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幼馴染が引きこもり美少女なので、放課後は彼女の部屋で過ごしている(が、恋人ではない!)  作者: 永菜葉一
3章「伝説と告白と修学旅行」

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第61話 緊急開催! 幼馴染会議!【残り29分】


 伊織(いおり)の電撃的な告白から一夜明けた。

 今日の俺は朝から血走った目で駆けずり回った。


 まずは登校前にバイト先に向かい、オネエの店長を拝み倒して店のスクーターを貸してもらった。

 学校では頭のお堅い生徒会長を殴り合いの決闘で説得し、スクーターを生徒会室に隠させてもらった。

 帰り際、生活指導の先生にスクーターが見つかったので、地面に額を叩きつけて土下座し、ドン引きされながらも見逃してもらった。


 そして爆走。

 途中、パトカーに捕まりかけたが、ウチの学級委員長が財閥の跡取りなので、電話一本で即解決。むしろパトカーに先導してもらい、俺は伊織が帰ってくる時間よりもだいぶ早く、唯花(ゆいか)の部屋に辿り着いた。


 今、俺たちは深刻な表情で向かい合っている。

 まわりには多種多様なフィギュアたちが傍聴人役で並び、緊張感に拍車を掛けていた。

 パジャマ姿の唯花が表情を引き締める。


「さて、三上(みかみ)氏、今日の議題はお分かりですね?」

「無論です、如月(きさらぎ)氏。俺は今日、いかなる犠牲も厭わず、この会議に馳せ参じました」


「その意気や良し。首筋に明らかに男の人っぽいキスマークがついてたり、頬っぺたがちょっと腫れてたり、おでこに泥がついてたりするけど、今日は追及しないでおきましょう。そう、この私が奏太のキスマークを『うーん、まあ、男の人だからいっか』とスルーしてしまうほど、事態は切迫しているのです」


「理解しております。早速、会議を。あ、でもその前にちょっと顔拭いてもいいか?」

「許します。はい、ウェットティッシュ。拭いたげよっか?」

「いや自分でやる。見つめ合って変な空気になったら会議の時間がなくなりかねん」

「うみゅ、賢明な判断である」


 俺はウェットティッシュで顔を拭き、さっぱりしたところで居住まいを正した。

 改めて向かい合い、まずは唯花、次に俺という順番で高らかに宣言する。


「緊急開催! 幼馴染会議ーっ!」

「議題『伊織が女子に告白しちゃったぞ!? どうすんだこれ!? どうすんだこれ!? どうなるんだこれーっ!?』の巻!」


 そうして一旦声に出してしまうと、もう駄目だった。

 いても立ってもいられず、俺たちは跳ねるように立ち上がる。


「まさか弟の告白を生で聞いちゃう日が来るなんて! お姉ちゃん、嬉しい! でも怖い! この先、どうなっちゃうの!?  (あおい)ちゃんはなんてお返事するの!? もう気になって昨夜は眠れなかったよ! だから今日は朝と昼間しか眠れてないよーっ!」


「くそう、まさか弟分の告白を生で聞く日がくるなんて! 子供の頃はキラッキラの笑顔で『大きくなったら僕、奏太(そうた)兄ちゃんのお嫁さんになるーっ』ってあんなに懐いてくれてたのに! あ、初恋が俺ってこれのことか? それはとにかく可愛い弟分が巣立っていくみたいで淋しい! 淋しさで死ぬーっ!」


 頭を抱えて悶絶。

 だが不眠だの淋しさだのよりももっと恐ろしいことがある。

 幼馴染同士、気持ちは一緒だ。見つめ合い、俺たちは心情をさらけ出す。


「奏太、意外過ぎてショックを与えてしまうかもしれないけど、実はあたし……彼氏いない歴イコール年齢なの」

「奇遇だな、唯花……。俺も意外過ぎて幻滅させてしまうかもしれないが、実は俺も彼女いない歴イコール年齢なんだ」


 と、いうことは!


「伊織が葵ちゃんと付き合ったら、姉の威厳がメルトダウンしちゃうーっ!」

「伊織が彼女持ちになったら、兄貴分の威厳が熱学的死を迎えてしまうーっ!」


 あまりの哀しみから俺たちはひしっと抱き締め合った。

 お互いを支え合うように隙間なく密着する。

 唯花は俺の首筋に頬をすり寄せ、さめざめと泣いた。

 俺は唯花の黒髪に顔をうずめ、滂沱の涙を流す。


 俺の胸板で柔らかくひしゃげいているFカップの感触も、力を込めたら折れてしまいそうな腰の細さも、今だけはエロい気持ちを呼びこさない。

 なぜなら圧倒的な絶望が魂を蹂躙しているから。


 ちくしょう、伊織に置いていかれたくない。『奏太兄ちゃんのことは大好きだけど……ごめんね、彼女持ちになったのは僕の方が先で。本当に……ごめんなさい』とか穢れのない瞳で思われたくない! 絶対思われたくないぞぉぉぉぉぉぉぉ!


 ああっ、彼女がほしい! 今、ものすごく(よこしま)な気持ちで、俺はかつてないほど彼女がほしいィィィィィィ!


 ふふふ、と唯花が今にも壊れそうな笑顔で囁く。


「ねえ、奏太。恋人ってどうすればできるのかな? コンビニで買える?」

「あそこは食料品から雑誌や文房具、果てはイベントチケットや課金カードまでなんでも売ってるからな。ひょっとしたら……恋人も売ってくれるかもしれないな。でも唯花」


 つん、とおでこを突く。


「お前引きこもりだから、コンビニに売ってても買いにいけないぞ?」

「あー、本当だぁ。唯花ちゃん、ついうっかり」

「こーのうっかりさんめ。あははは」

「反省反省、うふふふ」


 切れ味のない引きこもりジョークで虚しく笑い合う。

 そうしながらも俺たちは気づいていた。気づいた上で互いに目を逸らし合っていた。


 分かっている。本当は分かっているんだ。

 恋人いない歴すらも越える、さらなる恐怖がもう一つあることを。


「なあ、唯花……」


 俺は勇気を振り絞って口火を切る。

 幼馴染会議の真の議題はここだから。


「伊織が告白した後、あの子がなんて言ったか、覚えているか?」

「……もちろんだよ。忘れるわけない」


 伊織が『突然だけど……僕と付き合って下さい!』と言った後、葵ちゃんは即座にこう答えた。


 ――明日、また伊織くんの部屋に来ていい? お返事は……その時にします。


 思い出しただけで、俺の体はガタガタと震えだした。

 極寒のシベリアに放り出されたような気持ちで口を開く。


「如月氏、女性目線で教えて下さい。男性から告白され、次の日にわざわざその男性の部屋で2人っきりになってお返事するって、これはどういう心境なのでしょうか?」

「お答えしましょう」


 顔面を蒼白にし、ハイライトの消えた目で如月氏は解答なさった。


「抱かれる気満々です」

「やっぱりかぁーっ!」

「決まってるよーっ! 大好きな男の子と密室で2人っきりって、それもう『お召し上がり下さい』の合図だもん!」

「俺もそう思うーっ! 暗黙の了解でルパンダイブが許されてるように思うーっ!」


「ぜったい、葵ちゃんは今日、可愛い下着を用意してくるはず! 黒、と思いきやピンク! あるいは思いきってブラジャーつけなかったり! ノーブラの時は相当ガードが緩い合図です! 世間一般的にね!」

「うわぁぁぁ、怖い! 世間一般の貞操観念の低下が怖いィィィィ!」


 俺たちは苦悶の表情で悶え苦しむ。

 恋人いない歴で伊織に追い越されること以上の、さらなる恐怖。

 それは――。



「「隣の部屋から変な声が聞こえてきたらどうしようぉぉぉぉぉっ!」」



 身内として大変真っ当かつ、常識的な心配であった。

 俺たちは再び着座し、真剣な顔で向かい合う。


「対策っ、とにかく対策を考えるんだ! 伊織たちが付き合うのはもうしょうがないとしても、しかし!」

「人生の先輩として、間違った方向にいくのは止めてあげなきゃね! 2人はまだ中学生だし、あたしだって――この歳でおばさんにはなりたくないし!」


 よしっ、と頷き合い、俺たちは会議を進行する。


                 【葵を連れた伊織の帰宅まで――残り29分】




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― 新着の感想 ―
[一言] 「「隣の部屋から変な声が聞こえてきたら   どうしようぉぉぉぉぉっ!」」 A.何時もの伊織くんの気持ち。
[一言] すっごいブーメランになってることにはいつ気づくんでしょうね
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