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幼馴染が引きこもり美少女なので、放課後は彼女の部屋で過ごしている(が、恋人ではない!)  作者: 永菜葉一
アフターストーリーズ

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After28 ベッドが気になるなら、あたしとイチャイチャすればいいのですっ

 はてさて、今日も今日とて俺の家である。


 突然帰ってきたウチの親父も無事に海外に戻り、三上(みかみ)家は平穏を取り戻している。


 で、いつのごとく唯花(ゆいか)と宿題をしているのだが……。


「……? 奏太(そうた)? おーい、奏太さんやー?」

「……ハッ!?」


 唯花にシャーペンの頭で鼻を(つつ)かれ、俺はハッと目を覚ました。


「ね、寝そうになってたか?」

「うん、寝てた。寝そうになってたっていうか、超寝てた」


「いやいや超寝てはないだろ? かろうじて意識は保ってたぞ、うん」


「いやいや超寝てたのです。なぜなら唯花ちゃんが目の前でにゃんにゃんダンスしててもぜんぜん無反応だったんだから」


「にゃんにゃんダンス、だと……?」


 なんだその不思議な猫祭りは?

 一体いつの間に開催されていたって言うんだ?

 

 シンプルに超見たかったぞ。


「くっ、まったく記憶にない……。やっぱり俺は寝てたのか」

「寝てましたにゃん」


 にゃんにゃん、と猫手を振ってうなづく、唯花。


 可愛いな、おい。

 見逃したのがマジで悔やまれる。


「でも奏太が宿題しながら寝ちゃうなんて珍しいね」

「あー、まあな……」


「ってか、最近ちょこちょこ眠たそう」

「……む、気づかれていたか」


「そりゃ気づくでしょー。カノジョだもん」


 小テーブルに肘を置き、両手で頬杖をついてニコッと笑顔。


「さ、話してご覧なさい。奏太はどうしておねむなの?」

「むう……」


 情けない話なので、実はあんまり話したくない。


 しかし唯花がこうして『お話聞くよ』モードになったら、俺には回避する手段なんてないのだ。


「あー、実は……最近、夜あんま寝れてなくてな」


「んー? 生徒会のお仕事が残ってるわけじゃないよね?」


「ああ。仕事はぜんぶ生徒会室で終わらせてるから、それはない」


「単純にお疲れとか? マッサージしたげよっか?」


「いや体もすこぶる健康だ」


「じゃあ、なにゆえに?」


「うむ、それは……」


 俺はギギギッと軋むように首を動かし、自分のベッドへと視線を移す。


 そう、ベッドだ。

 ただのベッドである。


 しかし今の俺にはこのただのベッドが大変気まずい場所となっていた。


「こないだ、(あおい)がこのベッドで伊織(いおり)を押し倒してたろ?」


 くっ、と苦悩を滲ませ、俺は額を押さえる。


「あと一歩で義妹と義弟がここでエロいことしてたかと思うと、非常に気まずくてぜんぜん寝つけん……!」


「あー……」


 そうなのだ。

 先日、唯花と一緒に二人が遊びにきた時のこと。


 なんやかんやで俺と唯花が反省文を書かされることになり、伊織と葵はこの部屋で待っていた。


 そして反省文が完成し、俺が二人を呼びに来ると……伊織が葵に押し倒されていた。


「大概のことなら俺も目をつむる自信がある! たとえば修学旅行中にあいつらが連続でキスしていようとも、冷静にその回数を数えるぐらいの余裕はあるつもりだっ」


「その余裕もあたしはどうかと思うけど」


「だがさすがに俺の部屋では……っ、俺のベッドでは……っ、さすがにお義兄ちゃんもちょっと気まずいぞ!?」


 小テーブルに肘をつき、俺は頭を抱えた。


 これが最近、寝つけない理由だ。

 夜、ベッドに入ると、どうしてもあの日のことを思い出してしまい、リラックスできない。


 気づけば寝ぼけまなこで朝を迎えている。


「うーみゅ」


 苦悩する俺を前にして、唯花は難しい顔で腕を組む。


「まさかあの日の出来事がここまで奏太の心にダメージを残していようとは……」


「俺は……もう生涯、安眠できないかもしれぬ」


「大げさだにゃー」


 唯花は肩をすくめる。


「しょうがない。ここは唯花ちゃんが一肌脱いであげるのです」


 そう言うが早いか、唯花は「よいしょっ」と立ち上がった。

 宿題を小テーブルに残したまま、ベッドの方に移動。


 そのままころんと横になる。


 制服の上着は部屋にきた時にハンガーに掛けてある。


 女子用のワイシャツ姿で寝転び、唯花はポンポンとベッドを叩いた。


「ほら、おいでー♪」

「へ?」


「だから、おいでってばー♪」

「なん、だと……!?


 突然の展開に思考が止まりそうになった。


「どしたの? 早くー」

「い、いやでもしかし……っ」


 唯花の意図が読めない。

 一肌脱ぐと言っていたが、ベッドに誘って何をしようと言うんだ?

 

 俺は恐る恐る尋ねる。


「ど、どういうことだってばよ……?」

「もー、だからー」


 真っ白なシーツに黒髪が美しく広がり、唯花はどこまでも無防備な体勢で、おいでおいでと手招きする。


「ベッドが気になるなら、あたしとイチャイチャして上書きしちゃえばいいじゃない?」


「……っ」


 クラッときた。

 それはつまり……エロいことか!?

 エロいことしていいって意味か!?


 いや待て、三上奏太。

 落ち着け、素数を数えろ。


 まだ宿題の途中だ。

 宿題を放り出してエロいことするなんて、そんな背徳的なことをしていいのか?


「奏太ー? なんで修行中のお坊さんみたいな顔で固まってるの?」


「拙僧、ただいま煩悩と戦ってるでござる」


「そかー。じゃ、中止」

「ふあっ!?」


「だって仏門の教えに反しちゃうでしょ?」

「忘れてた! 拙僧は破戒僧でござった!」


 破戒僧とは主に戒律を破った僧侶のことだ。

 アニメやマンガだと強キャラなことが多いな。


 そんな強キャラになった気分で心を強く持ち、俺はベッドの方へ上がっていく。


 ギシッ、とベッドが鳴り、俺の両手の間に唯花の可愛い顔。


「じぃー……」


 宝石のような瞳が見つめてくる。


「じぃー……」

「な、なんだ?」


 こうも見つめられると、なんか緊張するぞ。

 思わず視線を逸らすと、手の間の唯花が「あははっ」と笑う。


「奏太が照れてるー!」

「て、照れてねーし!」


「えー、ほんとー?」

「ほんとだし!」


 だが流れを掴めていないのは事実だ。


 宿題の背徳感もある。

 それに何より本当にエロいことしていい流れなのかも分からん。


 唯花のことだから、ここから突然、ネコぱんちが来ることも大いにある。


 と思っていたら。


「はい、ぎゅ~っ!」

「……っ!?」


 いきなり下から思いきり抱き締められた。

 

 制服のリボンが俺の胸元でひしゃげ、ワイシャツ越しに柔らかい感触が伝わってくる。


「ちょ、いいのか、これ!? 背徳的じゃないか!?」


「ほえ? 背徳的?」


「イエス! だってまだ宿題終わってない!」


「んー、でも奏太を夜、ねんねさせてあげるためだし」


「で、でもだな……っ」


「嬉しくない?」


「すげえ嬉しいけれども!」


 思わず本音が出てしまった。

 すると唯花は俺の首元に頬をスリスリとすり寄せてくる。


「葵ちゃんが伊織を押し倒しちゃったことが忘れられないなら、奏太があたしを押し倒しちゃって上書きすればいいんだよ」


「な、なるほど……っ」


 天才か。

 これが天才の発想か。


「あ、でもエッチなことはダメだからね?」

「えっ」


「宿題してない子はエッチなことしちゃいけないのです。悪い子になっちゃうからね?」


「いや……でも唯花は? 唯花はめっちゃ俺のこと抱き締めてるけども?」


「あたしは奏太が寝てる間に宿題終わらせちゃったもん」


「マジか……」

「まじまじー」


 唯花は得意げに言い、何を思ったか、俺の鎖骨辺りを甘噛みしてくる。


「はむはむっ」

「ちょ……っ!?」


「奏太おいしー。はむはむっ」

「ちょ、おま……っ」


 唇で甘噛みされている鎖骨がくすぐったい。

 唯花の髪からシャンプーのいい匂いもする。


 しかしエロいことはしてはいけないという。


 まさか俺はこのまま一方的にはむはむされ続けるのか……!?


 だとしたらもはや拷問である。

 これが仏門の教えを破った者への罰なのだろうか。


 そこまで考えて、ふと気づいた。


 待てよ。

 この状況って……。


「もしかして、唯花がはむはむしたいだけなんじゃ……」

「ふえっ!?」


 突然、がばっと顔を上げた。

 唯花は真っ赤な顔で猛然と言い返してくる。


「そ、そんなわけないでしょー! 奏太が宿題しながらウトウトしてる時にワイシャツの襟から鎖骨が見えちゃって、はむはむしたくなったなんてことは全然ないんだからねー!」


「やはりそういうことか」

「違うもん違うもん!」


「今めっちゃ自白してたじゃないか」

「だから違うのー! もう知らない!」


 俺の下からズリズリと移動し、ぷいっとそっぽを向く。


 しまった。

 お姫様が拗ねてしまった。


 はむはむはしたかったんだろうが、俺のベッド問題を解決しようとしてくれたのも本当だろう。


 ご機嫌を直してもらうため、そっと後ろから抱き締める。


「すまんすまん、悪かった」

「知らないもーん」


 つん、とする唯花さん。


「もう宿題してもエッチなことさせてあげませーん」

「それは非常に困る……」


「じゃあ、ごめんなさいする?」

「するする。ごめんなさい」


「口で言っただけじゃ、ごめんなさいにはならないの。行動で示すのです」


「んー、どうすればいいんだ?」


 尋ねた途端、唯花がチラッと振り向いた。

 そして口元を緩ませ、おねだり顔。



「いーっぱい好きって言って?」



 はい、可愛い。

 もうすべて叶えてやりたくなってくる。


「好きだ」

「えへへっ」


 耳元で囁くと、唯花はパタパタと身じろぎして喜んだ。


 ちなみに身じろぎした理由は耳が弱いからである。

 なので俺は耳元で甘く囁きまくる。


「好きだ。好きだ。好きだ」

「やー、くすぐたーいっ」


「唯花が言えって言ったんだろう?」

「だってー、くすぐったいのは、くすぐったいのー」


「ほー? じゃあ、もう言わなくていいのか?」

「やだやだ。言ってー」


「好きだ。好きだ、唯花」

「きゃー、やっぱりくすぐったーい!」


「おいおい、どうしろって言うんだ?」

「くすぐったいけど、ずっと言ってー」


「こーのワガママお姫様めっ」

「えへへー、わらわは欲張りなのじゃー」


 そうして、くすぐたがって逃げようとする度、抱き締めて『好きだ』と囁く。

 そのままキャッキャ言いながら夜まで過ごした。


 ………………。

 …………。

 ……。


 で、後日談なんだが。

 あら不思議、その日から見事にぐっすり眠れるようになりました。


 ベッドのトラウマを唯花が見事に上書きしてくれたらしい。


 ちなみに宿題のことはすっかり忘れていて、翌朝、必死になってやったのはまた別のお話である。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・唯花さんが無限に可愛い。もう可愛すぎる(n回目)。 ・ひたすらに「好きだ」を言いまくるの、あまりにも甘々がすぎて最高。確かに地球が砂糖化するリスクは否めない。伊織は正しかった。 [気に…
[一言] お久しぶりでございます!! 桐ヶ谷です!! かなり冷え込みが厳しくなってきたこの頃、お元気にお過ごしですか? 僕は先週体調を崩しました。 さて、僕はそろそろ就職して1年を迎えようとしてい…
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