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After38 コタツをつけて、ぬっくぬくのイッチャイチャ

 さて、季節が一気に進んで涼しくなってきたな。

 いや涼しくっていうか、寒いくらいか?


 正直、秋はどこいったって気がするが、まあ夏みたいに唯花(ゆいか)が溶けることがないから良しとしよう。


 というわけで、今日も俺たちは家に帰ってきた。

 唯花は首に気の早いマフラーを巻いていて、俺の方はいつもの制服姿だ。


「たっだいまー!」


 唯花が元気よく玄関に入り、俺もその後に続く。


「おう、おかえり」

奏太(そうた)もただいま、は?」


「へいへい、ただいまー」

「おかえりなさいっ」


 先に靴を脱いだ唯花が振り向きざまに笑顔で言った。

 

 ……む、いいな、これ。

なんかすげえグッと来ちゃったぞ?


 もう一回言ってみるか。


「唯花さんや?」

「なんじゃらほい、奏太さんや?」

「あー、なんだ、その……」


 俺も靴を脱いでなかに上がり、改めて言ってみる。


「ただいま」

「おかえりなさい?」


 軽く小首をかしげてのお返事。

 まあ、2回目だし、そうなるだろう。


 んー、これこれでいいが、さっきの感じがもうちょい欲しい。


「なんかこう、ちょっと笑顔を足してみてくれ」

「ふみゅ? 一体どういうことなのです?」


「良いから良いから」

「もー、しょうがないにゃー。笑顔100%な感じ?」


「感じ感じ」

「良かろうなのです」


 ご了承いただけたので、俺はゴホンと咳払い。

 一拍置いて、言ってみる。


「唯花、ただいま」


 次の瞬間、発揮されたのはさすがの美少女パワー。


 唯花はその場で軽くぴょんっと跳ねると、黒髪をふわりと舞わせ、着地と同時に笑顔100%で嬉しそうに微笑んだ。


「奏太、おかえりなさいっ」

「~~~~っ」


 ……良い。大変良い。

 これでもかっ、ってくらい素晴らしい。

 俺はにやける頬を隠しながら、サムズアップ。


「唯花、お前がナンバーワンだ」

「ほえ? よく分からないけど、唯花ちゃん、長年のライバルだったヤサイ人の王子に認められちゃった?」


「ああ、最後はお前の元気ボールで世界は救われる」

「なるほどなるほど」


 唯花は腕組みをし、うんうん、と何度も頷いた。


「じゃあ、せっかくだからドラドラボールで願いを叶えちゃっていい? 出でよ、奏太! そして願いを叶えたまえっ」


「え、俺、神龍なん?」

「うみゅ。奏太はこのおウチにおいては『神龍』と書いて『シェンロン』なのです」


 そうだったのか。

 18年生きてきて初めて知る、衝撃の真実だ。


「んで、願いは?」

「よくぞ聞いてくれました」


 深く頷き、しかしすぐには口を開かない。


「えーと?」

「…………」


 唯花は瞼を閉じながらわざわざ間を溜めて……さらに溜めて、まだ溜めて……溜めに溜めて、やがてカッと両目を開いた。


「今日からおこたを起動しまーす!!」


 人差し指で天を差して堂々宣言。

 うん、願いじゃなかった。

 決定事項の宣言だった。


 ちなみに唯花の言う『おこた』とはコタツのことである。


「なん、だと……?」


 俺ことシェンロンは驚くばかりだ。


「いやいや落ち着け、唯花さんや。まだ11月じゃぞ?」


 コタツって12月ぐらいから出すもんじゃないか?


「でも寒いし。気持ちはもう冬だし」

「いやそれはそうだけれども」


「……ダカラ……起動スル……アタシ、オコタ、使ウ……」

「おおう……」


 まるで理性さんを失ったバーサーカーのような物言いに本気を感じた。

 

 唯花は駄々っ子のように俺の制服の袖を引っ張ってくる。


「ねー、いいでしょー、シェンロ~ン。ちゃんと地球も征服するから~」


「待て待て、逆にヤサイ人の使命を全うしようとするんじゃない。コタツを使うか使わないかに人類の存亡が掛かってたまるか」


 ちなみにコタツ自体はもう和室に出してある。

 コタツ好きの唯花が先走って先日、セッティングしたのだ。


 うーん、まあ確かに寒いっちゃ寒いしなぁ。


「わかった、わかった。シェンロンの名において、コタツの起動を許可しよう」

「やたーっ!」


 途端、バンザイで喜ぶ、唯花。


「じゃあ、今日の宿題は和室ね! おこた~、おこた~、おこたがあたしを待っている~♪ 1億と2000兆年前から待っている~♪」


 いや兆は長すぎるだろ、兆は。

 謎の歌を謡いながら、唯花はるんるんと駆けていく。


 やれやれ、と思いながら俺もその後をついていった。



 ………………。

 …………。

 ……。



 で、コタツをつけてみた。

 和室で向かい合わせになり、宿題を置いて、俺と唯花はコタツに足を入れている。


 ぽかぽかしていて温かい。


「あー、確かに悪くないな」

「ほ~え~……」


「へ? 唯花?」

「ほ~え~……♪」


「溶けてるーっ!?」


 コタツテーブルに突っ伏し、今にも『でろん』となりそうになっていた。


 なんてこった。

 夏だけじゃなく、冬も溶けるのか、ウチの彼女は。


「ほら、起きろ。正気に戻れ。ちゃんと宿題しなきゃだろ?」


 俺はテーブルをトントンと叩き、声を掛ける。

 すると、ハッと気づいたように唯花は目を開いた。


「……あ、あぶにゃい。おこたの魔力に吸い込まれるとこだった!」

「いや、とこだった、どころかガッツリ吸い込まれてたっぽいけどな」


 唯花の教科書を開いてやりながら、俺はコタツの下で足を(つつ)く。


「頑張れ。しっかり宿題やらないと、コタツの電源オフの刑だぞ?」

「えー、それヤダ! だいじょーぶ、こっからの唯花ちゃんは本気モードだからっ」


 だから許して、とばかりに唯花はコタツの下で足をすり寄せてくる。


 ……なんかちょっとくすぐったいな。まあいいか。


「是非もなし。お気張りやす」

「あいあいさー!」


 元気に返事をし、宿題を始める唯花。

 しかし足はすり寄せ状態のままだ。


 なんというか、俺の右足を唯花の両足が挟み、スリスリしてくる。


 えーと、なんだこれは?

 一体、どういうことだってばよ?


「えーと、唯花さんや」

「眠くない。おこたは温かくて幸せいっぱいだけど、今は宿題中だからまったく眠くはないのです」


 あ、なるほど。

 眠気覚ましか。


 コタツの下で足を動かすことで、眠気を退散させようとしてるらしい。


 そういうことなら手伝うのもやぶさかじゃない。


 俺もコタツの上では宿題をしつつ、下では左足を動かして、こっちからも唯花の足を挟みに掛かる。


「はにゃ!?」

「どうした?」

「ど、どうも……しない、けども……っ」


 いきなり足を挟まれてびっくりしたようだ。

 

 どうもしない、と言いつつ、唯花は「むーっ」とジト目を向けてくる。

 

 は? 

 いやいや待て待て。

 俺は眠気覚ましを手伝っただけだぞ?


「ねえねえ、奏太。ここの問題なんだけど」

「んー、どれどれ? ……ぬわっ!?」


 教科書を覗き込んだ瞬間、唯花の足が伸びてきて、俺の足――どころか太ももを挟み込まれた。


 そのままマッサージのようにふにふにしてくる。


「ちょ、おま。それは……っ」

「んー、どったの?」


 にひひーと、してやったり顔である。


 ほほう、そうか。

 そう来やがりますか。


「……いや、なんでもない。えーと、問5のところだったな?」


 俺は何食わぬ顔を作って、解き方を教え始める。


「つまりこのXにこっちの3を代入してだな」

「ふみゅふみゅ」


「で、前のページの公式を当てはめてやればいいわけだ」

「あー、そかそか。だから答えが5xyになるの――わひゃあ!?」


 しゃべってる途中で肩が跳ね、真っ赤になって叫ぶ、唯花。

 

 くくく、見たか。

 俺の黄金の左足の力を。


 つい今の今まで俺は右足の太ももを唯花にふにふにされていた。

 つまり左足はフリーだったのだ。

 

 なので俺は左のつま先で、唯花の膝を巧みに横へスライドさせ、両足を開いている状態にさせた。


 そこからすかさずスカートの端をつま先に引っ掛け、コタツの天板にトゥーキック。


 すると、どうなるか?

 お答えしよう。


 ――今、唯花はコタツの下で絶賛、スカートめくられ中なのである。


 無論、コタツの下なのでまったく見えはしない。

 しかし恥ずかしさは天元突破なはずだ。

 ふっ、我ながらなんて恐ろしい攻撃なのだろう。


「にゅ~……っ」


 唯花は真っ赤な顔でぷるぷるしている。

 しかしその瞳のなかの戦意はまだ失われていなかった。


「は、恥ずかしくないもん」

「なに?」


「見えてないから恥ずかしないもーんっ!」

「なん、だと!?」


 予想外の宣言に動揺した、次の瞬間だった。

 唯花が両手を颯爽とコタツの中へと突っ込んだ。


 直後、スカートごと足の裏をめっちゃくすぐってきた!


「こちょこちょこちょ!」

「なっははははは!? コラコラコラ、それは反則じゃろ!?」


「反則も何もありませーんっ。いきなりエッチなことしてきた、奏太が悪いのです!」


「いや先に仕掛けてきたのは唯花だろ!? なはははっ!」


「仕掛けてないもん。あたしは真面目に宿題してただけだもーん」

「だから俺もそれを手伝おうと……ええい、埒が明かん! かくなる上は!」


 こっちもコタツの中へ手を突っ込んだ。

 そして完全に油断している唯花の足裏を思いっきりくすぐってやる。


 途端、コタツの向こうで唯花の体が跳ね上がった。


「にゃ!? にゃははははは!? らめ、らめ、それはずるっこー!」

「ふはははは! 目には目を、くすぐりにはくすぐりだ!」


「にゃはははっ!」

「はははははっ!」


 お互いに意地になって、くすぐりまくった。

 正直、笑い過ぎて酸欠になりそうだ。

 しかし戦いの終わりは突然、訪れた。


「にゃはははは――って、ああもう! 我慢できなーい!」


 そう言うと、唐突に唯花の姿が目の前から消え失せた。

 

 すわ、瞬間移動か!?

 と思ったがそうではなく、コタツの中に潜ったのだ。


 足の裏からくすぐったさが消えた。

 代わりに唯花が体をよじ登ってくる感触がある。


「ぷはっ」


 コタツを潜って唯花がこっちに来た。

 そしてそのまま、


「奏太、ぎゅ~っ!」

「おおう」


 思いっきり抱き着いてきた。

 制服越しの柔らかい体を受け止め、反射的に抱き締め返す。


「どうした、どうした?」

「どうしたもこうしたもないのです」


 コアラのように抱き着きながら、お姫様はお冠だった。


「今日はおこたと奏太でぬっくぬくになって甘えん坊するつもりだったの! でも宿題あるから足でスリスリするだけで我慢してたのに……奏太がイタズラするからぁ」


「あー」


 なるほど、最初のあれは眠気覚ましではなかったらしい。

 甘えん坊スイッチがオンになるのを防ごうとしていただけのようだ。


「俺はてっきり睡魔でウトウトしてたのかと」

「ウトウトはしてたけども」

「してたんかい」


 コタツよりも唯花の体温の方が熱いくらいだった。

 人間湯たんぽだな。


「イタズラの罰として、奏太は唯花ちゃんをなでなでする刑に処します」

「へいへい、そんな刑なら喜んで」


 改めて唯花の体をぎゅっと抱き直し、黒髪を撫でてやる。

 サラサラの髪の手触りが心地いい。


「えへへー。奏太、大好きー♪」

「俺もだ」


 コタツで足元が温められて。

 湯たんぽな唯花に全身を温められて。


 ……あれ? これわりと極楽じゃないか?


「あったか、あったか♡」


 ご機嫌な唯花の声が耳元で聞こえる。

 うーむ、早めのコタツも悪くないかもな。


 そんなわけで結構、コタツが好きになった俺なのでした。

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もう「ただいま」「おかえりなさい」のやりとりだけで無限にニマつけるわ。幸福感がジュワンジュワン沸いてきましたわ。このシーン、もはや潤い通り越して精神安定剤っす。これからはなんか辛いことあったらここに戻…
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