After53☆クリスマス・イブに指輪を贈っちゃうよ大作戦☆
さて、寒さもだいぶ極まってきて、今日はクリスマス・イブである。
毎年、唯花がサンタ衣装になったりしているが、今年はそんなこともなく、ゆったりした厚手のカーディガンでお家デート仕様のカノジョだ。
なんといっても同棲を初めてから最初のイブなので、本人曰く、『もう状況だけですぺしゃる感満載なのですっ』らしい。
正直、言わんとしていることはよく分かる。
なんつーか、俺も油断してると頬がニヤけそうだしな。
2人で小さなクリスマスツリーを組み立てて。
折り紙や画用紙を使って部屋の飾りつけをして。
食材を買い込んできて料理を作って。
それだけでもうめっちゃ楽しかった。
で、ノンアルコールのワインで乾杯し、料理も食べ終わり、
「じゃじゃーんっ! 唯花ちゃん特製クリスマスケーキっ!」
「おおーっ!」
キッチンから運ばれてきたのは、見事なホールケーキ。
イチゴのショートケーキで、唯花っぽいサンタの砂糖人形と俺っぽいトナカイの砂糖人形も付いている。
「すげえな。この人形、手作りなのか?」
「えっへん、頑張ってみました! めいっぱい褒めてくれて良いよー?」
料理は2人でやったが、ケーキは『職人芸なのです。任せておきなさい』と言われ、唯花担当だった。言葉通りの見事な出来栄えなので、頭を撫でてめいっぱい褒めてみる。
「よしよーし、すごいぞ、唯花。ってか、普通に店で売れるレベルだよな、これ。ウチのカノジョ、果ては天才パティシエかもしれぬ」
「にゅふふふっ、それほどでもある~っ」
ご満悦の唯花がケーキをカットしてくれて、2人で美味しく頂いた。ホールなのでまだ残ってるが、明日また食べてもいいし、アパートの他の住人にお裾分けしてもいいかもしれない。
……ふう。さて、本題はここからだ。
最後まで残していたケーキのイチゴを唯花がぱくんっといくのを見つつ、俺はタイミングを見計らう。
イブといえば、プレゼント。
そう、クリスマス・プレゼントである。
今日の俺は普段はあまり着ない、大きめのパーカーを着ている。
ドラちゃんのごとく腹にある大きめのポケットに、プレゼントを隠すためだ。
中身はズバリ小箱に入った――新しい指輪!
今も唯花の薬指には以前に俺が贈った指輪が光っている。
しかしあれは高校時代のバイト代で買った安物である。
大学に入ってからは時間の融通が効き、コツコツ貯めて以前より良い指輪を買うことが出来た。今日はこれを唯花にプレゼントしたい。
「なあ、唯花」
「んー?」
良さげな雰囲気を作るため、俺はゴホンと咳払いして話しだす。
「今年は色んなことがあったよな」
「あったねー」
うんうん、とうなづき、唯花は指を折って数えだす。
「まずは受験でしょー? キャンパス・ライフが始まってー、あたしはミス・キャンパスにもなれちゃってー、先月はひなちゃんも生まれたしー、あとそれに……」
カーディガンの肩をすぼめ、唯花はちょっと照れくさそうに、ほにゃっと笑う。
「奏太と一緒に暮らし始めました♪」
……おのれ、可愛いな!
そんな可愛い顔で、そんな可愛いことを言われたら、こっちの決意も跳ね上がって宇宙まで飛び立ってしまうぞ。
うん、自分でも何言ってるか分からんが、とにかくそういうことだ!
唯花にあの指輪を贈ったのが、ちょうど去年のクリスマス・イブ。
それから一年が経ち、今日まで色々なことがあった。
新しい指輪はその日々の積み重ねの記念みたいなものだ。
一緒に暮らし始めてから思うようになったんだが……なんというか、俺は人生の節目節目で唯花に良い指輪をプレゼントしてやりたい。そして最終的に唯花にどれだけ良い指輪を買ってやれるかを俺の人生の目標にしたい。最近はそんなふうに思っている。
くくくっ、目に浮かぶぞ。
この新しい指輪で喜ぶ、唯花の顔がな。
感激のあまり泣き出すかもしれないし、驚きのあまり『あたい見ちゃった、新世界!』が飛び出すかもしれない。
もちろん泣き出した時用のハンカチもドラちゃんポケットに完備している。
今日の俺に隙はない!
「唯花」
「ふみゅ?」
俺は小テーブルの下でおもむろにポケットから小箱を取り出す。
「クリスマス・プレゼントだ」
「おー!」
テーブルのケーキの上で小箱をぱかっと開ける。
そこにはきらめく新しい指輪。
さあ、泣いてもいいぞ!
ハンカチの用意もバッチリだ!
「うん、ありがと」
頷く、唯花。
で、ニコッと笑って。
「じゃ、それはいらないから、ちゃんと買ったお店に返しといてね♪」
「ふぁっ!?」
ナナメ450000度のリアクションに度肝を抜かれた。
「ちょ、おま!? なん、だとぅ!? ど、どどどどういうことだってばよ⁉」
「だってあたし、もう奏太がくれた指輪つけてるし」
「いやでもそれ、高校のバイト代で買ったものだぞ!? 安物も安物、こっちの方がお高いんだぞ!? ぜったいこっちの方がいいじゃろ!? スネちゃまだってそう言うぞ!?」
「ノンノン、スネちゃまはお金持ちのお坊ちゃんだけど、時には剛田商店で買い物だってするのじゃぞ?」
「それはジャイアンが友達だからだ!」
「心の友よ~」
ジャイアン気分で今にも歌い出しそうな唯花。
いかん、話が取っ散らかっている。
が、話を戻したのは意外にも唯花の方だった。
「っていうか、大学の初日の日も言ったでしょー?」
キラッキラの新しい指輪には目もくれず、唯花は大切そうに薬指の指輪を手のひらで包み込む。
「この指輪があたしの一生の宝物だから。ずっと一緒に生きてくの」
そ、そんな幸せそうな笑顔を浮かべんでも……!
こっちは嬉しいやら、困ったやらで大混乱だ。
で、唯花は笑顔から一転、呆れたようなため息。
「なーんか普段は着ないパーカー着てるし、ポケット触って妙にソワソワしてるし、ぜったいそういうプレゼントだと思ったら案の定なんだから」
「うぐぅ!?」
バ、バレておる……!
「奏太のことだからどーせ人生の節目節目であたしに新しい指輪をくれるつもりなんでしょ?」
「ぐふぅ!?」
これもバレてる……!?
「しかもしかも、最終的にあたしにどれだけ良い指輪をくれるかを人生の目標にしようとしてるんじゃない?」
「がはぁ!?」
ウチのカノジョはエスパーなのかーっ!?
言葉にされると恥ずかしい決意をすべて言葉にされ、俺はノックダウン。小箱を掲げたまま、小テーブルに突っ伏してぷるぷる震える。
一方、唯花は俺の手のひらの小箱を丁寧にパタンッと閉じた。
「毎回毎回、指輪を買い替えてたらお金が掛かっちゃってしょうがないでしょー? でも奏太ってばあたしの為なら突っ走ってくれちゃうだろうし、なのでここでしっかりストップ掛けときます。No more 指輪プレゼント」
「そんな映画泥棒みたいな……」
無念だ。
頭がビデオカメラになってスクリーンで踊ってしまいそうだぞ、俺は。
「人生設計は大切なのです。だって将来、色々お金掛かるでしょ? その、えっと……け、結婚とか……あ、赤ちゃんとか……だから2人の未来の為に、ね?」
言い聞かせるみたいにナデナデと頭を撫でられた。
くそう!
今ぜったい、唯花は赤くなってモジモジして可愛い顔してるだろうに、まだショックから抜けられなくて体を起こせん……!
だが言わんとしていることは分かる。
唯花や仲間たちや誰か困ってる奴のこととなると、俺は……ほんのちょっぴり常識を逸脱するところがなくもない。
言われてみれば、唯花の新しい指輪を買うとなったら将来的に青天井で張り切りそうな気がする。ここでブレーキを掛けてもらうのは正解なのかもしれない。
だけどなぁ、でもなぁ……っ!
頭では納得しつつも、気持ちの整理が追いつかなくて、俺は小テーブルでジタバタする。
すると、頭の上から「しょうがないにゃー」と唯花が苦笑する声が聞こえた。
「じゃあ……はい、これ! あたしからのクリスマス・プレゼント。これで元気出してー?」
そう言われて顔を上げた。
途端、俺は目を見開く。
「え、おま……」
差し出されていたのは、小箱に入った……指輪。
俺が最初に贈ったものとお揃いで、銀色のリングに小さな石が光っている。
おそらくわざわざ同じ店で買ったのだろう。
正直、死ぬほど驚いた。
「こ、これ、どうしたんだ!?」
「もちろん、お店で買ってきたのです。奏太がアルバイト行ってる時にこっそりね」
「いやでもほら、金とか……っ」
「今、お母さんがひなちゃんのお世話で家事なかなか出来ないから、あたしが色々手伝ってるでしょ? それでアルバイトってことで、お父さんからお小遣いもらってるの」
ああ、なるほど……。
撫子さんの出産以降、唯花はマメに実家に帰って家事を手伝っている。もちろん俺も同行しているが、まさか裏でそんなやり取りがあったとは……。
「えへへ、奏太をびっくりさせたくて。どうどう? びっくりした?」
「そりゃあ……びっくりし過ぎて心臓飛び出すかと思ったぞ」
「じゃあ、付けたげるねー」
「おお……」
唯花はいそいそと小箱から取り出し、指輪を俺の薬指に嵌めていく。
な、なんか結婚式の指輪交換みたいで照れくさいな……!
だが、なんつーか……やっぱ嬉しい。
自分の指に唯花がくれた指輪が輝いている。
手のひらを目の前で掲げてみた。
不思議だな。もう見慣れたはずの部屋の景色すら新鮮に思えてくる。
「ねえねえ、奏太」
「ん? ああ、なんだ?」
「来年はもっと良い指輪を買ってあげるね?」
「は? いやいや、いらんいらん! 俺は唯花がくれたこの指輪を一生大事に……あ」
気づく、俺。
にや~と笑う、唯花。
「ね? 分かったでしょー?」
「……分かった。ニャニャロット、お前がナンバーワンだ」
負けを認めたヤサイ人の王子のごとく、俺は両手を挙げた。
確かにこれは一生の宝物だ。
新しいものをくれると言われても、替えなんて絶対効かない。
ずっと大切にしていこうと思った。
最高のクリスマス・プレゼントだ。
……が、ふいに俺は恐るべきことに気がついた。
「ええと、唯花さんや……」
「なんじゃらほい、奏太さんや?」
「ひょっとして俺、お前さんみたいに……この指輪、いつも付けてないといかんのか?」
去年、唯花の指輪を買った時に知ったんだが、いわゆる婚約指輪的なものは一般的に女性だけが付けるものらしい。
2つでワンセットになっていて男性も付けるものは、いわゆる結婚指輪になるそうだ。
唯花は今、大学にも指輪を付けていっている。それだけでも『婚約してますアピール』みたいになってるのに、これで俺も同じ指輪を付けていったら……『結婚してますアピール』みたいになってしまう気がするぞ!?
なので大変嬉しいんじゃが、俺の方の指輪は家にいる時だけとか――。
と言おうとした瞬間、唯花が身を乗り出してきてぎゅっと手を握られた。
「だめー♪ 奏太もずっと付けててねー♡」
ダメだったーっ!
見事に逃げ道を封じられてしまった。
ああ、ちくしょう……休み明けの大学が恐ろしい。同級生たちに当たり前のような顔で『あれ? 三上、入籍したん?』とか言われてしまいそうだ。
しかしそんな俺の心情を知ってか知らずか……いか完全に100%理解した上で、唯花は手を握ってニコニコしている。
「えへへ、お揃いお揃い♪」
お互いの指輪が触れ合う。
いつもと少しだけ違う、手のひらの感触。
くっ、悪くないなこれ……!
唯花のニコニコ顔も合わさって、テンションが上がり始めてしまった。
「あ、奏太がチューしたそうな顔してる」
「ふぁっ!? いやいやそれは唯花の方だろ?」
「え~、奏太じゃない?」
「いや、唯花だろ?」
じっと見つめ合う。
すると、唯花がちょっとはにかんで囁いた。
「じゃあ……2人とも? とか?」
「……だな」
小さなツリーがキラキラと電飾を光らせるなか、
俺たちは指輪を付けた指同士を絡ませて――
「メリー・クリスマス♡」
――最高に幸せなキスをした。




