After27 唯花に影響された葵、ついに伊織を押し倒しちゃう(葵視点)
今日は奏太兄ちゃんさんのお家にきています。
バレンタインなので唯花お姉様さんと一緒にチョコを作るはずでした。
でも奏太兄ちゃんさんのお父さんが帰ってきていて、色々あって……。
「はあ……」
わたしは小さく吐息をはく。
ここは奏太兄ちゃんさんの部屋。
ご本人と唯花お姉様さんは一階のリビングで伊織くんにお説教されている。
わたしは伊織くんから『ごめんね、葵ちゃん。ちょっと高校生たちをシメるから二階の奏太兄ちゃんの部屋にいて』と言われ、こっちにきた。
それから、かれこれ二十分。
わたしの頭のなかはずっと一つのことで埋め尽くされている。
「キス見ちゃった……」
思い返すだけで頬が熱くなってくる。
最初、伊織くんとわたしは奏太兄ちゃんさんのお父さん――太一おじさまさんと話をしていた。
太一おじさまさんは伊織くんの家にいくらしく、わたしたちにバイバイして玄関の方へ向かった。
それを奏太兄ちゃんさんが追いかけていって、少しして唯花お姉様さんも妙に緊張した顔で追いかけていった。
少しの間、待っていたのだけど、二人とも戻ってこない。
だから伊織くんと玄関の方を見にいったのだけど……。
そこで奏太兄ちゃんさんと唯花お姉様さんが抱き合ってた。
太一おじさまさんはもう出ていった後みたいで、二人はキスをする寸前の空気。
わたしたちに気づいて、奏太兄ちゃんさんは踏み留まろうとしていた。
だけど。
そこで。
唯花お姉様さんは「えへへ」とイタズラっぽく笑い、奏太兄ちゃんさんにキスをした。
「はあ……」
二人のキスを思い出して、わたしはまた吐息をはく。
正直、奏太兄ちゃんさんと唯花お姉様さんのキスを見るのは初めてじゃない。
だけど何度見ても刺激的だから、どうしてもわたしは顔が火照ってしまう。
本当はわたしも伊織くんみたいに怒らないといけない。
二人がイチャイチャしてると、伊織くんの目から光が消えちゃうし。
だから怒って、叱って、注意しないと。
そうわかっているのだけど……。
「いいなぁ……」
一人でいるせいか、つい本音がこぼれてしまった。
指先が自然と自分の唇に触れる。
「最後に伊織くんがキスしてくれたの、いつだっけ……」
伊織くんは生まれた時から奏太兄ちゃんさんと唯花お姉様さんのイチャイチャを間近で見てきた。
それに唯花お姉様さんが引きこもっていた時期も壁越しにさらなるイチャイチャを聞かされていた。
おかげで伊織くんはとっても真面目な男の子に育っている。
放課後は生徒会の仕事でいつも一緒にいるし、お休みの日はデートもする。
たまに手を繋ぐことだってある。
だけど、それ以上のことはなかなかない。
もちろん、わたしを大切にしてくれてるんだって、わかってる。
それは理解しているし、とても嬉しい。
だけど、奏太兄ちゃんさんたちのあんな熱烈なシーンを見せられてしまうと……どうしても羨ましいという気持ちが胸の片隅に生まれてくる。
「伊織くんとキス……したいなぁ」
また本音がこぼれてしまった。
こんなこと、絶対言えない。
もし伊織くんに知られたら、わたしは恥ずかしくて爆発してしまう。
だからこそ、思った。
「……すごいなぁ、唯花お姉様さん」
伊織くんやわたしが見てるのに。
唯花お姉様さんは奏太兄ちゃんさんに真っ直ぐ飛び込んでいった。
キスしたい、っていう思いを一切隠さず、しちゃってた。
たとえ天地がひっくり返っても、わたしにはあんなこと出来ない。
……どうしてあんなことが出来るんだろう。
そんなことを考えていたら、ふいに部屋の扉がコンコンとノックされた。
はい、と返事をすると、伊織くんがお盆を持って部屋に入ってきた。
「お待たせ、葵ちゃん。麦茶持ってきたよ」
「ありがとう。ええと……奏太兄ちゃんさんと唯花お姉様さんは?」
「二人には今、反省文を書かせてます。いつもなら奏太兄ちゃんにだけお説教するところだけど、今日はお姉ちゃんもギルティだから、二人そろって提出させることにしました」
風紀委員みたいな表情で言って、伊織くんは麦茶のコップを小テーブルに置く。
奏太兄ちゃんさんの部屋にはちゃぶ台代わりの小テーブルがある。
いつもはここで二人で宿題をしているらしい。
わたしの背後にはベッドがあって、壁際には勉強机もある。
あとアニメのポスターが貼られていたり、本棚には漫画やフィギュアが山ほど並んでいるのだけど……たぶんこれらは唯花お姉様さんの趣味。
今さらになって気づいた。
男の人の部屋にいるのに、わたしはぜんぜん緊張してない。
きっと唯花お姉様さんの物があちこちにあって、『二人の部屋』という雰囲気だからだと思う。
こういうところでも、やっぱり唯花お姉様さんはすごい、と思ってしまう。
わたしだったら伊織くんの部屋を自分の物で埋め尽くすなんて、絶対出来ないから。
「ごめんね、葵ちゃん、変なもの見せちゃって」
コップの麦茶を飲み、伊織くんは申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「奏太兄ちゃんもお姉ちゃんも……中学生の僕らの前であんなことするなんて、絶対ダメだよね」
「あ、ううん、わたしは……その、大丈夫だから」
いいなあ、なんて思っていた手前、ちょっと後ろめたくて言葉をにごす。
逆に伊織くんは高校生たちへのお怒りがまだ冷めやらないのか、勢い込む。
「安心して。僕は葵ちゃんにあんなこと絶対しないから! 奏太兄ちゃんやお姉ちゃんと違って、僕たちは健全なお付き合いをしていこうねっ」
「…………ええと」
わぁ、どうしよう。
変な汗が流れてきた。
どちらかと言うと、わたしの希望は奏太兄ちゃんさんたち寄り……なのだけど。
でもそんなこと言えるわけない。
一方、伊織くんは麦茶のコップを握り締めて熱弁している。
「本当に二人とも四六時中、イチャいちゃイチャいちゃしてるんだからっ。別に仲が良いのは良いことだけど、まわりへの影響も考えてもらわないと。何かの間違いで地球が砂糖化したら二人のせいだよ。僕は地球のことも考えて言ってるんだ。やっぱり学生は健全であるべきだよね!」
「…………あ、ハイ」
困った末にわたしは首を縦に振った。
「ありがとう! 葵ちゃんは分かってくれるって思ってたっ」
伊織くんはいい笑顔。うん、素敵。好き。
それにしても……これは由々しき事態かも。
二人のキスシーンを見て、わたしはとてもドキドキしたし、自分もしたいと思ってしまったけど……伊織くんは逆にガードが固くなったみたい。
拝啓。
奏太兄ちゃんさん。
唯花お姉様さん。
ごめんなさい、八つ当たりなのは分かってます。
分かってるんですが、今わたし……お二人の反省文を倍に増やしたい気分です。
「…………」
伊織くんには聞こえないように心のなかだけでため息をつき、わたしは麦茶のコップを手にする。
そうだよね。
中学生は健全なお付き合いをするべきだもの。
正しいのは伊織くん。
高校生のキスを見て、イヤらしい気持ちになってしまった、わたしの方が間違ってる。
もっと自分を戒めなきゃ。
そう思いながら、麦茶を口にする。
「……あ」
飲んだ瞬間、わたしは目を瞬いた。
この麦茶の味って……。
コップを置いて尋ねる。
「ねえ、伊織くん、この麦茶って……ここのお家のキッチンから?」
「? そうだけど……どうかした?」
伊織くんは気づいてない。
男の子はそうなのかもしれない。
でも女子としては、こういうところがとても気になってしまう。
コップのなかの麦茶はやや濃い目で、少しだけ甘味がある。
たぶん隠し味にお砂糖を入れているのだと思う。
伊織くん家に行った時、出してくれる麦茶と同じ味だった。
だからこれはきっと……ううん、間違いなく、唯花お姉様さんが作った麦茶。
奏太兄ちゃんさんの部屋だけじゃない。
お家の冷蔵庫まで唯花お姉様さんは自分のものにしてるんだ。
男の人を落とすには胃袋からって言うけれど、唯花お姉様さんはそれを確実に実践してる。
……すごい。本当にすごい。
だからあんなキスが出来ちゃうんだろうな……。
やっぱりわたしにはぜったい出来ない……。
なんだか気が抜けてしまい、わたしは後ろのベッドに寄りかかる。
すると、伊織くんが「あっ」と声を上げた。
「葵ちゃん、そのベッドにはあんまり近寄らない方が……っ」
「え、どうして?」
「いやそのえっと……っ」
伊織くんは言いづらそうに目を逸らす。
「……普段、何が行われているか分からないベッドだから」
「――っ!?」
意味が分かってしまって、わたしは跳ねるように背中を離した。
ドキドキしながら後ろのベッドを見つめる。
そ、そっか。
ここは奏太兄ちゃんさんの部屋。
普段、唯花お姉様さんと二人きりで過ごしてる場所。
そのベッドってことは……。
脳裏に浮かぶのは、さっきの二人のキス。
戒めようと思っていた気持ちが胸のなかでまた騒ぎ始める。
「ご、ごめん! そもそも奏太兄ちゃんの部屋で待ってもらうべきじゃなかったねっ」
慌てた様子で立ち上がり、伊織くんがこっちにくる。
「もう二人も反省文書き終えてるだろうから、リビングに下りよう。こんな邪悪な場所に葵ちゃんがいちゃいけない……っ」
伊織くんが手を引いてくれて、わたしも立ち上がる。
でも足が動かない。
心臓も鳴りやまなかった。
わたしはきゅっ……と伊織くんの手を握り返す。
「あのね、伊織くん……」
ドキドキした。
鼓動がうるさいくらいに高鳴っている。
「わたし……悪い子なのかも」
「え?」
どうしよう。
どうしよう。
いけないのに。
こんなこと、ダメなのに。
――唯花お姉様さんが羨ましい。
その気持ちが膨れ上がって止められない。
「わたしも……」
上目遣いで伊織くんを見つめた。
「……キス、したい」
「へっ!?」
伊織くんが驚いて仰け反った。
その拍子に後ろのベッドに倒れてしまい、手を繋いでいたままのわたしも引っ張られる。
「……あっ」
そして。
まるでわたしが伊織くんを押し倒すような形になった。
ベッドに沈み込んだまま、なぜか伊織くんの方が慌てている。
「ご、ごめんっ。ちがっ、僕、こんなつもりじゃ……っ」
伊織くんの顔は真っ赤だった。
ぱっちりした目は右往左往し、動揺し過ぎてちょっと泣きそうになっている。
もともと伊織くんは唯花お姉様さんに似ていて、すごくきれいな顔をしている。
ベッドに押し倒されて狼狽える様子は、まるで女の子みたい。
だからかもしれない。
心の底から思ってしまった。
「……伊織くん、可愛い」
「か、からかわないでっ」
必死に言い返す顔もすごく可愛かった。
そんな伊織くんを見ていて、ふいにわたしは気づいてしまった。
――そっか。そういうことだったんだ。
あの時。
わたしたちが見ているのに、どうして唯花お姉様さんはキス出来ちゃったのか。
その勇気がどこから湧いてくるのか。
唯花お姉様さんがすごいから、っていうのはあると思う。
でもたぶん、それだけじゃない。
今ならはっきりとわかる気がした。
「わたし、伊織くんのこと困らせちゃいたい……かも」
「ええっ!?」
大好きだから。
だから、困らせたい。
困ってしまっている、可愛い顔をもっと見たい。
唯花お姉様さんもこんな気持ちだったんだと思う。
だって、キスされた奏太兄ちゃんさんもすごく動揺して困っていたから。
ちょっとだけいじわるな気持ちで、わたしは微笑む。
「伊織くん、まつ毛長いね」
「え? え?」
「肌もきれいで、頬っぺたも女の子みたいに柔らかい」
「わっ、ちょ……っ!?」
わたしは伊織くんの頬っぺたをふにっと押してみた。
こんなこと、わたしからしたことない。
伊織くんはびっくりしてぎゅっと目を閉じ、ぷるぷると震えている。
もちろん顔は紅葉みたいに真っ赤っ赤。
可愛い。
すごくドキドキする。
意地悪されてる伊織くんがこんなに可愛いなんて。
わたし、何かに目覚めちゃいそうです。
もちろん、心の片隅には不安もある。
こんなことして嫌われないかな?
こんな女の子、嫌だなって思われないかな?
自分に自信のないわたしはどうしてもそう思ってしまう。
だけど、わかってる。
この不安は無意味な妄想。
伊織くんはずっとわたしを好きでいてくれる。
あの修学旅行を経験した今、わたしは心からそう信じられる。
だから踏み出したい。
唯花お姉様さんみたいに何もかも埋め尽くしちゃうことは、まだ出来ないけど。
いつか伊織くんの全部をわたしでいっぱいにしたいから。
「伊織くん、目を閉じて」
「だっ、駄目だよ!? ぼ、ぼぼぼ、僕たち、まだ中学生だし!」
「キス……するだけだから」
「――っ!? で、でもここ奏太兄ちゃんのベッドだし!」
「大丈夫、奏太兄ちゃんさんならきっと笑って許してくれるから」
「いやいやいや! いくら奏太兄ちゃんでも自分のベッドで僕らがキスしてたら、さすがにパニック起こすと思うよ!?」
ちょっと首をかしげて考える。
確かにそうかもしれない。
「でもするから」
「するの!?」
伊織くんはひたすらあわあわしている。
「お、落ち着いて! たぶんお姉ちゃんから変な影響受けちゃったんだよね!? でもウチのお姉ちゃんは奏太兄ちゃんとセットで特殊な生き物だから……っ。キ、キスするにしてもせめて場所はちゃんとしたところで……ね? ね?」
うん、真面目な伊織くんはそう言うよね。
だから困らせたくなっちゃうの。
わたしはわざと拗ねた表情をしてみせる。
「……伊織くんはしたくないんだ」
「ち、違っ!? そんなことは言ってないよ!?」
「でもしてくれないし……」
「いやだからそれはっ、でも、ええと……っ」
伊織くんはしどろもどろになって目をさ迷わせる。
可愛い。
すごく可愛い。
だけど、ずっと楽しんではいられなかった。
思ってもなかったことが起きたから。
伊織くんは自分の腕で顔を隠す。
そしてぽつりと言った。
「じゃ、じゃあ……」
隠しきれない、真っ赤な顔で。
まるで観念したように。
「キスだけだったら……いいよ?」
わたしは「――っ!」と言葉を失う。
どうしよう。
どうしよう。
わたしの可愛い彼氏さんが本当に可愛い。
拝啓。
お父さん。
お母さん。
葵は本当に何かに目覚めてしまいそうです……っ。
「い、伊織くん……」
「葵ちゃん……」
わたしは緊張しながら顔を近づけていく。
もう心臓が胸から飛び出しそうだった。
しちゃう。
わたし、これから伊織くんにキスしちゃうんだ。
でもその直前。
いきなりノックも無しにドアがガチャッと開いた。
やってきたのは、奏太兄ちゃんさん。
「おーい、伊織ー……いや伊織先生。反省文、書けました。だからそろそろ葵も一緒にチョコ作りを……ん?」
奏太兄ちゃんさんの目が点になる。
視線の先にはベッドに押し倒されてる、伊織くん。
さらには押し倒しちゃってる、わたし。
わぁー……。
空気が凍りついた。
まるで氷河期みたいに凍りついた。
「……お、落ち着け、俺……素数を数えろ……っ」
奏太兄ちゃんさんはブツブツ言って、天を振り仰ぐ。
どうにか状況を受け止めようとしてるみたい。
でも無理だったらしく、やがてふっと力が抜けたように真顔になった。
「うん、無理だ。俺ひとりじゃ受け止めきれん」
直後、奏太兄ちゃんさんは大声を上げて駆け出した。
「唯花っ、ちょっと聞いてくれ、唯花あああああああっ!」
「ちょ!? 待って、奏太兄ちゃん! 誤解っ、誤解だからーっ!」
「葵がお前の影響受けて、俺のベッドで伊織を押し倒してるぞおおおお!」
「うわあああ、誤解してなかったーっ! やたら正確に理解してるーっ!」
伊織くんは絶叫。
わたしの下から這い出し、奏太兄ちゃんさんを追おうとする。
「奏太兄ちゃん、話を聞いて! とりあえずっ、とりあえず話を……!」
その手をわたしはそっと掴んだ。
「葵ちゃん?」
だって、まだしてない。
まだ……してないもん。
「伊織くんっ」
意を決して、彼の手を引っ張る。
どうすればいいかは知っている。
だって、さっき見たばかりだから。
「ちゅ……ちゅっ♡」
「――はう!?」
唯花お姉様さんの真似をして、キスをした。
唇にとても柔らかい感触。
女の子みたいな、伊織くんの感触。
しちゃった。
ついにしちゃった!
伊織くんは湯気が出そうなほど真っ赤になって、
「~~っ!」
と、その場にへたり込んだ。
感触を確かめるように唇を押さえ、わたしも座り込んでしまう。
一方、一階の方からは騒がしい声が聞こえてくる。
もちろん奏太兄ちゃんさんと唯花お姉様さんの声。
「は、反省文っ! これは中学生たちも反省文案件だってばよ!?」
「ステイステイ、落ち着きなさい! なんか分かんないけど、葵ちゃんが頑張ったんでしょ!? だったら邪魔しないでそっとしといてあげなきゃ!」
「でもあれ俺のベッドなんじゃが!?」
「諦めなさい。ベッドは幸せの犠牲になったのじゃ」
「世知辛すぎる……!」
「なむー」
その喧騒を聞きながら、わたしは隣の伊織くんをチラリと窺う。
今さらだけど、ちょっと心配になってきた。
「えっと……」
もじもじしながら尋ねる。
「伊織くん……怒った?」
「……ううん」
伊織くんはぽけーっとしている。
「葵ちゃんに唇奪われるなんて思わなくて、なんだか夢のなかにいるみたい……」
「それって……良い夢? 悪い夢?」
「良い夢……かな?」
「良かった」
ほっと胸を撫で下ろした。
すると伊織くんが「もうー」とジト目を向けてくる。
「何笑ってるの、葵ちゃん? 怒ってはないけど、奏太兄ちゃんの部屋でこんなことするなんて、本当に反省文案件だからね?」
「えへへ、ごめんなさい」
「もうー」
頬っぺたを優しくつねられた。
くすぐったい。
それだけのことがなんだかとても嬉しい。
調子に乗って、わたしは聞いてみる。
「そのうち……また困らせちゃってもいい?」
「えっ、それは……またいきなり今日みたいなことされちゃうってこと?」
「そう……かも?」
「ど、どっち?」
「じゃあ、そうかも」
「うぅ……」
わたしが頷くと、伊織くんは何とも言えない顔で言い淀んだ。
でもやがて小さな声で答えてくれた。
頬を赤らめて、囁くように。
「た……たまにだったら」
はい、可愛い。
わたしの彼氏さんは最高です。
髪を揺らし、わたしは伊織くんの肩に寄りかかる。
「伊織くん……大好き♡」
「も、もう~っ!」
そんなこんなで。
今日もわたしたちは幸せです♪




