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幼馴染が引きこもり美少女なので、放課後は彼女の部屋で過ごしている(が、恋人ではない!)  作者: 永菜葉一
2章「一歩進んで、さらに甘々days」

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第49話 唯花の様子がなんか変⑤


 俺は今、大いなる疑念を抱いている。

 言葉にしてしまえば、あまりに荒唐無稽で、『そんなことあるわけない』と一笑してしまいたくなるような事柄だ。

 しかし、だからこそ確かめなくてはならない。


 俺は『右向け、右』の号令で唯花(ゆいか)に右を向かせ、左耳を正面に捉えた。

 ダメとかまずいとかって声が聞こえてくるが、とりあえずスルーし、唯花の耳に息を――吹きかけようとしたところで、


「やっぱり不許可っ、だってあたしどうなっちゃうか分からないもん!」


 左耳を左肩にぺたっとつけて、唯花が防御してきた。

 俺たちは両手とも恋人握りでにぎにぎしている。確かに防御しようと思ったらその方法しかない。


 しかしだ。左耳を守るためとはいえ、そんな極端に左を向いてしまえば、


「残念、今度は右耳がガラ空きだぞ?」

「はっ!? ざ、残念の残念! これは――残像だ!」


 唯花はシュパッと逆サイドを向き、右耳を右肩に密着させる。もちろん残像でもなんでもない。

 そしてその時には俺も首を傾け、再びガラ空きになった左耳を狙っている。


「もらった! 左耳に隙あり!」

「はっ!? ざ、残像だ!」

「甘い! 今度は右耳!」

「残像の残像だ!」

「左っ、と見せかけてもっかい右耳!」

「残像の残像と見せかけて、普通の残像!」


「と思いきや左耳!」

「読んでた、真の残像!」

「ならば右、右、左、右!」

「ラクショーッ、残っ、残っ、真残っ、普残っ!」


「じゃあ、上、X、下、B、L、Y、R、A!」

「残っ!? ざ、ざざざ? え、それなに!?」

「スーファミの隠しコマンドだ、カカロットォ!」


 子供の頃に父親のレトロゲームをやり込んでいた甲斐があった。

 唯花は思いきり混乱し、見事にその隙をつけた。

 がら空きになった左耳へ、俺は瞬時に顔を寄せる。

 けれど、右か左か分からなくなった唯花はどっちつかずの動きをしていた。

 そのせいで、


「ゆっ、おま……っ!?」

「え?」


 一瞬、唇が唯花の頬に触れてしまった。

 細い肩がぴくっと反応し、恋人握りのにぎにぎが、にぎーっと強くなる。


「そ、奏太(そうた)があたしのほっぺにチューした……っ!」


 唯花の頬がきれいな朱色に染まっていく。

 俺も顔が一気に熱くなるのを感じた。でもこんな顔はとてもじゃないが見せられない。なので、


「残像だ!」


 誤魔化すように唯花を引き寄せ、その左耳へ――ふーっと息を吹きかけた。

 その瞬間だ。


「――ぁ」


 唯花の体がビクンッと跳ね上がった。

 勢い余って恋人握りが外れ、溺れる子供のようにしがみついてくる。同時に俺の腕のなかで柔らかい体がありえないほど痙攣した。


 あ、ヤバいと思った。

 頭の冷静な部分が一瞬で判断し、黒髪の間に手を差し入れた。唯花の顔を俺の肩へと押しつける。


「噛め!」


 唯花は従順だった。もしくはまともな判断力がもう無かったのかもしれない。

 言われるまま、唯花は俺の肩をはむっと噛んだ。

 そうやって、どうにか押し殺す。弾かれるように迸った、甘い声を。



「――――きゃうんんんんんンっ!」



 ビクビクビクッと全身を震わせ、火照った肌から汗の雫が飛んだ。

 ワイシャツの俺の肩に甘い痛みが走る。ほとんどは柔らかい唇の感触だが、ほんの少し歯が当たった。


 その痛みを心地いいと感じてしまうのは……やや変態っぽいだろうか。いやそんなことはない。まったくないはずだ、うん。

 とにもかくにも俺は脳内で叫んだ。


 セエエエエエエエエエエフ――っ!


 セーフである。

 なぜなら隣の部屋で伊織が叫んでいる。


「『なに今のピンクっぽい声!? まさかお姉ちゃん!? ……いや違う、いくらなんでも僕の尊敬する奏太兄ちゃんが弟分の隣でそこまでするはずがない。なんか甲高くてネコっぽい声にも聞こえたし、今のは……そう、僕の能力の覚醒だ! スタンド? 個性? それとも具現化系? とにかくきっと今の声の主を召喚する系の能力だぞー! やったぁ、如月伊織14歳、覚醒です!』」と大喜びだった。


 この様子から察するに、伊織にもご近所にもバレてない。

 よってセーフだ。すごくセーフだ。すごくすごくセーフだ。どうかそういうことにして頂きたい。


 唯花は腕のなかで放心している。

 まったく力が入ってない。俺が支えてないと、そのまま床までずるずる落ちていってしまいそうだ。


 証明は完了した。

 俺はやや茫然としながらつぶやく。


「唯花、お前、本当に耳がとってもアレな人だったんだな……」

「わかんにゃい……」


 ワイシャツをはむはむしながら答えてくる。


「もう何が何やらわかんにゃい……」

「ですよねー……」


 とりあえず子猫さん、俺の制服は食べ物じゃありませんぞ?

 というツッコミはともかく、唯花の様子が変だった原因はこれで分かった。


 ……うん、アレだな、耳かきだな。昨日の耳かきでアレがアレして、一線越えたバカップルみたいなスイッチが入っちゃたんだな。

 つまり悪いのは…………はい、俺です。10対0で俺がギルティです。


 原因と戦犯が誰かはこれで確認できた。

 あとは……。


「はむぅ、奏太おいしいにゃー……」

「『さあ、僕の召喚に応じよ! 汝の名は夜想猫薔薇・十字聖峰キャッツ・レイズ・ガブリエラ!」


 ……この状況、どうしよう。


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