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幼馴染が引きこもり美少女なので、放課後は彼女の部屋で過ごしている(が、恋人ではない!)  作者: 永菜葉一
2章「一歩進んで、さらに甘々days」

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第50話 ここが2人の分岐点


 状況は混乱を極めていた。

 唯花(ゆいか)は色々あって子猫化し、伊織(いおり)は隣の部屋で中二病に覚醒してしまっている。


 後々、人生に多大な影響を及ぼしてしまいそうなことになっているのは伊織の方なんだが……すまん、俺はお前の姉ちゃんを放っておけない。俺の1番はいつでも唯花なんだ。だから……。


「『あれー、召喚が上手くいかない……やっぱり専用の呪文がいるのかな? よしっ、鬼道の70番台から先を参考にして、ノートに呪文を書いてみよう!』」

「……っ」


 俺も昔、それやったーっ!

 ごめんっ、ごめんな、伊織……っ!

 そのノートは俺が責任持ってあとで灰にしてやるからな……っ!


 俺は涙を堪えつつ、断腸の思いで、唯花の方へ意識を向ける。

 まだ体に力が入らないのか、支えてないとどうにも危なっかしい。

 ちなみにさっきからずっと俺の肩をはむはむしてる。


「唯花、唯花、しっかりしろ。正気に戻れ」

「はむー? なんかふわふわするぅ。こんな感じはじめてぇ……」

「ま、まあそうだろうな……ひとりで歩けそうか?」

「むりぃ。腰抜けちゃって、ひとりで立てない……」

「まじか……」


 腰抜けるほどだったのか……いや、なんのことかは分からんが。断固として分からんが。


「だったら抱き上げるぞ? 掴まってろ。――よっと」

「ふあー」


 俺は唯花の膝裏に手をまわし、一息で抱き上げた。


「わー、お姫様だっこだー」

「あんま動くなよ、お姫様。ベッドまで連れってやるから」

「くるしゅなーいっ」


 お姫様はご機嫌だった。

 とりあえず一旦休ませよう。数歩でベッドに到着し、唯花を横たえた。

 ……ふう、これで一安心だ。


 と思ったら、黒髪の下の瞳がえらく無防備に見つめてきた。


「奏太ぁ……」

「なんだ?」

「もっと奏太のこと食べたーい……」


 一瞬で心臓が飛び跳ねそうになった。

 ……………………ど、どういう意味ですかな?

 あ、あれかな? 甘噛みするのが気に入っちゃったって意味かな?


 実際、これ以上は危険極まりないぞ。

 真実に到達した今、昨日の耳かきを思い出すだけで俺はもうどうにかなってしまいそうなんだ。

 正直、今のお姫様だっこだって、理性をフル稼働しないとそのまま唯花を抱えてルパンダイブしかねなかった。


 甘噛みだろうがなんだろうが、こっからさらにプラスアルファの負荷が掛かったら、いい加減、理性さんがストライキを起こしてしまう。ここは全力で誤魔化さねば。


「唯花、ちょっとお昼寝したらどうだ? 何かお話ししてやるからさ。むかしむかし、ある英国に、立派な肉体の紳士と石仮面が――」

「やっ。あたしは食べたいのっ」

「いやいや聞いてくれ、このお話すっごく面白いんだぞ?」

「……奏太はぁ、あたしのこと食べたくないの?」

「く……っ!?」


 潤んだ瞳で言われ、鼓動がさらに加速。

 同時に理性をさらに酷使。直球が来た、これはヤバい……っ。


 唯花の肌は一目見で分かるほど、今も火照っている。

 加えてノーブラなので、胸元のワガママっぷりが尋常じゃない。「ねー、奏太ってばぁ」とこっちに寝返りを打った途端、双子の丘がぽよんっぽよんっとパジャマの下でウェーブした。


 メチャメチャ目のやり場に困る。

 理性さんが働きすぎてもう過労死しそうだ。


 なのに唯花の攻勢はさらに続く。

 照れ笑いを浮かべて、尋ねてくる。


「……あたしのおっぱい、柔らかかったでしょ?」

「そ、それは……っ」


 細い腕が伸びてきて、手のひらが俺の頬に触れた。熱い。まるで燃えるようだ。


「正直に言っちゃっていいよ? 柔らかかったでしょ?」


 目の前の胸元はボタン同士の間がよれて、谷間を覗かせていた。

 上からの谷間ではなく、ど真ん中の谷間だ。


 唯花はそんな胸元の状況にもちろん気づいている。なぜなら俺がもう目を離せなくなっているからだ。


 手のひらの熱が伝播していまったのか、もう誤魔化せなかった。

 喉がからからに乾き、俺は掠れた声で答える。


「…………柔らかかった。もう一生忘れられない」

「ふふっ」


 唯花は嬉しそうに笑った。そして小さな声で「一生だって……やったっ」とつぶやく。ああもう可愛いな、ちくしょう!


「だったらさ……」


 声にかすかな緊張が混じり始めた。

 頬に触れている手のひらも小さく震えている。


「もっと忘れられなくしてあげる。……ううん、むしろ奏太があたしに忘れられないことして。今度は……奏太から触ってほしいな、あたしの……おっぱい」


 ベッドに寝たまま前屈みになり、アピールするように、むにっ、と胸を寄せる。

 パジャマの隙間から見える谷間の密度がとんでもないことになった。柔らかい膨らみ同士がぴったりと密着し、勢い余ってパジャマの間からこぼれそうになっている。


「ば……っ」


 声が上擦った。

 脳内では理性さんが断末魔の声を上げる。それでも最後の力を振り絞って、俺はなんとか倫理的な言葉を吐いた。


「ばかっ、そんなことできるか……っ。昨日今日の俺はやり過ぎた。だからこそ、ここまでだ。俺は……お前のこと、本気で大切にしたいんだ!」

「知ってるよ、そんなこと」


 唯花の笑みが深くなった。

 同時に手のひらの熱も増す。


「何年も何年も前から知ってるよ。奏太はずっとあたしのこと大切にしてくれてる。世界で一番守ってくれてる。だから……あたしだってそろそろお返ししたいのっ」


 突然、ベッドから起き上がってきた。

 押し倒そうとするかのような勢いで迫り、まくし立ててくる。


「もういい加減、奏太はあたしのこと好きにしていいよっ。そうしたってバチが当たらないくらい、ずっとずっと大切にしきてくれたよ! だいたい『えっちしたいよね、いつもいつも我慢させてごめんね』って、あたしもずっと気にしてたんだからね!?」


「な……っ!? そ、そんなこと気にしてたのかよ!?」

「してたよっ。だって奏太、一日に8~10回はあたしのおっぱいチラ見してるし!」

「そんなにたくさん!? ウ、ウウ、ウソだろう!? 自分で自分にショックなんだが!?」

「ウソなんかじゃありません! チラ見カウントがあたしの習慣になってるぐらいなんだから数字も正確!」


「タイム! 一回、土下座させてくれ! 全力で謝罪したい!」

「しなくていいから! そんなことより……っ」


 もう一方の手も伸びてきて、頬を左右から挟みこまれた。

 

「……あたしのこと、メチャクチャにしてよ」

「――っ」


 目の前には、俺の惚れた女。

 何年も何年も前からずっと好きな少女。

 その瞳のなかには今、強い決意が込められていた。


「あたし、奏太がいればもう何もいらない。これ、本気だから」


 ぐっと体重を預けてきて、唯花は言う。

 恥ずかしさで今にも泣き出してしまいそうな、真っ赤な顔で。


「ねえ、奏太……」


 告げられるのは、決定的な一言。

 本能的に分かった。胸を触ってとか、メチャクチャにしてとか、そんなことは実は重要ではなくて。

 唯花が本当に言いたかったのは、この一言だ。


 桜色の唇が囁く。

 祈りのような強い熱を込めて。


「あたしたち、もう――恋人でいいよね?」



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