公演がついに始まろうとしている。

 如月家のお家芸が発動すれば、伊織がパパさんになってしまうかもしれないほどの危機的状況だ。


 ……よく考えたら、卒業公演とかお家芸とか謎の単語が当たり前のように乱舞しているが、どうかご容赦願いたい。俺も冷静になったらちょっと頭が痛くなってくる。もう考えたら負けなのだ。


 とにもかくにもこれだけは断言できる。

 今、隣の部屋では伊織が(あおい)ちゃんとエロいことをしようとしている。これだけは揺るぎない事実だ。揺るぎない事実なんだ。大事なことだから二回言ったぞ。


 そんな状況下でウチの幼馴染はワケの分からないことを当たり前のような顔で突然言い出した。曰く――。


「今すぐあたしに告白しなさ――いっ!」

「どういうことだよぅ!?」


 あまりにも脈略が無さすぎて、巻き舌でツッコむことしかできなかった。

 唯花(ゆいか)は俺にビシッと指を突きつけたままで言う。


「もう時間がないんだよ! だからあたしと奏太(そうた)がお付き合いするの! その上で、壁の向こうの伊織と葵ちゃんに『我らは清い交際を致します』感のある模範的な姿勢をお伝えするんだよ!」

「――はっ!? そうか、その手があったか!」


「いい? 付き合ったら即、図書館でお勉強デートを始めるからね!? はい、じゃああたしに告白して! こう、情熱的かつ感動的かつ、童貞さんの可愛さも醸し出しつつ、男の子の頼りがいも見せながら、でも主導権はあたしががっつり握れそうな感じの告白でよろしくね? はい、どうぞ!」

「よし、任せろ! えー、本日はお日柄もよく――って、告白なんかするかぁぁぁっ!」


 唯花は頬を引きつらせてドン引きする。


「え? 奏太の告白って、そんな町内会の挨拶みたいな始まり方するの……? やだ、やめて。トラウマになる……」

「マジトーンの引き方はやめてくれませんか!? 今のは一瞬乗りかけたところに脳が急ブレーキ掛けて、おかしな文言が飛び出してきただけだから! あとお前の発言にツッコミどころが多すぎる! 処理しきれないぞ!?」


 まず情熱的かつ感動的かつうんぬんのハードルが高過ぎる。そんなバーゲンセールみたいな告白がこの世に存在するものか。


 次にお前、引きこもりなんだから図書館でお勉強デートとかしないだろうが。するってんなら今すぐ伊織と葵ちゃんも引き連れて、図書館に連れてってやるわ。


 それから俺たちが付き合っちゃダメだろ。色々前提が爆散するだろ。発言がダイナマイト過ぎるわ。


「……だいたいなんで俺が告白する側なんだよ。別に唯花からしたっていいじゃないか」

「ほほー? どの口が言いやがりますか、それは?」

「げ……しまった」


 唯花の眉が思いきりつり上がった。

 積年の恨み晴らさずおくべきか、という顔をし、指で俺の頬をぐりぐりしてくる。


「あたくし、一度、三上(みかみ)氏にフラれておりますのでー? がっつりばっちりフラれておりますのでー? そのあたくしに『告白したっていいじゃないか』とかどの口が言いやがるんですかねー? んー?」


「ぎゃ、逆に考えるんだ、唯花。『告白しちゃってもいいさ』と考えるんだ。……なんてねー?」

「ほほー? もっかい言ってくれる? もっかい、はっきりと、顔真似と声真似と立ち真似とドドドドッの効果音付きで言ってくれるー? その後、あたしが吸血鬼になって血を吸うから」

「ぬ、ぬぅ……っ」


 冗談で混ぜっ返そうと思ったら、逆に火に油を注いでしまった。

 怖い、幼馴染の笑顔が怖い。笑ってるのに目がぜんぜん笑ってない!


 そりゃ成り行き上、フったことはあるけどさ! 

 あれは如何ともし難い展開だったって、お前も納得済みだろぅ?


 ……と、口にしたらそれこそダイナマイト大爆発なんだろうなぁ。理屈じゃなく、感情の話だもんな、これは。うん、三上氏もそれくらいは分かってるんだぞ。


「じゃあ、罰ゲームね。もしくは天罰。はい、奏太。あたしに告白して」

「なっ!? い、いやいや、それはいくらなんでもイカンじゃろ……? ほら、お前が引きこもり卒業するまでって魂の誓いが……」


「ちゃんとフってあげるから。一回は一回だよ。ほれほれ」

「どういう理屈なんだ、それは……」

「もちろん情熱的かつ感動的かつ、童貞さんの可愛さも醸し出しつつ、男の子の頼りがいも見せながら、でも主導権はあたしががっつり握れそうな感じの告白でよろしくね?」

「ハードルがエベレスト並に高い……」


 ……けど、一回は一回か。

 俺だって唯花に『好きだ』って言いたくないわけじゃない。むしろ言いたい。むちゃくちゃ言いたい。毎日だって言いまくりたい。耳元で囁きまくって昇天させたい。無論、色んな意味でな。


 別にエロいことだけじゃなく、『好きだ』っていうこともずっとお預けされてるんだ。むしろ『好きだ』と言えないから代わりに『可愛い』を連呼してるとこすらある。


「……ちゃんとフるんだな?」

「――! フる、フる、秒でフる! あ、秒はもったいなから、何分か噛みしめた後、ちゃんとフるから!」


 俺がその気と見るや否や、唯花のテンションが上がった。子猫だったら耳でもピンっと立ってそうな勢いだ。


「じゃあ……」


 俺は軽く咳払いし、居住まいを正した。

 少し文言を考えて、口を開――こうとしたらところで、稲妻に打たれたかのごとく気づいた。

 唯花の瞳が陰謀の色にキラッと輝いている!


 ――こいつ、フる気ねえな!?


 なんたる策士っ。弟のピンチすら目ざとく自分の利に引き込むか!

 いや伊織を助けようとしているのは本当なんだろうが、そこで見事に漁夫の利も得ようとしている。如月唯花、こやつはまぎれもない策士だ!


 ヤバい。俺の喉はすでに音を発しようとしている。

 コンマ数秒後には俺は告白の言葉を発してしまっているだろう。

 だがこんなところで唯花と付き合ってしまうわけにはいかない。

 何よりも唯花のため――愛する女のために!


 俺は脳に急ブレーキを掛ける。おかしな文言が飛び出しても構わない。覚悟を決め、俺は代わりの言葉を解き放った。ありったけの愛をこめて――!




「『今すぐ全裸になって、子猫のポーズでおもらししろ――ッ!』」




 それは情熱的かつ感動的かつ、童貞さんの可愛さも醸し出しつつ、男の子の頼りがいも見せながら、でも主導権は唯花ががっつり握られそうな感じの告白だった。


 唯花は真っ赤な顔で口をぱくぱくさせている。

 そして涙目でぷるぷるしながらパジャマのボタンに手をかけ始めた。


「……こ、子猫のポーズとかはよく分かんないから、ちゃんと教えて下さい……」

「だーっ!? そう来ると思ったけど、なんでお前は受け入れちゃうかな!?」


 慌てて手首を掴んでストップさせる。

 あと今の声はきっと隣の部屋にも響いたはずだ。はは、俺、まだ会ったこともない葵ちゃんに嫌われたかもな……。


 と、そんなやり取りをしていたら、ふいに隣から声が響いた。

 伊織の声だ。何やら言い争ってるような雰囲気だ。


「『だったら! 僕が女の子の格好するから、葵ちゃんは男の子の格好でえっちすればいいよーっ!』」


 俺はぐりんと壁側に首を向ける。

 え? なに? 今なんて言った?

 おいおいおい、いくらなんでも初回からハード過ぎるだろ!? 伊織、一体そっちで何が起きてるんだーっ!?


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