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幼馴染が引きこもり美少女なので、放課後は彼女の部屋で過ごしている(が、恋人ではない!)  作者: 永菜葉一
2章「一歩進んで、さらに甘々days」

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第46話 唯花の様子がなんか変②


 俺は唯花(ゆいか)の部屋で壁際に追い詰められていた。

 とくに何かされたわけではない。ただFカップを『えへ、当てちゃった』されただけだ。


 ……うん、かなりなことをされてるな!

 脱兎のごとく壁際に退避しても仕方がないな!

 

 当の唯花は照れた様子で自分の胸を手で隠している。だからちゃんとパジャマ着てるのに胸を隠す仕草をするなっ、逆に意識しちゃうでしょーが!


「唯花……そのまま静かに手を下ろせ、静かにだ」

「? おっぱい見たいの?」

「ち、ちち、違うつーの! 今のはアメリカのポリスメンが凶器を下ろさせる感じの発言だってーの! あとおっぱいとか言うな!? 表現がなんかアレだろ!? なんかアレだろぉーう!?」


 思わず巻き舌になってしまい、その露骨なリアクションが仇になった。

 なぜか唯花はきょとんとした。

 なんだ、その顔、可愛いなオイ、それはともかくなんで不思議そうにしてんだ、とツッコもうと思ったら、これまた可愛らしく小首を傾げた。


 黒髪ストレートをさらっと揺らして、とんでもないこと聞いてくる。


奏太(そうた)、ひょっとして女の子が『おっぱい』って言うの、好き?」

「――!? や、お、そ、お――!」

「『やっ、お前、そんなわけないだろ、おっぱいとか……っ』?」


 正確な通訳にコクコクと高速で頷く。

 焦り過ぎてちゃんと言葉が出てこない。そんな俺を見て、キランッと唯花は目を輝かせる。


「これは図星ね。奏太のクリティカルポイント見つけたり! あたい見ちゃった新世界!」

「な……っ!?」


 新世界じゃねえよ!? 見せてねえよ!? イーストブルーからやり直してこい!

 水を得た魚のように唯花はぐいぐい近づいてくる。


「ねえねえねえ、ねえ奏太!」

「近い近い近い、近い! 距離が近い!」


 俺は本当に壁際に追い詰められてしまった。さっきまでは精神的なダメージで自ら壁に駆け寄っていただけなのに、今や物理的にも唯花に追い立てられている。


「ヘイ、壁ドン!」

「うおわっ!?」


 衝撃のなんとかブリットぐらいの勢いでパンチをぶち込んできた。

 とっさに避けたが、ドーンッ! と景気のいい音が響き、伊織の部屋から「『うわっ、ラノベが本棚から飛び出してきたーっ!』」と可哀そうな声が聞こえてきた。


 すまん、伊織、あとで一緒に片付けてやるから。

 で、当の姉は目の前でどばーっと滝のような涙を流してる。


「あう、お手て痛い……」

「あほの子か。パンチなんて慣れないことするからだ」

「パンチじゃないもん。壁ドンだもん」

「どっちにしろ慣れてないだろうが……」


 避けるんじゃなくて手首を掴めばよかったな。動揺してなければそれぐらい出来たんだが……ちょっと可哀そうなことをしてしまった。


「奏太ぁ、お手てフーフーして……」

「まったく、手のかかる奴め」


 手を取って、ちょっと赤くなった手の甲に息を吹きかけてやる。

 すり傷にもなってないからこれなら大丈夫だろう。

 と思っていたら、やおら唯花がどっかの悪党のようにニヤリと笑った。


「フッ、油断したな、小僧?」

「誰が小僧だ。――げっ」


 手と手がきゅっと握られた。

 俗にいう……恋人握りだ。壁ドンに失敗して諦めたのかと思いきや、唯花の攻勢は終わっていなかった。


 一旦収まった動悸が再び高鳴ってしまう。逃げようにも背後はすでに壁だ。しかも息も掛かりそうなほど顔が近い。


「ちょ……っ。この距離でこの握り方はいかんだろ!?」

「なんでぇ? どうしてダメなのぉ?」


 ネコ撫で声でにぎにぎしてくる。細い指の感触と、じゃれ合うような手触りが心地いい。

 ヤバい、これヤバいぞ……っ。油断したらクセになりそうくらい、恋人握りヤバい!


「ねえねえ、奏太……」


 にぎにぎしながら俺の耳元へふわりと顔を寄せてくる。

 まるでナイショ話をするような雰囲気。


 なんだ、何を言う気だ!? と警戒する俺へ、桜色の唇が囁く。

 ひと際強く、指をきゅっと握りながら。


 

「――あたしのおっぱい、柔らかかった?」



 ガツン! と抹殺のなんとかブリッドを脳天に喰らったような衝撃。

 クラックラッしてもう今すぐ倒れてしまいそうだ。

 いかん、やられる。唯花に脳をやられる……っ。


 伊織が世界を縮める速度で止めにくることを期待したが、現在、ラノベを片付け中。レフリーストップは掛からない。

 俺は精神と物理の両方から深刻に追い詰められる。


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